相も変わらず日差しの強い夏のとある日。
勇者部に集まった4人は依頼された業務をこなしていた。
いつも通りの光景ではあるが、東郷と夏凛のいない部室は静寂と若干の気まずさに包まれていた。
「やっぱり、4人だと調子出ませんね」
『かりんさん、ずっと来てないですね』
SNSにも返信が無いらしく、話しかけようにも授業が終わればさっさと帰ってしまうらしい。
頭を悩ませる一同だったが、不意に友奈が立ち上がった。
「私、夏凛ちゃんを探してきます!」
そう言って友奈が部室を後にする。
廊下へと消えていく背中を見送った風が、光一郎へと目を向けた。
「アンタは行かなくていいの?」
「別にいつも一緒に居るわけじゃないですよ。それにああいうのは友奈の方が向いてますし」
「ほほー、友奈のこと良くわかってんじゃない。お熱いわねー」
「ぶっ飛ばしますよ」
からかうようにそう言う風に対し、光一郎が拳を鳴らす。
そして再び訪れる静寂を噛みしめながら、残った3人は黙々と作業を続けた。
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夕日に照らされた有明浜にて、夏凛は一心不乱に木刀を振り続けていた。
その時、手を振りながら駆け寄ってくる一人の少女の姿を視界の端に捉えた。
「夏凜ちゃーん!」
「友奈…」
「やっと見つけたよー!って、オゥッ!?」
「何やってんのよ…」
不意に友奈の脚がもつれて倒れ込む。
夏凜は木刀を捨てて慌てて友奈の元へと駆け寄り、身体を起こすのを手伝った。
「……何しに来たの?」
「部活のお誘い!最近、夏凜ちゃんが勇者部をサボりまくってるから」
「……」
悪いことをしたとは思っているのか、夏凛が気まずそうに友奈から目を逸らす。
「このままじゃサボりの罰として、腕立て500回とスクワット3000回、腹筋10000回させられた上でニボシ没収されちゃうんだけど」
「桁おかしくない?あとなんでそのラインナップでニボシが出てくるのよ」
「でも、今日部活に来たら全部チャラになりまーす! さぁ、来たくなったよね?」
半ば脅迫と受け取れる発言だったが、夏凛はため息を一つ漏らして首を横に振った。
「行かない。元々私、部員じゃないし……それに、もう行く理由がないもの」
「理由?」
友奈がそう聞くと、ポツリポツリと夏凛が話し始める。
彼女はあくまで勇者として戦うために転校してきただけで、勇者部にいたのも友奈達との連携を取りやすくする以上の意味は無いらしい。
静かに耳を傾ける友奈へ、夏凛はさらに続けた。
「だいたい、勇者部はバーテックスを殲滅する為の部でしょ!そのバーテックスが居なくなった以上……もう、勇者部なんてなんの意味もないじゃない!」
「違うよ」
夏凛の言葉を、返す刀で友奈が否定する。
すると俯きがちだった顔が上がり、お互いの目が合う。
それを嬉しく感じて、友奈がまた笑顔になる。
「勇者部は、皆で楽しみながら人に喜んでもらえる事をしていく部なんだよ。バーテックスなんていなくたって、勇者部は勇者部!」
「でも…私は、戦う為に来たから…もう戦いは、終わったから。だからもう、私には価値が無くて…あの部に、居場所も無いって思って…」
「勇者部5箇条、ひとーつ!悩んだら相談!」
依然として否定的な夏凛に、友奈が笑顔で声を張り上げた。
「戦いが終わったら居場所が無くなるなんて、そんなことないんだよ。夏凜ちゃんが居ないと部室は寂しいし、私は夏凜ちゃんと一緒に居るの楽しいし」
「……」
「それに私、夏凜ちゃんのこと大好きだから」
「……バカ」
友奈の無邪気な発言に思わず夏凛が赤面する。
その後友奈の提案で部室へシュークリームを差し入れ、風の中の女子力が暴れまわったりと色々起こったが、それはまた別のお話。
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数日後。
東郷が退院することを聞いた勇者部一同が、病院の待合室で彼女を待っていた。
東郷の姿を確認した友奈が立ち上がり、車椅子を押す看護婦と交代する。
「東郷美森、勇者部に帰還しました」
「ご苦労である、東郷准尉!」
全員の姿を確認した東郷が皆に見えるように敬礼をする。
そのノリに合わせた風が敬礼を返した。
いつも通りの光景に一同が微笑みを浮かべる。
「これで勇者部メンバー、全員復帰だね!」
「そうね。ところで光一郎君、私がいない間友奈ちゃんは…」
「割と気抜いてました。具体的に言うと授業中寝てました」
「えっ」
「友奈ちゃん?」
「ご、ごめんなさーい!」
突然の密告に東郷へと頭を下げる友奈。
一連のやり取りに他の面々が苦笑を浮かべた。
その後、一同は迎えの車が来るまでの暇を持て余すべく、病院の職員に許可を得て屋上に立ち寄る事に。
夏場の涼しさを満喫しながら、屋上からの景色を一望する。
「……この街を、私達が守ったんだね」
「そうだな…皆で守ったんだ。全員よく頑張ったよ」
街を見下ろしながら、友奈と光一郎が誇らしげに呟いた。
勇者は賞賛されない。普通の人達は、勇者部の戦いなど何も知らない。
それでも、世界を救ったというのは間違いない事実で。
それだけは、彼らの胸の奥に確かに刻まれていた。
「私、初めての戦いの時、怖くて逃げ出したかった……でも、逃げないで良かった。私は、立派な勇者になれたかな」
「勿論! 東郷さんはカッコいい勇者だった!」
賞賛の言葉をかける友奈に、東郷は自然と微笑みを浮かべた。
その時、屋上に2つの着信音が鳴り響いた。
真っ先に夏凛が端末を取り出し確認すると、讃州中学への在学を許可する内容のメールが届いていた。
思わず頬が緩む夏凛。そんな彼女を友奈と東郷は見逃さなかった。
「夏凛ちゃん、なんだか嬉しそう」
「べっ、別に喜んでないから!」
「何のメールだったの?」
「なんでもいいでしょ!」
「えー気になるー!」
和気藹々とした空気が広がる中、もう一人、大赦からのメールを受け取った風の表情は優れない。
メッセージの件名は、『満開の後遺症に関して』。
「……」
「そういえば、もうすぐ夏休みだよね! 何しよっか!」
友奈の声に風が耳を傾ける。
どうやら夏休みの計画について話し合っているようだった。
「どうせなら勇者部で色々やりたいよなぁ。夏凛、何か案寄越せ。ニボシやるから」
「急に振っといて無茶言わないでくれる!?……う、海に、行く……とか」
突然光一郎に話を振られ、思わずと言った様子で夏凛が言い返す。
樹は山でキャンプ、東郷は夏祭り、風は打ち上げ花火百連発。
それぞれが思い思いの案を出していく。
「全部やろう、皆で!」
手を大きく広げた友奈が、満開の笑みを浮かべた。
夢物語のような戦いが終わり、彼らは日常に戻っていくのだった。
次回、水着回