父と子と聖霊のなんちゃら   作:NJ

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友達の誕プレその2、その他諸々で多忙を極めておりました。二徹とか久々だゾ
クオリティ下がってるかもだけどそこんとこは許してチョーダイ


長い前日譚、そのまた続き

 

 

 これは、艦隊(ボクたち)がこの地球(ほし)に降り立って間もない頃。

 

 

 ()だ女神としての名前すら無かった…エネルギー供給、インフラの管理を目的とした艦に過ぎなかった頃のボク。

 

 他の(きょうだい)と共に地表に降り立ち、母艦(カオス)から与えられた原初の使命(プログラム)に従って、それぞれの役割を文字通り機械的にこなすだけだった日々。

 

 この星の知性体と本格的な接触が始まって、まだ間もなかった頃の話だ。

 

 そこで、今と比べて無骨で…お世辞にも可愛げがあるとは言えない鉄の塊(ゼウス達に比べればマシだが)でしかなかったボクは、あるものを見つけた。

 

 それは、この星の知性体(にんげん)のコミュニティ。

 

 ありふれた、つがいの親個体と、その二個体から生まれて間もない幼体(こども)達。

 

 なんて事のない、ただの炭素生命の集まり。

 珍しくもない、記憶容量の空きに蓄積する価値もない事象。

 

 なのに、ボクはそれらの紡いだ時間を今も…真体(アリスィア)を失った現在も鮮明に…ビット単位の誤差もなく再生できる。

 

 風に吹かれただけで土塊になるような泥の壁と干し草の屋根に囲われながら、その中心の儚い火の温もりを囲んで過ごした彼らの軌跡を。

 

 量産型の殲滅装置一つで事足りるような下等生物(やせいどうぶつ)相手に鎬を削り、常に死と隣り合わせの日々を送る。

 しかし、それらの苦労をおくびにも出さず、狩りの成果を持ち帰って出迎える子供達を力強い笑顔と共に抱き上げる父親。

 

 そんな父の帰りを待ちながら、子供達を、家を守るために苦心し、帰った父を労りながら、父とはまた違う柔らかな笑顔で出迎える母親。

 

 そして、そんな両親のもとで泣いたり、怒ったり、笑ったり元気よく育つ子供達。

 

 後に「家族」と呼ぶものだと知った、そんな命の寄り合い。

 

 ボクは、そんな彼らの姿に「歓び」という本来存在しない感情(バグ)を見出した。

 

 兄弟姉妹達が人間達に「神」と呼ばれ敬愛される事でそうなったように。

 

 ボクの中で、本来の存在意義(オーダー)を塗りつぶす新たな目的(ねがい)が芽生えた。

 

 『これら』を守りたい、と。

 

 この、冷めた鉄の体に未だかつて存在し得なかった(ぬくもり)を与えてくれる小さく儚い…しかしそれ故に尊き人の営みを、力の限り庇護して永く永く未来へと続かせたいと、そう強く願ったのだ。

 

 だからこそ、ゼウス達が星間都市(オリュンポス)を、海洋都市(アトランティス)を築き上げる事にも賛同した。

 

 各々意味は異なれど、人に価値を見出したが故に。

 

 人間達に与えられた暖炉の女神(ヘスティア)という役割(なまえ)もまた、ボクの誇りとなった。

 

 永く暗い(そら)を宛てもなく彷徨してきたボク達が、この星の一員として受け入れられたのだと、居場所が出来たのだという実感を与えてくれる、そんな名前だったから。

 

 これからも、ボクは人間(かれら)を守り続ける。

 

 このオリュンポスという家で、人類という家族を慈しみ、儚い彼らが凍えぬよう温もりを与える火で在り続けるのだと。

 

 そう思っていた。

 

 そう、思っていたんだけど。

 

 それ以上が、欲しくなってしまった。

 

 そうだよ。

 それもキミのせいでね、少年。

 

 かつて、オリュンポスに堂々と正面から訪れ…

 

「ちわー!三河屋でーす!」

 

