バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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過去イチ時間かかったわ


仲間内でのギスギスは周囲の人間の胃を破壊する。

夢を見た。

光一郎は誰もいない教室の真ん中にポツンと置かれている席に座っていた。

讃州中学校では無い、少なくとも自分が知る学校では無い。

それなのに何故か懐かしく感じてしまう。

だからだろうか。何処かも分からない場所にいるのに落ち着いているし、席を立つ気にもならなかった。

 

視線を前方へ向ければ、いつの間に現れたのか教卓に座る人影が見えた。

体が白い光に覆われているため顔は確認出来ないが、体格から男であろうことは察せられる。

その男は光一郎を見つめていた。

何を語る訳でも無く、ただひたすらに見つめ合う二人。

そして静寂を破るように、唐突に男が語り始める。

 

「あの子を、守りたいのなら」

 

穏やかな、だが訴えるような声が光一郎の耳に届く。

 

「絶対に、手を離すな」

 

男にそう告げられると同時に、世界が白い光に包まれた。

 

---

 

「こういっちゃん!起きて!放課後だよ!」

 

「……んぁ?」

 

友奈の呼び声で光一郎は目を覚ます。

どうやら教室で眠っていたようだ。

目を擦って壁にかけられた時計を見れば、もうすぐ勇者部の活動時間。

 

「ふぁ……あれ、東郷さんは?」

 

「先に行ってもらったよ。こういっちゃん全然起きないんだもん!」

 

「ほーん」

 

「ほーんじゃない!」

 

プンスカと怒る友奈をいなす光一郎。

見る人が微笑ましくなるやり取りをしながら勇者部の部室へと歩いていく。

 

「……ねぇ、こういっちゃん」

 

ふと、友奈の声が落ち込む。

友奈と光一郎の脚が止まる。

 

「あのね、クラスの子達が言ってたんだ。隣町で事故があったんだって。2、3人怪我しちゃったんだって」

 

風は言っていた。樹海が枯れると、現実世界に悪い影響が出ると。

あの時木が枯れていたようには見えなかったが、気づかなかっただけという可能性もある。

 

「それってもしかしたら、私達の―――わっ」

 

友奈が言い終える前に、光一郎が友奈の頭を撫でた。

安心させるような、親が子供を撫でるみたいに優しい手つき。

昔から光一郎は、友奈を安心させる時は、こうやって頭を撫でていた。

 

「関係ねぇよ。偶然だ偶然。大方、運転手が注意散漫だっただけだろ。曖昧な情報で勝手に責任感じるのお前の悪い癖だぞ」

 

「でも、もしも……」

 

「無い。100パー無い。」

 

「……根拠は?」

 

「勘」

 

「……何それ」

 

無茶苦茶な理屈につい友奈は笑ってしまう。

励ましてくれたのだろうか。それとも普段みたいにからかっているだけなのか。

しかし友奈にとって、そのどちらでも良かった。

光一郎が、自分の中のモヤモヤを晴らしてくれた。それがただ嬉しかった。

 

「こういっちゃん」

 

「おん?」

 

「手、繋いでもいい?」

 

「……だからお前軽率なスキンシップは……まぁ、良いか」

 

諦めたようにそう言うと、光一郎が手を差し出す。

その手を友奈がぎゅっと握る。

 

「こういっちゃん」

 

「ん」

 

「……。なんでもない!」

 

「そっか」

 

小学校の頃から続いてる何気ないやり取り。

仲睦まじく手を繋いで、二人は廊下を歩いていった。

 

---

 

「結城友奈、こういっちゃんを連れて来ました!」

 

「檜森光一郎、友奈に連れて来られました」

 

「お、やっと来たわね。座って」

 

扉を開けて部室へ入ると既に全員揃っていた。

友奈達は適当な場所に椅子を置いて座る。

 

「その子、懐いてるんですね」

 

「えへへ、名前は牛鬼って言うんだよ」

 

そんな風に談笑しながら、友奈の視線が光一郎の精霊に向かう。

 

「こういっちゃんの蛇さんも可愛いよねー。なんて名前なの?」

 

