なので全話「光一郎」呼びに編集します、はい。ご了承しやがれください。
夢を見ていた。
目蓋を開けると、光一郎は誰もいない教室にいて、また席に座っていた。
相変わらず教卓に座る男を見つめる。それに気づいた彼は光一郎ではなく、その隣へと視線を向けた。
釣られて光一郎も隣を見れば、前見た時とは異なる光景が目に入った。
「やぁ」
光一郎の隣に座る黒い光に覆われた影が、鈴の音のような中性的な声でにこやかに話しかける。
ひらひらとこちらへ振られる手を見るに、かなり距離感が近いタイプだと感じる。
「…ありゃ、聞いてる?もしもーし」
不思議そうに光一郎の顔を覗き込んでくる。
その様子を見ていた教卓に座る男が溜息を一つ吐き、黒光を纏う男へ苦言を呈した。
「ソイツ、俺達の姿が良く見えてないらしい。なんなら会話も出来ない」
「ふーん、なんで?」
「勇者としてのレベル不足」
「あぁ、そゆこと?」
納得したような声を聴きながら、光一郎の頭に疑問が浮かぶ。
勇者としてのレベルとは何なのか。
夏凛が満開について説明した時にレベル云々言っていたが、それを指しているのだろうか?
そんな思考の海に沈む光一郎に、男が話しかけてくる。
「うーん、じゃあ…初対面だし自己紹介しよっか。そのついでに色々教えてあげる」
男はそう言うと席から立ち上がり、教卓で苛立っている男の元へと向かう。
光に覆われた二人が並ぶ形となると、男が口を開いた。
「えっとね、僕の名前が伊加政宗。こっちのイライラしてる陰険男が小塚■■■。こうやって会うのは初めてだね?」
教卓に座る男の名前が、ノイズのような不快な音に変換される。
それを知ってか知らずか、自己紹介を終えた黒い人影―――政宗は言葉を続ける。
「君、時々変な既視感感じることあるでしょ」
「――――」
「その理由、教えてあげよっか」
彼はそう言って口端を緩める。
クスクス、クスクスと。
腹の奥に響くような笑い声が、光一郎の鼓膜を揺らしていた。
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バーテックスとの決戦が終わり、勇者部一同は検査のために大赦直属の病院で入院することとなった。
一通りの検査が終わった光一郎が指定された談話室へ向かっていると、廊下でバッタリと友奈と鉢合わせた。
彼を見つけた少女は柔和な笑みを浮かべる。
「こういっちゃんも診察終わったんだ」
「おう、ばっちり血を抜かれたよ」
そう言って光一郎が入院着を捲り腕を見せると、友奈は困ったように笑う。
「……こういっちゃん、その目」
唐突に、友奈の両手が光一郎の頬に触れた。
大きく見開かれた友奈の瞳には、医療用眼帯で覆われた光一郎の右目が映りこんでいた。
彼女の質問に、少年が正直に答えた。
「…視力が落ちたらしい。疲労によるものだから、療養したら治るって言ってた」
「…そうなんだ」
安堵の溜息を吐き、やや笑みを浮かべる友奈。
「えっと、今のこういっちゃんもカッコいいと思うよ」
「そりゃ嬉しいな」
普段の調子で軽口を言い合う二人。
そうして談話室に向かおうとすると、友奈が今度は光一郎の手を掴む。
「…あの、この手は一体何事でしょうか」
「……」
振り返る光一郎に、友奈はその場で大きく両手を広げる。
その意図がわからず首を傾げるが、数瞬後につい最近友奈と結んだ約束を思い出す。
「……ほら、おいで」
「……ん」
光一郎はしょうがないなと思いつつ、甘える少女を胸の中へと抱き入れる。
友奈の方も両腕を少年の背中に回し、少年の胸板に顔を埋める。
「よしよーし……よく頑張ったねー、偉いぞー」
「えへへ…」
病院着越しにお互いを感じる二人。
光一郎が友奈の頭を撫で始める。
慈しむように薄紅色の髪を流していく手に、友奈は自然と頬が緩んだ。
「行くか、そろそろ」
「うん」
しばらくして、ここが病院で、更に言えば入院棟であったことを思い出す。
運が良かったのか既に遅い時間で、人が来ることは無かったようだ。
照れたように微笑み合った後、談話室へと向かうべく移動した。
「友奈」
「んー?」
「友奈の方は、なんか異常とかあった?」
「ううん、無かったよ」
「ホントに?」
「ホントに」
「……そりゃ良かった」
友奈の言葉に、光一郎が一瞬だけ目を細めた。
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談話室に着くと、取り付けられたテレビからニュースが流れていた。
先に検査を終えた病院着姿の風と夏凛が椅子に座っていた。
「おっ、2人も診察終わったみたいね」
「はい! きっちりバッチリ血を抜き取られ…て、風先輩、その目…」
