バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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夏休み明けは教員だって気が緩む

5時頃。

光一郎は目を覚まし、もぞもぞと布団から身体を起こす。

早起き特有のスッキリとした目で隣を見れば、安らかな顔で眠る友奈が見えた。

 

「―――――」

 

寝ている女性陣を起こさぬよう静かに離れ、窓際のロッキングチェアに腰掛ける。

朝焼けによって空が白み始めていて、自然と目線がそちらへ向いてしまう。

 

「―――光一郎君?」

 

「…おはよ、東郷さん。もしかして起こしちゃった感じ?」

 

「ううん、大丈夫…おはよう、光一郎君」

 

挨拶を交わした東郷が光一郎の正面に座る。

 

「…奇麗ね」

 

「東郷さんの方が奇麗だよ」

 

「もう、上手なんだから」

 

そんな事を言いながら2人は静かに外を眺めた。

東郷の艶のある黒髪が朝焼けの光に照らされて美しく映えた。

 

「……東郷さん…こういっちゃん…?」

 

「友奈ちゃん、おはよう」

 

「おはよーさん」

 

目を覚ました友奈が2人の元へやってくる。

空いている椅子に座ると、東郷の腕に巻かれたリボンを見つめて呟いた。

 

「肌身離さずだね、そのリボン」

 

「…私が事故で記憶を失った時に、握りしめていた物なんだって。誰の物かもわからないけど…とても大切な気がするの」

 

「そっか…」

 

大事そうにリボンを撫でる東郷に、友奈が笑顔を浮かべた。

 

「二人とも海を見てたの?起こしてくれれば良かったのに」

 

「お前の寝顔見たら起こす気無くなっちゃった、てへ」

 

「私どんな顔してたの…?」

 

軽口を叩き合う2人だったが、東郷が不意に話題を切り出すとそちらへ視線を向けた。

 

「…ねぇ、2人とも。バーテックスって十二星座がモチ―フなんだよね。でも星座って、他にもいっぱいあるでしょ?」

 

「あぁ、夏の大三角形座とかね!」

 

「聞いた事ねぇぞそんな星座。…でもそうだな、十二星座以外に何十個もあったよな…」

 

「…本当に…戦いは本当に終わったのかしら…」

 

東郷が不安そうに疑問を口にした。

もしかしたら戦いはまだ終わっていないのではないのか。

そんな彼女の中にある不安を聞いて、光一郎が口を開く。

 

「大丈夫だよ、東郷さん。いざとなったら俺が全員守るからさ。な?」

 

「光一郎君…」

 

「そうそう、私達がいるから怖くないよ。それに人類を死のウィルスから守ってくれてる神樹様が付いてるんだから大丈夫!」

 

東郷の不安を払拭するように光一郎と友奈が笑顔を浮かべる。

そんな2人を見た東郷が安心したような表情を見せた。

 

「そういえば…バーテックスってどうしていつも私達のとこに出てきたのかな?」

 

「それはね、神樹様が結界にわざと弱いところを作って、敵を通しているからよ」

 

「東郷さん物知りだね~」

 

「はい、今ので友奈がアプリのテキストに一切手を付けてないことがわかりましたね」

 

「え!?ち、違うから!忘れてただけだもん!」

 

「余計にダメじゃん」

 

光一郎が言う通り、これはアプリにも載っている情報であるため勇者部員は全員ちゃんと知っていた。

無自覚に傷を増やす友奈を光一郎が鼻で笑った。

そんな愉快な2人とは対照的に、東郷は未だに暗い表情を浮かべていた。

 

「…東郷さんや。まだ不安か?」

 

「…うん。一人でいると、つい色々悪い方に考えちゃって…皆といると忘れられるんだけど…」

 

「じゃあ夏休み中は皆で遊ぼう。それこそ病院で寝てた分を取り返すくらいの勢いで」

 

「東郷さん。勇者部五箇条、悩んだら相談だよ」

 

「……でも、こんなこと相談されても困るでしょ?」

 

2人の励ましを受けて尚暗い表情のままの東郷。

彼女の後ろ向きな言葉に、2人がさらに温かい言葉を掛ける。

 

「そんなことないよ。もし一人が不安なら、今日はもーっと東郷さんに引っ付いてよっと!」

 

「俺も一緒にいるよ。友奈みたいに引っ付いたりは出来ないけどな」

 

「…ありがとう、2人とも」

 

そして3人は他の面々が起きるまで、朝焼けを眺めたり、3人で写真を取ったり、友奈と東郷が光一郎の髪を弄繰り回したりして過ごした。

3人一緒に戯れている内に、東郷の中の不安は消え去っていた。

 

