バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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年越しましたね。


合同練習で失敗した時の申し訳なさは尋常では無い。

「ゴリ押しにも程があるでしょう」

 

『はい……』

 

祝勝会から数週間が経った頃。

再び襲来したバーテックス──天秤座との交戦のデータを見た安芸が、来瞳達四人に説教を行っていた。

彼女のスマホに記録された映像には、銀が天秤座の頭上から連続して斧を振るい、その身体を強引に叩き切る光景が映っている。

命が幾つあっても足りない。そう言わざるを得ない戦い方に、安芸は軽く溜息を零す。

 

「お役目は成功して、現実への被害は軽微なもので済んだのは、良くやってくれたけれども……」

 

「それは、三ノ輪さんと乃木さん、天乃君のおかげです」

 

須美のその言葉に、他の三人が嬉しそうに微笑んだ。

そんな勇者達の様子に安芸はやれやれといった様子で再び溜息を零した。

四人の仲は良好で、性別や性格による不和等も見受けられないのがせめてもの救いだろうか。

皆明るく素直で、真面目で思いやりのある子達だ。勇者に選ばれるだけの素質はあると感じていた安芸だったが、流石にこの戦い方の危うさは見過ごせなかった。

 

「貴方達の弱点は連携の演習不足ね。先ずは四人の指揮を執る隊長を決めましょうか。乃木さん、頼めるかしら」

 

「えっ?わ、私ですか?」

 

安芸からの指名を受けた園子は、驚いたように目を丸くして他の三人の顔を見る。

 

「あたしはそういうの柄じゃないから。あたしじゃなければ、どっちでも」

 

「僕も賛成。僕はそういうの向いてないしね」

 

「私も、乃木さんが隊長で賛成よ」

 

元々隊長になる気も無さそうな銀に続く形で、来瞳も賛成の意思を示す。

そして最後に残った須美も賛成の意思表示を示すことで、満場一致で園子が隊長に決定された。

 

「神託によると、次の襲来までの期間は割とあるみたいだから……連携を深めるために、合宿を行おうと思います」

 

『合宿?』

 

担任の口から出た合宿という言葉に、勇者達は目をぱちくりと瞬かせたのだった。

 

---

 

翌日。

 

「…………遅い!」

 

「銀ちゃん遅いね。どうしたんだろう?」

 

「すぴ~……」

 

大赦によって貸し切られた、神樹館貸し切りと書かれたバスの中で、須美は眉を吊り上げながら呟いた。

園子は来瞳の膝を枕に鼻提灯を膨らませて眠っており、来瞳はそんな園子の髪をそっと撫でながらバスの窓から外の景色を眺めている。

 

予定されていた集合時間になっても来ない銀に須美が若干苛立ちを見せ始めていると、バスの乗車口が音を立てて開き始める。

そちらに目をやれば、息を切らしながら駆け込んできた銀の姿が見えた。

 

「悪い悪い、遅くなっちゃって!」

 

「遅い!あれだけ張り切ってたのに10分遅刻よ、どういうことかしら!」

 

「いや~、色々あって……いや悪いのは自分だけど……とにかくごめんよ、須美」

 

「この際だから注意させてもらうけど、三ノ輪さんは普段の生活が少しだらしないと思うわ!勇者として選ばれた自覚を──」

 

「まぁまぁ。銀ちゃんも反省してるんだし、その辺にしておこうよ、ね?」

 

「そういう天乃君も天乃君よ!ちょっと甘すぎるんじゃないかしら!」

 

「あれ?飛び火した?」

 

須美の矛先が来瞳へと向けられ、思わぬ飛び火を喰らった来瞳は眉を八の字にして困り顔を浮かべた。

そうして来瞳が須美の勢いに若干気圧され始めたその時、眠っていた園子の鼻提灯が軽快な音を立てて破裂した。

園子はハッとして起き上がると、寝ぼけた様子で辺りを見渡して首を傾げる。

 

「あれ……?お母さん、ここ何処……?」

 

「ここはバスの中で、僕はお母さんじゃないよ」

 

「そっか~……おやすみ~……」

 

眠そうに瞼を擦る園子は、再び来瞳の膝を枕にして眠り始めた。

幼子とその親のような二人のやりとりに、須美は毒気を抜かれたのか呆れたように溜息を零した。

 

(やっぱり私がしっかりしないと……この美しい国を守るために……!)