「八岐大蛇だってさ。めっちゃ噛んでくるから気を付けろ」

 

「い、意外とアグレッシブですね…」

 

樹が苦笑いを浮かべたところで、黒板に書き終えた風が振り返って腰に手を当てる。

全員を確認し満足げに頷くと、改まった表情で話し始めた。

 

「戦い方はアプリに説明テキストがあるから、今は何故戦うのかを話すわね」

 

そう言って、風は黒板のよく分からない落書きを指さす。

お世辞にも上手とは呼べないソレはどうやらバーテックスを描いたもので、全12体が攻めてくるらしい。

 

「あ、それ昨日の敵だったんだ……」

 

「き、奇抜なデザインをよく表した絵だよね!」

 

「にしては奇抜すぎじゃね?」

 

「……は、話を続けるわね」

 

各々の感想に口元をヒクつかせながらも、風は話を続ける。

バーテックスの目的は神樹様の破壊、つまりは人類の滅亡だと言う。

 

「以前にも襲ってきたみたいなんだけど、その時は追い返すので精一杯だったみたい」

 

そこでバーテックスと渡り合う為に大赦が造ったのが、勇者システムと呼ばれる、神樹の力を借りて変身するアプリらしい。

精霊バリアや封印の儀式等は最近になって追加された機能なんだとか。

以上の説明を、黒板に描かれた棒人間のような絵を指さしつつ締めくくった。

 

「その絵、私達だったんだ……」

 

「げ、現代アートって奴だよ!」

 

「友奈、中途半端な優しさは時に人を傷つけるぞ。こういう時は正直に言った方が良い」

 

「た、確かに…!えっと、じゃあ…風先輩、もっと頑張りましょう!」

 

「やかましいわ!!」

 

風を弄り倒す友奈と光一郎。

数秒後に風がこほん、と咳払いを1つ。

 

「注意事項として、樹海が何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻った時に何かしらの災いとして現れると言われているわ」

 

「……」

 

風のその言葉に、ハッとしたような顔をする友奈。

そうして風からの説明が終わり、一同が思うことを質問していく。

 

「この勇者部も先輩が意図的に集めたメンツだったわけですよね?」

 

「うん、そうだよ。適正の高い人たちは大赦の調べで分かっていたから。私は神樹様を奉っている大赦から使命を受けているの。この地域の担当として」

 

「……知らなかった」

 

「黙っててごめんね」

 

「次は敵、いつ来るんですか?」

 

「明日かもしれないし、1週間後かもしれない。そう遠くはないはずよ」

 

その時、それまで黙っていた東郷が口を開いた。

その言葉には、風に対する非難が籠められていた。

 

「なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか」

 

「ごめん。でも、勇者の適正値が高くてもどのチームが神樹様に選ばれるか、敵が来るまで分からないんだよ。むしろ変身しなくて済む可能性の方がよっぽど高くて……」

 

「こんな大事なこと、ずっと黙っていたんですか……」

 

そう言うと東郷は車椅子を動かし、部室から出て行く。

放っておけないと感じた友奈が、彼女の後を追いかけていった。

 

「東郷……」

 

「……二人の様子見てきます」

 

呆然と扉を見つめる風。

その姿を痛ましく思ったのか、光一郎が友奈達を探しに部室を後にした。

 

---

 

部室から出て二人を探す。

ある程度の時間が経過した頃、校舎の奥まった場所で友奈の声が聞こえた。

何をしているのかと覗いてみれば、ネガティブ全開の東郷をなんとか笑わせようとする友奈の姿を見つける。

 

「見て!私のバスト、まるでホルスタイン!」

 

「私のためにこんなネタを……」

 

「わー!?逆効果!?」

 

友奈の渾身の一発ギャグは見事に滑り、東郷のネガティブが悪化する。

悲しくなるほどのギャグセンスの無さに光一郎が顔を覆った。

更に牛鬼が服の中で暴れだしたりと散々である。

下手に介入しても悪化するだろうと考え、光一郎はその場を去った。

 

---

 

部室を出てからさほど時間が経っておらず、今戻っても仕方ないと考えた光一郎は、自販機で買ったコーラを飲んで時間を潰していた。

 

