バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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今わすゆ見返してるんですけど、話が進む度に「もうすぐ銀ちゃん死ぬんだなぁ」って思って何とも言えない気持ちになります。


協調性があれば大体何とかなる。

合宿からおよそ数日後。

天気も良く、暖かな日差しが降り注ぐ日曜日。

須美、園子、来瞳の三人は、銀の家である三ノ輪家へ向かうべく道路を歩いていた。

 

目的は銀の遅刻の原因を探るため。

以前から頻繁に遅刻している彼女だったが、気が抜けていると言うにはあまりにも遅刻する回数が多い。

理由を聞いてもはぐらかされるばかりで、詳細は一切不明。

ならばこちらから探りを入れようと考えた須美が、来瞳と園子を誘って、今に至るのである。

 

「そろそろね……三ノ輪さんの家に到着するわ。2人とも……って、あれ!?乃木さん!?」

 

「あ、園子ちゃんなら向こうに……」

 

「アリさんだ~。へいへーい、元気~?」

 

「フラフラしないの!」

 

「しょぼーん……」

 

アリの行列に挨拶していた園子の服の首元を掴んで引きずる須美、そんなやり取りに苦笑を浮かべて付いて行く来瞳。

そうして歩き続けていれば、やがて目的地である三ノ輪家に辿り着いた。

家屋の周りは生垣で囲われていて、小学生の三人では身長が足りず、家の中を窺い見ることが出来ない。

 

「ここが三ノ輪さんの家ね……」

 

「で、どうやって調べよっか」

 

「それじゃあ、早速様子を──」

 

「ピンポンダッシュ~?」

 

「そんな恐ろしい事はダメよ!?」

 

園子の中々にアグレッシブな提案を却下しつつ、須美は背負っていた鞄を下ろす。

中から取り出されたのは潜望鏡。それも小型の本格的な物である。

 

「須美ちゃん、それは一体……?」

 

「こんな事もあろうかと持ってきたの」

 

一体いつそんな機材を入手したのか気になった来瞳だったが、堂々たる姿の須美の前では聞くに聞けなかった。

須美は潜望鏡を使って生垣の上から、来瞳と園子は生垣の隙間から中庭を覗き込む。

 

「おい泣くなって。お前はこの銀様の弟だろー?」

 

三人の目に映ったのは、両手に赤子を抱いた銀の姿だった。

ぐずる赤子を慣れた手つきで膝に乗せ、玩具を鳴らしてあやしている。

ガラガラと音を立てる玩具に釣られて、赤子は機嫌よく笑顔を見せた。

 

「お、泣き止んだ!偉いぞマイブラザー!全く、甘えん坊な弟だよなぁ。大きくなったら舎弟にしてこき使おっと」

 

「姉ちゃん買い物はー?」

 

「はーい、ちょっと待ってねー!」

 

笑いながら将来の悪巧みをする銀だったが、奥の方から聞こえてきた弟らしき声に返事をすると、赤子を抱き抱えてそちらへ歩いていった。

 

「わぁ、ミノさんワンダフル!子守りとかお手伝いとかしてるよ!」

 

「あんな小さな弟達がいたのね……世話が大変ということなのかしら」

 

「うーん、これで遅刻の理由はハッキリしたのかな?」

 

銀の日常の一部始終を垣間見た三人は、各々が抱いた感想を語る。

来瞳が曖昧に結論付けるものの、須美はいまいち納得がいかない様子で首を傾げる。

もう少し調査を続けてみようと、須美達は買い物に向かう銀を尾行するのだった。

 

---

 

道中を尾行し続けた結果、銀の遅刻には様々な理由があることが判明した。

道を尋ねてきた老人を案内し、また別の女性に道を尋ねられると案内し、倒れた自転車を立て直し、飼い主の手から離れた犬を捕まえたり。

彼女の目的地であるイネスに入ってからも、迷子になった子供を親の元へと送り届けたりと、行く先々で問題が絶えない。

 

「巻き込まれてるっていうか……放っておけないのね」

 

次から次へとやってくるトラブルを一つ残らず解決する銀を見て、須美は彼女の遅刻の理由を結論付けた。

そしてまた、他の客が落としたミカンやリンゴを拾うのを手伝っている銀。

 

「もう見てられないわ……三ノ輪さん!」

 

「ん?……おわ!?須美!?」

 

「園子とくるるんもいるんだぜ~」

 

「手伝うよ、皆でやれば早く終わるし」

 

