バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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格闘の使い手は大概パワーかスピードのどちらかに二極化される

不快な警報音が鳴り響き、世界が戦場へと塗り替わる。

マップを頼りに全員が集まり、壁の側に集まるバーテックスを確認して―――絶句する。

 

「……マジか」

 

光一郎がそう呟いた。

端末に示されるのは7体のバーテックス。

つまり残り全てのバーテックスが同時に攻めてきたのだ。

 

「最悪の襲撃パターンね…やりがいありすぎてサプリも増し増しだわ。樹もキメとく?」

 

「その表現はちょっと…」

 

夏凛が額から汗を垂らしながらも、サプリメントを何粒か手のひらに乗せて一気に飲み込む。

樹は苦笑しつつ拒んだ。

友奈は侵攻してこないバーテックスに疑問を感じた。

 

「何ですぐに攻めてこないんだろう…?」

 

「さぁ?どの道神樹様の加護が届かない壁の外に出てはいけないって教えがある以上、私達からは攻め込めないけどね」

 

そんな中、遠くにいた風が蔦を飛び跳ねながら合流する。既に変身済みであり、敵の動向を探っていたようだ。

 

「敵さん、壁ギリギリの位置から仕掛けてくるみたい。皆も準備しておいて」

 

風に促されスマホを取り出す一同。そんな中、樹だけ不安げな表情を見せていた。

1体で厄介な相手が、今回は7体。

スペックが最も低い樹にとって、これ以上に不安な事はないだろう。

足が竦み始めたその時、友奈が背後から脇腹をくすぐった。

 

「ひゃあ!?アハハハハッ!な、何ですか友奈さぁん!?」

 

「心配しなくても大丈夫!皆いるんだから!」

 

 

友奈の励ましに、他の面々も同意するように小さく頷いている。夏凜だけは顔を逸らしていたが。

それを見た樹は、自然と落ち着きを取り戻していた。

 

「さぁ、一同変身!」

 

風の号令に友奈達はアプリを起動させる。

その身を花びらが包み込み、勇者へと姿を変えた6人が横一列に並び立つ。

その先に見据えるのは7体のバーテックス。

その光景に東郷が口を開く。

 

「敵ながら圧巻ですね…」

 

「逆に言うとさ、コイツら殲滅すれば戦いは終わったようなもんでしょ?」

 

「簡単に言うなよにぼっしー。こっちは数でも質でも負けてんのに」

 

「大丈夫だよこういっちゃん!勇者部五箇条、成せば大抵なんとかなる!」

 

「わーってるよ。ちゃんと勝つさ」

 

「わっ…えへへ」

 

友奈の頭を撫でる光一郎。

2人の呑気さに夏凛が呆れ果て、東郷が密かに精霊で撮影を開始する。

そんな中、風が切り替えるように大きく声を出し、注目を集める。

 

「皆!決戦だし、アレやっておきましょう!」

 

「アレ…?どれ?」

 

夏凛が疑問の声を上げる。

それ以外の面々は何をしたいのか察したように、無言で円陣を組む。

そんな友奈達に堪らず夏凛がツッコむ。

 

「え、円陣? それいる?」

 

「決戦には気合が必要でしょ?」

 

「夏凜ちゃん」

 

「……ったく、しょうがないわね」

 

友奈が呼びかけると、渋々といった様子で夏凛も円陣に加わる。

完成した円陣の中で風が音頭を取る。

 

「アンタたち、勝ったら好きなもの奢ってあげるから絶対死ぬんじゃないわよ!」

 

「よーし!美味しいものいーっぱい食べよっと! 肉ぶっかけうどんとか!」

 

「言われなくても殲滅してやるわ!」

 

「わ、私も、叶えたい夢があるから!」

 

「頑張って皆を、御国を護りましょう」

 

「泣いても笑ってもこれで最後だ、死ぬ気で勝つぞお前ら!」

 

口々に己の思いを口にしていく勇者達。

肩の荷が下りたような表情を浮かべ、風が締めに入る。

 

「よぉーし!勇者部ファイトォーーー!!」

 

『オーーーーーッ!!!!』

 

一斉に声を張り上げる一同。

ここに総力戦が開始された。

 

---

 

山羊座の御霊を破壊したその時、異変は起こった。

 

「待って! 様子がおかしい」

 

夏凛が呼び止める。

バーテックス達が彼女らから遠ざかるように動き始めたのだ。

神樹の破壊が狙いの筈の存在が、逆に神樹から遠ざかっていることに一同は疑問を浮かべる。

 

「後退…?」

 

その様子を見て風が呟く。

ふと、3体のバーテックスの向かう先に目を向ければ、そこには獅子座の姿があった。

中空に浮かぶ4体が合流する。すると獅子座が太陽のような球体へと変わり、3体全てを呑み込んだ。

光が弾けて露わになったその姿を見て、友奈達は唖然とする。

 

「合体した…?」

 

そう誰かが呟いた。

牡牛座、天秤座、水瓶座、そして獅子座が混ざり込んだその融合体は、大きさも先程の5倍はありそうだった。

 

「でもこれでまとめて倒せるよ!」

 

「そんな簡単に進めば良いけどな」

 

友奈の発言に光一郎が呟く。

ただでさえ質で勝るバーテックスが合体したのだ。間違いなく激しい攻撃が予想される。

 

「でも友奈の言う通りね! まとめて封印開始よ!」

 

風の号令で封印に取り掛かろうとする勇者部だったが、獅子座の動きが速かった。

合体したバーテックスの前に輪を書くように火球が出現する。

その瞬間、光一郎の中に既視感が生まれた。

それは見覚えがある、なんて生易しいものではなく。

生まれた既視感に対して、生存本能が警鐘を鳴らす。

 