「にしても勇者ねぇ…」

 

端末から呼び出した八岐大蛇をじっと見つめながら、あの時感じた既視感について考える。

今回風から説明を受けて確信した。己は間違いなく、過去に一度もあの世界に行った覚えはない。

だが自分の中の既視感が、あの世界に見覚えがあると訴えている。

気のせいと一蹴するには強すぎる感覚に、頭の疑問符は増えていくばかり。

 

「何なんだマジで……」

 

考えても一切答えが分からず、苛立った光一郎が飲み干したコーラの缶をゴミ箱へと投げ入れる。

美しい軌道を描きながら飛ぶそれは、突如として空中で静止した。

 

「は?」

 

端末からけたたましいアラームが鳴り響く。

液晶を見る暇もなく、世界がその有様を変えた。

 

---

 

アプリでお互いの位置を確認し、直ぐに合流する。

風と樹は既に変身しており、5人そろったところで敵の姿を確認する。

 

「3体って…モテすぎでしょ」

 

遥か前方に見える、青、赤、黄色の3体のバーテックス。

アプリで確認する限り、それぞれ射手座、赤蟹座、蠍座らしい。

友奈と光一郎がアプリを起動し、それぞれ白とピンクの勇者服を身に纏う。

 

「東郷さん! 待っててね、倒してくる!」

 

「ま、待って、私も……!」

 

そう言ってアプリを起動しようとする東郷だが、昨日の一件が頭をよぎり、恐怖で身体が震えてしまう。

すると、友奈の両手が東郷の手を優しく包み込む。

 

「大丈夫だよ、東郷さん」

 

「友奈ちゃん……」

 

「風先輩も樹ちゃんも、こういっちゃんだっているんだから。だから大丈夫。行ってくるね!」

 

友奈が東郷へ微笑みを向けると、あっという間に敵のいる地点へと跳躍する。

一瞬だけ手を伸ばす東郷だが、遠ざかっていく背中を見つめることしかできなかった。

 

---

 

「遠くのやつは放っておいて、先ずはこの2匹まとめて封印の儀にいくわよ!」

 

端末から聞こえる風の指示で、先に前方にいる蠍座と蟹座を仕留める事に。

早速取り掛かろうとする光一郎だったが、近くにいた友奈が射手座を見つめていることに気づく。

 

「友奈?どうした?」

 

「いや、なんでアイツだけ遠くにいるんだろうなって…」

 

友奈の指さす方へ眼を向ければ、一番後方に位置する射手座が見えた。

 

「確かに変だな…なんでアイツだけあんなに離れてんだ?」

 

2人が敵の動向に違和感を覚えている時だった。

射手座の2つある口の上部が開き、一本の巨大な針が風目掛けて高速で発射された。

 

「くぅ……!」

 

間一髪で大剣で防いだが、凄まじい勢いに身体ごと吹き飛んでしまう。

風が着地すると同時に射手座の下部の口が開き、大量の針を雨あられと飛ばしてくる。

 

「い、いっぱい来たぁぁぁぁ!?」

 

樹の悲鳴を合図に犬吠埼姉妹がその場から跳躍し、針の雨を回避する。

 

「撃ってくる奴を何とかしないと!」

 

友奈が蟹座と蠍座の脇をすり抜け射手座へと飛んでいく。

それと同時に蟹座の周囲に6つの板のようなものが浮かび上がる。

射手型が次に発射した針が蟹型の出した板に跳ね返され、友奈の背後に迫り来る。

 

「友奈!後ろだ!」

 

光一郎に呼ばれて気づいた時には、既に回避が間に合わない位置まで迫ってきていた。

 

「うわわわわわわ!?」

 

慌てながらも飛んでくる針を次々叩き落とし、何とか防ぎきって地面に着地する。

ホッと安心したその時、前方から蠍座の尾が迫り、救い上げられるように上空へ突き飛ばされてしまう。

精霊のバリアによって致命傷には至らなかったものの、ノーダメージとはいかなかったらしく、苦しげな表情で落下していく。

さらに追撃を行おうと蠍座の尾が横手に振るわれる。

 

「させねぇよ!!」

 