「え?えっ!?何だよお前ら……!?」

 

---

 

暫くして。

フードコートに移動した四人は、各々が食べたい物を注文してテーブルに着いた。

美味しそうにうどんを啜る園子を横目に、事の顛末を聞いた銀が驚愕に口を開く。

 

「んじゃあ、三人共家の前から見てたっての!?」

 

「まぁ、そうなるね。なんかごめんね?」

 

「うぅ……なんか恥ずかしいなそれ……」

 

来瞳の放った肯定の言葉に、恥ずかしそうに顔を伏せる銀。

若干頬を赤く染めながらチキンを口に入れる銀を見ながら、須美は言葉を投げ掛けた。

 

「いつも遅れる理由はこれだったのね」

 

「言ってくれればいいのに~」

 

「それはなんか、他の人のせいにしてるみたいで……何があろうと、遅れたのは自分の責任な訳だしさ」

 

「ミノさん、昔からそういう体質なの?」

 

「ツイてない事が多いんだ。ビンゴとか当たったこと無いもん。トホホ……」

 

不幸体質と呼べば良いのか、彼女の運の無さは中々な物であるらしい。

残念そうに溜息を吐いた銀を見かねたのか、来瞳がフォローに回った。

 

「あはは……その内良い事あるよ」

 

「そう言ってくれるだけありがた──」

 

乾いた笑みを漏らしつつ、感謝を示そうとした銀の言葉が止まる。

ショッピングモールにしては余りにも静かすぎる状況に、全員が違和感を抱いた。

周囲を見渡せば、四人以外の客やスタッフが全員動きを止めている。

 

時の静止した時間の中、遠くから響く鈴の音が耳梁を掠める。

ちりん、ちりんと鳴る鈴の音は、バーテックス襲来の合図。

 

「はぁ……ほらな、日曜日が台無し」

 

そう言って肩を竦める銀の手には、しっかりと端末が握られている。

瀬戸大橋を起点として、世界が白く染め上げられていく。

 

────三度目の戦いが、幕を開けた。

 

---

 

勇者服に身を包み、大橋に降り立った四人。

もうすっかり見慣れた樹海の景色は、相変わらず幻想的な美しさを纏っている。

 

「来たわ……!」

 

遠くに見えるバーテックスを視認した須美が、険しい面持ちで呟いた。

 

「ビジュアル系なルックスしてるなぁ……」

 

三度目ともあってバーテックスの方も見慣れたかに思われたが、思いの外奇抜な風貌に銀が率直な感想を口にする。

触手にも角にも見える下方に向けられた四本の脚と、中央に鎮座する長い胴体が特徴的な異形。

後に山羊座と呼称されるバーテックスが、悠々とこちらへ歩みを進めている。

 

「まずは私が様子を見る──!」

 

牽制として、須美は弓を構えて矢を引き絞る。

山羊座目掛けて照準を構えたところで、ゆっくりと侵攻していた山羊座が動きを止め、地面に脚を突き刺した。

その行動を四人が不思議に思ったその時、大地が大きく振動を始める。

 

「きゃあっ!?」

 

「わわわっ!?」

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「これ、地震……!?」

 

勇者として訓練を積んだ四人は、多少の揺れではバランスを崩す事も無い。

そんな四人がマトモに立てなくなる程の大きな地震。発生源は、山羊座。

どうにか踏ん張って持ち堪えるものの、この揺れの中では山羊座を狙うことも攻撃することも難しい。

 

「今度こそ……!」

 

立つことすらままならない程の振動の中、須美は再び山羊座へと狙いを定める。

 

(今度こそ……今度こそ……!)

 

彼女の脳裏を、焦燥感が埋め尽くす。

失敗してはいけない、自分がどうにかしなければいけないという焦りが、彼女の思考から冷静さを奪い取る。

振動でブレる照準を無理やり合わせ、焦りに突き動かされるがままに矢を────。

 

「須美ちゃん」

 

全神経を弓に集中させていた須美の肩を、誰かがそっと叩いた。

振り返れば、緋色の瞳と目が合った。黒い髪を揺らしながら、来瞳が優しく微笑している。

その後方には銀と園子もいる。須美が冷静ではないことに気づいた三人が、彼女の元へ集まったのだ。

 

「あんまり一人で抱え込むのは良くないよ」

 

「私達と一緒に、倒そう!」

 

「合宿の成果を出す。そうだろ?」

 

「皆……」

 

