父と子と聖霊のなんちゃら   作:NJ

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今回は番外編です
本編はまた次回に


番外編
番外 エデンの拳


 

 

 これは、カルデアにおける幾度目かの召喚の時の話である。

 

 

 もはや見慣れた召喚サークルの高速回転。

 

 麻婆、ワカメ、あとワインの人、といった具合のゴm…礼装の山に辟易させられながらも遂に漸く念願の3本線。

 

 マスターや周りの者がおぉっと期待に前のめりになりながら光の柱が収束したそこに立っていたのは――一人の“男”であった。

 

 そう、一人の『男』。

 

 人一人は包めるほどの巨大な植物の葉を、そのまま切り分けて蔓で縫い合わせて衣服にしたようなノースリーブの緑の装束に身を包んだ『男』。

 

 やけに男の部分を強調するのには勿論理由がある。

 

 理由は、その『男』の肉体。

 

 その体は、まさに「完璧」という一言でしか表現する言葉がなかった。

 

 頭、腕、胴体、脚。

 

 大部分を衣服に隠されていながら、全てにおいて欠点というべき欠点を見出せなかった。

 

 所々癖のある、やや目元を隠すぐらいに伸びた明るい栗毛の髪。その隙間から覗く青空を切り取って嵌め込んだかのような深い蒼の瞳。

 

 厳つさと精悍さが程よく合わさり、軟弱な印象を抱かせない顔の輪郭。固く結ばれた唇。

 

 そして最も『男』を語る上で重要と言える筋骨隆々としながらも完璧な黄金比(バランス)を維持した肉体は、人類史におけるいかなる彫刻家の人生を賭けた傑作も霞むであろうと断言できる至高のそれ。

 

 マスターとデミ・サーヴァントの方ではない。

 この場に居合わせた万能の天才ダ・ヴィンチが、この中でも特に美への深き探究心を誇る彼女?がまさにそう感じていたのだ。

 

「――――――」

 

 今まさに、こうして言葉を失うほどに。

 

 そう、その人でありながら人が至れぬ理想の肉体はまさに神の傑作と呼んで過言ではなく……まさしくその通りであった。

 

 それはまさしく男性性の究極。雄の体現。

 

 真名が分からずとも誰もが確信し得る、最高ランクの英霊の召喚に、カルデアは成功したのだ。

 

 やがて、男はマスターであろう者を認め、子供の胴体ほどの太さの剛脚を踏み出す。

 

「あぁ…」

 

 そして、重々しく口を開くと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッアッ、ア、アニョ〜…ボボ、ボク、ショノ…アダッアダムテイイマスハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――はい?

 

 その時、カルデアメンバーの心は一つになった。

 なんか、微妙な感じの心が。

 

 目の前のサーヴァントから発せられた呪文?は、いかなる効力のものなのか誰も知り得なかった。

 

 よもやこの見た目でキャスター?

 そんな的外れな考えが浮かんだ所で、この凍りついた状況に変化が訪れた。

 

「あっ」

 

 変化は、眼前の呪文?を放った英霊。

 何やら先程から居た堪れなさげに肩を丸めてモジモジと気色悪い動きを見せていた図体だけやたら立派な木偶の坊が、今度は俯いてブルブル震え出したかと思うと…

 

「あっあ、あ、うぁぁぁぁあああぁあぁぁ〜〜〜!」

 

 今度は動物病院に連れ込まれた大型犬のような情けない奇声を発しながら頭を抱えて蹲ってしまった。普通に通報ものの光景である。

 

 思わず携帯に手を伸ばした名もなきカルデア職員Aは、この場において最善の行動を取ろうとしたと言える。

 惜しむらくはこの場が警察機関など存在するはずがない地球の最果てである事と、通報すべき場所が今は悉く焼却されている事だろう。

 

 それに遅れて気づいた彼は、何もかもを諦めた顔でそっと携帯をポケットに戻した。

 

「やや、やっぱりダメだあぁぁあああははぁ〜〜〜〜!? こ、こんな沢山の人の前で、事故、自己紹介だ、なななんて、むむ無理、無理だよ〜〜〜〜!!」

「あ、あー失礼?」

「ひっ!」

 

 一先ず、対話をせねばと踏み出した勇者こそが上述のレオナルド・ダ・ヴィンチ。先程の状態からなんとか復活したようだ。

 

「驚かせてしまったならすまない。私は知る人ぞ知るレオナルド・ダ・ヴィンチという者だ。知らない?ならこれから知ってくれたまえ。ちなみに親しい者にはダヴィンチちゃんと呼ばせているんだ」

 

 なるべく、刺激しないよう温和な態度を心がけた。

 

「さぁ、私の自己紹介は済んだ。美しき肉体の持ち主よ、できれば君の方も「お……」お?」

 

 しかし、「彼」に対して彼女?が動くのはあまりに悪手である事を、誰も知りようがなかった。

 

「お、おおお大人の女ぁぁぁぁ!? ヒィィィィィスタイル抜群の大人の女だぁぁぁぁ!?」

 

