バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

19 / 31
回想シーンは長くなりがち

乙女座の攻撃を、結界内に飛び込む形で回避する。

咄嗟の行動によって分断されてしまった友奈達を心配しつつ、一人壁の外に残った東郷がいる場所を睨め付ける。

 

壁の破壊を続行するであろう彼女を止める方法を模索する。

対話による説得は通じなかった以上、強硬手段に打って出るしかない。

しかし敵は東郷だけではなく、結界内に侵入する無数のバーテックスにも対処しなければならない。

それもたった5人で。

 

「ッ…」

 

面倒事を増やしてくれた親友に再度苛立ちが湧く。

光一郎が思わず舌打ちをした時、逃走した3人を追いかける乙女座が結界内に侵入し、爆弾を幾つも飛ばしてくる。

迫る爆弾がバリア越しに直撃し、光一郎は樹海へと叩き落とされた。

 

---

 

誰もいない廊下を歩いていた。

心地よい日光が廊下を明るく照らし、窓越しに見上げた空は晴れ渡っていた。

歩く度に鳴る靴の音が、何時もより軽快に聞こえた。

 

誰もいない廊下を歩いていた。

降り注ぐ雨が窓を叩き、窓越しに見上げた空は分厚い雲に覆われていた。

歩く度に鳴る靴の音が、何時もより落ち込んでいるように感じた。

 

誰もいない廊下を歩いていた。

無機質な廊下に月明かりが差し込み、窓越しに見上げた空には満月が浮かんでいた。

歩く度に鳴る靴の音に、切ないと思った。

 

そうして歩いて、歩き続けて。

気が付けば、教室と廊下を仕切る引き戸の前に立っていた。

どうしてここに向かっていたのかはわからない。

ただ漠然と、ここに向かわなきゃいけないと感じたから。

この扉を開けなければいけないと、そう思ったから。

意思に従うまま引き戸に手をかけ、横にスライドさせて――――。

 

---

 

「悩み事かな?」

 

気づけば、そこは教室だった。

あの白い影と政宗のいる、夢で見る教室。

しかし今この場には、光一郎と政宗しかいなかった。

 

「良ければ聞かせてくれない?君と僕の仲でしょ?」

 

馴れ馴れしい言葉を言いながら、クスクスと笑う政宗。

その声に、言葉に、光一郎は口を開いた。

 

「…俺って、何なんだ?」

 

それは、純粋な疑問だった。

勇者になってから、光一郎の思考に不純物が混じり始めた。

知らない筈の既視感を覚えた。

知らない筈の人間に親しみを覚えた。

大切なものに対して、異常な執着を覚え始めた。

親友に対して、殺意を覚えた。

まるで、自分じゃない誰かに乗っ取られていくような気分だった。

 

そうして思い出したのが、かつて目の前にいる少年が言い損ねた話。

光一郎の既視感や思考の不純物の答えはそこにあるんじゃないかと、何となくだがそう思った。

 

「そうだね~……僕が思うに、君の疑問は些細な問題だね」

 

「……あ?」

 

「君の内側が誰かに呑まれていたとして、問題あるの?戦う力と守る理由、君はそれだけ有れば十分なんだろ?」

 

「――――」

 

言葉に詰まった。

言い負かされたわけでも、言うことが思いつかないわけでも無く。

目の前の少年の言葉に、心の中で同意していた。

 

光一郎の視界の端で、教室が燃え始めたのが見えた。

 

「あの子を守るんだろ?」

 

政宗の言葉と共に、炎は勢いを増していく。

 

「皆を助けたいんだろ?」

 

教室が、世界が、炎の海に呑まれていく。

 

「なら、迷うことなんて無いだろう?」

 

憎たらしいような、清々しいような、そんな調子の言葉を最後に。

光一郎の身体は猛る炎に包まれた。

 

---

 

光一郎の意識が覚醒する。

延びていたのか、巨大な根に転がっているようだった。

軋む身体に顔を顰めながら、何とか立ち上がる。

 

戦況を確認すべく地図を開けば、東郷と風、樹が戦っているのが分かった。

加勢すべきだと考えたが、何故か行こうと思えなかった。

 

「……」

 

地図を眺めながら立ち尽くしていると、地図上で誰かが向かってくるのが見えた。

確認すれば、『結城友奈』と表示されていた。

 

「こういっちゃん!」

 

「…友奈」

 

「良かった、はぐれたから心配したんだよ!」

 

勇者服姿の友奈が近くに着地し、光一郎の元へと駆け寄ってくる。

少女の表情から東郷を止めるという意志をありありと感じられた。

 

「こういっちゃん、お願いがあるんだ」

 

「内容次第かな」

 

「東郷さんを止めたいんだ」

 

決意に満ちた言葉に、光一郎が眉を顰めた。

友奈の『止める』はきっと、説得や道を正すといったものだろう。

でも光一郎はそんな気は毛頭ない。東郷に対する憎悪は依然消えていない。

説得は無意味と判断したから、光一郎は東郷に攻撃しようとしたのだ。

 

「分かってる。こういっちゃん、怒ってるんだよね。許せないんだよね。でも、今はその感情を呑み込んで欲しいんだ」

 

「……」

 

「東郷さんはきっと止められる、止まってくれる。諦めなければ絶対にできるよ」

 

「……友奈、もう無理なんだよ。アイツはもう止まらない」

 

「そんなことないよ。2人でやればきっと出来る」

 

「いいや、無理だ」

 

「無理じゃない」

 

「無理なんだよ!!」

 

「無理じゃない!!」

 

不可能だと断ずる光一郎と、可能だと言い続ける友奈。

たった一言だけ怒鳴り合った2人の間に、ほんの数瞬の静寂が訪れる。

やがて静寂を破るように、友奈が口を開いた。

 

「……勇者部5箇条、なるべく諦めない」

 

そう告げる友奈は、微笑みを浮かべていた。

 

「お願い」

 

懇願する友奈の言葉に、光一郎の心が揺れ動く。

それでも、光一郎が抱く殺意は消えない。

心の中に燻るドス黒い感情が、軋むほどの殺意が暴れ狂う。

 

「私のために、力を貸して」

 

薄紅色の瞳が藍色の瞳を見据える。

少女の意思が、決意が、視線という形で光一郎に飛んでくる。

数秒ほど目が合って、光一郎が首を傾げて目線を外し、壁の方へと目を向ける。

 

「……」

 

朝顔の花が中空に咲き誇り、空飛ぶ戦艦に搭乗した東郷を確認した。

その隣には以前倒した獅子座の姿もあった。

 

「こういっちゃん……」

 

「……一回だけお願い何でも聞いてくれる権利」

 

「…!うん、わかった!」

 

その一言で理解したのだろう。

嬉しそうに頬を緩める友奈に、光一郎は軽く溜息を吐く。

ドス黒い感情を抑え込み、右肩の刻印を確認する。

ゲージは4つ溜まっていた。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん!」

 

そう言ってなんとなく微笑み合って。

手を取り合った友奈と光一郎は、親友を止めるべく跳躍した。




今回のこういっちゃん、寝て起きただけっていう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。