 

合宿先へと発進し始めるバスに揺られながら、須美は改めて勇者としての責務を全うすることを誓うのだった。

 

---

 

バスに揺らされること数十分。

讃州サンビーチと呼ばれる海水浴場に辿り着いた一同は、勇者服を身に纏った状態で浜辺に降り立っていた。

訓練のために設置された大量の機械が、砂浜に鎮座している。

 

「この訓練のルールはシンプル。あのバスに三ノ輪さんを到着させること。お互いの役割を忘れないで」

 

この訓練は四人の力押しな戦法を無くし、連携の練度を向上させる為の訓練だった。

機械が発射してくるボールを園子と来瞳が防ぎ、須美が弓矢で迎撃して、近接特化の銀が目標地点に辿り着くまで援護する。

ルールとしては単純なものであるが実際にやってみると中々に難しい。

ある程度までは三人の援護で容易く辿り着けるのだが、進むごとにボールの数が増えていき、段々と対処しきれなくなっていく。

やがて須美の放った弓矢がボールを外れ、撃ち漏らしたボールが銀の頭に直撃した。

 

「アウトー!」

 

「ご、ごめんなさい三ノ輪さん!」

 

「ドンマイドンマイ、次はいけるよ、須美ちゃん」

 

「呼び方も堅いんだよ、銀でいいぞ、銀で」

 

「私のことはそのっちで~!はい、呼んでみて!」

 

「はい、もう一回!ゴールできるまでやるわよ!」

 

呼び捨てや渾名呼びに苦戦する勇者達へ、安芸の呼ぶ声が砂浜に響く。

結局その日はゴールすることが出来ず、夕日が差すまで訓練に勤しむのだった。

 

---

 

合宿中は基本、四人一緒に行動しろ。1×4を4ではなく10にすること。

これが安芸から告げられた、合宿全体の目標だった。

当然食事や就寝も一緒であり、男女共同での生活が常となっていた。

 

「わっしー、荷物あれだけ?少なくない?」

 

「そうかな……?」

 

「銀ちゃんはもうお土産買っちゃったんだ。早いね?」

 

「そういう来瞳もちゃんと買ってるじゃん!」

 

「ミノさんもくるるんも、お土産買うの早すぎ~」

 

「そういう園子の荷物はなんだ……?」

 

「何処から突っ込んだら良いかわからないわ……」

 

「臼でおうどん作るんよ~」

 

「そんな時間あるかな……?」

 

四人揃って豪勢な料理を食べつつ、お互いの荷物事情に茶々を入れて。

そうして合宿一日目は幕を閉じた。

 

---

 

迎えた合宿二日目。

今日も今日とて浜辺で訓練に勤しむ一同だったが、中々ゴールすることが出来ない。

一日目よりは連携の練度は向上しているものの、それでもまだ粗さが目立っていた。

 

「──ごふぅっ!?」

 

雄叫びを挙げて猛進していた銀の顔に、横から飛んできたボールが直撃する。

予想外の方向から攻撃をモロに食らった銀は砂浜に倒れ伏した。

 

「アウト!もう一回!」

 

四人の特訓をコーチングしていた安芸が無慈悲にそう告げ、訓練は再び再開された。

 

合宿の名に恥じぬ密度の濃い訓練を受ける四人だったが、あくまで彼女らは小学六年生の身である。

当然ながら学業を疎かにして良い理由も無く──

 

「こうして神樹様は、ウィルスから人類を守るために壁を作り──」

 

(くぅ……合宿中なら勉強しないで済むと思ったのにぃ……!)