---

 

荷物を送迎の車に詰め込み終えた頃。

海を眺めていた風が突然謎のポーズを取り始めた。

眼帯を付けていない方の目に手を添え、雰囲気たっぷりに口を開く。

 

「海が騒がしいわね…」

 

「よーし帰るぞー」

 

『はーい』

 

「ちょっとぉ!?」

 

光一郎の号令に全員が一斉に車へ向かう。

普段は反発する夏凛ですら即答で従う様子に風が待ったをかける。

若干面倒臭そうにしている部員達の注目を集めると、咳払いを一つ落とす。

 

「帰る前にアタシ達にはやるべきことがあるでしょう?」

 

「なんかあったっけ。花火とか?」

 

『ナンパされてないとか言いそう』

 

「ちゃうわ!……まぁ、それも少し引っかかってるけど…」

 

「引っかかってるんかい」

 

夏凛による鋭いツッコミを尻目に、風は真面目な表情で話し始めた。

 

「一応勇者部の夏合宿なのよ。少しは内容のある話をしないと!文化祭とか…文化祭とか…あと文化祭とか!」

 

『3回も言った』

 

樹がすかさずツッコミを入れた。

しかし風の言う通り、合宿という形式を取っている以上遊んでばかりではいられないのも事実。

彼女の言うことも一理あると勇者部の面々が納得の表情を浮かべる。

 

「よーし! 文化祭、必ず成功させよう!」

 

『オー!』

 

友奈の掛け声と共に拳を掲げる一同。

1泊2日の夏合宿を満喫した勇者部は、文化祭に向けて気持ちを1つにしたのだった。

 

---

 

犬吠埼姉妹が自宅に戻り、のんびりと2人揃ってうどんを啜っていた頃。

風の携帯に1通のメールが届いた。

内容を確認した彼女の顔から、先程まで浮かべていた笑みが消えた。

 

『敵の生き残りを確認。次の新月より四十日の間で襲来。部室に端末を戻す』

 

---

 

翌日。

勇者部の部室に全員が集合した。

人数分の端末が入ったアタッシュケースを囲むように立つ部員達に、風が事の顛末を話し始める。

 

「バーテックスに生き残りがいて、戦いは延長に突入した。纏めるとそういうこと。だから皆にソレが返ってきた」

 

簡潔に纏められた風の言葉に、一同の表情に緊張が走る。

すると、風が真剣な表情から打って変わって申し訳なさそうに口を開く。

 

「…ホント、いつもいきなりでごめん」

 

後輩達をまた巻き込んでしまうことに対する責任や罪悪感に苛まれる風。

そんな彼女の心持ちを払拭するように東郷達が口を開いた。

 

「…先輩もさっき知ったことじゃないですか。仕方ないですよ」

 

「東郷さんの言う通りです、先輩!」

 

「ま、ソイツを倒せば済む話でしょ。私達は敵の一斉攻撃だって殲滅したんだから。生き残りの1体や2体どんとこいよ」

 

『勇者部5箇条 なせば大抵なんとかなる!』

 

「もうパイセンのごめんは聞きませーん。言った瞬間耳塞ぎまーす」

 

「……ありがとう」

 

後輩達の言葉に、風が肩の荷が降りたのを感じる。

 

「よーし、バーテックス!いつでも来なさい!勇者6人がお相手だー!」

 

表情から影が消え、代わりに自信に満ち溢れた顔の風が廊下の窓を開ける。

自分達の勝利を疑うことなく、外に向かって高らかに宣戦布告を告げた。

 

---

 

風の宣戦布告から月日が経ち、2学期に入った頃。

部室内で起こった精霊による百鬼夜行を鎮圧し終え、夕日が見え始めたその時。

敵の襲来を知らせるアラームが、少女達の鼓膜を叩いた。

 

世界は6人の勇者を残して動きを止める。

白い光が迫り、世界が塗り替わろうとしている。

 

「――――こういっちゃん」

 

心地良い声に振り返れば、薄紅色の瞳と視線が交わる。

こちらを覗き込む少女が、形の良い唇を動かす。

 

「――――頑張ろうね」

 

「――――当然」

 

そう言ってお互いに何となく笑みを浮かべて。

世界は白に染め上げられた。

 

---

 

「敵は一体のみ。あと数分で森を抜けます」

 