――――避けなければ、死ぬ。

 

「全員跳べ!!」

 

光一郎の叫びに一同が反射的に飛び上がるのと、無数の火球が飛んでくるのは同時だった。

燃え盛る炎が、稲妻の如き速さで散開した勇者達へ迫る。

 

風は武器を盾にするが、踏ん張れずに地面に叩きつけられた。

樹は必死に逃げ回っていたが、追い付かれて背中から吹き飛ばされた。

攻撃に転じようとする友奈だったが、火の玉に挟み撃ちされた。

夏凛が獅子座に切りかかるが傷一つ付けられず、そのまま火球を受けた。

 

当然、ソレは光一郎にも例外なく迫る。

全力で地面を走り抜けるが、火球は速度を上げ着実に距離を詰める。

逃走は不可能だと判断した光一郎は、迫る業火を迎撃せんと脚を振るった。

 

直後に、衝撃がやってきた。

視界が赤く染まる。

耳をやられた。脳が揺れる。自分が何を叫んでいるのかもわからない。心臓の音がやけにうるさく感じる。

 

「――――」

 

吹き飛ばされ、回転する視界の中で。

苦悶の表情で倒れ伏す友奈の姿が見えた。

 

---

 

「オラ、何寝てんだ」

 

その声に目を開ける。

そこはいつか見た、何処かも分からない教室だった。

倒れ伏す光一郎を、白い光に包まれた男が見下ろしている。

 

「お前にはやってもらわなきゃいけないことがあるんだ。ここでダウンされたら困るんだよ」

 

顔は見えないが、彼の声色から怒りと焦りを感じた。

だが何に焦っていて、何に怒っているのか、今の光一郎にはわからない。

そんな光一郎を知ってか知らずか、男は無慈悲に告げる。

 

「このままだと、アイツら死ぬぞ」

 

その言葉の意味を考える暇も問いただす時間も無く、世界が白い光に包まれた。

 

---

 

「ぅ…ぁ…?」

 

呻き声をあげ、光一郎が目を覚ます。

精霊のバリアを突破したのか、身に纏う白い勇者服の所々から焦げた匂いがする。

 

「みん…な、は…」

 

芋虫のように大地を這い、満足に動かない身体に内心で舌を打つ。

戦況を見るべく、融合体の方に顔を向ける。

 

「ぁ……?」

 

融合体は依然変わらず、同じ場所にいた。

神樹へ近づくわけでも無く、ただそこに居座っていた

 

ふと、立ち上がろうと動く誰かを視界に捉える。

身体を起こそうとする彼女に、融合体が火炎弾を撃ち込んだ。

 

「は……」

 

吹き飛ばされるその誰かを見ながら、光一郎の脳裏に最悪の予想が浮かぶ。

 

――――先に倒す相手を勇者に選んだ。

 

もしそうなら最悪だ。このまま追い打ちを掛けられ続ければ、間違いなく誰かが死ぬ。

精霊バリアが無敵では無いのは光一郎の身が既に証明している。

そんな中、立ち上がる風の姿が視界に入った。

火炎弾を当てるのかと思えば、融合体は今度は巨大な水の塊を風へ当てた。

 

「ぁ―――――」

 

浮き上がる水塊。呼吸が不可能な世界で必死に大剣を振るう風。

 

「…ク…ッソ…!」

 

震える身体に力を込める。身体が悲鳴を上げる。骨が軋む音が聞こえる。

フラフラの身体に鞭を打ち、無理やりにでも立ち上がる。

だが、立ったところで何の意味もない。勝算が全く思いつかない。

無策で突っ込んだところで、あの空飛ぶ絶望に叩きのめされるのがオチだろう。

 

気が付くと光一郎は、右肩にある花の刻印に触れていた。

 

「――――」

 

目を向ければ、刻印にゲージが溜まりきっているのに気づいた。

満開システム。

経験値を溜めゲージが最大になることで使うことが出来る勇者の切り札。

これを使えば強くなれるらしいが、視界の先で浮かぶ絶望に勝てるのかはわからない。

 

「――――関係ねぇよ」

 

ネガティブな思考を鼻で笑って吹き飛ばす。

勝てるかどうかなど、光一郎には関係ないのだ。

幼馴染に出会えた。

親友に出会えた。

勇者部の皆に出会えた。

光一郎は、色んな出会いに恵まれた。

 

だからこそ、光一郎は自己を顧みない。

世界の為でもない。人類の為でも、ましてや神樹の為でもない。

いなくなったら泣いてしまう。そう思える人達の為なら、光一郎は幾らでも自分の命を捨ててしまえる。

 

『勇者部も、友奈も――――』

 

だからこそ。

勇者に変身したあの日。バーテックスに蹴りを入れたあの日。

掲げた絶対の誓いと共に、『勇者』檜森光一郎の物語は始まったのだ。

 

「――――俺が、守る」

 

カランコエの花言葉。『あなたを守る』。

その体現者が、覚悟を持って告げた。

 

「満開」

 

光一郎の身体を包むように、白い花が咲き誇り――――――

 

---

 

水の中に閉じ込められた風。

最初は武器を振り回して水球を破壊しようとしていたが、次第に力が入らなくなってきた。

他の勇者達は立ち上がるたびに追い打ちを掛けられ、助けられそうにない。

そうして、風の意識が遠のいき。

 

 

上空で白い花を模した光が咲く。

その神々しさに勇者達が目を向けるより早く。

 

風を包む水球が破裂し、空飛ぶ絶望が大地へと叩きつけられた。

 

 

 

 

 

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