父と子と聖霊のなんちゃら   作:NJ

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あけましておめでとうございます

そしてこんな投稿になってすんまそん

本編も考えてはいるんだけどなかなか進まない現状
取り敢えず思いついた話から出していきます

作者はextellaエアプなので矛盾等がありましたらご指摘どうぞ


月に散るは

 

 

 レガリアを巡る戦い。

 

 月の覇者を決める為の戦いだったそれは、もはや原型を成さぬほどの混沌の体を呈していた。

 

 アルテラの参戦。

 

 アルキメデスの裏切り。

 

 そして、堕ちた神の子ら。

 

 永き幽閉より脱した後、マナが枯渇し荒廃した地上を目の当たりにした事で、今こそ楽園の創造と新たなる神の降臨…即ち自身が必要であると確信し再起したバアル。

 

 主神(ちち)を失った後、ミカエルとルシファーに隠れて「葡萄」を撒いて地上を混沌に陥れんとした罪で月に封ぜられ…SE.RA.PHの戦いの影響によって覚醒した《憤怒(サマエル)》。

 

 この二者によって筋書き(ストーリー)は正史より大きく乖離し、捻れ歪み、もはや修正が効かないほどの破綻を迎えてしまった。

 

 物語(ゲーム)終末を齎す者(ラスボス)は巨神ではなく痛哭の天使にすり替わり…。

 

 

 

 

 

 

 救済を齎す者もまた…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 堕ちてゆく。

 

 どこまでも、どこまでも。

 

 溟く、煮え滾る憤怒の底に。

 

 

 

 岸波白野───月の王は全てを終わらせる為に奈落へと身を投じた。

 

 幾度とない端末(・・)との激闘の果てに、とうとう見つけた場所に。

 

 サマエルの本体が座す、かつてミカエルとルシファーらが彼を閉じ込めた牢獄があるという、月の深淵へと。

 

 

ほぎゃあ!ほぎゃあ!

 

 

 泣き声が、聞こえる。

 ずっと、表にいた時からうっすらと聞こえていた赤子の声。

 

 

ほぎゃあ!ほぎゃあ!

 

 

 まるで、痛みに泣くような、悲鳴じみた慟哭。

 

 ずっと白野に、月の皆に訴えかけるように脳裏に響き渡っていたその声。

 

 

 

ほぎゃあ!ほぎゃあ!

 

 

 

「───そうか」

 

 ずっと、謎めいていた声。

 

 

 

「ずっと泣いていたのは、あなただったんだね」

 

 それが、その声の主が…

 

 

 

「──────サマエル」

 

 その答えが───今まさに目の前にあった。

 

 

 

おぎゃああああああ!おぎゃああああああ!

 

 

 

 それは、まさに肉塊だった。

 

 マグマの様な、黄色がかった不吉な火と熱を放ちながら蠢くモノ。

 

 セファールよりも遥かに巨大に膨れ上がった、赤子の形をした、まるで今にも破裂しそうな悍ましい肉塊。

 

 それこそが、サマエルの今の姿だった。

 

 数千年に渡って人類の苦しみを、怒りを集め、糧にし続けた。

 

 全ては報復の為に。

 

 父を破滅に追いやった世界へ報復する、終末の使徒として羽化する為の蛹。

 

 かつて、聖書に於いて父に「最も清く優しき天使」と称された者の成れの果てだった。

 

 だが、白野に最早恐れはない。

 いや、恐れよりも今は…哀しみに満ちていた。

 

 故に、眼下に聳える肉塊に語りかける。

 

「あなたの端末に触れた時、記憶も流れてきたよ」

 

「今なら分かる。あなたは自分の為に怒っていたんじゃない」

 

 

 

「あなたのお父さんの怒りを、憎しみを、哀しみを───みんなに知って欲しかったんだね」

 

 

 

 襲いかかる熱とは、痛みとは違う理由で、目尻より雫が溢れる。

 

 彼の背負った痛みを、ほんの少しでも知ってしまったから。

 

 常人では到底背負いきれないその苦痛の、ほんの一端を。

 

 優しすぎたが故に、破滅の道を歩んだ彼のあまりに悲しい覚悟を。

 

 

《─────思い知らせてやる》

 

 

 あの、葡萄の木の下での誓いを。

 

 

《─────パパの痛みを…っ!》

 

 

 だが…いやだからこそ、白野は目もとを拭う。

 

「それでも…」

 

 そして、涙を拭い去った後の顔には哀しみではなく、固い決意だけがあった。

 

 あの蛹をこのまま『羽化』させる訳にはいかない。

 

 きっと、我が子のために犠牲となる道を選んだあの子の父が…

 

「もう(かな)しみは終わらせないと…!」

 

 聖四文字自身が、それを望まないから。

 

 

ほぎゃあああああ!!