友奈の前に光一郎が割り込み、迫りくる尾を中段蹴りで蹴り飛ばす。

そんな光一郎の視界の端で、射手座の上部の口がこちらへ照準を定めているのが見えた。

 

「クッソ…!」

 

「こういっちゃん、何を…!」

 

空中では回避のしようがない。

即座に友奈を抱きかかえ、身を翻して射手座に対して背を向ける。

飛来した巨大な針が光一郎に命中する。

友奈を抱き抱えたまま吹き飛ばされた光一郎が、背中から根に激突する。

 

「友奈さん!檜森先輩!」

 

樹が2人の安否を気にかける。

しかし蟹型の反射板に跳ね返された射手型の針が、今度は風達に標的を変えた。

 

「樹、気をつけて!」

 

各方位から飛んでくる針に対して、回避に専念する2人。

 

バーテックスの連携に反撃の隙が見つからず、防戦一方になっていた。

 

---

 

遥か後方で固唾を飲んで見守っていた東郷の目にもバーテックスの連携に晒されている風達や、それを避ける形で蠍座が着実に侵攻しているのが見えた。

 

「こ、こっちに……!」

 

その時、蠍型が尾を動かして、地面に倒れていた何かを吹き飛ばした。

友奈だった。

 

「友奈ちゃん!」

 

地面を転がり、倒れている友奈に向かって蠍座が針を上から突き刺す。

精霊のバリアによって防がれるが、今度は尾を友奈目掛けて振り下ろす。

 

「――――さっきさせねぇっつったろうが!!」

 

間一髪とばかりに光一郎が飛び出し、横から飛び蹴りを浴びせ軌道を逸らす。

 

「このサソリ野郎…人様の幼馴染をボコボコにしやがって…!」

 

そう言って庇うように友奈の前に立つ。

蠍座は光一郎を排除すべく尾を振り下ろし続け、光一郎は振り下ろされる尾をひたすら弾き返す。

しかし倒れ伏した友奈を守らなければいけないため自由に動けず、防戦一方になってしまう。

このままではいずれ限界が来るだろうことを東郷は容易に想像できた。

 

「う、ぐ…!」

 

友奈が苦悶の声を漏らす。

早く立ち上がろうと全身に力を込めるが、先程までのダメージが回復しておらず、身体が言うことを聞いてくれない。

今の自分が光一郎の足手纏いになっていることが悔しくて、歯を食いしばる。

 

「や、やめ、て……!」

 

あのままでは間違いなく2人とも死ぬ。そう思った東郷が静止の声をかけるが聞くはずもなく。

風も樹も蟹座と射手座に翻弄され、2人を助けられそうになかった。

 

 

ー私、結城友奈!よろしくね!ー

 

ーどうも、檜森光一郎ですー

 

 

ふと、2人と出会った時のことを思い出した。

 

「―――――」

 

カチリと、頭のなかで何かがハマった気がした。

 

「―――――やめろ」

 

気づけば、震えは止まっていた。

湧き上がるのは、目の前の敵に対する怒り。

 

「友奈ちゃんを……! 光一郎君を……! 」

 

東郷は自分が何をしたいのか、ようやく理解した。

守られたいわけでも、頑張ってほしいわけでも無く。

自分も2人みたいに守りたかったし、頑張りたかったのだ。

 

「―――――いじめるなああああああああっ!!」

 

東郷が叫ぶと同時に、端末から溢れ出した花びらが彼女の意志に答えるように包み込む。

光が解けて露になったのは、青を基調とした勇者服に身を包んだ東郷だった。

 

「綺麗……」

 

友奈が思わずそう呟いてしまうほど、その容姿は神々しさを感じさせる。

東郷が右手に短銃を構えると、その隣に狸型の精霊が出現する。

 

(どうしてだろう。変身したら落ち着いた…武器を持っているから…?)

