ご近所さんが美少女である確率は限りなく0に近い。
「こんにちはー!」
武家屋敷の門の方向から、元気の良い能天気な声が聞こえる。
車椅子に乗る少女が振り返れば、赤い髪をポニーテールに纏めた少女がこちらに向かってきていた。
「もしかして、貴女がここに住むの?」
「え、えぇ…」
「じゃあ新しいお隣さんだね!お母さんから同じ年の女の子が引っ越してくるって聞いてたから楽しみにしてたんだ!」
ニコニコと興奮した様子で話しかけてくる少女に戸惑う車椅子の少女。
その内、人懐っこい笑みを浮かべた少女が右手を差し出した。
「私、結城友奈!よろしくね!」
無邪気な声と共に差し出された右手を握り返す。
「それで、あっちの男の子が―――あれっ?」
少女―――結城友奈が誰もいない方を指さす。
指さした本人も不思議そうに首を傾げるも、すぐに納得したように掌をポンと叩く。
「ごめん、ちょっと待っててね!」
そう言うと門の外へと走っていく。
数秒後、同い年くらいの少年の左腕を引っ張る彼女が門から出てきた。
「もー!意地張らないでよー!」
「いやーちょっと今日は良い感じの第一声が思いつかないからまた後日にしたいなー!」
「そう言ってどうせ来ないじゃん!はーやーくー!」
力負けしているのか、少年は抵抗むなしくズルズルと目の前まで引きずられてきた。
「こういっちゃん!挨拶!」
「挨拶ってこんな強制的に行うモンじゃなくない?」
彼女の呼びかけに文句を垂れる少年。
こういっちゃんと呼ばれた少年は、明るい印象を受ける友奈とは対照的に冷静さを感じる雰囲気を纏っていた。
深い藍色の髪はふわふわとしていて、視覚ですら柔らかそうに見えた。
「……ふーむ」
「……?な、何でしょう…?」
「……いやこんなクソ美人にいきなり挨拶ってハードル高いっスわ友奈パイセン。てことで今日はこれにて―――っゴフっ!?」
少年は突然早口で捲し立てたかと思えば即座に身を翻し来た道を戻ろうとする。
しかし咄嗟に反応した少女の渾身の肘が腹部へと突き刺さり倒れ伏した。
「いきなり肘は無いだろ肘はァ…!」
「………ふんっ」
「ふんっじゃないよ?ふんっはこっちのセリフだからな?言ってやろうか?ふんっ―――アッ待ってわかった謝るから!ごめんって!ちゃんとやるって!」
おもむろに少女が拳を構えれば、先ほどまで悪態を吐いていた少年がいきなり及び腰になる。
少年は立ち上がると服をパンパンと手で払う。
「え~…どうも、檜森光一郎です。どうぞよろしく」
そう言って差し出された手を、先程と同じく握り返す。
「あなたのお名前は?」
友奈の問いかけに、少女は自身の名を口にした。
「東郷、美森です。」
こうして、とある日のとある町で。
後に勇者となる3人は出会ったのだった。
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