 

 

「─────っ!」

 

 防護越しでも肌を焦がすような熱風に、思わず口を塞ぐ。

 

「そうだね…始めよう」

 

 無銘(エミヤ)の投影宝具、玉藻の宝具、ネロの皇帝特権、カルナの太陽の鎧の一部。

 

 サーヴァント達が最後に与えてくれた、今まさに自身を覆っている防護が憤怒の権能で溶解するまでアルキメデスの計算では100秒弱。

 

 サマエルに到達し、ギルガメッシュの宝物庫から貸し出された『槍』の原典で本体の生命の実を破壊するまでに五分。

 

「事実上は不可能…」

 

 だが、白野は止まらない。

 何故なら…

 

「でも…」

 

 決して立ち止まらない事。

 月の聖杯戦争で(あのとき)も、裏側で(あのとき)もそうだったように。

 

「それでもやってみなきゃ分からない!」

 

 いつだって変わらず。

 それだけが、岸波白野のただ一つの譲れない“自分”なのだから。

 

 

 ───ガッ

 

 

「!?」

 

 突如横から白野を掴んだのは、黒金の手。

 

 それは半ば崩壊した機械仕掛けの巨人であった。

 2本の角を生やし、牙を剥いたシンプルだが凶悪な、いかにもな悪魔をデザインした顔のロボット。

 

 この時代の人類ですら届かない圧倒的な科学力…かつて果実より得た神の叡智でバベルを築き、天の国を侵攻する為に造り上げられた機体。

 

 彼女(・・)が、魔王としてルシファーに追いつき、超えてゆく為に造り上げた傑作。

 

 白野達を、月のサーヴァント達を幾度となく苦しめた、オリュンポスの機神らにも匹敵する機能を有する駆動機体。

 

 それに乗り操る者の名は、レメゲトンに最初に記されし大悪魔─────

 

 

「───バアル…!」

 

 

 意外な再会に、白野も目を剥く。

 だが、機体越しでありながら、不思議と白野はその目に敵意を感じなかった。

 

 そんな白野にバアルは静かに告げる。

 

「突っ込むぞ」

 

「お前の体は(バアル)が保護する」

 

 白野はそのまっすぐな声に…

 

「───うん」

 

 鋼鉄の魔王は、スラスターを噴射して憤怒へと突貫する。

 

 

 

「─────行こう」

 

 その手に、小さな月の王を乗せて。

 

 

 

 ───ぎょろり

 

 そんな小さき者たちを、無数の視線が貫く。

 

《バアル!》

 

 肉塊を突き破り飛び出た夥しい数の眼球が、二人を睨め付ける。

 

《我が妹よ…たとえお前でも僕は止められないぞ….!》

 

 バアルもまた、兄に答える

 

 

「止めてやるともサマエル!」

 

「このバアルが!今は亡き父の名にかけて!」

 

 

《黙れ!僕は神の憤怒(サマエル)だ!》

 

(パパ)憎悪(いかり)を代弁する者だっ!!》

 

 

 

 

おぎゃあああああああああ!!

 

 

 

 

 咄嗟に白野を両手で覆い、庇うバアル。

 

「お前は間違っている!!」

 

 バアルは叫ぶ。

 かつて楽園を共に生きた兄弟へと、喉を枯らしながら訴えかける。

 

「憎しみでは───父は決して報われない!」

 

おぎゃああああああ!おぎゃああああああ!

