B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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十一話 B級ランク戦第二試合・夜の部②

 転送と同時に紅豆隊は混乱の渦に叩き落された。降りしきる雪。積雪に足を取られ、視界は悪い。

『嘘……雪!? 穂波、マップ設定ってこんなこともできるの!?』

『えっと……できるみたい。わたしのリサーチ不足だ、ごめん……!』

『穂波は悪くない、それより視界の支援とレーダーお願い!』

 ヴィグナ、耳郎の二人はバッグワームを起動して走りだす。

 基本戦術に変わりはない。合流優先、開けた場所で待ち構え、ひとりの火力を活かした射撃戦に持ち込む方針だ。

「こちらひとり、転送位置は雪で埋もれてますが芝生地帯です……! 北西の敵をメテオラとハウンドで焼きだします!」

 森林公園マップの構成はマップ全体が森に覆われており、マップ中央を横断するように街道が走る。その側面には川と池が張られており、移動を妨げる。そしてマップ西には芝生地帯という、木々がなく射撃戦のしやすい環境が広がっている。

『後藤さんが芝生地帯に転送されたのは運がいいですね。耳郎さんはすぐ北東の敵は無視して、北西の敵を後藤さんと挟める形に動いてください。場合によってはバッグワームを外して圧を掛けてもいいです』

『りょーかい!』

 通信を終えると、ひとりはフルアタックでキューブを展開する。レーダーを見れば北西の敵はひとりの方向へと動き出している。いい的だ。

 敵がハウンドの射程圏内に入る。メテオラで木々をなぎ倒し、ハウンドを撃ち込んでいく。

 

 ◆

 

【挿絵表示】

 

 全チームを通して、バッグワームを起動したのは耳郎、ヴィグナ、直哉、冬優子の四人だ。

 実況席にすわるきりたんがカメラを動かしながらマップ情報を開く。

「マップ環境は豪雪ですね。これはかなり機動性を奪われそうです。芹沢隊は機動に特化した隊と認識していましたが、どういう意図でしょう?」

「あえて自隊に不利な環境設定をすることで隊員を鍛える目的……と好意的に解釈してさしあげることもできるでしょうけれど。あさひさんはそこまで殊勝な方でもありませんわね」

「楽しそうだから、だろうね」

 各部隊が動き出す。芹沢隊は合流を優先しつつ西へ動く流れ、市丸隊も同様に芝生地帯へ向けて動きだした。

「うーん、合流の面から見ると芹沢隊がかなり有利だね。ただ市丸隊と紅豆隊が衝突するのに絡めない位置でもあるかな?」

「市丸隊長と後藤隊員はすぐに会敵しそうです。場合によっては直哉隊員と紅豆隊長も遭遇戦になるかもしれません。ランク戦経験では市丸隊が紅豆隊に勝りますが、どう見ますか?」

「直哉隊員は足で稼ぐ優秀なスコーピオン使いですわ。紅豆隊長はアタッカーとして大きく劣りますが、積雪は彼女に味方するでしょう。勝負は7:3といったところではないかしら」

「なるほど……ランク戦第二試合夜の部、勝負は始まったばかりです。どのように展開が転んでいくか、注視していきましょう」

 

 ◆

 

『芝生にいるの、後藤ちゃんやね。これアカンわ、めっちゃ爆撃されとる。近づけんどころかそのうち逃げ場なくなるわ』

「アホ、最初にバグワつかっときゃよかったねん。雪のせいでそっち行くの時間かかるで」

 直哉は池を大きく迂回するように北西に向かう。池が凍って渡れる状態ならば話は早かったのだが、氷点下ほど気温は低く設定されていないらしい。

『マップ北と東に見えている二人は合流する動きですね。ひとりさんとは別方向で合流しようとしているあたり、これは芹沢隊でしょう。ギンさん、もう囲まれますよ』

『……バッグワーム使って一か八かで抜けられないか試してみるわ』

 またこの展開かいな! と直哉は毒づく。先日の第一試合でもギンは序盤でベイルアウトし、自分が点を稼がなくてはならなくなったのだ。

(ギンは見捨てるか? いや、ここでぼっちを放置したら試合が蹂躙されかねん。俺らの隊でぼっちを狩れるのはギンの旋空だけや……そう考えると芹沢隊はどうやってぼっちを狩る気だったん? 俺らの隊と潰し合わせたいんか?)

 思考が纏まらない。元より戦術知識がそれほどあるわけでもない直哉は、隊の旗振り役であるヱリカに指示を仰ぐ。

「どないしたらいい!? おいヱリカ! さっさと指示よこさんかい!」

『はっ、無様ですねぇ直哉さん。指示もなにも、そのままひとりさんを挟む形でギンさんと合流するのがベストです……と言いたいのですが、招かれざる客がいらっしゃったようで』

 レーダーに感があった。直哉が東方向を見れば、バッグワームを解除して槍型弧月を展開する赤髪の少女。

 合わせるように直哉もバッグワームを解除する。ギンはもう自力で脱出してもらうしかないだろう。

「市丸隊の直哉さんと接触、交戦します。あたしの合流は遅れるかもしれませんが、お二人の方針はそのままでお願いします」

 仲間の通信を取るヴィグナの言動を聞いて、直哉は青筋を浮かべた。

「あ゛? ……自分、勝てると思ってるん? ルーキー風情が」

 

 ヴィグナは槍を下に構えて動く気配を見せない。このまま時間を稼ぐつもりか? 舐めた真似をすると直哉は内心舌打ちする。

 風切り音とともに直哉の腕から何かが弾け伸びる。瞬間、物質化されたトリオン同士が激しく擦れあう音が雪の降りしきる森に響いた。そのまま連続して直哉の攻撃がヴィグナを襲うが、彼女のトリオン体にダメージを与えるには至らない。

(不意打ちマンティス防ぐんかい。ケツの青いガキが……!)

