バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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後半ガバガバです。話を進めたいあまり爆速で作りました。


七年来の友人は一生関わりがあると言われている。多分。

──視界にも、思考にも、不愉快なノイズが混じっている。

見上げた空は陰気な雲が立ち込めていて、降り注ぐ雨粒が頬を濡らす。

水溜りに跳ね返る雨粒の音がうるさくて、自然と苛立ちが募っていく。

 

『■■!■■!!■■■り■ろ!!』 

 

こちらを見下ろす二つの影。

片方は悲鳴に近い声で何かを叫んでいるようだが、言葉は聞き取れない。雑音が混ざっていて言葉として認識できない。

金糸の髪を振り乱し、酷く狼狽えながらも、必死にこちらを助けようとしているようだった。

 

『────』

 

もう片方の人影は、泣きそうな顔で見下ろしていた。

何も言わず、何も言えず、目の前の現実から目を逸らすことも出来ず。

血で赤く染まった白い髪を揺らしながら、迷子の子供みたいな顔をして、ただ静かに見下ろしていた。 

 

「────」

 

その顔が、不快だった。

その表情が、不愉快だった。

その顔だけは、させたくなかった。 

 

「……■■■」

 

泣かないで欲しい、笑っていて欲しい。ずっと一緒に居たい。

そんな細やかな願いは、自分では叶えられないのだと知った。

 

だから──せめて。

 

「──■してる」

 

たった一言だけ、言い残して。

かろうじて繋ぎ留めていた意識は、闇へと沈んだ。

 

---

 

「────」

 

唐突に眠りから覚醒し、来瞳はパチリと目を開く。

開いたばかりのぼやけた視界が、徐々に明瞭さを取り戻していく。

外から差し込む陽光が部屋の中を照らし、耳には小鳥の囀りが届いている。

 

「朝……」

 

ぼんやりとした意識の中、ぼそりと呟く。

自分のものとは思えない程掠れた声を漏らしながらゆっくりと上体を起こせば、ひんやりとした朝の空気が素肌を撫でていく。

伸びをしながら辺りを見回すと、見慣れた自分の部屋の風景が広がっている。

ベッド脇に置かれたスマホを手に取り時刻を確認すれば、朝の5時を過ぎた頃で、起床時間には少し早いようだ。

 

「二度寝……は、流石に無理だね……」

 

二度寝という魅力的な選択肢に後ろ髪を引かれつつ、来瞳はベッドから出ることにした。

床に足を下ろせばひんやりとした感覚が足の裏に伝わってくる。

冷たい感触は来瞳の意識を完全に覚醒させるには十分で、ぼやけていた頭が冴えていく。

 

(変な夢見たな……)

 

先程の夢の内容を思い出して思わず苦笑が漏れた。

夢の中の出来事だというのに、妙な生々しさが今も心に残っている。

思い返せば返すほど、何故だか酷く落ち着かない気持ちになった。

 

「……ま、いっか」

 

考えた所で答えが出るわけでもなく、所詮夢だと割り切って来瞳は思考を切り替える。

欠伸を一つ零しながら、来瞳は自分の部屋を後にした。

 

---

 

最初のお役目を無事やり遂げてから翌日。

クラスメイトからのお役目に関する質問を適当に誤魔化しながら学校生活を謳歌し、やがて迎えた放課後。

いつも通り帰り支度をしていたその時、軽く袖を引かれる感触に来瞳は振り返る。

そこには袖を摘まむ園子と何やらニコニコとしている銀、そんな二人に挟まれている須美の姿があった。

 

「えっと、どうかした?何か用かな?」

 

「いやぁ、ついさっき鷲尾さんから良い提案があってさ。天乃もどうかなって」

 

そう言って銀と園子はにんまりと笑って見せる。

訳も分からず首を傾げる来瞳に、今度は須美が恥ずかしそうにしながらも提案を語り始めた。

 

「その、よ、良ければだけど……しゅ、祝勝会でも、どうかしら……?」

 

「祝勝会?」

 

「ええ。初めてお役目を果たせたから……その、お祝いでもって……」

 

祝勝会。須美の発案した提案に、来瞳は思わずぱちくりと瞬きをした。

真面目な彼女からそんな言葉が出てくるとは思っておらず、少し呆気に取られてしまう。

恐る恐るといった様子でこちらを窺っている須美の姿に、若干の微笑ましさを感じてくすりと笑みが零れた。

 

「うん、僕も参加させてもらおうかな」

 

来瞳の返事に、須美は安堵の笑みを浮かべてほっと息を吐いた。

 

「やった~!じゃあ四人で行こう!」

 

園子が嬉しそうな声を上げ、四人は下校の準備を始める。

開催場所は何処にしようかと各々話し合いながら、四人は教室を後にした。

 

---

 

祝勝会の会場として、四人は銀の誘いで駅前の大型ショッピングモール『イネス』へと足を運んだ。

平日とあって人の少ないフードコートの飲食スペースの一角を借りて、各々がジュース片手に席に着く。

一同が席に着いたのを確認した須美が、鞄から長々と色々書かれた紙を取り出すと、そわそわした様子で音読し始める。

 