 なんてふざけた挨拶をかましてゼウスの目を点にしちゃった最高な奴。

 

 神の癖に「子供の一部が反抗期で困ってる」なんて人間らしい悩みを抱えて、何でも強引に解決できる権能(しゅだん)がある癖にそれに頼らず、人間の親らしい回りくどい方法で解決しようと頭を捻り回す変な奴。

 

 全能神の癖して、他の神に頼ってまでして白い厄災に挑もうとした生意気な青二才。

 

 オリュンポスの男神共と違って女慣れしてなくて、それを指摘されると意地を張るような可愛い奴。

 

 そして、ボク達ですら敗れるような、逃げるしかなかったような怪物に一人で挑んでいった大馬鹿野郎。

 

 

 

 

 

 ―――■■■■。

 

 今はヤハウェ、エロヒムとも呼ばれる、今は名も失われた聖書の主神にして唯一の神性よ。

 

 本当は、ボクもそこに行きたかった。

 キミを助けたかったんだ。

 

 でも、真体も失った今となってはボク達の方が格下もいいところ。足手纏いになるだけだ。

 

 キミが巨神に踏み躙られ、それでも全身の穴から血を吐いて拳ひとつで挑み続ける姿に回路が破裂しそうなノイズが走って、目を背けたくなった。

 

 どうして、どうしてあの時のボクらは彼の言葉に耳を傾けなかったんだと。

 

 苦い後悔を噛み潰す度に酷い嗚咽に襲われた。

 

 臆病者と嗤われた彼が、こうしておめおめと逃げ恥を、生き恥を晒して、嘲った当人であるボク達の尻拭いに命をかける姿を遠くから眺めていることしかできなかった。

 

 ねぇ、■■■■。

 キミには分からないだろう。

 

 密林の黒き太陽と白き太陽、北の祭神、そして一人の人間が助勢に駆けつけ、共に勝利を勝ち取った姿を遠見で目にした時、ボクがどのような感情を抱いたのか。

 

 このギリシャの地で再会を果たした時、変わり果てたキミの姿を前にして、ボクがどれだけマグマのように噴き出そうとする感情を抑えて、懸命に繕った顔で笑いかけたか。

 

 キミには、分かりっこないだろう。

 

 キミが、神らしからぬ笑顔で楽しそうに家族のことを話す内に、ボクの中で芽生えた神らしからぬ欲のことも。

 

 この島で神に捨てられし子供達を共に愛し、育んでいた時、ボクがどれだけキミの隣で、キミからのたった一言を待ち望んでいたかも。

 

 キミには、分かりっこないだろう。

 

 暖炉の前でケイローンにポロスにトリトン、キュクロプスや怪物の子供達が穏やかに眠るのを共に慈しんでいた時、ボクの夢が半ば叶っていた事に。

 

 そして、半ばで終わりを迎えた事に。

 

 キミには、分かりっこないだろう。

 

 キミには…

 

 キミにだけは、分かって欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 小さくなる背中を見送るボクが、どんな顔をしていたか。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 クロノスとピュリラーの子であるケイローンは、親の愛を知らずに生まれ、親の愛を知らぬままに育った。

 

 神話に曰く、ある時巨人(ティターン)の王たるクロノスは精霊(ニュンペー)のピュリラーを見初め、なんとしても想いを果たす為に馬に変身すると妻レアーの目を逃れてピュリラーと交わった。

 

 その結果、生を受けたのが後の大賢者ケイローンとされる。

 

 しかし、ケイローンの生誕が両親に祝福される事はなかった。

 

 クロノスが馬の姿で交わったが故にその性質が息子にも受け継がれ、ケイローンは上半身が人で下半身が馬の姿で生まれてきたのだ。

 

 ギリシャにおいて誰もが口を揃えて野蛮と評するケンタウロスの姿で。

 

 クロノスとピュリラーは自らの愚行の結果である息子を忌むべき恥部としか見ず、ケイローンは生まれ落ちて間も無く父と母の手元から放された。

 

