父と子と聖霊のなんちゃら   作:NJ

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あけましておめでとうございマッスル(死)

とうとう二部も完結しちゃって寂しいですが、今年もちびちび投稿していきますのでよろしゅうお願い申し上げます

※今回は挿絵ありです。



カミ・ノ・キセキ(※)

 

 第五異聞帯───星間都市山脈

 

 宙より来たりし艦隊(かみがみ)によって築かれた、汎人類史を超えた科学力を誇る神の国。

 

 輝けるクロノス・クラウンを戴く楽園(オリュンポス)では、今日も変わらず死と飢餓、病の恐怖から解放された民草が神王(ゼウス)の栄光の下に安寧を享受していた。

 

 そんな都市の一角───オリュンポスの神々にすら気づかれない区画で、彼らは語り合っていた。

 

 無骨な鉄の台座と、奥から熱と光を部屋全体に送る()を思わせる炉が鎮座する、それだけの部屋。

 

 そこに置かれた“それ”を、彼ら───キリシュタリア・ヴォーダイムと神霊カイニスはただ見つめていた。

 

 かたや畏敬の念を込めた目で、かたや僅かばかりの嫌悪を込めた目で。

 

「───呆れたもんだ」

 

 先に口を開いたのは、カイニスであった。

 

「こんな無様な姿に成り果てても生き続けるなんてな。 つくづく見上げた博愛ぶりだぜ」

 

「その愛こそが彼の存在意義でもあるからね。 異聞であっても、そこだけは決して変わらないという事なのだろう」

 

 ハッと嘲るカイニスに答えるキリシュタリア。

 

「一応聞くけどよ…本当にコイツがそう(・・)なのか?」

 

「間違いないね。一目見て分かった…いや、理解(わか)らされたと言った方がいいかな」

 

「また父の末裔(てめえら)が持つ始祖(アダム)の遺伝子とやらか?」

 

「あぁ、教えてくれる。彼の遺伝子が────厳密には、アダムとイヴ、リリス…それだけじゃない、アザゼルらグリゴリの堕天使を始めとした最初の兄弟姉妹(エデンの子ら)の末裔たち全てが私と同様に理解できるはずだ」

 

 キリシュタリアと違って、カイニスには実感がない、理解できない。

 目の前の“モノ”が確かに並外れた価値を秘めていることは頭では分かっていても、本当にそうだとは腹の底から信じられなかった。

 

 そしてそれは当然の話だった。

 原典の(かのじょ)はギリシャ神話を由来とする人類。

 

 かの者の遺伝子を受け継いだ聖書(エデン)由来の人類とは異なる系統の人類種なのだから。

 

「だが、逆にエデンの系譜に連なる者にしか感知できないが故に、こうしてゼウスの目を盗む事が出来ている」

 

この部屋の存在(・・・・・・・)もあるだろうがな。 腐っても神王だ。そうでもなきゃ、あの野郎をずっと騙し続けるなんて出来るはずがねぇ」

 

 オリュンポスの中でも隠れた区画。

 ゼウスに背いた共生派の神々が残した、本当の意味で人間が人間としての自由を感受できる場所。

 

 『あの木』の枝を盗み出したリリスやバアルのように…楽園(・・)より(・・)これを(・・・)盗み(・・)出した(・・・)クリプターである『彼女』から託された彼らは、ゼウスに気づかれぬようこの部屋に託されたモノを持ち込んだ。

 

「ヘスティアの奴、こうなる事を見越してここを遺してやがったのか…もしそうならコイツ(・・・)同様呆れ返っちまうぜ。 アルテミスもそうだが、ギリシャの処女神って奴はどうして揃いも揃って男に狂っちまうんだか」

 

 待ち続けていたのか?