三人の言葉を受けて、須美の思考が冷静さを取り戻していく。

焦りも恐れも消えた彼女の瞳は、もう揺れていない。

 

振動が収まり、四人はバーテックスへと目を向ける。

山羊座は大地に突き刺していた脚の内の一本を引き抜くと、勇者達目掛けて発射した。

攻撃に気づいた園子が三人の前に躍り出ると、槍を傘状に展開して攻撃を受け止める。

 

「うん──とこしょっ!」

 

受け止めた脚を、槍を振る事で弾き返す。

上へと弾かれた脚が、勢いのまま山羊座本体へと戻っていく。

 

「よーし!敵に近づくよー!」

 

『了解!』

 

盾を持つ来瞳と園子を先頭に、全員が武器を構えて一斉に山羊座へと走り出す。

だが山羊座は四人の行動に合わせたかのように空中へと跳び上がると、再び脚の先端を四人目掛けて打ち出した。

四人はその場から跳躍し、別々の方向へと避ける。

須美が番えた矢を山羊座へ向けて放つが、届く前に失速して地に落ちた。

 

「制空権を取られた……!」

 

「降りてこいコラァー!!」

 

銀が山羊座に向かって怒鳴り散らすが、バーテックスに通じる筈も無く、遥か上空で静止している。

打つ手無しの状況下の中、何かを察知した園子が警戒を露わにする。

 

「何か……仕掛けてくる……?」

 

そう呟いたその時、山羊座が四本の脚を一つに束ね、高速で回転を始めた。

さながらドリルのようになったそれは、標的を削り取るべく凄まじい速度で射出された。

回避しなければ大怪我どころでは済まないが、回避すれば間違いなく樹海へのダメージは必至。

 

現実世界に及ぼされる影響を考慮した来瞳が、前に出て大盾を斜めに構えた。

斜め上から飛来するドリルが大盾に激突し、激しい音と火花を立てて衝撃を散らす。

押し負けぬよう全身全霊で踏ん張るが、あまりの威力に両腕や両脚から血が噴き出し始める。

 

「くるるん!」

 

「一分耐える!その間に!!」

 

掠れそうになる声を無理やり絞り出し、来瞳が叫んだ。

山羊座の脚全てが来瞳に集中している今、攻撃するには絶好の機会。

樹海が徐々に枯れていく中、園子は脳を高速で回転させ、最適解を叩き出す。

 

「わっしー!ミノさん!私達で、敵を叩くよ!」

 

そう言って園子が槍を振るうと、槍の穂先が展開され、階段のように足場を作り出した。

それを見た須美が園子の意図を察して足場を駆け上がり、山羊座の元へと登っていく。

最期の足場を全力で踏み切り、距離の縮まった山羊座へと矢を番えた。

 

「届けええええ────!!」

 

限界まで引き絞った弓矢の弦が、悲鳴を上げて震える。

須美の渾身の一撃は寸分の狂いも無く山羊座へと着弾し、菊の花の紋章が爆発した。

山羊座の胴体を深く抉り、風穴を開ける程の強烈な一撃。

それに伴いドリルの軌道が逸れ、来瞳の真横を虚しく通り過ぎた。

 

「ここから、出ていけぇ!」

 

気迫の篭った園子の叫びと共に、彼女の槍の穂先に紫電が走る。

並んだ穂先が一本の巨大な光の刃となり、山羊座へと向けられる。

 

「突撃────!!」

 

弾丸の如く突撃した園子の一撃が山羊座を貫き、その胴体にまた一つ大きな孔が開く。

二人の攻撃で甚大なダメージを負った山羊座は滞空することも出来ず、態勢を崩して地面へと落下していく。

 

「銀ちゃん!!」

 

「ミノさん!!」

 

「届けえええ────!!」

 

三人の声を合図に、万全の状態で待ち構えていた銀が山羊座へと跳躍する。

 

「三倍にして返してやる!!」

 

その声に呼応するかのように、両手に携えた斧が炎を纏う。

落下してくる山羊座に向かって斧を振りかぶり、銀は全身に力を込めた。

 

「釣りは取っとけえええ────ッ!!!」

 

咆哮と共に、炎を纏った斧を振り下ろす。

無我夢中に振るわれる連撃は山羊座の身体をバラバラに引き裂いていく。

再生する時間すら与えない連撃の嵐は、やがて山羊座の中心部を真っ二つに叩き割った。

 

地面に着地した銀は、疲労感に身を包まれて膝をつく。

その直後に、世界に桜の花弁が舞う。

 

