バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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短め


隠し事ってのはいつかバレる

「アレ?リアクション薄いね。もっとビックリしても良いんだよ?」

 

目の前に現れた初代勇者を名乗る少年が、光一郎の顔を覗き込む。

当然の出来事と突然のカミングアウトで呆然となっている彼の反応を、伊加政宗は面白がっていた。

 

「……初代、勇者?」

 

「そう、初代勇者。すっごい昔に神樹と人類のために戦った大英雄様だよ。そして今は君達が言う精霊みたいな存在でもある」

 

「………」

 

「信じられないって顔してるけど、君の認識なんてどうでもいいから。僕はお話しに来ただけだし」

 

光一郎が訝しげな視線を向けると、目の前の少年はそう言って近くにあった背の低いフェンスへ腰掛ける。

脚を何度かプラプラして遊ばせる政宗に、光一郎が口を開く。

 

「……皆は何処に?」

 

「友奈ちゃんと車椅子の…美森ちゃんだっけ、その2人は園子ちゃんっていう別の勇者とお話してる。他の子達は皆学校の屋上にいるよ」

 

そう言うと、政宗は少しばかり目蓋を閉じる。

やがて瞳が開かれ、微笑を浮かべ光一郎の方を向いた。

 

「ねぇ光一郎君。君の既視感の正体を教えてあげるって言ったら、聞く?」

 

「……知ってんだな」

 

「もちろん。教えて欲しい?ちょっと長くなるけど」

 

「………」

 

その問いに、光一郎は首を縦に振る。

今の彼には、なぜ知っているのか、なんて疑問は瑣末なことだった。

あの既視感の正体を知る者が現れたのだ、教えて欲しいに決まっている。

無言の工程に、政宗は満足そうに笑みを浮かべて話し始めた。

 

「僕が戦ってた時代にはね、君達みたいにバリアとか封印の儀とかそういうのは無くて、追い返すしか無かったんだ。最初の頃はそれでも楽勝だったんだけどね」

 

遠い過去を懐かしむように、少年は語る。

かつての勇者達の戦いを。

 

「でもね、戦っていくうちに、敵の攻勢が強まっていってね。1人ずつ仲間が殺されていったんだ」

 

「………」

 

「当然だよね。自滅覚悟で特攻しかしなかったんだし。当時の勇者システムの性能だって今と比べたら酷いもんだよ。そりゃ死ぬよね」

 

話すうちに少しずつ、彼の声に影が差し始める。

 

「僕の仲間にね、君にそっくりな男の子がいたんだ。幼馴染にベタ惚れで、友達を大事にする、性格の悪い男の子。彼とはしょっちゅう喧嘩してばっかだったけど、仲は良かったよ。大親友だった」

 

光一郎へ視線を向け、微笑を浮かべて語る政宗。

その声からは、何故か寂しげな色が浮かんでいた。

 

「でも現実は無情でね、彼死んじゃったんだ。幼馴染を目の前で殺されて、助けられない自分を恨みながら死んじゃった」

 

「――――」

 

光一郎は何も言えなかった。

曖昧な慰めの言葉すら口には出来なかった。

大切な人(友奈)が死ぬ。そんな不幸が自分に降り掛かったら、光一郎はきっと壊れてしまうだろうから。

 

その時、政宗の声色が変わった。

寂しげな色を残したまま、何処か楽しそうに、唄うように語り始める。

 

「そんな彼がね、最期に言い残したんだ。絶対許さないって。何度生まれ変わってでも、バーテックスを根絶やしにしてやるって。凄い執念だよね」

 

そう言って政宗がクスクスと笑みを浮かべ、光一郎の顔を覗き込む。

琥珀色の瞳には、光一郎だけが映っていた。

その瞳には、その声には、先ほどの寂しさは欠片も無かった。

 

「そいつの、名前は」

 

聞いてはいけない。

聞かなければならない。

相反する2つの感情が押し合いを初めて、光一郎の口が勝手に開かれる。

その問いかけに満足そうに笑った少年が、答えるべく語ろうとして、

 

「――――政宗様」

 

間に入った女性の声に、2人の少年の会話は止められた。

声のした方を向けば、白い礼服に白い仮面を着用した、おそらく大赦の人間であろう人物が目に入った。

 

「あ、先生じゃないですか。相変わらず人探しはお手の物ですね」

 

「………」

 

「あぁ、ごめんね。教師は辞めたんだっけ?」

 

ケラケラと笑いながらそう話しかける少年に、先生と呼ばれた女性は何も答えない。

彼女の反応を楽しそうに眺めた後、政宗がフェンスから降りる。

 

「彼のこと送ってあげて。僕は勝手に帰るから」

 

「畏まりました」

 

そう言いつけながら彼女の横を通り過ぎる政宗。

ふと思い出したかのように立ち止まると、光一郎の方へ振り向いた。

 

「バイバイ、光一郎君。会えてよかったよ」

 

そう言って手を振ってくる少年に。

光一郎は、彼を止めることも、手を振り返すことも出来ず。

礼服に身を包んだ女性に声をかけられるまで、去りゆく少年の背中を眺めるしか出来なかった。

 

---

 

誰もいない、夕日が照らす街の中。

コツコツと鳴る足音が鼓膜を叩く。

白い髪をたなびかせ、少年が街を闊歩して。

 

「――――」

 

そんな彼の視界の端に、小さい影が映り込む。

少年がそちらへ視線を向ければ、青い鳥がこちらを眺めていた。

 

「――――お互いしぶといもんだね」

 

彼の呟きと共に、青い鳥が空へと羽ばたいた。

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