 

自然と落ち着きを取り戻している自分に疑問を抱くが、即座に思考を切り替える。

蠍座の尾の先端を短銃で打ち抜き、根元からへし折った。

 

「もう皆には手出しさせない!」

 

今度は青い炎の形をした精霊が出現し、東郷の手に2丁の散弾銃が握られる。

蠍座の顔へと連射し、後退させる。

 

「凄い東郷さん……! これなら……!」

 

蠍座を圧倒する東郷を見て、友奈は安心感を覚えた。

 

---

 

蟹座と射手座の連携に、風と樹は依然として苦戦を強いられていた。

様々な方法で攻撃をやり過ごしているが、このままではいずれ逃げ場が無くなる。

 

「あーもう!しつこい男は嫌いなのよ!」

 

「モテる人っぽいこと言ってないで、何とかしようよ!」

 

樹の言うことももっともだが、下手に打って出ても失敗するだけだろう。

思うように動けない現状の中、何かが飛んでくる音が風の耳に届いた。

 

「檜森宅急便でーす!!ハンコ寄越せー!!」

 

光一郎の半笑いの叫びと共に、上から降って来た蠍座が蟹座を圧し潰した。

声のした方へ顔を向ければ、友奈と光一郎が近くの根に着地していた。

 

「そのエビ運んできたよー!」

 

「蠍でしょ!」

 

「ほらやっぱ蠍じゃねえか!」

 

「いーや!アレは絶対にエビだよ!」

 

「どっちでもいいですから…」

 

不意に風が、こちらに飛んでくるもう一つの影を発見する。

 

「東郷先輩……!」

 

東郷は帯を使って跳躍し、友奈達と合流する。

 

「遠くの敵は、私が狙撃します。皆はその間に封印の儀を」

 

「東郷……戦ってくれるの?」

 

風の問いに、東郷は静かに、されど強い意思を持って頷く。その表情を見て安心する風。

東郷はスナイパーライフルを出現させ、隣に卵型の精霊を呼び出す。

 

「援護は任せてください!」

 

「分かった!じゃあ手前の2匹、まとめてやるわよ! 散開!」

 

『オッケー』

 

「不意の攻撃には、をつけて!」

 

『はい!』

 

「あたしのより返事が良い……」

 

後輩に先を越された気がして軽くショックを受ける風。

射手型が友奈達に向かって巨大な針を発射するが、東郷のスナイピングで相殺された。

 

「こいつがみんなを苦しめた…」

 

一言そう呟くと、手を休めることなく射手座を何度も狙撃していく。

 

「友奈!」

 

「うん!」

 

光一郎の合図で同時に武器を地面に叩きつける。

封印の儀が開始され、金銀の渦がバーテックスを囲むように覆う。

 

「出たー!」

 

「こっちも!」

 

蟹座と蠍座の動きが停止し、それぞれの身体から御霊が出現する。

 

「私、行きます!」

 

友奈が我先にと飛び出し、蟹座の御霊に向かって殴りかかる。

ところが、すんでのところで御霊が動いて回避された。

 

「あれっ?このっ!」

 

何度も殴りかかるが御霊の動きが素早く、ひらりひらりと躱される。

 

「こ、この御霊! 絶妙に避けてくるよ!」

 

「代わって、友奈!」

 

友奈に代わり風が前に出る。

 

「点の攻撃をひらりとかわすなら!面の攻撃でぇ!」

 

そう叫びながら腕に力を込め、剣を肥大化させ、面の部分で御霊に振りかぶる。

巨大な質量の塊を前に回避することは叶わず、御霊は吹き飛ばされる。

その先にいた光一郎が御霊を掴み、その場で回転する。

 

「ピッチャー光一郎!大きく振りかぶって投げたぁ!」

 

「くたばれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

御霊が風へと投げ返される。

その先で大剣を構えた風が、タイミングを見計らいバットのように振りかぶる。

御霊は一刀両断され、粉々に砕け散った。

 

「ひとーつ!次―――」

 

「ちょ、友奈さん、なんで小突いてくんの。今そういう場合じゃないって」

 

「……私も一緒に倒したかったのに」

 

「いやそんなん言われましても……」

 

「……次いくわよ!」

 

視界に入った光景を見なかったことにして、風が指示を飛ばす。

しかしここでも御霊に動きが見られた。

回り出したかと思えば同じ大きさの御霊が幾つも出現した。

 

「なんか増えたー!?」

 