 

「早く槍で生命の実を破壊しないと…ゲホッ」

 

 更に強まる熱量に、白野を守っていた防護も限界を迎えようとしていた。

 

 寧ろ、ここまで保ったことが奇跡だ。

 

「岸波白野、頼みがある」

 

 だから、バアルのこの選択は必然だった。

 

「もし、これから兄弟達に会うことがあったら…正直忌々しいが、ミカエルとルシファーにもよろしく伝えておいてくれ」

 

 彼女が天に反旗を翻したのは、神の後継者を目指したのは、父に報いる為であり。

 

「短い間だったが、お前達との触れ合(たたか)いは楽しかったよ」

「……バアル?」

 

 そして────

 

「お前と…あの騒がしい英霊達との時間の中で、ほんの僅かだが(バアル)あの頃(エデン)を思い出せた」

「バアル、まさか────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達と出会えて、本当に良かった」

 

「さらばだ、そして──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ありがとう」

 

 人類を、救う為に立ち上がった魔王なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ガシュン!

 

 間接から火を吹き、勢いよく地上へと射出される機体の手。

 

 そして白野は気づく。

 己の懐に隠していた「槍」が、なくなっていることに。

 

 それはつまり───

 

「バアル、待って! バアルッ!!」

 

 射出された手に握りしめられたまま、仲間達のもとへと送り返される白野。

 

「悪いな」

 

 鋼鉄の魔王は、遠ざかりながら己に手を伸ばす白野に一瞥だけくれると、再び両足のスラスターを吹かしてサマエルに突っ込む。

 

「盗み取るのは、昔から得意なのだよ」

 

 白野から掠め取った『槍』を、懐に格納しながら。

 

 最後に目が合ったその時、白野の目には…

 

 機体越しに、中の彼女が笑いかけていたように見た。

 

「バアル!!」

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 機体が、遂に肉塊に到達する。

 

 勢いのままに表面を突き破り、マグマの様な血肉の中を力ずくで掻き分け、中心を目指す。

 

 そして、遂に辿り着いた。

 

どくん どくん

 

 心臓部、地を揺らすような鼓動を発する核。

 

 

 ───その中心に、一体化するように下半身を埋め込んだ少年(サマエル)のもとに。

 

 

 だが、ここまで来て機体が限界を迎えてしまっていた。

 

 指一本も動かない。

 

 だから捨てた(・・・・・・)

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」

 

 

 コクピットをこじ開け、小柄な、白野よりも小さな少女が、バアルが飛び出す。

 

 全身を灼熱で炙られながら、弱き身で人の為に戦った小さき魔王は命を、己の全てを燃やす。

 

 そして、ついに兄の前に立ったバアルは槍を掲げ───

 

《バア、ル…》

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に、パパに謝りに行こう」

 

「お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 微笑みと共に

 

 槍を突き刺した。

 

 

おぎゃあああああああああ!!

 

 

 劈く悲鳴の中、悪魔は聖句を唱える。

 

「父と子と、聖霊の名の下に!!」

 

 別れを告げる、最期の言葉を。

 

 

 

 

 

「 אבינו עלינו למות עם אבינו 」

 

《 我ら父と共に来たれり 》

 

「 באנו עם אבינו 」

 

《 我ら父と共に───》

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅ぶべし────ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが、光で包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 ───ここは、どこだろう。

 

 岸波白野は、花畑に立っていた。

 澄み切った青空と、暖かな陽光。

 柔らかい、子を撫でる親の手のように優しい風が吹く。

 

 何故か、見知らぬ場所なのにとても懐かしく、ずっとここに居たいとさえ思ってしまう。

 

 そんな場所に、どれほど立っていただろう。

 

 

 ───ぐす、ぐすん

 

 

 どこか聞き覚えのある泣き声が、聞こえた。

 

《痛い…》

 

 そこには、折れた葡萄の木があった。

 

《痛かったんだ…》

 

 その前で、うずくまって泣く子供の背中。

 

《パパは、痛かったんだ…》

 

 背に、小さな白い羽を、頭上にやさしく光る光輪を浮かべた少年が。

 

痛かっ(おこって)たんだ》

 

(かなし)かったんだ》

 

(こわ)かったんだ》

 

(ひもじ)かったんだ》

 

(にく)かったんだ》

 

《パパは、パパは…!》

 

 

 

 

 

 

とっても痛(死にたくなんてな)かったんだ!!》

 

 

 

 

 

 

 それが、少年(サマエル)が世界に、人類に伝えたかったことだった。

 

