昔々、ある所に勇者が居ました。
勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王を説得する為に旅を続けています。
様々な困難に会いながらも、勇者は挫けず、仲間を作りながら前へと進みます。
そしてついに勇者は、魔王の城に辿り着きました。
「やっとここまで辿り着いたぞ魔王!もう悪いことは辞めるんだ!」
「儂を怖がって悪者扱いを始めたのは村人の方ではないか!」
勇者は必死に説得しますが、魔王は聞く耳を持ちません。
それでも勇者は諦めずに、魔王へと語り掛け続けます。
「だからと言って嫌がらせは良くない!話し合えばきっとわかるよ!」
「話し合えば、また悪者にされる!」
――勇者と魔王の台詞に熱が入り始め、園児達も集中する。
その時だった。
「君を悪者になんか……しない!」
つい前のめりになってしまった友奈の手が舞台に当たる。
当然舞台は大きな音を立てて倒れてしまう。
幸い園児に当たることは無かったが、役者である友奈と光一郎の姿が露になってしまった。
「(こ、こここういっちゃん!どうしよう!?)」
「(待て今ちょっと解決策練ってるから…!)」
あわあわと慌てる友奈と状況を打破する方法を考える光一郎。
一旦落ち着くべき状況だが、早急に何とかしないと劇そのものが台無しになってしまう。
熱の籠った思考、焦燥感、立て直しは不可能な状況。
誰が見ても大失敗なこの空気感を打破すべく、友奈が打って出た。
「ゆ、勇者キィーック!」
「ウボッハァ!?」
勇者によるキック(という名のパンチ)が魔王ごと光一郎を殴り飛ばす。
突然の不意打ちに反応できるわけもなく、力なく地面へと倒れ伏した。
「………こ、これで魔王もわかってくれたよね!」
「東郷、しめてしめて…!」
あまりに急展開すぎるアドリブに困惑しながらも、すかさず東郷は締めの言葉に入る。
「えーと…と、いうわけで、魔王は勇者に倒されたことで改心し、祖国と平和は守られましたとさ。めでたしめでたし」
「皆のおかげだよ!ありがとー!」
勇者を演じていた友奈がVサインを送り、園児達は無邪気に拍手を送る。
こうして人形劇はハプニングに見舞われながらも、無事に閉幕することができたのであった。
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翌日、全ての授業を終え、2年生の3人はクラスから出て勇者部へと向かう。
1年生の頃はクラスが別れてしまったが、進級してからは同じクラスになっていた。
友奈が東郷の車椅子を押して部室に入り、その後ろを光一郎が続く。
「こんにちはー! 友奈、東郷、こういっちゃん入りまーす!」
「こんにちは、風先輩。樹ちゃん」
「ウーっス、こんちはー。」
「やっと来たわね3人共。」
「こんにちは、友奈さん、東郷先輩に檜森先輩」
部室には既に風と樹がいた。
風は黒板に複数枚の猫の写真を張って『飼い猫探し』と書き、樹は机の上にタロットカードを広げている。
「昨日の人形劇、大成功でしたね!」
「何処が大成功だったのアレ?俺殴り飛ばされただけだよ?世の中は暴力が正義って幼気な幼児に教えただけだよ?」
「あぁ、アレ意外と好評だったらしいわよ。また来てくださいだって」
「オイあの幼稚園ホントに大丈夫か!?合法の幼稚園だよな!?」
「でも二人のアドリブ、良かったわー。」
(東郷先輩がこっそりスマホで友奈さん達を撮影してたの、私だけが知っています…)
和気藹々とした人形劇の感想もそこそこに、5人は黒板前に集合する。
「わー…」
猫の写真に友奈が目を奪われるも、風の咳払いで佇まいを直す。
その様子に光一郎が少し吹き出すが、友奈に肘で小突かれた。
「見ての通り、未解決の飼い猫探しの依頼がどっさり来てるわ」
「本当にいっぱい来てるね…」
「猫脱走しすぎじゃねぇかな」
「ハイそこ!私語は慎む!思ったことすぐ口に出さない!」
風が光一郎をチョークで指さして注意する。
「てなわけで今日から強化月間!この子達の為にも飼い猫探すわよ!東郷はホームページの強化、任せたわ」
