夏凛のバースデーパーティから数日が経過した。
各々が勇者部の活動をしている時、樹の溜め息が部室に響いた。
タロットカードを広げながら落ち込む様子に風がどうしたのかと聞いた。
「……あのね。もうすぐ音楽の授業で、歌のテストがあるんだけど……」
歌のテストの結果を占ってみたところ、死神の正位置という結果が出てしまったとのこと。その意味は破滅、終局。あまりにも不吉である。
「大丈夫だよ樹ちゃん! こういう時は何度も占えば別の結果が…」
友奈が励ますも意味を成さず、その後3度占って出たのは全て死神の正位置。
死神のフォーカードが完成してしまった。
その後すぐにテストの対策を考える一同。
とはいえすぐに良い案が浮かぶはずもなく、友奈の習うより慣れよという発言で、皆でカラオケへ行くことになったのだった。
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部屋に入るや否や即座に歌い始めた風が92点という高得点を叩き出し、彼女に挑発された夏凜が友奈を巻き込んでデュエットで歌う。
同じく92点を叩き出し満足げな様子の二人。
樹は自分が歌うことを忘れて純粋に2人の歌を楽しんで聴いていた。
「次は樹か。いける?」
「う、うん…」
光一郎の問いに浮かない顔で頷く樹。
マイクを手に持ち前に出る。皆の視線が集まる中、深呼吸して歌い始めた。
だが音割れするほど音程が乱れてしまい、お世辞にも上手とは言えなかった。
「ハァ…」
歌い終わり、散々な結果に落ち込む樹。
そんな彼女の前では、頼んだお菓子や料理を全て平らげた牛鬼が満足げに腹を膨らませていた。
その時、スピーカーから普段聴き慣れないイントロが流れてきた。
途端に夏凛以外の女性陣3人が敬礼を行い、瞬く間に光一郎が部屋から退出する。
夏凛が驚きの声を上げるも誰も答えることなく、美森が歌い始める。
只ならぬ雰囲気に包まれる中、ようやく曲が終わりホッと一息つく東郷。
他の面々も腰を下ろし、光一郎も帰ってきた。
「え、何? えっと…何?」
「東郷が歌う時はいつもこうよ?」
「そ、そうなの…相変わらずよくわかんないわね…」
思わずそう聞く夏凜だったが、風の返答に余計に困惑する。
そんな夏凛を他所に、友奈が端末を持って光一郎の隣に座る。
「こういっちゃん!」
「はいこういっちゃん」
「これ一緒に歌わない?」
「どれどれ?あ、これか。良いよ」
「やったー!」
喜びながら曲を入れる友奈。
友奈と光一郎という幼馴染みコンビがデュエット曲を歌う事に。
通常なら複数人で歌う曲だったが、2人でパートを分けて歌い切り、本日最高点となる96点を叩き出したのだった。
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特訓と称してカラオケを満喫した数日後。とうとう迎えた歌のテスト。
クラスメイトは多少の緊張こそあれど、これといったミスもなく課題曲を歌い上げる。
次々とクラスメイトが歌い終え、とうとう樹の出番が回ってくる。
ほぐしたはずの緊張がぶり返す中、樹がクラスメイトの前に丸めた音楽の教科書を持って向かい、硬い表情で教科書を開いた。
(...ん?なにこれ?)
教科書に見覚えの無い紙が挟まっていた。
手に取って開くと真ん中に樹ちゃんへと書かれていて、その周りに勇者部から応援のメッセージが添えられていた。
「――――」
いつの間にこんなものを用意してくれたのか、いつ自分の教科書の中には仕込まれていたのか。
疑問が頭の中を駆け巡る中、自然と肩の力が抜けていくのを感じ取る。
「犬吠埼さん、大丈夫?」
「はい!」
先生から掛けられた言葉に元気よく返事する。
その声色からは緊張している様子は見受けられなかった。
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そして放課後。
歌のテストを終え部室に帰ってきた樹を皆で労っていた。
クラスで1番だったらしく、それを聞いた勇者部が喜びの空気に包まれるのだった。
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幸せな時間というものは、そう長く続くものではなく。
最悪の事態が、すぐそこまで迫っていた。