獅子座の作り出した巨大な火球が神樹へと放たれる。
「これで……皆は───」
世界を破滅に導く凶弾の軌跡を、東郷は安堵の笑みを浮かべて眺めていた。
「ォオオオオオ────!!」
そんな中、友奈が雄叫びと共に樹海から飛び上がる。
桜色の光を拳に纏わせ、強靭な意思を秘めた双眸で火球を睨め付ける。
怖さを上回る勇気を持って、少女は拳を振りぬいた。
「勇者ァァァァ!パァァァンチィィィィ───!!」
叩きつけられた拳が火球を弾き飛ばした。
爆炎を掻い潜って着地した少女の瞳が東郷を見据える。
「東郷さん。私、答えを決めたよ」
少女の決意に溢れた言葉と共に、獅子座が再度行動を開始する。
身体の中央にある輪が開き、炎を纏う星屑が友奈へと発射される。
迫る炎の雨あられを前に、友奈はなお言葉を紡ぐ。
「私もこういっちゃんも、東郷さんのこと大切に思ってるよ。だから───」
友奈の遥か後方で、神樹の根から光が立ち昇る。
眩い光と共にカランコエが空に咲き誇ると同時に、放たれた星屑は着弾することなく破壊される。
爆炎の花火が空に咲く中、友奈の隣に満開した光一郎が降り立った。
「東郷さんが間違った道に進むなら、引っ張ってでも連れ戻して見せる。絶対にそっちには行かせない!」
親友同士の戦いの火蓋が始まった。
---
「止まれぇぇぇぇぇ!」
攻撃を掻い潜り獅子座へと迫る友奈を、寸でのところで東郷が放った蒼い閃光が妨害する。
射撃の隙を突いた光一郎が、満開によって得た機動力で東郷の死角から飛び蹴りを放つが、盾として束ねられた砲台に阻まれる。
「二人とも、邪魔しないで!」
「こっちの台詞だ!」
砲台を足場に獅子座へ跳躍し攻撃を試みるが、それを読んでいたかのように東郷の砲撃に阻まれる。
「東郷さんお願い!そいつが辿り着いたら、この世界が無くなっちゃうんだよ!?」
「それで良いの……一緒に消えてしまおう?」
「良くないっ!」
聞く耳を持たない東郷の言葉を友奈が否定し、満開する。
リスク度外視の切り札の行使に、上空に桜が咲き誇る。
雄叫びを上げ、獅子座へ突貫する友奈が巨大なアームを振るう。
拳が叩きこまれ、御霊がその姿を露わにした。
「御霊!」
「友奈避けろ!」
「ッ!?きゃあっ!」
光一郎の叫びも虚しく、放たれた青い閃光に友奈が吹き飛ばされる。
砲台は二人に狙いを定めており、迂闊に御霊に近づけば撃たれるのは明らかだった。
見合ったまま膠着状態に入る中、友奈が再度説得を試みる。
「東郷さん、何も知らずに暮らしてる人達もいるんだよ?私達が諦めたら駄目だよ!だってそれが―――」
「勇者だって言うの!?」
友奈の言葉を遮って、東郷が悲痛に叫んだ。
「知らない人のことなんてどうでもいい!大切な人達を守れないのに、そんなもの守って何になるの!?」
その時、周囲に散らばる星屑が獅子座へと集結し、再生していく。
妨害しようにも東郷がそれを許さず、移動台座による一斉射撃が放たれる。
降り注がれる青い奔流を、友奈と光一郎は咄嗟に防御する。
「この世界が続く限り、私達の生き地獄は終わらないの…!」
東郷の言葉を、光一郎はただ黙って聞いていた。
燻る黒い感情を抑えつけ、少女の言葉に乗せられた悲しみを、思いを。
「地獄なんかじゃねぇよ」
再生しつつある獅子座を視界の端に収めながら、少年は言葉を紡ぐ。
東郷を見据えるその瞳に悪意や殺意は無く、目の前の少女を止める確かな決意が浮かんでいた。
「俺達がいるだろ。お前が戦えないって言うなら、俺達二人がお前を守り通す」
「そうだよ!東郷さんがいてくれるなら、どんなに辛くたって頑張れる!」
友奈が続けざまに声を上げ、アームを使って砲撃を強引に弾く。
「だから!戦い続けていれば、いつかその想いも全て奪われて失ってしまうのよ!?そんなの耐えられるわけない!」
二人の言葉に声を荒げた東郷が、全ての砲台の照準を友奈に合わせる。
極一点に集中されたレーザーが放たれ、受けるのは危険と判断した光一郎が友奈を巻き込む形でその場から離れる。