 クロノスは馬の姿のまま逃げ去り、ピュリラーは恥のあまり同胞に顔向けできず菩提樹となってしまった。

 

 

 

 ―――と、これが人の綴った神話におけるケイローンの起源なのであるが…

 

 結局のところ、これらの逸話が(ソラ)から訪れた機械仕掛けの神々の物語を当時の人間が自分達に理解できる形に解釈したものである以上、上述のそれもどこまで正確なのか疑わしいものだ。

 

 だが、ケイローンが先代の神王の子でありながら、その愛を受けられなかった不遇の子であることは確かだ。

 

 そして、捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったもので…そんなケイローンを拾い育てた神もまた存在した。

 

 大神の嫡子アポロンとアルテミスの兄妹、或いは姉弟。

 

 オリュンポスの一角を担う二柱より直々に教鞭を賜ったケイローンは、必然というべきか後にギリシャで一、二を争う大賢者として名を馳せ、後の大英雄達の師として汎人類史に名を刻んだ。

 

 そんなケイローンだが、今回はそんな彼の神話には刻まれぬ一面を語ろうと思う。

 

 ケイローンは、かつて弟子であるヘラクレスにこう語った。

 

 

「良いですかヘラクレス」

 

 

「人を怒らせ、諍いに発展したとしても自分から殴りかかってはなりません」

 

 

「相手が自身の右の頬を打ったなら、左の頬を差し出しなさい」

 

 

「そして両頬を打たれても、岩のように耐えて相手の全てを受け止めなさい」

 

 

「何発でも、何発でも、相手のターンが終わるのを待ちなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、自分のターンになったら一撃に全てを込めてお返しなさい」

 

 

 後の「一撃男ヘラクレス」の誕生秘話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー腰いて。

 

 久々の運動にしてもハードが過ぎたなと、カツカレーを隣のトリトンから死守しつつ食いながら反省。

 キメラを殺せる程度の軽いデコピンで悶絶している。バレないと思ってんのか、良い加減懲りろ。

 

 ヘスティアにもおたまでぶん殴られた。

 

 あのゲーミング剣を振り回すしか能がない脳筋バカ(アレス)も同じようにタンコブこさえてたけど。超ウケた。

 笑ってたら第二ラウンドに発展しかけて今度は鍋で殴られた。俺は2回も。何故?

 

 まぁ最初は緊張気味だった新入りケイローン君からは尊敬の眼差しを向けられるようになって気分はいいけど。

 

 今では母馬について行く仔馬みたくパカラパカラと後ろをついて回って俺の真似をしたがるように。ヘスティアは止めていた。何故だ。

 

 アザゼルを思い出すなぁ、アイツもバトル漫画のキャラに憧れるタイプで俺の真似をやりたがる奴だったし。

 

 あのクソ羊(アポロン)脳内花畑(アルテミス)も、それを見越して俺にコイツを預けたみたいだし。大方兄の方は休暇もとい愛人との時間が欲しかっただけだろうが(頭ギリシャめ)。

 

 あのバカの思い通り動くの癪だし教えるのはアダム以来で久々だが、引き受けた手前ちょいと叩き込んでみる事にした。

 

 

 

 現役時代(神だった頃)に数万年かけて編み出した俺の技(エデンの拳)を。

 

 

 

 まずは基本的な構え。

 次に体作り。

 次に神秘を用いない水面の歩き方。

 

 他のガキ共にもやらせてみた。

 ヘスティアはもう突っ込むのを諦めたらしい。

 

 そして数年後…女とよろしくやってたアポロンが様子を見に来た。

 

 その時については面倒なので多くは語らんが、当のアポロンの評価はこうだった。

 

 

「誰がここまでやれと言ったバカ」

 

 

 知るか。

 

 俺は弟子の手刀で背景の雲ごと割れた山から目を背けながら言い返したのだった。

 

 

 

 

 俺がギリシャを去る。数年前の光景。

 

 

 

 

 旅の終着(俺の死)に至る、数百年前の出来事だった。

 




渋谷事変楽しみ
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