「終わった……」

 

戦いの終わりを告げる儀式を見届ける須美。

しかしその表情に安堵や達成感は見受けられず、ただ呆然と地面を見下ろしている。

彼女の心には、やりきれない思いが渦巻いていた。

 

---

 

樹海化が終わり、現実世界に帰された四人。

疲労や負傷でボロボロな状態のまま、瀬戸大橋記念公園の芝生の上に寝転がっていた。

 

「あー……痛てて」

 

「銀ちゃん、大丈夫?」

 

「なんとか……っていうか、来瞳の方こそ大丈夫かよ」

 

「ううん、全然。腰がしんどいよ……」

 

「ああして攻撃を受け止めてくれたから、私達が攻め込めたんだよ。ありがとうね、くるるん」

 

「皆の方こそ凄かったよ。おかげでぺしゃんこにならずに済んだし」

 

「だって、くるるんは一分耐えるって言ってたから。それくらいあれば何とかなると思って。長引かせると危険だもんね」

 

疲労困憊もいいところにも拘わらず、三人はお互いに労いの言葉をかけ合う。

そんな三人の会話を聞いていた須美は、自身の不甲斐なさを痛感していた。

 

園子が隊長に選ばれた時、須美は彼女が選ばれた理由を家柄故だと思い込んでいた。

乃木家は富も名声も持つ名家。園子はその娘だから選ばれた、と。

だがそんな単純な話ではなかった。彼女が持つ閃きや行動力を安芸が見抜いていたから、園子は隊長に選ばれたのだ。

 

自分がしっかりしなくてはと思っていたのに、自分一人で先走って。そうして皆の脚を引っ張って。

そんな自分がただ情けなくて、翡翠色の瞳からボロボロと涙が零れ出す。

 

「ど、どうした須美!?何処か痛いのか!?」

 

須美のすすり泣く声に気づいた三人が、慌てたように顔を覗き込んでくる。

 

「違うの……私……!ごめんなさい……!次からは、初めから息を合わせる……!頑張る……!」

 

拭っても拭っても、涙は須美の瞳から溢れ続ける。

須美の口から出た謝罪と協力の宣言を聞いて、三人は須美へと微笑みかける。

 

「あぁ!頑張ろうな!」

 

「はい、わっしー」

 

園子から差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭う。

彼女達の優しさが、今の須美にはとても心地よく思えた。

 

「ありがとう……そのっち」

 

須美が園子を初めて渾名で呼んだ。

今まで苗字呼びだった彼女が、ようやく彼女達に心を許してくれたのだ。

それが嬉しくて、三人はお互いに顔を見合わせる。

 

「わっしー!もう一回言って!」

 

「……そのっち」

 

「ふぉぉ……!」

 

「ねぇアタシは!?アタシは!?」

 

「……銀」

 

「あははっ!嬉しいな、なんかようやく須美と友達になれた気がする!」

 

園子が嬉しそうに声を震わせ、銀もまた嬉しそうに頭を搔く。

須美もまた、気恥ずかしさはありつつも、その口元は笑みを浮かべていた。

 

「じゃあくるるんは?」

 

「あ、えと……く……来瞳、君……」

 

「あー……はは……なんか須美ちゃんに名前呼びされるの新鮮だなぁ」

 

流石に異性を下の名前で呼ぶのは恥ずかしいのか、若干しどろもどろになりながらも来瞳の名を呼んだ。

呼ばれた側も少し照れくさいのか、頰をポリポリと搔いている。

四人の間に和やかな空気が流れ始める中、銀が腹をさすりながら空を見上げた。

 

「あー、腹減ったー……」

 

「うどん食べてる途中だったもんね~」

 

「流石にこの怪我で戻るのは不味いわよね……」

 

「今日の昼ごはんはお預けだね」

 

「そんなぁー……」

 

ついさっきまでの死闘を微塵も感じさせない程呑気な会話を繰り広げる四人。

残念そうに芝生に寝転がる銀を見て、来瞳が可笑しそうに笑った。

須美を見やり、銀を見やり、園子を見やって、自分の怪我の具合を確認した来瞳の視界の端で。

 

──金色の毛並が、揺らめいていた。

 

「────?」

 

反射的にそちらに目をやれば、穏やかな風に揺れる草木だけ。

緑豊かな景色以外特に変わったものは見当たらない。

疲労で錯覚でも見たのだろうか。来瞳は頭に疑問符を浮かべながらも、特に気に留めることはなかった。

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