「数が多いなら…!」

 

困惑する友奈に対し、樹は冷静に対処する。

樹は右手の飾りからワイヤーを飛ばし、御霊を全て縛り上げた。

 

「まとめて〜! えぇ〜い!」

 

掛け声とともにワイヤーが真偽関係なく全ての御霊を切り裂いた。

 

「ナイス樹!あと一つ!」

 

残る射手座の元へ向かおうとしたその時、風の端末に着信が入る。

相手は狙撃中の東郷だ。

 

『風先輩。部室では言い過ぎました、ごめんなさい』

 

「東郷…」

 

『精一杯援護します!』

 

それを聞いた風の心から、ほんの少し罪悪感が無くなる。

 

「心強いわ東郷! あたしの方こそ……」

 

風の言葉が続くよりも早く、射手型の全身に銃弾が撃ち込まれる。

一気に青ざめる風。友奈や樹が呆然として、光一郎が苦笑いを浮かべる。

 

「えっと……ホントごめんなさい。ハイ」

 

あの2人を怒らせるとどうなるか、身をもって知った一同の背筋が凍った。

 

---

 

一同は射手型を囲むように立つ。

 

「よぉし!封印開始!」

 

友奈の掛け声とともに、封印の儀が開始される。

射手座の口から出てきた御霊を破壊しようとした矢先に、素早く弧を描くように動き始めた。

 

「この御霊……!」

 

「早い!?」

 

「こんなんどう仕留めれば…!」

 

「くっ……!」

 

予想以上の速度に4人の顔が険しくなる。

足元の数字を確認すれば、残り時間はもう僅か。

周りの木の根も枯れ始め、侵食が進んでいる。

緊迫した空気が流れる中、高速で動いていた御霊が撃ち抜かれ、動きを止めた。

 

「東郷先輩……!」

 

「撃ち抜いた!?」

 

完全に停止した御霊は粉々に崩壊し、光となって天に昇っていった。

 

「状況終了。みんな、無事で良かった…」

 

東郷がそう呟いた時、周囲が花びらに包まれた。

 

---

 

世界が元の時間を取り戻し、再び日常が動き出す。

気が付けばまた讃州中学の屋上に集っていた。

友奈と光一郎ら二年生は、今回勇者となった東郷を労った。

 

「東郷さん、カッコ良かったー!私ドキっとしちゃった!」

 

「いや、マジで助かった!東郷さんマジでありがとう!」

 

「そ、そんな…。友奈ちゃん達がいてくれたから、私は自身が持てたのよ。ありがとう、2人とも」

 

労いあう3人の会話に風も入ってきた。

 

「でも本当に助かったわ、東郷。それで―――」

 

「覚悟はできてます。私も勇者として頑張ります」

 

柔らかく微笑む東郷。その瞳に映る強い意思を確認した風は、安心したように笑った。

 

「東郷……ありがとう。 一緒に国防に励もう!」

 

「国防…。…はい!」

 

国防と聞いてうっとりする東郷。

こういった言葉には濃ゆい一面を見せるのを勇者部は知っている。

いつも通りの東郷を見て、一同は安堵の表情を浮かべた。

 

---

 

「そういえば友奈ちゃん。課題は?」

 

東郷が何でもないように話題を振る。

 

「…ハッ!?課題……明日までだった。アプリの説明テキストばっかり読んでて忘れてた……」

 

「ふふっ、そこは守らないから頑張ってね」

 

「そんなー!?た、助けてこういっちゃん!」

 

「こっちにヘルプ来ちゃったよ。手伝うくらいなら良いけどさ」

 

「こういっちゃん…!」

 

「ダメよ光一郎君。友奈ちゃんの為にならないわ」

 

「でも見捨てんのも気が引けるんだよな。今回だけ大目に見ない?」

 

「ダーメ。1回やったらクセになっちゃうもの」

 

「こういっちゃぁん…」

 

「でもさぁ、こう縋ってこられるとな…」

 

「甘やかしてばかりもダメよ」

 

 

その後、結局友奈のおねだりに押し切られた光一郎と東郷が、東郷家にて勉強会を開いたのであった。

 

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