 

教科書を読み上げる安芸の話を聞きながら、銀は苦々しい表情を浮かべながら内心でぼやいた。

一方で須美や来瞳は真面目に授業に取り組んでいるものの、園子は鼻提灯を膨らませて堂々と眠っている。

 

「乃木さんは答えられる?」

 

「ふあっ……はい~……バーテックスが暴れて私達の住む四国に攻めてきたんです~……」

 

「正解ね」

 

『(アレで聞いてたんだ……)』

 

「あはは……」

 

不意に飛んできた質問に対して、鼻提灯が割れると同時に目覚めた園子が完璧に答えた。

園子のハイスペック加減に銀と須美の心の声が一致し、来瞳の苦笑が零れたのだった。

 

---

 

諸々の苦労を経た合宿最終日。

ようやく目標地点に辿り着いた銀が、バスを斧で粉々に破壊することで訓練は終了を迎えた。

訓練を終え、食事を済ませた一同は、身体に溜まった疲労を癒すため露天風呂へと足を運んでいた。

 

「ふ~……」

 

湯船に身体を沈めた来瞳の口から、思わず溜息が零れる。

じんわりと染み込むような温かさに、身体に蓄積された疲労が溶けていくような感覚がする。

掌でお湯を掬って顔にかけ、その心地よさに頬が緩む。

 

「……」

 

ふと、自分の掌をまじまじと見つめる。

長い時間盾を握り続けていた影響か、潰れたマメがあちこちに出来ている。

 

「やっぱり沁みるなぁ……」

 

湯が染みて多少痛みはあるものの、我慢できない程では無い。

何度か手を握っては開きを繰り返し、再び湯船に両手を沈めた。

岩場に背を預けて息を抜いていると、女風呂の方から騒がしい声が聞こえてくる。

 

『──鷲尾さんちの須美さんも、身体を見せなさいな』

 

『な、何で……?』

 

『クラス一大きい胸を拝んでおこうかなぁと……まるで果物屋だ!親父!その桃をくれ~!』

 

『ちょ、ちょっと!?』

 

取っ組み合いを繰り広げる須美と銀の騒がしいやりとりが、男湯まで響いてくる。

年相応にはしゃぐ彼女らの様子を微笑ましく思いながらも、流石に盗み聞きは良くないかと思い、来瞳は露天風呂を後にした。

 

---

 

「──お前ら、合宿の最終日に、簡単に寝られると思ってる~?」

 

風呂から上がり、部屋に敷かれた布団の上で寛ぐ寝間着姿の一同に対して、悪戯っぽい笑みを浮かべた銀が枕を抱いたままそう言った。

明らかに夜更かしする気満々の銀の発言に、上体を起こした須美が苦言を呈した。

 

「夜更かしなんてダメよ。早く目を閉じて寝なさい」

 

「マイペースだなぁ、須美……」

 

「言うことを聞かない子は……夜中に迎えに来るわよ……」

 

「む、迎えに来るぅ!?」

 

「はいはい、ホラー話はやめようね」

 

須美の冗談程度の脅かしに、過剰に反応を見せた園子が怯えた表情を浮かべる。

そんな彼女を宥めるように、来瞳が園子の頭を撫でながら軽く窘めた。

しかし中々寝ようとしない銀の口から放たれた言葉に、三人は少し面喰らうことになる。

 

「そういうのじゃなくて、好きな人の言い合いっこしようよ!」

 

「す、好きな人って……」

 

「あ~……僕男子だし、席外した方が良いよね?」

 

「いーやダメだ、一人逃げようったってそうはいかないぞ!」

 

銀の予想外な提案に須美が頬を紅く染め、来瞳は適当な理由を並べて逃亡を図ろうとしたが銀にあっさりと阻止された。

逃がさないと言わんばかりの銀の眼光に気圧され、来瞳は困ったように頬を掻いた。

 

「ミノさんは好きな人いるの~?」

 

「敢えて言うなら……弟とか!」

 

「家族はズルいよ~」

 

堂々と身内を挙げた銀に園子が抗議の声を上げるが、彼女の性格からして何となく察せられる答えだった。

銀らしい回答に一同が呆れを含んだ笑みを浮かべつつ、順番は須美へと回る。

 

「私もいないから、おあいこね。乃木さんは?」

 

やはりと言うべきか、須美も好きな人は居ないらしい。

お役目に燃えている彼女にとって、色恋に現を抜かす暇は無いようだ。

須美からのパスを受けた園子は、不敵に笑って口を開いた。

 

「フッフッフ……私は居るよ~」

 

