父と子と聖霊のなんちゃら   作:NJ

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風邪ひいちまった。
皆さんも体調にお気をつけて。

それとまたまた番外編。
今度は堕天使です。


地に昇り、天に堕ちる その1

 

 

 ずっと、■■■■■になりたかった。

 

 

「アザゼル! 来たぞ、第二波だ!」

 

 

 父の背中を見ながら抱き続けた願い。

 

 

「撃て撃て!ここを突破されれば終わりだ!」

「ベヒモスが前線に合流する前に殲滅しろ!」

 

 

 今は届かぬ背中を脳裏に浮かべ、今の俺は戦場に立っている。

 

 

「兄さん!お願いだからしっかりして!」

「サリエル!ぼさっとするな!」

 

 

 なぁ、兄貴(ミカエル)、アダム、イヴ、■■■■(我が妻)

 

 

「あの山…それと地鳴りは…」

「来たぞ!ベヒモスだ!」

 

 

 ───なぁ、親父(とうちゃん)

 

 

「行くぞ!最後の戦いだ!」

「かかれぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 これは、(おもいあが)った(ばかやろう)への罰なのかな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ───カン!カン!

 

 エデンの森に、木を打つ音が響く。

 

「この!この!参ったか、巨人(ばけもの)!」

 

 音の原因は森の奥。

 大木に、これでもかと凶悪な風貌で描かれた白い人型の怪物の落書きにビシバシと木の枝を剣のように振って叩きつける少年の姿があった。

 

 頭に燃える太陽を思わせる光輪を浮かべ、立派な翼を背負う天使。

 

 その名は、神の如く強きものという意味を持つ───「アザゼル」

 

「あ、父ちゃん!」

 

 声に振り向き、刺々しい金髪を逆立て、土や木屑で汚れた勝気な少年の顔を見せる天使アザゼル。

 

 そこには、枯れ木を連想させる老人の姿。

 アザゼルにとって…このエデンに生きる者達全てにとって唯一絶対の父、ヤハウェそのものだった。

 

 だが、今の唯一神の姿は、悲惨の一言に尽きた。

 

 かつて頭上に輝いていた、闇の中で「光あれ」と願うと同時に顕れた六芒星の光輪はひび割れ、世界を照らす輝きも今となっては切れかけの蛍光灯のような有様で。

 

 両手で抱え切れない子供達を包めるだけの大きさと数を誇った、木の葉にも虫の羽にも見える独特な形状の光の翼は萎びて、時と共に抜け落ちてしまった。

 

 零落の限りを尽くした。

 無論、中身も同様に。

 

 それでも、アザゼルは変わらず唯一神を父と慕っていた。

 

 父が何故こうなってしまったのかを知っていたが故に。

 

 今の父の姿が、自身の憧れた父としての生き様を貫いたが故の結果だと知っていたが故に。

 

 そして…

 

「あ、いたいたアザゼル!ちょうど良かったわ!」

 

 父の背後からひょこっと顔を出した愛くるしい闖入者。

 その者の顔を認めたアザゼルの顔が笑えるほど色変わりした───思春期の(こいわずらう)少年のそれへと。

 

「い、イヴ…居たのかよ」

「今日も鍛錬してたの?偉いねアザゼルは」

「別にっ…あ、当たり前の事だよ!」

「そうだな、当たり前の事だ」

 

 ボスっと勢いよく頭に置かれる父の手がアザゼルの髪を掻き乱す。

 

「でも当たり前の事ほど続けるのは難しい。イヴの言う通りお前は偉いよアザゼル」

「と、父ちゃんも───それより何か聞きたいことがあんだろイヴ!言えよ!」

「あ、そうだった!ねぇアザゼル、アダム見なかった? ずっと探してるんだけど、またラファエルに虐められてないか心配で…」

 

 その名前に、一瞬苦々しげな顔色を見せるアザゼル。

 だが、イヴと父には見せまいと取り繕い、森の外を指差す。

 