 もう訪れる事もないだろう彼の帰りを。

 

 最早知る事もできない真相など考えるだけ無駄だと、思考を切り替えたカイニスは改めて己がマスターに問いかける。

 

「そんで、こいつと『あの槍』がお前の第二の計画の鍵なんだな? キリシュタリア」

 

 台座に置かれたそれは、未だ眠り続けている。

 

 呼吸もせず、体温も無く、魔力も完全に停止している。

 

 だが、確かにそれは生きていた。

 

 生き続け(・・・・)なければ(・・・・)ならなかった(・・・・・・)

 

 それが彼が己に科した罰であるが故に。

 

「あぁ、これこそ聖書唯一の神性にして我らが父────

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

────YHVH(◼︎◼︎◼︎◼︎)だよ」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 聖書に於ける人類のターニングポイント…

 

 『第一の黙示録』と呼び畏れられた恐怖の時代。

 

 ノアの大洪水を文字通りの呼び水として幕を開けた、ネフィリムの生き残りが天へ宣戦布告を叩きつけ、人の世に飢餓と戦火が蔓延し、天の遣いと魔の者らが戦の喇叭を鳴らす。

 

 西暦の始まりとなった『第二の黙示録』を乗り越えた神の子(エホーシュア)の時代と同様に、その世界の人類史が剪定されるか否か迫られた極限の時代。

 

 

 

 

 

 そんな時代に終止符を打ったのは───聖書に名も記される事がなかった、一人の老人であった。

 

 

 

 

 

 

 神代───とある王国。

 

 神話の時代に存在した王国の一つ。

 その首都の中心に聳える王宮…のバルコニー。

 

 そこに、その国の王が一人佇み、己が国を静かに見渡していた。

 

 その王は、この王国において前代未聞の暴君として知れ渡っていた。

 兄弟達を殺して王位を奪い、民に重税を課し、通りがかる旅人からは法外な通行料を取り上げ、異論を投げつけるものには死を返答とした。

 

 そんな彼の傍には、一人分のテーブルと、そこに置かれた空の皿と杯。

 

「(なんということだ…)」

 

 遠くを見据えながら肩を震わせる彼の顔には…

 

「(この世に…こんなに美味しいものがあったなんて…!!)」

 

 肉親を殺めても、民をどれほど粛清しても流れなかった筈の、温かい人間性の証で溢れ返っていた。

 

「(………)」

 

 そして、遥か地平の彼方より立ち上る、どこかの戦火を見つめながら思った。

 

「(世界中の人々は知っているのだろうか…)」

 

「(この味を…)」

 

 

 

 

 

 

 

 ───同じ頃、ある戦場…

 

「隊長、どうされたんですか!? もう敵はすぐそこまで…」

 

 すでに開戦まで秒読みという段階の戦場。

 いつまでも前線に来ない隊長を部下が呼びに行くが、何かが置かれた皿と杯を前に座り込んでいた隊長は…

 

「お前達、武器を置け(・・・・・)…」

 

「へ?」

 

 振り向いた隊長、その顔は…

 

まずは(・・・)これ(・・)()一口(・・)食って(・・・)みろ(・・)…っ! いいからっ!!」

 

 まるで、遠い昔に亡くした最愛の人と再会でもしたかのような滂沱で顔をぐしゃぐしゃにしながら、嗚咽混じりに部下に指示を出す。

 

「みんな…全員呼べ! 敵も味方も…この辺りにいる奴、呼べるだけ全員だ!」

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ…なんということだ…世のありとあらゆる美食を食らい尽くした余ともあろうものが、“これ”を評する言葉が見つからぬ…」

 

「この一口に比べれば、余が今まで集めた富のなんと虚しいことか…!」

 

 

 

 

 

 

 

「嗚呼…故郷で待つ妻と子らにも、今すぐ食べさせてやりたい…」

 

「何故、ワシらはこんな馬鹿げた戦争を始めてしまったのだろうか…」

 

 

 

 

 

 

 

「このパンとワイン、今度の会談に持って行ってみましょう」

 

「他国の者達にも食べさせてあげるのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇお父さんお母さん、あのお爺さん誰だったのかな?」

