走っていってしまった幼馴染を見て、友奈が不安げな表情を浮かべる。
バーテックスへと向かう彼をカッコいいと思った。
それと同時に、背を向けて逃げている自分を情けなく感じた。
「友奈ちゃん…」
「……大丈夫だよ」
車椅子のグリップを握り、戦闘から遠ざかる。
だが、友奈の胸中に不安がよぎる。
今戦っている3人は頼れる仲間なのに、彼女の中から不安が消えてくれない。
「あ……」
戦闘区域で爆発が起こった。
風と樹が場風と共に身を転がし、残るは光一郎ただ一人のみ。
先程は奇麗に投げ返せたが、アレは咄嗟のアドリブがたまたま上手くいっただけで、そう何度も起こりはしない。
何度も攻撃を食らって、その度に身体を転がせる。
(なんで、こんな…)
ただ勇者部の皆と部活するのが楽しくて。
そんな日々を過ごしたかっただけなのに、こんなことになってしまった。
友奈がそう思う中、バーテックスが友奈達へと爆弾を飛ばしてきた。
「友奈ちゃん!私を置いて逃げて!」
東郷の必死な訴えが友奈の耳に届く。。
彼女の自己犠牲的な発言に、反射的に友奈が反論する。
「何言ってるの!?友達を――――」
その先を言おうとして、気づく。
友奈が今言おうとしたことは、風や、樹や、光一郎が行動で示したことだ。
でも友奈は何もせずに、隠れて見ていただけだ。
「友奈ちゃん…?」
友奈は涙で滲んだ視界を拭うと、バーテックスへと向き直る。
迫りくる爆弾に当たれば間違いなく死んでしまう。
逃げれば助かるだろう。でも友奈はそれをよしとしない。
「友達を置いて逃げるなんて、絶対にしない」
勇者部の皆と出会って、東郷と出会って、光一郎に出会って。
楽しい日々を、大切な友人を、失いたくない人を手に入れて。
でも目の前にいる人類の敵は、それを壊してしまう。
「お願い逃げて! 友奈ちゃんが死んじゃう!」
「嫌だ」
東郷の必死の訴えを受けてなお、友奈はバーテックスへと走り出す。
「ここで逃げたら、私は勇者じゃない!」
飛んでくる爆弾に拳を振るう。
振りぬいた友奈の腕が手甲に覆われ、爆弾を粉砕した。
次の爆弾が友奈目掛けて飛んでくる。
「嫌なんだ。誰かが傷つくのも、辛い思いをすることも!」
さっきよりもはっきり見える爆弾に上段回し蹴りを放つ。
振りぬいた右足がピンクを中心としたシューズへと変化し、蹴りを叩き込んだ爆弾を破壊する。
「皆がそんな思いをするくらいなら!」
また一つ迫る爆弾を確認する。
回し蹴りの勢いのままくるりと回転し、いつの間にか変化していた左足を振りぬく。
同じように爆弾が破壊される。
「私が!頑張る!!」
友奈の身体に力が漲る。
大地を蹴って跳躍し、一気にバーテックスへと飛んでいく。
「勇者――――」
拳を強く握りしめる。
友奈の身体を勇者服が覆い、髪もピンクへと変化する。
「パァァンチ――――!!」
放たれた拳がバーテックスに命中し、その身体を破壊した。
友奈が身を翻し着地する。
「私は讃州中学勇者部。結城友奈!」
友奈はバーテックスへと叫ぶ。
それは、己の日常を守るため。
それは、親友を守るため。
それは、愛しき人を守るため。
「私は、勇者になる!」
友奈は拳を握りしめ、人類の敵へ宣戦布告した。
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光一郎が動けるようになった頃、友奈が駆け寄ってきた。
「こういっちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫だと思いたいって感じ…」
友奈の手を借りて光一郎は立ち上がるが、気を抜けばすぐふらついてしまいそうだった。
「ところで何か作戦ある?俺は無い」
「……。殴る、とか…?」
「パイセーン!この怪物どうやって倒すんですかー!?」
友奈の脳筋さに呆れ返った光一郎が叫ぶと、態勢を整えた風が同じく叫んだ。