「ええっと……きょ、今日という日を無事に迎えられた事を、大変嬉しく思います。えっと、本日は大変お日柄も良く、神世紀298年度、勇者初陣の祝勝会ということで、お集まりの皆様の今後益々の繁栄と健康、そして明るい──」

 

「堅苦しいぞー!カンパーイ!」

 

堅苦しい言葉で挨拶を述べる須美に銀が茶々を入れ、ジュースの入ったカップを突き出す。それを見た園子も「私も~!」と楽しそうにカップを突き合わせた。

想定していた段取りから早くも外れて呆気に取られた須美に、来瞳が小さく笑いながらカップをそっと突き出した。

 

「鷲尾さん。かんぱーい」

 

「あっ、えっと……か、乾杯?」

 

戸惑いながらも須美が来瞳にカップを合わせると、カツンと小気味いい音が鳴った。

 

「ありがとうね、すみすけ!」

 

「えっ?」

 

「私もね、すみすけを誘うぞ誘うぞって思ってたんだけど、でも中々言い出せなかったから、すごく嬉しいんだよ~!」

 

「うん!鷲尾さんから誘って来るなんて初めてじゃない!?」

 

「実はそうなんだよ〜!」

 

ニコニコと笑いながら須美に話しかける園子の言葉に、銀が同調するように頷く。

段々とテンションの上がっていく二人の会話に、更に来瞳も混ざり始めた。

 

「合同練習もまだだったのに、僕達上手くやったもんね」

 

「アタシら、初陣良くやったんじゃない!?」

 

「ねぇ~!私も興奮しちゃって、皆でガンガン語り合いたかったの!」

 

三人は顔を見合わせながら楽しそうに笑い合う。

そんな三人を見て須美はキョトンとした顔を浮かべていたが、広げていた紙を畳むと恥ずかしげに言葉を零した。

 

「私も……実は、その……話をしたくて、二人を誘ったの……」

 

そう言って、須美は下を向いたまま静かに言葉を紡ぎ始める。

自分は昔から他人を頼るのが苦手で、来瞳達のこともあまり信用していなかったと。

しかし、自分一人だけでは何も出来ず、皆がいてくれたから勇者として戦えたのだと。

それを実感したからこそ、この言葉を伝えるのだと、須美は決意を固めて口を開く。

 

「だから、その……これからは私と……仲良くしてくれますか?」

 

頬を少し紅潮させながら、須美は窺うように三人に問いかける。

恥ずかしさのせいか俯いたままである須美の姿を前に、園子と銀、来瞳は顔を見合わせると、須美に向き直って笑みを浮かべた。

口火を開いたのは銀だった。

 

「何言ってんのさ、もう既に仲良しだろ?」

 

「えっ……?」

 

「嬉しい~!私もすみすけと仲良くしたかったんだ~!ほら、私も友達作るの苦手だったから。くるるん以外の同級生と喋ったこと無いんだ~」

 

「まぁ、そうだね。僕も鷲尾さんと仲良くしたかったし……そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

三者三様に思い思いの言葉を述べながら笑う三人の笑顔に、須美は心が温かさに包まれるような感覚を覚えた。

 

「あ、仲良しになったんだし、渾名で呼び合おうよ~。ねーすみすけ?」

 

「その、ずっと言ってたけど、すみすけはやめてくれないかしら……」

 

「じゃあワッシーナは?アイドルっぽくない?」

 

「もっと嫌よ!」

 

「天乃。乃木っていつもこんな感じなのか?」

 

「うーん、初めて会った時にはこんなノリだったかな。あ、僕のことは来瞳でいいよ」

 

「んじゃあアタシのことは銀って呼んでよ!苗字呼びはなんかよそよそしいしな!」

 

「ほんと?じゃあ銀ちゃんだね、よろしく」

 

園子によって須美の渾名が命名されているのを横目に、来瞳と銀が早速親交を深め始めていた。

最終的に須美の渾名はわっしーに決定され、四人がそれぞれの呼び方を決めたことで、友情を深めた四人は和やかな空気のまま談笑を続けるのだった。

 

---

 

「はふぅ~、幸せ~……メロン味大正解!ミノさんのは?」

 

「醤油味ジェラート!これが美味いんだよなぁ!」

 

「美味だわ……!このほろ苦抹茶と餡子の織り成す味の調和が絶妙……!」

 

「園子ちゃん、口にジェラート付いてるよ。拭くから顔こっち向けて」

 

「あ、ホントだ~。ありがと~くるるん」

 

「なぁなぁ、来瞳は何味にしたんだ?こしあん?」

 

「抹茶チョコ」

 

『渋い……』

 

イネスのフードコートの一角で、ジェラート片手に楽しそうに談笑する四人の姿。

平和そのものといったその光景は、見ている者を和ませてくれる光景であった。

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