友奈が風の左目に付けられた眼帯を指摘すると、待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべた風が立ち上がる。
「フッフッフ…この目が気になるか。これは先の暗黒戦争で魔王と戦った際に――――」
「左目の視力が落ちてるんだって」
「ちょっと!せっかく魔王との戦いで名誉の傷を負ったっていうニヒルな設定で語ってるのに!」
風の設定に呆れたように夏凛が茶々を入れた。
そんな中、バーテックスから何かされたのかと友奈が顔を曇らせる。
「違う違う。戦いの疲労によるものだろうって。勇者になるとすごく体力を消耗するらしいから。この眼も療養したら治るってさ」
「そうなんですか…」
「なんたってアタシたち、一気に7体もバーテックス倒しちゃったんだからね!体も疲れちゃうのよ…って、光一郎こそその眼どうしたのよ!」
「ククク、これはかつて宇宙戦争で戦った際に――――おふっ…」
「戦いの影響で右目の視力が落ちたみたいなんです」
「そ、そう…」
光一郎が真面目な顔で風の真似をすると、隣にいた友奈が脇腹を肘で突く。
喘ぎ声を上げる彼に代わり、友奈が説明されたことを告げた。
やや空気が白ける一同。そこへ、検査を終えた樹と東郷が姿を見せた。
「樹~、注射されて泣かなかった?」
風が意地悪く妹に質問をする。
ところが、樹は言葉を発さず、恥ずかしげに首を横に振るばかり。
不思議がる風に東郷が答えた。
「樹ちゃん,声が出ないみたいです。勇者システムの長時間使用による疲労が原因で、すぐに治るだろうとのことですが…」
「アタシや光一郎の目と同じね…」
樹の方に目をやると困った顔をして唇を指で示した。
次第に、本当に治るのかと不安な空気に場が包まれる。
そんな空気を払拭するように友奈が両手を広げて注目を集めた。
「すぐに治るなら大丈夫だよね! お医者さんもそう言ってるんだし!」
「…えぇ、そうね!」
「そうだ!私達、バーテックスを全部やっつけたんだよ!お祝いしないと!」
そう言って友奈は、道中の売店で購入した大量のお菓子や飲料水をテーブルに広げた。
全員に缶ジュースが行き渡ったところで、友奈が咳払いを一つ落とし、風に声をかけた。
「では、勇者部部長から乾杯の一言を!」
「あたし!?えぇっと…ほ、本日はお日柄もよく……!」
「マジメか!」
「パイセン、今曇りっす」
夏凜のツッコミが炸裂し、光一郎が窓の外に広がる曇天に目をやる。
少女達の笑い声が響く中、風が仕切り直す。
「それじゃあ、勇者部大勝利を祝って!かんぱーい!」
『かんぱーい!』
乾杯の音頭と共に、一斉に缶ジュースが掲げられる。
談話室で開かれた小さな祝勝会は、全員の疲れた心を癒した。
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祝勝会が終わり、解散後のことだった。
夏凛を除く二年生組が東郷の病室へと移動していた。
「東郷さんはまだ入院が長引くんだね。私とこういっちゃんは明後日だって」
「私は検査にもう少しかかるみたい」
「そっか…一緒に退院できたら良かったのに」
「光一郎君。私がいない間、友奈ちゃんのことお願いね?」
「任せなさい。東郷さんの分まで厳しい目で見守ります」
「ふふっ、頼もしい限りね」
そう言って光一郎が緩めに敬礼すると、東郷が微笑みを浮かべた。
そんな二人の会話に友奈が軽く頬を膨らませる。
「もうっ、2人とも!そんな心配しなくても私なら大丈夫だよ!」
「え?この間の中間テストの結果酷すぎて東郷さんブチ切れさせたのに?」
「その件につきましては本当に申し訳ないと思ってます!」
奇麗に頭を下げる友奈に噴き出す光一郎。
微笑ましい空気の中、病室まであと僅かといった地点で東郷が口を開いた。
「……友奈ちゃん」
「何?」
「身体のどこか、おかしいところ、あるよね」
「え?」
「さっき談話室でジュース飲んでいた時、友奈ちゃんの様子、変だったから」
東郷がいつになく真剣な眼差しを友奈へと向ける。
「東郷さん鋭いなぁ。でも大したことじゃ――」
「話して」
「…味、感じなかったんだ。ジュース飲んでも、お菓子食べても」
「……」
「多分大丈夫だよ。ほら、こういっちゃんの眼と同じじゃないかな?すぐに治るって。でも、お菓子の味も分からないなんて、人生の半分は損だな~」
なんてことない様子の友奈に、東郷は何も言わなかった。
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それから数日後。
無事退院した友奈と光一郎は学業に復帰した。
外の蒸し暑さに包まれながら、いつもの如く部室へと訪れた。
「結城友奈、来ましたー!」
「檜森光一郎、連れてこられましたー」
一郎の手を引きながら友奈が扉を開ける。