端末を確認した東郷がそう語る。

名前を確認すれば双子座と表示されていた。

レーダーを見る限りでは伏兵はいないようで、それはこの一体さえ倒せば戦いが終わることを意味していた。

 

「行くわよ!」

 

『はい!』

 

風の掛け声に一同がアプリを起動する。

舞い散る花びらと共にそれぞれが装束に身を包む。

 

「よーし!じゃあまたアレやるわよ!」

 

「了解です!」

 

「ほんと好きね、こういうの」

 

「この人騒ぐの大好きだしな」

 

「うっさいわよ光一郎!」

 

最早恒例となった円陣を組み始める。

夏凛も特に抵抗することなく参加しており、それなりに丸くなっているようだ。

 

「敵さんをキッチリ昇天させてあげましょ!勇者部ファイトォー!」

 

『オォーッ!!』

 

風の音頭に気合を入れる6人。

声が出ない樹も、その表情から気合が漲っているのが見て取れた。

 

レーダーに映る敵の元へと移動する。

一同が残党のバーテックスが確認し、同時に全員の頭に疑問府が浮かんだ。

 

「あの変質者ってさ、樹が倒さなかったっけ?」

 

「元々2体いるのが特徴のバーテックスかもしれません」

 

「2体でワンセット……双子ってこと?」

 

「いずれにせよやることは同じ!止めるわよ!」

 

威勢よく叫ぶ夏凛。

しかしどういうわけかその声に応える者も、その場から動こうとする者もいない。

 

「どうしたの!?さっきあれだけテンション上げたじゃない!」

 

夏凛が疑問を口にすると同時に、誰も動かない理由に思い至る。

全員、自分の身体にまたダメージが来るのではないかと恐怖してしまったのだ。

確証はないし、大赦からは関係ないと言われている。それでもどうしようもなく不安に思ってしまうのだ。

 

「……」

 

夏凛の目蓋が閉じられる。

身体に異常が無いのは夏凛ただ1人のみ。何の傷も負っていない自分こそが前に出て戦うべきだ。

 

「問題ない! それなら私が――――」

 

そう言って夏凛が大地を蹴ろうとしたその時。

 

「――――ぃよしっ!!」

 

光一郎が自分の頬を叩いた。

叩いた際に音がかなり響いており、相当力を込めていたことがわかる。

突然の光一郎の奇行に少女達の目が驚愕を持ってそちらへ向く。

光一郎は少女達の視線を気にする様子もなく、サラっと風へと話しかける。

 

「パイセン、アレ倒せばもう全部終わりなんですよね」

 

「あ、うん、片付くけど…え?今の何…?」

 

「気付けの一種みたいなモンです。じゃ、行ってきます」

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

そう言ってさっさと一人で飛び出す光一郎。

先行する彼を追いかけるように、友奈と夏凛も飛び上がった。

 

「こういっちゃん、待って!」

 

「私も!」

 

「友奈!夏凛!」

 

風が2人を呼び止めるが既に遅く。

3人はバーテックスへと向かって行った。

 

---

 

地面に着地した光一郎は、黒い烏の精霊―――八咫烏を呼び出す。

 

「手ェ貸せ」

 

それだけ告げると双子座に向かって走り出す。

1歩目を踏み込み、2歩目を踏み抜き、3歩目を踏み出した瞬間。

舞い上がる烏の羽が光一郎の身体を姿を隠し、羽が散ると共に姿を消す。

 

「――――」

 

直後、双子座の前方で烏の羽が舞い上がり、その中から光一郎が姿を現した。

突如現れた勇者に対して双子座が回避を試みるも、それより早く光一郎の蹴りが双子座の腹部へと突き刺さり、大きく後ろへ吹き飛ばす。

 

『おぉりゃぁああああああ!!』

 

地面を転がりながらも体勢を立て直す双子座。

その背後から迫る友奈と夏凛の拳が命中し、今度は地面に叩きつけられた。

叩きつけられた双子座は地面に延びた。

 

「やった!」

 

「油断すんな!また動くぞ!」

 

友奈に光一郎がそう叫ぶと、双子座はピョンと起き上がった。

しかし走り始めようとしたタイミングで、風が投げた短剣が脚に突き刺さり盛大に転けた。

 

「ありがとう3人とも!」

 

「風先輩!」

 

3人の元に風と樹が飛んでくる。

その表情には先程までの不安は無い。

 

「東郷さん、他になんかいる?」

 

「他に敵影無し。そのバーテックスさえ倒せば…」

 

少し離れた場所に陣取る東郷と連絡を取る光一郎。

再び起き上がろうと動く双子座の頭部を東郷が打ち抜く。

双子座はべしゃっと崩れ落ち、活動を停止した。

 