「了解!携帯からも接続できるようにモバイル版も作ります!」
「私達は海岸の掃除行くから、そこで聞いてみよっか!」
「いいですね!」
「俺は…今日放送部のパーソナリティか。ついでに呼びかけてみるわ」
各々に出来ることを話し合う。そんな会話をする部員達の姿に、思わず風の表情も緩む。
その裏で東郷が恐ろしい速度でキーボードを叩く。相変わらずの速さに風が関心した時だった。
「終わりました!」
『早っ!?』
「うお、今の短時間でこれ作ったの?相変わらず流石だなぁ」
「ふふ、頑張ったのよ」
ほんの数分足らずでホームページの強化とモバイル版の作成を終わらせた東郷。
話し合っていた女子組は驚愕し、彼女の隣から中身を見た光一郎は苦笑いを浮かべつつ褒める。
褒められた東郷も嬉しそうに笑った。
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それぞれの活動もひと段落終え、5人はかめやといううどん屋で早めの夕食を口にしていた。
それぞれが思い思いのうどんを啜る中、風は3杯目のうどんを汁ごと完食し終える。
まだ少し慣れないのか友奈、東郷、光一郎は驚きを隠せない。
「ところでさ、文化祭の出し物についてなんだけど」
「え?まだ5月にも入ってないのにもうそんな話するの?」
「チッチッチ、甘いぞ我が妹よ。こういうのは早めに決めておけば後々準備が楽になるのいったぁ!?」
樹にそう説明しつつ妹の油揚げを盗ろうとするも、東郷の割り箸に手の甲を叩かれ会えなく失敗する。
「確かに、有事に備えるのは大切です」
「去年は依頼ばっかやってたしな」
「樹ちゃんも入ってくれましたし、今年こそは思い出に残るようなことやりたいですね!」
「が、頑張ります。でも、何をするんですか?勇者部の活動をスライドで写すとか…?」
「そこはおいおい考えていけば良いでしょ。ごちそーさん。」
そう言って光一郎が空になった器をテーブルに置いた。
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うどん屋での一時を過ごした後、5人はそれぞれ家路に着く。
東郷はかめやから家まで距離があるので家族に車で迎えに来てもらい、お隣さんの友奈も一緒に乗せてもらう。
「光一郎君は乗らなくて良いの?」
「んー、いや大丈夫。俺ランニングついでに走って帰るからさ。鞄も丁度よく重りになるし」
光一郎は手に持ってた鞄を背中に背負う。
「あ、じゃあ私も走るよ!」
「ダメです。お前はちゃんと送り届けて貰いなさい」
「むぅ……」
「んじゃまた明日な。風邪ひくなよー」
付いてこようとする友奈を無理やり車に押し込めば、そのまま車は発進していく。
遠のいていくエンジン音を聴きながら、光一郎は自宅へと走っていった。
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翌日。
その日は雨の気配を感じさせない快晴の日だった。
友奈は授業中、文化祭の出し物について考えていた。
勇者部らしく、それでいて見てくれる人も楽しめるもの。
謎のマスコットキャラクターをノートに描いては消しての繰り返し。
最終的に何も思いつかず、溜息を吐く。
ふと、東郷が心配そうな目でこちらを見ていることに気づく。
「ううん、なんでもないよ」
「なんでもなくありませんよ、結城さん」
「す、すいません…」
目で答えたつもりの友奈だったが、つい口に出てしまった。
それを聞いた教師から注意され、教室に同級生達の笑い声が響く。
教師から教科書を読むように言われ、友奈が席から立ち上がる。
その時、教室にアラーム音が鳴り響いた。
「え!?わ、私の!?」
突然聞こえたアラーム音にクラスの全員が身体をビクリと震わせる。
音の発生源を辿れば、アラームは友奈の鞄から鳴り響いていた。
「携帯ですか?授業中は電源を切っておくように」
同級生にクスクス笑われる中、友奈はスマホを取り出した。
直後、東郷と光一郎の鞄からもアラームが鳴り響く。