標的を失った蒼のレーザーが着弾するのを横目に、友奈を背にした光一郎が東郷と睨み合う。
「友奈ちゃんや光一郎君、皆のことだっていつか忘れてしまう!それを仕方ないなんて言葉で割り切れるわけない!一番大切なものを忘れるくらいなら――――」
「忘れないよ!」
感情をさらけ出した東郷の言葉を、友奈が食い気味に否定する。
「私は忘れない、絶対に忘れない!私がめっちゃくちゃ強く思い続けてる限り、何があっても東郷さんのことを忘れたりなんてしないから!」
「……私も、きっとそう思ってた!」
「――――」
涙を流す東郷の言葉に、友奈は固まってしまう。
「でも、今はただ悲しかったということしか覚えてない!自分の涙の意味が分からないの!!」
東郷の慟哭と共に、無数の砲撃が放たれる。
空間を塗り潰すかの如く放たれたレーザーに、光一郎は回避という選択肢を奪われた。
「嫌だよ!怖いよ!きっと二人とも私のことを忘れてしまう!」
少女の癇癪と視界を蒼く染め上げる閃光を前に、光一郎は舌打ちをする。
友奈と共に回避しようものなら纏めて撃墜される。かと言って何も行動を起こさなくてもそのまま撃墜されゲームオーバー。
許された数瞬の思考の中で、光一郎は今打てる最善手を叩き出した。
「友奈!!」
「ッ!うん!」
たった一言と目配せ。友奈は短いやりとりで、光一郎の意図を理解した。
ピンと伸ばされた光一郎の脚の上に、友奈が両足を揃えて乗った。
「あのバカ止めてこい!」
「行ってきます!」
宙に浮かぶ東郷に照準を定め、全身の筋肉を総動員して足を振るい、友奈を投げ飛ばす。
その数瞬後、友奈とすれ違うように大気を通過するレーザーが光一郎に炸裂した。
少年が爆炎に包まれるが、友奈は一切振り返らない。
無数の閃光をすり抜けた友奈が、全ての砲台をアームで纏めて掴み上げる。
「東郷さん!!」
友奈がアームと自身を切り離し、東郷の元へ走り抜ける。
東郷もファンネルを展開するが、一手速く間合いを詰め切った友奈が拳を引き絞る。
「―――ッ!!」
―――こんな形で解決するのは良くないのかもしれない。もっと他に方法があったのかもしれない。
でもそれを探すには何もかも全然足りなくて、それを理解しているからこそ、友奈は歯を食いしばる。
無性に泣きたくなる自分を抑え込み、握りしめた拳を振り抜いた。
---
倒れ伏した東郷を、友奈がそっと抱き起こす。
東郷の身体には力が入っておらず、戦意は完全に喪失していた。
「忘れない」
「嘘」
「嘘じゃない」
「嘘……!」
「嘘じゃない!」
真っ暗闇の未来に怯える少女を諭していく。
一つ一つの言葉に込められた想いが、東郷の心に眠る恐怖を晴らしていく。
「本当……?」
「うん。私もこういっちゃんも、ずっと一緒にいるよ。そうすれば、忘れない」
東郷を包み込むように抱擁する力を強める。絶対に離さないと誓うように。
やがて、東郷の瞳に涙が浮かび始める。
「忘れたくないよ!私を一人にしないでぇ……!」
まるで子供の癇癪のように、東郷は感情を爆発させた。
大粒の涙がボロボロと零れ落ちて、友奈の肩を濡らしていく。
慰めるように友奈と東郷が抱き合う中、移動台座に光一郎が降り立った。
「ぁ……」
「……」
泣き腫らした東郷の目に不安の色が浮かぶ。光一郎に吐かれた言葉は、彼女の心に残っていた。
光一郎は何も言わずに東郷の元へ歩いて行き、彼女へと手を伸ばす。
東郷は怯えたように体を震わせ、ぎゅっと目を瞑った。
「ん」
「……え?」
「こういっちゃん。東郷さん怯えちゃってるよ」
「うっせ」
光一郎は伸ばした手を東郷の頭に置くと、そのまま雑に撫で回した。
少年の予想外の反応に呆然とする東郷と、苦笑しながら咎める友奈。
ついさっきまで戦っていたとは思えないほど、三人の間には普段の日常のような雰囲気が流れていた。
―――これで終わりなら、どれほど良かっただろうか。
突如、三人の後方から異様な光が照り付け、熱風が肌に触れる。
「……マジか」
「何……?」
「太陽……?」