扇風機に当たりながら風が出迎えると、彼女の左目に付けられた眼帯に友奈が着目した。
「あれ?風先輩、その眼帯って…」
「フフン。どうよこれ」
彼女は医療用眼帯ではなく、黒色の眼帯を付けていた。
そのデザインに友奈が黄色い悲鳴を上げる。
「超かっこいいです!」
「アタシも超イケてると思ってたんだー!あ、光一郎もどう?」
「いやー、俺ってそもそもがカッコいいんで不要かなぁって」
「うわー、なんか生意気―……ところで、夏凛は?」
ふと、風が夏凛が来ていないことを口にすると、友奈と光一郎は困惑の表情を浮かべた。
「えっ? 夏凜ちゃん、部室に来てないんですか?」
「ムムッ。サボりか。後で罰として腕立て伏せ1000回とかやらせよう」
「パイセン、夏凛だったら多分平気でこなしますよ。一週間ニボシ禁止とかにしましょう」
「えぇっ!?夏凜ちゃんが可哀想……」
最早夏凛=ニボシの図式が勇者部内で出来上がる中、樹が「何か用事でもあったんでしょうか?」と書き込んだスケッチブックを公開する。
そんな樹に友奈が疑問の声をかけた。
「樹ちゃん、そのスケッチブックは?」
『これで話せます。お姉ちゃんの提案です』
「声が戻るまでの応急処置。そのうち治るから、それまでの辛抱ね」
筆談を提案した風に、流石は風先輩と友奈が尊敬を示した。
会話が一区切りついた所で、話題は勇者部活動の事へと移る。
しかし部室には4人しかいない上、文化祭の衣装についても東郷と話し合って決めたいらしい。
『他の部活の手伝いは?』
「あ、そうそう。剣道部から依頼メール来てたのよねー……って、夏凛をご指名か」
「夏凛いないなら無理っスよねぇ…あ、ホームページって更新してたっけ?」
「あ、そういえば更新止まってたね!……あ、でも東郷さん以外に更新の仕方分かる人って…」
『……』
沈黙が続き、扇風機の回る音だけが室内に響き渡る。
無論全員パソコンが不得意というわけでは無いが、更新の仕方など知らないため打つ手が無い。
今入院している東郷にどれだけ助けられていたか、4人は改めて痛感する。
結果として、その日は部室でグッタリしながら時間を過ごす事となった。
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夕方。
友奈と光一郎は、東郷の元へお見舞いに訪れていた。
「そっか。東郷さんは左耳が…」
「うん。イヤホンで音楽を聴いている時に気づいたの」
「やっぱ皆、どっかおかしくなってんのか」
唸るように光一郎が呟く。
空気が重たくなる中、友奈の人一倍元気な声がそれをかき消した。
「大丈夫!すぐ治るよ!目一杯戦ったんだし!」
「そうね。身体がちょっと悲鳴上げてるのかな」
東郷が皆を納得するようにそう呟く。
やがて、もうそろそろ帰ろうという頃に。
帰宅準備を進める光一郎へ東郷が話しかける。
「光一郎君。ちょっとだけ残って貰っても良い?すぐ終わるから」
「あー…友奈、悪い。待合室で待ってて。すぐ戻るから」
「わかった!ごゆっくりー」
そう言って友奈が部屋を後にする。
扉が閉められ、足音が遠ざかるのを確認した後、光一郎と東郷が向き合った。
「―――それで、どこからかしら」
「わざわざ俺を呼び出した理由からかな」
光一郎が自分の端末を見せる。
液晶には東郷から『話があるの。病院に来て』といったメッセージが送信されているのが表示されていた。
「そうね……まず知っていると思うけれど、夏凛ちゃん以外全員が何かしらの症状を受けているの。風先輩にも電話して確かめたりしてみたけれど―――」
風は左目の視力を。
樹は声を。
東郷は左耳の聴力を。
友奈は味覚を。
光一郎は右目の視力を。
それぞれが身体機能の一部を失っていた。
深緑の瞳が細められ、東郷が口を開く。
「そして、夏凛ちゃんだけ何も失っていない。その決定的な違いは、恐らく……」
「満開か?」
光一郎の問いに、東郷が首を振って肯定の意を示す。
勇者部の面々に現れている後遺症。その原因は満開にあるのではないかと彼女は考えていた。
「大赦からは?何か言われてないの?」
「風先輩の方から聞いてもらってるわ。まだ返答待ちだけれど」
「……ふむ」
確実な情報が少なく、頭を悩ませる2人。
その時、5時を告げる音楽が流れてきた。
外を見れば日が暮れかけており、光一郎が苦々しい表情を浮かべる。
「流石にそろそろ帰らねぇと不味いか…続きはまた今度で良い?」
「えぇ、勿論。友奈ちゃんを遅い時間に帰らせるわけにはいかないものね」
「そんなことしたら友奈の親父さんに殺されるな。またね、東郷さん」
そう告げて、光一郎は病院を後にする。
訪れた静寂の中、窓から僅かに差し込む夕日に照らされながら、東郷は手元のパソコンを閉じた。
実はプロットガバガバって話する?