行ってみようかな
―――ケファロニア島。
ギリシア領、イオニア海に浮かぶイオニア諸島の中でも最大の島。
全体の約八割が山岳となっているこの島で、最近奇妙な遺跡が発掘された。
遺跡からの発掘品は多数の食器や椅子、テーブル、壁画。
年代は約11000年前…紀元前9000〜9500年頃と判明した。
それだけならば不審な点はない。
問題は、そのサイズ差であった。
約半数は一般的なそれであったが、逆にもう半分はスプーンなども含めて明らかに人間のサイズから逸脱していた。
2〜3mどころではない。
サイズから逆算して使用者の身長が5m…下手すると10mクラスと推察できる代物まであった。
取り分ける用の大皿にしても明らかに大きすぎる上に、検査の結果何者かがこれらの食器を用いて食事を行っていた可能性が高いと判明する。
料理に使ったであろう鍋に至っては、残骸の大きさから計算した結果、25mプール二つ分の水が収まるという怪物的なサイズだったのだ。
他にも当時飼育されていたであろう
食器や椅子と同じように大小様々な足跡。
何かしらの果物を栽培していたと思われる巨大な果樹園や畑の跡地。家畜小屋。
全体的にぐちゃぐちゃで
近くの広場で埋まっていた、サッカーボールのような残骸。
その他、大木や石、金属を組んで築かれた…どことなく
学会では、これらの遺物に関して巨人実在説やら宇宙人説など、ありふれたものから突飛なものまで、多種多様な学説が飛び交った。
だが、これらの痕跡を残しながら、遺跡群からは住民の遺体はおろか骨の一本すら発見されておらず、結局この場で生活を営んでいた者達の実態は分からずじまいであった。
これには学者達もお手上げで、最終的にこの遺跡はエジプトのピラミッドやナスカの地上絵、アステカの水晶髑髏などと同様に…現時点では解明不可の謎として片付けられた。
―――これは余談だが。
島では年に一度、島民の子供達がケンタウロス、サイクロプス、人魚などのギリシャ神話の伝説上の存在に仮装して街を回り、迎え入れられた家で盛大な晩餐会を開くという風習が古くから続いている。
そして、子供達をもてなす為に食事を準備する者はエケンデリコス―――ギリシャ語で「変人」と呼ぶしきたりになっている。
この風習がいつ頃から続いているのかは、島民すらも知らない。
だが、島の老人達曰く、紀元前から続いている事だけは分かっているそうな。
◆◆◆
―――俺は何をやっているんだろうか?
今頃は、とうにギリシャを発って新たな目的地への旅路についている筈だった。
次はエジプトあたりにすっかー。
若い頃、そこの主神と意気投合して子供の名前貰ったりしたっけなー。今はどうしてっかなー。
なんて考えながら。
だというのに、今は特注サイズの寸胴鍋をマルタ…丸太サイズのお玉でせっせとかき混ぜる毎日だ。彼◯島かよ。いや◯リコか?
いや、現在俺の身の周りにいる連中の構成も◯岸島じみてるけど。
その「連中」が何者かって?
あんの
地球に来る以前に、或いはその後にこさえては不要になったからポイして、後は知らんと見て見ぬふり。
そうやって地に満ち満ちた半神やら巨人、怪物共の集まりだ。
なんで態々そんな奴らの面倒見てんだって?
しょーがねぇだろ、カレー作ってたら寄ってきたんだから。
トリトンに食わせようと鍋煮込んでたら、匂いに惹かれて神代の魔物に半神共がウヨウヨと。
恐るべし全ての子供達に愛されし万能食。
取り敢えず献立に困ったら、カレー作ればなんとかなるもんだ。
そしてその日、俺が徹夜でカレー作りに奔走させられる羽目になった事は言うまでもない。
今はどうしてるかって?
しょうがねぇからキュクロプス達に依頼して住処を作って貰ったよ。代金はカレーで。
今のギリシャは空前規模のカレーブームだ。
そろそろインドあたりに怒られるかも。
まぁ本場とは似ても似つかんし大丈夫だろ。問題ない。ブラフマーとかシヴァ辺りがキレたらマジでどうしようもないけど。
そんなこんなで結局俺がそいつらの面倒を見る羽目になり、それぞれに必要なことを学ばせたり、遊ぶ時は公園でボールを蹴らせるようにした。メイドイン俺の。
凄いんだぜ?耐久力は勿論、なんと蹴る人に合わせてサイズが変わる特別仕様だ。
普通のボールじゃアイツらが遊ぶのに物足りんから、ひと工夫もふた工夫も練り込んだ。
尤も、権能がほぼ底をついて加速する老いを押し留めるのがやっとの現在じゃ、その程度のオモチャを作るのにすら6日もかかる始末だがな。
笑えるモンだ。
6日で世界を創りし全能神が、今は6日で子供の遊び道具が精一杯とは。
そうやって自嘲する暇もないぐらいの忙しさに、もしやここが旅の終着になるのでは?と嫌な予感に襲われていた矢先だった。
ギリシャの連中の間で
オリュンポスから、二柱の来客だった。
最初に来たのはヘスティア。ゼウスの姉(妹?)に当たる女神。
これには少しばかり安堵した。なんせアイツらの中でも飛び抜けての人…神格者?
女神連中の中でもヘラやアルテミスとは比べるのも烏滸がましいレベルのガチ女神なのだ。
まぁ正直、アイツらとは別ベクトルで俺は苦手なんだが。
なんせ初対面の時から妙に俺に対してお姉ちゃんぶる奴で、今も変わらずガキ扱いだ。
誰が「少年」だよ。こちとらもうジジイだぞ。
何億年も宇宙を旅してる自分たちからすれば、地球の神なんて殆ど子供みたいなもん?
うるせぇな。神様歴で言えば俺のが先輩だろうがチビ。
そんな俺の軽口も、まるで子供の負け惜しみのように「はいはい、そうだねセンパイ」と態とらしいぐらい優しく受け流しやがる。やはりムカつく。オリュンポスで一番チビの癖に。
あと、身長に反して無駄にデケェ胸を張りながらドヤ顔はやめろ。その技は
だが、こいつが来てから大変助かっているのも事実なので、強く出れないのがまた腹立たしい。
家庭の守護神だけあって、子供の相手が凄まじく得意だ。なんなら俺以上に。
もう代わってくんね?
ダメ?そうかい。
それからというもの、コイツのおかげで俺の負担が四割も減った。
普段のムカつく態度がなければ結婚したいとすら思える程だ。絶対口にはしないが。
だがそれは良い。
本当の問題は次だ。
よりにもよって、最悪の奴が来やがったのだ。
同時に二柱存在する太陽神とかいう、エジプトやら日本辺りが知ればブチ切れそうなくらい矛盾した奴らの片割れ。
ヘリオスの方なら良かった。
片割れに比べりゃ遥かにマシな方だから。
が、残念なことにそうは問屋が卸さず。
それも、二人の子供を連れて。
あいも変わらず殴りたくなるツラしやがったドチクショウの後ろでオドオドした様子でオレを見ている、ケンタウロスの子供だった。
だが、普通のケンタウロスとは異なる出自を持つ者達。
片方の名はポロス。
もう片方は―――ケイローンといった。
四文字「(結婚してぇけどムカつくから言わんとこ)」
竈「(まだかなーまだかなー)チラッチラッ」
某所
リリス「…っセェェーフッッ!!」
リリン「ママがまたおかしくなったー」