 マンティス。それは二本のスコーピオンを無理やり接続させ、攻撃射程、威力、変化速度諸々の性能をそのまま二倍に引き上げるトリガーの裏技のようなものだ。可変性が売りのスコーピオンの長所を引き延ばす飛び道具であり、仕様上フルアタックになってしまうというデメリットを押してなお強力な攻撃を可能にする。

 マンティス自体を開発したのは直哉とは別のアタッカーだったが、そのアタッカー自体は技量の問題でマンティスを十全に使いこなせず放棄している。一方の直哉はといえば、彼にはマンティスを使いこなす技量とセンスがあった。機動力で相手を攪乱しマンティスでシールドすら掻い潜って刺す。それは彼の十八番であり、アタッカーとしての自信の源である。

 直哉という男の根本にあるものは非常に単純だ。巨大な自己愛、自尊心。勝利と、敗者を踏みにじることの快楽。ゆえに彼は勝つために手段を選ばない。マンティスで攻めきれないなら二刀流でオーソドックスに押しつぶすまで。即座にトリガーを切り替える。

「おいガキ、自分なんで槍弧月なんつー使いにくいもん使ってるん?」

「えっと、はい。むしろ使いづらいからこそ選んだのかもしれません」

「はぁ?」

 剣戟を繰り返しながら二人は言葉を交わす。ヴィグナは手数の少なさを補うために躊躇なく後ろへ後退していく。持久戦の構えだ。

「あたしの持論なんですけど、使えない武器なんてないと思うんです。使いづらいと思ったら、それは使い手の技量不足だって。そういう武器の良さを引き出したいっていう思いがあるかもしれません」

「はっ、アホらし。いい子ちゃんかいな。そういうのは学校の作文にでも書きや」

「……あっ、今のってトラッシュトークですか?」

「……舐めんなや、ガキがァ!」

 手数のためにヴィグナは次第に押されていく。肩、太もも、脇腹にそれぞれ裂傷が走る。

 押し切れる。そう直哉が思ったときだった。

 遠く、北でベイルアウト反応が起きた。

 直哉とヴィグナはオペレーターを通じて、誰が落ちたか、いずれの点かを聞いた。

 

 ――落ちたのは市丸ギン。落としたのは芹沢隊である。

 

 刹那、直哉の思考が走る。このまま攻め切れば、時間はかかるがヴィグナを取るのは可能だろう。だがそれは1点にしか繋がらない。

 レーダーを見るに、芹沢隊と紅豆隊はまもなく交戦開始する。おそらくはあさひ、ひとりのどちらかが生き残るのは間違いないだろう。ここでヴィグナを下して時間を消耗すれば、生き残ったほうと真正面の戦闘を強いられる。自分は彼女たちに勝てるのか。考えるだけで苛立たしいことだが、認めざるを得ない事実。自分ではあの二人には勝てない。

 勝つにはどうするべきか。乱戦状態に飛び込んで、あさひとひとりの両名を自分が狩る。それしかないのだ。そのために取れる一点である目の前のヴィグナを諦めるしかない。

 どう転んでも腸が煮えくり返る。虫唾が走る。だが、だが。勝つにはこれしかない。

「……えっ!?」

 瞬間、直哉はバッグワームを起動して北へ走り出していた。

 

 ◆

 

 直哉の判断に観戦席はざわつく。

「直哉隊員のこの判断、どうでしょう」

「凡才ですわね」

「うーん、これは目の前の一点より北の数点を優先したってことだろう。僕は悪くないと思うな。勝負をあきらめない反骨精神が素敵だ」

「でしたら、最初から紅豆隊長を無視して北へ向かうべきでしたわね。判断が半端、そう評するほかありませんわ」

 相変わらずの毒舌だねぇ、とカヲルはにっこり笑った。

 きりたんは画面表示を北へと動かす。映し出されたのはバッグワームを解除して森中に潜む芹沢隊と、開けた場所で待ち構えるひとりと耳郎。

「後藤隊員が燻し出した市丸隊長を芹沢隊は綺麗に横取りしましたね。紅豆隊にとっては手痛い展開です」

「耳郎隊員は焦ったろうね。市丸隊長を挟むように動こうとしたら、逆に市丸隊長と芹沢隊に挟まれかけた。こうなったのはひとえに彼女の駒としての存在感が強くないからだ。盤面で影響力を発揮しようとするなら、相応の実力が必要だからね」

 あなたも存外舌が回りますのね、とグレイディーアは薄く笑った。




 ところで今更過ぎるメタ的な捕捉。原作ワートリではボーダーが設立されてから四年半以上たっていますが、本作のボーダーはまだ二年半ちょっとしか経っていません。つまり、それに合わせて隊員たちも二年半ちょっとしか訓練をしていないということで、原作に比べて全体の練度は低かったり、トリガー開発や運用思想に齟齬があったりします。
 時系列の差が如実に表れてるのはスナイパーの人数です。原作ワートリではB級以上のスナイパーは18人もいるのに対して、本作ではなんと6人しかいません。すくねぇ! スナイパートリガーが開発されたばかりで運用も教育制度もぼろっぼろな状態なので、スナイパー志望の子の多くはC級に滞留してる状態です。
 そんな6人のうち2人が長距離狙撃を放置して中・近距離で運用しだす暴挙に走る。イオリとゾルタンですね。上層部は大規模侵攻に備えて基地の上から狙撃で援護できる人材が欲しいのにこんなありさまで頭を抱えています。
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