そう呟く三人の視界には、巨大な火球に変身した獅子座が浮かんでいた。
全ての星屑を終結させた太陽が、神樹を破壊すべく迫りくる。
「私、大変なことを……」
「東郷さんのせいじゃないよ!こういっちゃん!」
「判ってる。アレ止めんぞ」
光一郎の言葉と共に、三人は飛翔する。
太陽の元へ躍り出て、侵攻を食い止めるべくそれぞれの武装で正面から迎え撃つ。
「止まれぇぇぇぇ――――――!!」
友奈の絶叫と共に押し返そうと試みるが、その勢いは衰えない。
それでも食い止めるべく力を込めていたが、友奈に限界が来た。
「絶対に、諦めな、いっ……」
友奈の身体から力が抜けていく。
満開のエネルギーが切れたのか、友奈の満開が解除された。
全身から花びらが散り、そのまま地上へと落下していく。
「友奈ちゃん!!」
「友、奈……!」
東郷が悲痛な叫びを上げ、光一郎が忌まわし気に呟く。
バリアを貫通するほどの熱気を放つ太陽は、その勢いを一切弱められていない。
「もう、ダメ――」
三人でダメだったものを、二人で押し返すなど不可能。
東郷が諦めの言葉を吐いた、その瞬間。
「オオオォォォォォォォ――――!!」
聞き慣れた声と共に、後方から二人の勇者が太陽に激突した。
そちらに目を向ければ、満開した風と樹だった。
「樹ちゃん……風先輩……!」
「遅れてごめんなさいね!」
驚愕の表情を浮かべた東郷に、風と樹は笑いかけた。
さっきまで戦っていたにも関わらず笑いかけてくれる仲間に、東郷の瞳に再び涙が浮かぶ。
「諸々のお説教は全部後!全員、押し返せぇぇぇぇ――――!!」
風の叫びと共に、今度は四人がかりで押し込む。
最初に比べれば勢いは落ち始めたが、それでも尚、太陽の侵攻は止まらない。
着々と神樹へと押される中、再度後方から轟くような雄叫びが聞こえた。
「勇者部を、舐めるなぁぁぁ――――!!」
研ぎ澄まされた直感と気配を頼りに、満開した夏凛が太陽を迎え撃つ。
夏凛の合流により、太陽の勢いが更に弱まっていく。
「よぉーし!勇者部――――ッ!!」
『ファイトォ――――!!』
計五人の勇者が、太陽を止めるべく咆哮を上げる。
一丸となった勇者達の力が巨大な花弁となり、巨大な火球の力を抑え込む。
それでも尚、足りない。
「ぐ、ぅぅぅぅぅっ……!」
腕がへし折れそうなほどの重圧に、食いしばるような声が上がる。
勇者達の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「ク、ソぉ……!」
視界に広がる獅子座の威圧感、刻一刻と迫る世界滅亡。
足音を立てて近づく死の気配に、逃げるように光一郎は目蓋を閉じる。
暗闇の中に、大切な少女の姿が浮かんだ。
「――――何逃げてんだ……!」
嘲るように、自分自身を笑う。
次いで湧き上がるのは、誓いを破った己に対する怒り。
少年の口から、牙が覗く。
「諦めんな……!」
友奈は言った。絶対に諦めないと。
彼女が逃げないというのなら、光一郎は逃げるわけにはいかないのだ。
少年の瞳が、赤く染まる。
「誰一人、死なせて――――」
――――少年の右額部から、一本の角が天へと伸びる。
「――――
鬼の如き咆哮が樹海に木霊する。
檜森光一郎の持てる力全てを総動員させ、太陽へと手をかざす。
太陽を受け止めている巨大な花弁が真っ赤に染まり、太陽の力を削ぎ落とし、その勢いを完全に停止させた。
「うおおおぉぉぉおおおお!!」
光一郎の咆哮に呼応したかのように、満開した桜の勇者が雄叫びを上げる。
停止した太陽に狙いを定め、握りしめた巨腕を引き絞る。
「勇者――――」
桜色の流星が、停止した太陽へ弓矢のように飛翔する。
強靭な意思を、仲間たちの想いを。全てを込めた拳が、世界を滅ぼさんとする敵へと振り抜かれた。
「パアァァァンチィィイ――――――!!!」
崩れゆく拳と共に、火炎の中を突き進む。
やがて獅子座の御霊へと辿り着き、友奈はその手を御霊へと伸ばした。
質問箱とか作ろうかなと考える今日この頃。
でも今作ってもしゃーねぇよなと考えた今日この頃。