「東郷さんもですか。檜森君はまだしも」
「先生まだしもって何ですか?俺を何だと思ってんの?」
鞄を漁りながら抗議する光一郎を尻目に、友奈と東郷がスマホを確認した。
「……なにこれ?」
画面を見た友奈の動きが止まる。
彼女の端末の液晶画面には、『樹海化警報』と記載された画面が映っていた。
その瞬間、笑い声が響いていた教室が静まり返る。
「……あれ?」
「―――なにこれ……?」
友奈と東郷が戸惑いの声を上げ周囲を見回せば、同級生達はその動きを止めていた。
世界は静寂に包まれ、友奈と東郷、光一郎の3人だけが動いていた。
「俺達以外、皆止まってる…?」
「こういっちゃん、コレって…?」
「ドッキリ…では無いよな…」
夢か、幻覚か、はたまた神の御業か。東郷の元へ駆け寄る友奈を見つつ光一郎は考える。
その時、突如発生した揺れと共に白い光が迫る。
「きゃあっ!?」
「東郷さん!こういっちゃん!」
少女達の悲鳴と共に、白い光が3人を包み込んだ。
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「……何、これ」
東郷と抱き合う友奈がそんな言葉を漏らす。
眼前に広がるのは、木の根っこのような物体で埋め尽くされた世界。
不思議な神々しさを感じる世界だった。
「私、夢見てるの?今居眠り中?」
「私達、教室にいた筈なのに…」
突然の出来事に友奈が自分の頬をつねるも、鈍く伝わる痛みが現実であることを突き付ける。
東郷がついさっきまでの自分達の状況を思い出しながら、呆然と周囲を見回す。
「……あ……こういっちゃんは!?」
「……いるよ、ここに」
露骨にホッとする友奈を尻目に、光一郎は不思議な感覚に襲われる。
“既視感”
「……クソッ」
光一郎が自分の頭をガシガシと掻く。
あり得ない感覚につい悪態を吐く。
始めての筈だ。この世界も、景色も、今置かれている状況も。
それなのに、かつて味わったような感覚を味わっている。
正体を探ろうにも原因は不明だ。いくら考えても探りようが無い。
「3人共!無事ね!?」
風の声が友奈達の耳に届く。
声のした方を向けば、風と樹がこちらへ向かってきていた。
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風と樹が合流した。
友奈と東郷、光一郎の3人を、風はいつもと異なる険しい表情で確認する。
「3人ともいるみたいね」
「パイセン、良く俺達の居場所わかりましたね」
「それも含めて説明するから」
流石部長と言うべきか、風は凛とした様子だった。
風はこの場の全員の顔を見渡した後、ソレを告げた。
「アタシ達が神樹様に勇者として選ばれた」
突然の風の発言に、友奈達は疑問を浮かべた。
あまりにも突拍子もない言葉に、光一郎が苦言を呈する。
「パイセン、遂に頭の方を…」
「違うわよ!……落ち着いて聞いてね。あたしは、大赦から派遣された人間なの」
風が自分の正体を告げた。
その後、この謎の世界――樹海について説明を始めた。
この世界は樹海化によって起こされた現象であり、自分たちは神樹様から『勇者』としてのお役目を授かった。
壁の外からやってくる敵を勇者である自分達が倒さなければ、世界が滅ぶ。
そんな説明を勇者部の面々は聞かされた。
ある程度の説明が終わり、4人は自分達が置かれている状況を理解した。
「皆、アプリを見て」
彼女の言葉に従いアプリを起動すると、液晶に地図が表示された。
地図には友奈達の名前と、少し離れたところに『乙女座』と表示されていた。
「あの……この乙女座って何ですか?」
「……アレよ」
風が指さす方向に、ピンク色の巨大な影が見えた。
「アレが私達の、人類の敵……バーテックスよ」
風がそう告げた。
ヴァルゴ・バーテックス。それが勇者部最初の敵であった。
「お姉ちゃん……」
「あんなのと、戦える訳がない……」
樹や東郷が震える声を発し、恐怖に顔を歪ませる。
「方法はある。」
震える妹を抱きしめながら、風が説明を続ける。
「戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされて、神樹様の勇者になることが出来るの」
友奈が端末の液晶を見つめる。
画面には芽のアニメーションが描かれていて、これをタップするのだろうと感じた。
ただ、友奈の中に迷いがあった。いきなりすぎて付いていけない。
端末から視線を上げて、再びバーテックスを見つめた。
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乙女座は尾のような部分からボールのような物を生み出し、友奈達の元へと飛ばしてきた。
しかし直撃することは無く。彼女達の近くへと落下すると、爆発した。
少女達の悲鳴が上がる。
「こっちに気が付いた…?」
東郷のその言葉を聞きながら、素早く風が指示を飛ばす。
「……友奈、東郷を連れて逃げて。光一郎は友奈達を守ってあげて」
「は、はい!」
「樹も……」
「何があっても!」
風が言う前に、樹が声を張り上げる。
思わず口を閉じた風に、樹が言葉を続けた。
「何があっても、付いて行くよ」
「樹……」
「ずっと一緒だよ、お姉ちゃん」
「……。よし、樹!続いて!」
彼女の覚悟を認めた風が叫ぶ。
2人はスマホを手にし、画面の中心にある花が描かれたアプリにをタップする。
その瞬間、花びらが彼女達を覆った。
風は黄色を基調とした勇者服に変身し、何処からか現れた大剣を携えていた。
樹は緑色を基調とした勇者服に変身し、腕に輪っかのような飾りを付けていた。
変身した彼女達は乙女座の下へと跳躍していく。
その様子を見ていた友奈に東郷が呼びかける。
「友奈ちゃん!」
「うん、早く――――――こういっちゃん?」
友奈の声に、東郷が光一郎の方へと目を向ける。
光一郎は端末をじっと見つめ、思考の海に沈んでいた。
彼の中に生まれた既視感は、一体何なのか。
「こういっちゃん!」
「―――ッ、わりぃ」
友奈の張り上げられた声にハッと思考を断ち切る。
今は悩んでいる場合ではないと考え、この場から離れるため友奈達がいる方へと――――
“違和感“
踏み出そうとした脚が止まる。
突如として現れた強烈な違和感。
自分の中の何かが枷となって、光一郎の行動を阻害する。
今は一刻も早く奴らから、バーテックスから逃げなければならないのに。
「……いや、違うな」
誰に言うわけでもなく、光一郎はそう呟いた。
使命感のような、責任感のような、苛立ちのような。
何とも言えない不思議な感情が光一郎を支配する。
「……こういっちゃん?」
友奈が困惑の声を光一郎にかける。
光一郎は友奈に穏やかに微笑みかけると、なんでもないように告げる。
「友奈、東郷さん。二人で逃げてくれ」
「えっ……な、なんで!?」
「光一郎君、何するつもり!?」
友奈と東郷が抗議するも、光一郎はバーテックスの方へと向き直る。
「――――
そう言うと、光一郎はバーテックス目掛けて走り出す。
「こういっちゃん、待って!ダメ!」
友奈の叫び声は光一郎の耳には届かなかった。
光一郎に気づいたバーテックスが、尾のような部分から再び爆弾を射出する。
「さっきっからポンポン産み落としやがってよぉ!」
飛んでくる爆弾に両手を伸ばす。両腕が白い勇者服に包まれる。
爆弾を掴むとその場で回転し、遠心力を乗せて投げ返す。
投げ返した爆弾が命中する。
怯むバーテックスに一息で接近する。
「俺の街に」
白いシューズで覆われた脚で強く踏み込み、ベーテックス目掛けて飛ぶ。
光一郎の身体を白い勇者服が覆い、右肩にカランコエの刻印が現れる。
「―――来てんじゃねぇよ!!」
膝から下を強化プロテクターが覆う。
加速を伴って振り抜かれた蹴りがバーテックスの肉体を砕く。
空中で身を翻し着地する。
「おいピンク饅頭、覚悟しろ。お前を今からボッコボコにしてやる」
光一郎の中にある既視感。逃げようとした時生まれた違和感。
何故こんな感覚があるのか、光一郎はわからない。
だが今はそれでいい。今やるべきは一つだけだ。
「―――勇者部も、友奈も、俺が守る」
光一郎は拳を鳴らし、人類の敵へ宣戦布告した。