 人のような心を持って生まれてしまった不出来な神が、決して最期まで口にしなかった、心の底の本音だった。

 

《パパは何も悪くないのに…全部僕たちのせいなのに…》

 

 少年は、泣き続けていた。

 

《パパ…ごめんね…ごめんなさい…》

 

 もう何処にも居ない父に、決して会えない父の為に、ひとりぼっちで、ずっと。

 

 ずっと、謝り続けていたのだ。

 

 そんな少年の姿が見ていられなくて、声をかけてやりたくて、しかし何を言えばいいのか分からない白野の隣を追い越すように、もう一人の小さな影が飛び出す。

 

 どこか見覚えのある角を生やした少女は、少年の隣まで駆け寄ると、そっと肩に手を置く。

 

 泣き腫らした顔で見上げた少年に、少女は切ない程に優しい笑顔で言う。

 

《行こ?》

 

《一緒に、パパに謝りに行こ》

 

 少年は、ずびっと鼻を啜るとコクリと頷き…

 

《─────うん》

 

 手を繋いで、遥か丘の向こうへと歩き出した。

 

 父が旅立った場所へ、共に。

 

 英霊の座でもない、星の内海でも、根源でもない。

 

 何処でもない場所(・・・・・・・・)に、消えていく。

 

 異なる世界線で、かの魔術王も全てを手放して向かったそこに。

 

 白野は何も言わずに二人を見送る。

 自分に口を出す権利はない。

 

 だが、せめて───

 

 あの兄妹がもう…

 もう苦しみのない場所に行けるように。

 

 そう祈らせてほしかった。

 

 

 

 

 

 たとえ、もう祈る神が居ないのだとしても。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 最初に見つけたのは、ネロだった。

 

「───奏者よ!!」

 

 己がマスターを守ったのであろう黒金の手をどうにか引き剥がして抱き起こす。

 

 遅れて玉藻の前、紆余曲折あってセファールから切り離されたアルテラ…の幼体(ラーヴァ)を背負った無銘(エミヤ)もやって来た。

 

「ご主人様、しっかり!」

「マスター!」

「おとうさん/おかあさん!」

 

 皆の呼びかけに、呻きながらも重々しく瞼を開く白野。命に別状はない様子で安堵するのも束の間。

 

 SE.RA.PHを、ムーンセル全体を揺らす衝撃に全員が身構える。

 

 そして、はるか遠方に天を貫く火柱が現れた。

 

 歴史上観測されたいかなる火山噴火も霞むそれは、まるで大樹のように枝を広げ、ムーンセルどころか現実の月の外側に進出しようと伸び続ける。

 

 その光景に、サーヴァント達は戦慄する。

 

「まずい…羽化が始まったぞ!」

 

「そんな───「違う…」ご主人様?」

 

 絶望する彼らを遮り、衰弱しながらも白野が指差す。火柱の根本を。

 

 そこには…

 

「火柱が…」

 

 その光景に、皆が言葉を失った。

 

「凍っていく…」

 

 燃え盛る炎の樹が、止まっていく。

 

 根本から、凍りついていく。

 

 神の憎悪が。神の苦痛が。

 

 宇宙を滅ぼす厄災が、停止した。

 

 

 ─────ピシッ

 

 

 そして───

 

 

 パリィィィィンッ!

 

 

 砕け散り、欠片が雪のようにSE.RA.PH全体に降り注いだ。

 

 まるでダイヤモンドダストのように、幻想的に煌めきながら。

 

 SE.RA.PHに居る全員が、その光景に目を奪われた。

 

 誰もが理解できず困惑する中、ギルガメッシュだけは遠い目でそれを見つめていた。

 

「───見ておるか、四文字の神よ」

 

「今、貴様の身許に子が旅立ったぞ」

 

 誰に言うでもなく、千里眼で全てを見届けた黄金の王は独りごちる。

 

「これは一体…」

 

「…バアルだよ」

 

「奏者?」

 

 白野は、涙を流しながら呟く。

 

 

 

 

 

 

 

「バアルが………世界を救ったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 光は、いつまでも降り注いでいた。

 

 まるで、神の祝福のように。

 





「ただいまパパ」
「おかえりなさい」
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