「おー!?恋バナきたんじゃない!?」

 

「だ、誰!?クラスの人!?」

 

「うんっ!わっしーとミノさんと、くるるん!」

 

『だと思った……』

 

花咲いたような笑みでそう言った園子に、銀と須美の呆れ混じりの声が重なった。

園子の思いの外も予想外でもない答えにがくりと首を落としつつ、銀はトリの来瞳へと視線を向ける。

 

「じゃあ最後!来瞳は!?」

 

「えぇー……好きな人かぁ……」

 

銀に促されて少し考える素振りを見せる来瞳。

顎に人差し指を添えて考えていた彼の様子に、ある事を察した女性陣に緊張が走る。

 

──コイツ、現在進行形で好きな人が居る……!

 

銀と須美は若干引きつった表情で、園子は来瞳の横顔をじっと見つめたままで。

顎に手を当てたまま黙りこくっている少年の答えを待つ。

数秒程して、考えが纏まったのか、来瞳は視線を三人へ向けた。

 

「ごめん、秘密」

 

そう言って、来瞳は微笑みながら、人差し指を自分の唇に当てて見せた。

予想外の回答に面食らった三人だが、即座に気を取り直した銀が抗議の声を上げる。

 

「何だよそれー!言ーえーよー!」

 

「嫌でーす。そもそも僕達はお役目で忙しいんだからさ、そっちに集中しなきゃ。そうだよね、須美ちゃん」

 

「そ、そうね!私達には神聖なお役目があるのだから、色恋に現を抜かしてる暇は無いわ!」

 

「そういうこと。ほら皆、電気消すよー?」

 

「えぇー……」

 

有無を言わせぬまま話を切り上げた来瞳に対して、銀は不満げに唇を尖らせながらも渋々布団に身を沈めた。

部屋の照明を落とせば、暗闇の中に静寂が訪れる。

その静寂は一同が眠りに落ちるには十分で、数分もしない内に勇者達は眠りへと誘われるのだった。

 

 

 

───程なくして、黄金色の瞳が、ゆっくりと開かれた。

 

---

 

「────」

 

自身を除く三人の規則正しい寝息が、静寂に包まれた部屋の中で嫌に大きく聞こえてくる。

上体を起こし、暗闇に慣れた視界を横に向ければ、隣で眠る少年の寝顔が目に映った。

布団から抜け出し、来瞳の寝顔を上から覗き込む。

安らかに眠る少年の様子を眺めながら、彼の顔にかかった黒い髪を優しく払う。

 

「────」

 

眠る少年に触れた手を、自らの胸に当てる。

柔らかく微笑む少女の表情とは裏腹に、彼女の胸中は穏やかでは無かった。

 

「くるるん」

 

すっかり呼び慣れた渾名を口にする。

眠る少年を起こさないように、小さく。けれどしっかりと、彼の心に届くように。

甘く、切ない声で、刻み込むようにその名を呼ぶ。

 

──乃木園子は、変わり者だ。他人とは違う感性や考え方を持っていて、それが原因で周りからは孤立してしまうことが多い。

不思議ちゃんと言えば聞こえは良いが、要はただの変人扱い。

両親からも友人と呼べる存在を作れるか心配される程度には、周りから受け入れられていなかった。

 

そんな少女を始めて受け入れてくれたのが、天乃来瞳だった。

始めて見掛けたあの日。漠然とした直感に付き動かされて声を掛けた事を、園子は今でも鮮明に覚えている。

困惑気味に微笑んでいた来瞳の顔が、園子の心に深く焼き付いている。

 

「──くるるん」

 

神樹館小学校以前の、友達が居なかった頃に出来た、人生最初のお友達。

そんな彼が口にしたのだ。『ごめん、秘密(好きな人がいる)』と。

来瞳がそう言った時、自分の内で燃え上がった感情の正体を、園子は理解している。

何処の誰とも知れない、顔も名前も分からない、自分以外の誰かが、彼の心の中にいる。

 

それがたまらなく悔しくて、哀しくて、妬ましくて。

 

「──好きな子って、だぁれ?」

 

静かに、優しく、一言ずつ、絞り出した声で。

乃木園子は、そう問うた。

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