「皆聞いて!バーテックスは普通に攻撃してもすぐに回復するの!だから、封印の儀っていう特別な手順を踏まないと絶対倒せない!」
「どうやるの…?」
「攻撃を避けながら説明するから、避けながら聞いてね!来るわよ!」
「ハードだよぉー!」
樹のぼやきを合図に、再び爆弾が降り注ぐ
4人は散開し、敵の攻撃を避けながら風の言葉に耳を傾ける。
やがて説明が終わり、全員がバーテックスを囲うように降り立った。
アプリに記載された祝詞を確認した友奈が、げんなりとした表情を浮かべる。
「これ全部全部唱えるの…?」
友奈や樹、光一郎が祝詞を唱え始める。
「大人しくしろぉ!!」
その矢先に、風が勢いよく武器を地面に叩きつけた。
『それでいいの!?』
「要は魂込めれば、言葉は問わないのよ!」
「それで良いならそう言ってくんねぇかな!?」
いけしゃあしゃあと答える風に光一郎がキレながら脚を地面に叩きつける。
直後、光一郎の目の前に八つの首を持つ蛇をデフォルメしたような生物が現れた。
バーテックスの足元に魔法陣が浮かび上がり、その動きを停止させる。
するとバーテックスの頭部が開き、中から逆三角錐の何かが出てくる。
「なんかべローンって出たー!」
「封印すれば御霊が剥き出しになる。アレは言わば心臓。破壊すればこっちの勝ち!」
叫ぶ友奈を他所に風が訳知り顔で説明する。
「それなら、私が行きます!」
それを聞いた友奈が飛び上がり、御霊を渾身の力で殴りつける。
「……いったーい!?これ硬すぎるよー!?」
殴りつけた後数秒置いて友奈が悲鳴を上げる。
予想以上に硬かったらしく、痛みのせいで涙目になっている。
ふと、樹は御霊の近くに漢数字が浮き上がっているのを見つけた。
それは1秒経つ毎に1ずつ減っていっている。
「お姉ちゃん。なんか数字が…減っていってるんだけど。」
「ああ、それアタシ達のパワー残量。ゼロになると敵を倒せなくなる!」
「だからそういうことは早く言えって!」
「しかも封印の儀式中に時間が経てば経つほど、今見えてる樹海が枯れていっちゃうの。枯れると現実世界に悪い影響が出るから悠長にはしていられないの!」
樹の質問に答える風に再度キレつつ飛び上がる光一郎。
渾身の一撃を御霊の側面に叩き込むが、やはり傷一つ付かない。
「だったら、アタシの女子力を込めた渾身の一撃をォォォ―――!!」
風がそう叫びながら、御霊に大剣を叩きつける。
しかし渾身の一撃は僅かにヒビを入れるだけに収まった。
「~っ!堅すぎよこれ!」
「風パイセン!そのままストップ!」
「え?どわっ!?」
痺れるような痛みを感じていた風の耳に、光一郎の声が届く。
そちらへ視線を向けると同時に、叩きつけたままの大剣を足場として光一郎が飛び上がる。
重力に従い落下しながら縦に何度も回転し、ヒビの入った箇所に踵落としを叩きつけた。
すると御霊は砕け散り、溢れ出た光が天上に立ち昇っていった。
「びっくりしたじゃないの!」
「うし、作戦成功」
「無視か!?」
詰め寄る風と無視する光一郎を他所に、御霊を破壊されたバーテックスの身体が砂となって崩れていった。
「勝った……」
誰かのその一言を皮切りに、全員の胸に安堵や安息感が生まれた。
それも束の間、世界に花びらが舞い上がり、その役目を終えようとしていた。
「……ん?」
光一郎が、自身の勇者服が誰かに引っ張っているのを感じた。
そちらへ視線を向ければ、勇者服の袖を指で摘まむ友奈がいた。
彼女の表情はピンク色の髪に隠され、光一郎から窺うことは出来ない。
「……どした?」
「……もう、今日みたいな無茶しないって言って」
呟くような小さな声は、光一郎の耳にはっきりと聞こえる。
表情を上げた友奈の薄紅色の瞳が光一郎の藍色の瞳を覗き込み、不安そうに揺れた。
「……もう無茶しない」
「……約束」
「…おう」
その言葉と共に、世界が花びらで埋め尽くされた。