「…川の方で泣いてたよ。どうせベヒモスの糞でも付けられて洗ってんだろ」

「やっぱり! ラファエルったら何度言ってもやめないんだから!」

 

 行ってくる!と走り出すイヴだが、アザゼルの方を振り向いて笑顔を見せると…

 

「ありがとうアザゼル!頑張ってね!」

「…ふん、当たり前だ!俺は強くなって父ちゃんが居なくなった後もエデンを、この世界を守らないといけないからな!」

 

 僅かに間を置いて「それで強くなったら…」と付け足すアザゼル。

 

「ついでに、お前の事も守ってやるよ…」

「うん、ありがとう!」

 

 手を振りながら走り去るイヴ。

 残された父と息子。

 

「…良かったのか?」

「………………………」

 

 父の問いに、息子は俯いたまま。

 

 それが、答えだった。

 

 父は再び息子の頭に手を置く。

 

 そして、今度は何も言わずに撫で続けた。

 

 

・・・・・・

・・・・

・・

 

 

 時が流れ、父が去った聖書世界。

 

 子供達の多くはかつての故郷(らくえん)を去り、父に託された意志を全うする為に動いていた。

 

 そして原初の人類が暮らす土地。

 丘の上で、天使と人間達は再会を果たしていた。

 

「アザゼル───こうして顔を見るのはいつぶりだろうな」

「時間ってのは本当に人間を変えちまうんだな───アダム」

 

 そして、とアダムの隣まで歩くと丘の上に置かれた墓石を見下ろす。

 

 

「────イヴ、また来たよ」

 

 

 腰を下ろし、優しく語りかける強き天使。

 その墓石に向ける表情にいかなる感情が込められているのか、誰にも窺い知れない。

 三本添えられた花に、新たにまた一つ加えられた。

 

 そして振り返らずにアダムに問う。

 

「これからどうする気だよ。 イヴは女の子を産めなかったんだろ?」

 

 アダムは俯く…が、意を決して考えを口にした。

 

「───リリスを訪ねようと思う」

「は?…おいおい正気か!? あのイカれ女に助けを求めんのか?!」

 

 最悪殺されんぞ、と思いとどまるよう制止するアザゼル。だがアダムの決意も固かった。

 

「イヴは体が元々丈夫ではなかった……三人も産めただけでも凄すぎるくらいだ…

 

 

 

 

───だからこそ、これからは僕が頑張る番なんだ。 命を張るくらいどうって事ないさ」

 

 

 

 

 先ほどとは打って変わり、明るく笑うアダムの姿にアザゼルは言葉をなくし、俯いてガシガシと頭を掻き始める。

 

「〜〜〜〜〜っ、親父といいお前といい…あーもう分かったよ!もう何も言わねー!」

 

 ただし、と付け足しながら人差し指を立てるアザゼル。

 

「乗りかかった船だ。俺も行く」

「良いのか?キミはルシファーの次にリリスを嫌ってたんじゃ…」

「お前はその何億倍も嫌なんだろ? 昔はアイツにビビって毎日寝小便まみれだった癖に」

 

 うっ、と過去のトラウマを掘り起こされ顔を顰めるアダムを伴ってアザゼルは歩き出す。

 

「さーそうと決まれば善は急げだ。 ガキ共の面倒はサリエルに任せとけばいいだろ」

 

 さらっと面倒ごとを妹に押し付ける兄。

 アダムは相変わらず向こうでも苦労人気質なんだなぁ、と天使達の中でも数少ない癒し枠な月の天使の困り顔を回想した。

 

「アザゼル」

「あん?」

「…すまない」

 

 アザゼルは呆れたような笑顔で訂正を促す。

 

「バカ、こういう時なんて言えばいいか親父から教わらなかったか?」

 

 アダムはその言葉にキョトンとするが、直ぐに理解してほほ笑み…。

 