 今度は絹を裂くような悲鳴をあげたと思いきや爆速で距離をとり、尻をこちらに向けて亀の如き完全な防御体制に移ってしまった。こんな情けない姿でも肉体美が損なわれないのは流石と言うべきか。どっかの創造主も苦笑い(ニッコリ)である。

 

 まさか万能の天才も、カルデアのマスターとデミ・サーヴァントもこの対応は思ってもみなかったのか、今度こそ思考停止して固まってしまった。

 

「もー!何やってるの!」

 

 そんな彼らに助け舟を出したのは、男の巨影からひょっこりと顔を出した者。

 先程からそこにいたようだが、男の存在感がデカ過ぎて気づけなかったのだ。

 

 その少女―――いや童女と呼ぶ方が適切か。

 

 震える筋肉団子と化したナマモノと似たような装束ながら、側のナマモノとは正反対の小さき者。

 背丈は男の腰ほどもあるかどうか怪しく、顔立ちからして現代の中学生…いや小学生に当て嵌めても通じるレベルの外見年齢。

 

 男と似ているがやや異なる髪色のボブカット、パッチリとして利発的ながら嫋やかさも感じる目つき。

 

 そして、何より特徴的なのは明らかに幼な子と呼んで差し支えない外見から醸し出される、不釣り合いな程の全てを包み込むような安心感。

 

 もっと的確に言い表すならば、母性と呼べばいいのか…。

 

「う、うぅ〜〜イヴ(・・)ぅ〜〜!ダメだ、ダメなんだよぉ〜〜!やっぱりお、おお大人の、おお、おお女のひ、人を見ちゃうと、こわ、ここ怖くて震えちゃう…!」

「大丈夫、大丈夫だからアダム(・・・)。貴方は出来る子、立派な人。私が保証するわ―――だって、私の夫で、あの子達を立派に育てた父親で…他でもない“お父さん”に未来を託された自慢の息子なんだから」

 

 その名が出て、漸く思考停止していた周囲の時間が動き出した。劇的に。

 

『ち、ちょっと待て―――今イヴと言ったか!?そ、それに…!』

「はい!確かに聞きました!この女性の名はイヴ……そして、そこの、彼女の胸に顔を埋めて泣いている色々とセンシティブな御方は……」

 

 モニターで観察していたドクター・ロマンに、マシュ・キリエライトが続く。

 

「あぁ、まさかこんな事があるなんて…!

いや、“主”がその手で創りたもうた人間となれば、あの肉体美にも納得がいくというものだよ!」

 

 続くは声に感動を滲ませたダ・ヴィンチ。

 

「彼こそは―――」

 

 

 

 サーヴァント

 クラス・ルーラー

 真名…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原初の人間

 

 アダムとイヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダムって、あの聖書の…!?」

 

 召喚者(マスター)たる藤丸もその名に軽く戦慄いた。

 一般枠で世間の魔術師ほど神話や歴史への造詣が深くない彼ですら、驚愕を覚えるビッグネーム。

 

「はい先輩! 世界各地で信仰されている、かの神の教えを綴った旧約聖書。創世記に登場する最初の人類の名前です!」

 

 アダムとイヴ。

 およそ現在の地球の文明圏で、その名を知らぬ者などおるまい。

 

 曰く、全能なる神が土より創りし者。

 曰く、人類の父と母。

 曰く、大地を征する者。

 曰く、何より強き者。

 曰く、天使と悪魔を打ち倒せし者。

 曰く、人類最古のバツイチと再婚者。

 

 挙げればキリがない。

 

 まさかのビッグネームに沸くカルデア。

 

 が……。

 

「なの、ですが……」

「なんだけど、なぁ…」

『これは…』

 

 それと同時に、急速に冷めていく彼ら。

 その原因は言わずもがな、目の前の光景にあった。

 

 

 

 

「あ、あぁ、でもやっぱり怖いよぉ〜〜〜!ほら、み、みんなが僕を冷たい目で見てる!きっと失望されちゃったんだぁ〜〜〜! リリスに逃げられた時の父さんみたいに、僕にガッカリしてるんだぁ〜〜〜〜!」

 

「シャキッとなさいアダム!お父さんは貴方に失望なんてしてないわ。『あの実』を私達に託したのが何よりの証明だって、貴方が分かってるでしょ?」

「う、うぅ…でも〜〜」

 

 

 

 少女…イヴの言葉で落ち着いたと思いきや再び不安定になった男…アダム。

 

 大丈夫なんだろうか、と先行きに立ち込める暗雲を幻視するカルデア。

 

 最後の人間(マスター)と最初の人間(アダム)

 

 彼らのファーストコンタクトはこのような形で幕を下ろし―――

 

 

 

 

「うん、ぼくがんばる」

「よちよち」

 

「アレ、普通に事案…」

「先輩、シッ!」

 

 

 

 

 果たしてこの未来(さき)には、如何なる動乱が待ち受けるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは―――(かみ)のみぞ知る。

 




「知らんがな」


※続きます。
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