「よし!封印の儀!」

 

「殲滅開始!」

 

双子座を囲んで立ち、封印の儀が開始される。

魔法陣と共に金と銀の花びらに覆われた双子座の身体から御霊が飛び出す。

 

「出た…って、何この数!?」

 

軽く百や千を超える数の御霊が双子座の身体から溢れ出す。

足元の樹海が枯れ始め、一刻も早く片付けなければならない状況だが、闇雲に攻撃していては満開ゲージが溜まってしまう。

このままでは不味いと考えた風が声を張り上げた。

 

「アタシがやるわ!」

 

大剣を握り締める風。

そんな彼女の言葉を遮るように、今度は夏凛が声を張り上げた。

 

「トドメは私に任せてもらうわよ!」

 

「夏凛!?やめなさい!部長命令よ!」

 

「ふん、私は助っ人で来ているのよ!好きにやらせてもらうわ!」

 

不意に、2人の会話を遮るような叫び声が聞こえた。

声の主を辿り見上げれば、飛び上がっていた友奈が精霊―――火車の力を使い、炎を纏っているのが見えた。

 

「勇者!キィ――――ック!」

 

灼熱を纏った渾身の飛び蹴りは溢れ出した御霊全てを焼き尽くし、天へ昇る光へと還した。

双子座の身体は砂となって崩れ落ちていく。

念のためにマップを確認するも、勇者部のメンバー以外の名前は無い。

 

「やった!やったよこういっちゃん!」

 

「――――。お疲れさん。無事に終わったな」

 

「うん!成せば大抵なんとかなるね!」

 

光一郎の元へと駆け寄る友奈。

一瞬だけ友奈の刻印に目を向けた後、目の前で嬉しそうに笑う少女を労う。

お互いの無事を確認し合う2人の元へ、他の勇者達が合流する。

 

「思ったより簡単だったね、みんな!」

 

「アンタ、なんで勝手に…!」

 

友奈の刻印を見た夏凛が言葉を詰まらせた。

彼女の右手の甲にあるゲージが2本溜まっており、それを確認した女性陣の顔が曇る。

それに気づいたのか、友奈が笑いながら手を後ろに隠す。

 

「ご、ゴメンね!新しい精霊の力を使いたくて先走っちゃった!反省してます!」

 

「友奈ちゃん…体は平気?」

 

「うん!元気そのものだよ!」

 

今にも泣きそうな顔をする東郷に、友奈が安心させるように笑みを浮かべた。

そうこうしているうちに、樹海化された世界に花びらが舞う。

もう見ることは無い樹海を少し名残惜しく感じながら、世界が白く染め上げられた。

 

---

 

目蓋を開く。

視界に飛び込んできたのは、見慣れた屋上ではなく。

神樹と書かれた祠の前で、光一郎は一人佇んでいた。

 

「……は?」

 

辺りを見渡す。誰もいない。

友奈も、東郷も、風も、樹も、夏凛も。

光一郎だけが、ここに飛ばされていた。

 

「―――――」

 

パンクしそうな脳をフル回転させる。

様々な疑問が脳内を飛び交い、今にも思考を停止しそうな頭を気合で動かす。

 

「そうだ、友奈達は…」

 

屋上意外に飛ばされたのが自分だけとは限らない。

そう考えた光一郎は、勇者部の面々と連絡を取るべく端末へ手を伸ばす。

 

 

「―――――やぁ」

 

 

声が、聞こえた。

コロコロとした鈴の音のような、中性的な声が。

男だとも女だとも取れる、耳障りの良い声が。

 

―――――あの教室にいた、黒い影の声が。

 

「こうやって会うのは初めてだね」

 

声の聞こえる方へ顔を向ける。

そこにいたのは、神官のような装いをした、光一郎と同い年程度の少年。

雪のように白い髪をたなびかせ、琥珀色の瞳が爛々とこちらを見据えている。

 

「改めて自己紹介しよっか。僕の名前は伊加政宗」

 

かつてあの教室で行われたモノと同じセリフを吐いて。

仰々しい動作と共に、少年は告げた。

 

「君達勇者の大先輩。()()()()の一人だ」

 

クスクス、クスクス。そんな静かな笑い声。

腹の奥に響くような笑い声が、光一郎の鼓膜を揺らして。

 

「―――――少しだけ、僕とお話しよっか?」

 

彼はそう言って、口端を歪めた。




次回、割とガチのシリアス回
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