 

 

「あぁ───ありがとう兄さん」

「…どーいたしまして」

 

 

 

・・・・・・・・

・・・・・

・・

 

 

 

 ───キャハハ

 

 ───ウフフ

 

 数日後、そこにはリリスの娘達とアダムの息子達が野を駆け回り笑い合う光景が広がっていた。

 

 無論、アダムを蛇蝎の如く嫌うリリスはアザゼルの懸念通りの対応をやらかした。

 楽園を出た時と微塵も変わらぬひん曲がり切って逆に真っ直ぐにさえ思える性格に二人は安堵すらも覚えた。

 

 しかし、破談となりかけた状況に待ったをかけたのが、まさかまさかのリリスの娘達であった。

 

 そもそも、どうやってリリスは一人で子を産んだのか?

 

 答えは、楽園から持ち出した一本の木枝。

 自身を拒絶した父への意趣返しに盗んだ「木」の枝を楽園の外に植えて育て、その実を食したのだ。

 

 そして願った。

 

「パパと私の子が欲しい」

 

 かくして唯一神の肉と言っていい果実は裏切りの魔女の願いを叶えた、というわけである。

 

 そうして授かった願いの結晶…リリン達本人が母に一斉にブーイングをかましやがったのである。

 

「自由恋愛禁止を許すなー!」

「ママのケチー!」

「私達だって出会いが欲しー!」

 

「うるっっっっさいわねチビ共!!反抗期も大概になさい!!」

 

 目の前の女共の卑しい口喧嘩の応酬にアザゼルもアダムも顔を見合わせてなんとも言えない顔をするしかなかった。

 

 頑固なリリスも粘りに粘ったが、トドメとなったのは長女の一言だった。

 

「ママだってパパの決めた相手を嫌がって家出したじゃん! 私達が自分で相手を決めて何が悪いのよ!」

 

 このド正論にのクリティカルヒットにはさしもの荒れ狂う魔女も言い返せなかった。因果応報である。

 

「リリス───いやイヴ、キミの負けだよ」

 

「この子達の未来はこの子達に決めさせよう」

 

「父さんが、僕達にそうさせたように」

 

 見かねたアダムの言葉に心…っっっ底嫌っそうな般若顔負けの形相で睨みつけたリリスだが、とうとう折れた。

 

「もう勝手になさい! 後になって泣いて帰って来ても知らないからねっ!!」

 

 いえーい、とハイタッチして勝利に舞う娘達。

 

「女って奴ぁ本当に…」

 

 アザゼルは心底呆れ返った様子で空を仰ぎ、アダムは隣で大いに笑った。

 

 そして時は戻り───

 

 目つきの悪い───母を失ってからより鋭い目をするようになったカインには多くが怯えて距離を置きながらも、危険な香りに惹かれた一部の娘達が侍るようになり。

 

 兄弟で最も温厚で物腰が丁寧なアベルには最もリリン達が集まり、後のカインとの争いで命を落とすまで人類の繁栄に大いに貢献する事となり。

 

 兄弟の中で最も劣っており、かつての父のように泣き虫だったセトはリリン達にほぼ見向きされなかったが…後にリリンの中で最も美しく可憐であった末娘と結ばれ────それ故にその娘を欲した長兄カインと熾烈な戦いを繰り広げることとなった。

 

 後に血で血を洗い、血を以て綴られる神話を繰り広げる子供達。

 

 しかし、今はそんな未来など関係なしに笑い合っていた。

 

 無邪気に野をかける兄弟姉妹達。

 

 アザゼルとアダムは、かつての楽園を想起させる光景を遠くから眺めながら、無言で乾杯した。

 

 今は遥か遠くの父に───

 

 

 

 

 そして、今は眠る彼女に捧げる一杯を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洪水によって破滅に至る、数百年前の出来事であった。

 





?「我が生涯に一片の悔いなし!!」
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