 

「分からないわ。でも…」

 

「もしかしたら───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────神様だったのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───バベル跡地

 

 かつての栄華を物語るようなビル群が朽木のような惨めな姿を風に晒し、亡者の喉から漏れた掠れ声かと疑うような風の音だけが響き渡る。

 

 訪れるものといえば、時と共に風が運ぶ砂塵、稀に来る墓荒らしだけ。

 

 そうして僅かずつ、しかし確かに歴史の影に埋もれゆく廃都。かつて、神になろうとした愚かな悪魔達が残した夢の跡。

 

 もはや生命の残り香すら感じられぬ、哀愁漂うそんな場所に建つ神像。

 

 角が生えた異形の女性のそれの前で、跪いて両手を組み、静かに祈る小さな悪魔が一人。

 

 戦場に潜むゲリラのような、或いは浮浪者のような装いに身を包んだ幼い、小さな2本のツノを生やした白髪の少女は懸命に、敬虔に異端の神への祈りを捧げていた。

 

「───バアル様」

 

「どうか、今日も私達をお守りください」

 

「私達を、真なる光へとお導きください」

 

「私達を、お救いください」

 

 少女は、まさかその祈りが本当に神へ届くとは思いもしなかった。

 

 もっとも、神は神でも唯一神に、だが。

 

 少女の祈りに応えるようにズモモ、と前触れもなく盛り上がる像の足元の土。

 

「えっ」

 

 

 

 ───ズボォ!!

 

 

 

「わぁぁああああああ!?で、でで出たぁああああああ!!」

 

 某有名なミイラ映画のような勢いで地面からこんにちわしてきた腕に腰を抜かす少女。

 

 ───ジャキィ!

 

 咄嗟に、足元に置いていた───この時代には明らかに不似合いな機関銃を手に取り、手慣れた様子で安全装置を外して銃口を腕に向ける。

 

 突き出た腕は、必死にもがき何かを求めるように辺りを探り回っていた。

 

「ひ、ひぃい………アレ?」

 

 最初は怯えていた少女。

 だが、腕はいつまで経ってもそれ以上這い出てくる事はなく、むしろそこから動けずに困り果てているように見えた。

 

「ど、どうしよう…」

 

 正直凄く怖い。放っておいてさっさと帰りたい、というのが少女の本音だった。

 

 しかし、腕が助けを求めているように見えるのも事実で。困っている人(?)を放っておくには、この少女の心はこの時代の中では稀有なほど純朴過ぎた。

 

 おそるおそる、おっかなびっくりで近寄る少女。そして、腕に向かって…直接手を握るのは怖かったので、機関銃の先っちょを近づける。

 

 やがて、手探りで辺りを確かめていた腕は、指先に触れたそれに気づくや否やぐわしっと握りしめる。

 

 それにビクッとしながらも、しっかりと握られたのを確認した少女は意を決して腕を引く。

 

「い、いっせーの……………せい!!」

 

 小柄で幼くとも、人外に連なる者。

 その身の丈に不釣り合いな膂力は、容易く土の檻に囚われたモノを太陽の下へ引き戻す。

 

「え、えーと…………大丈夫です、か?」

 

 恐る恐る、それに話しかける。

 

「──、───ぁ」

 

 地中から現れた者の正体は…

 

 まず、目に入ったのは頭の根元で(・・・)折れた(・・・)2本の角(・・・・)

 

 同様に千切れた翼(・・・・)と尻尾(・・・)

 

 そして、頭上に浮かぶ…凝視して漸く見えるほどうっすらとした光輪(・・)

 

 そんな、天使のような、悪魔のような、人間のような、どれにも似ていて、どれとも違う姿をした…

 

 

 

 

 

「────ありが、とう」

 

 

 

 

 

 死にかけの、奇妙な老人だった。

 




作者はデジタルに疎くてアナログしか描けませんので、そこはどうかご容赦を
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