B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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十二話 B級ランク戦第二試合・夜の部③

「すみません、脚をやられました。直哉さんがそっちに向かってます。奇襲に注意して森からできるだけ離れるようにお願いします」

 かなり深い裂傷からトリオン漏出が止まったのを確認すると、ヴィグナは片脚で北へ向かう。どうやら戦闘は膠着状態のようだ。

『芹沢隊の狙いが見えないのが怖いな。ぼっち、どういう意図だと思う?』

『えっと、わたしたちが芝生地帯で待ち構えているから攻めあぐねているんじゃ……?』

『んー。それだとそもそもマップ選択に違和感があるんだよね。ウチらが射撃戦で有利なのは戦う前からわかってるじゃん。なんか企んでるとは思うんだけど……紅豆、隊長としての意見は?』

 レーダーを確認する。自分たちを除いて映っているレーダー反応は二つ。一つの反応は黛冬優子であることを確認済みだ。それに寄り添うような反応は恐らくテイオーか。潜伏しているのはあさひと直哉だろう。

「耳郎さんの推察は当たっていると思いますが、方針を変える必要性は感じません。そのまま待機を継続して待ち構えて撃退する。それだけでわたしたちは勝てるはずです。揺れずにいきましょう!」

『……了解!』

『了解です!』

 

 それから数分後。ヴィグナは無事二人と合流する。ここまで戦況が動かないのは驚きだ。

「どうしますか? 市丸さんのときみたいにメテオラで森を焼きますか?」

「いえ。市丸隊長のときは耳郎さんと後藤さんで囲める位置でしたからそれができましたけど、今度やっても森の奥に逃げられるだけです。相手部隊もこのまま時間切れで生存点無しは厳しいはず。待ちの一手です」

 しんしんと雪が降りしきる。トリオン体は気温を感じることはできるが、苦痛にならない程度に感覚が調整されている。心地よい程度に指先が冷え込む。

「もし芹沢隊と市丸隊が交戦したらどうする?」

「そのときは……わたしたちも森に突入します。その場合は芹沢さんの潜伏に注意ですね。彼女には自隊の援護に向かうかわたしたちへの奇襲に向かうかの二択がある。それを意識して行動しましょう」

 

 その瞬間、森の中からベイルアウト反応があがる。ヴィグナは市丸隊と直哉が衝突したものを解釈して号令を出す。

「ッ、突撃! 二人は射程に入り次第ハウンドで爆撃!」

 レーダーを確認する。三つの反応が固まって動いている。消えている反応は冬優子のものだ。となるとこの三つはテイオー、あさひ、直哉が交戦しているもので間違いない。

 雪原を踏みしめて飛ぶように交戦箇所へと向かう。ちょうど森林地帯へ突入するあたりで、ひとりがフルアタックのキューブを展開する。そのときだった。

『あれ? これ、どういうこと……?』

「穂波? どうしたの?」

『いや、わからないんだけど……黛さんはベイルアウトしてるのに、市丸隊の禪院さんに点数が入って、ない?』

「……え?」

 ヴィグナが困惑の声をあげて、走る速度を緩めた瞬間。

 ――ひとりのトリオン供給機関が貫かれていた。

 本来そこにいるべきでない隊員。芹沢あさひがバッグワームを解除しながら、マンティスでひとりを貫いたのだ。

 

「――なん、で」

 

 後藤ひとり、ベイルアウト。

 

 ◆

 

「うわー、これは厭らしいね! 立案したのは間違いなくあさひちゃんだ。初見でこれは引っ掛かるよ」

 観戦室のスクリーンには続けて耳郎もマンティスの牙に貫かれてベイルアウトさせられる映像が流れる。これで芹沢隊に二点が入った。

 唯一ヴィグナは見切ってこれをいなしたが、あさひの攻める手は止まらない。

 より北東のほうに目をむければ、バッグワームを解除した直哉を捕捉したテイオーが映し出される。こちらも交戦を開始した。

「何が起きたのかを整理して見てみましょう。まず黛隊員が自主的なベイルアウトを発動。続けて東海隊員がダミービーコンを起動させて各隊員の位置を誤認させました。紅豆隊目線から見ると完全に芹沢隊と市丸隊が交戦したように見えたはずですね」

「直哉隊員にすれば、レーダーに出所不明の反応が増えたわけですから。あるいは何が起きたか察することができたかもしれませんけれど……」

「はい。そして交戦が起きたと勘違いした紅豆隊は警戒を解いて森へ突入。後藤隊員は無防備なフルアタックまで展開してしまいました。そこをバッグワームで潜伏していた芹沢隊長が強襲、という流れですね」

 

 勝負の趨勢は決まった、とグレイディーアは静かにこぼした。

 そこからは消化試合である。まず元々消耗の激しかったヴィグナが雪に足を取られたところをあさひの投げスコーピオンで貫かれベイルアウト。あさひはテイオーの下へ向かう。

 テイオーは直哉と交戦を続け、あさひが到着するほんのわずか前に首を取られベイルアウト。残った直哉とあさひが交戦を開始し、順当にあさひが勝利。

 

 試合終了のベルが鳴る。点数表が堂々と表示される。

 

 

得点生存点合計
芹沢隊527
市丸隊101
紅豆隊000

 

 

 ――芹沢隊、圧勝である。それは即ち紅豆隊の惨敗をも意味している――

 

 ◆

 

「オペレーターの怠慢ですわ」

 グレイディーアは試合結果をそう評する。

 芹沢隊が今回取った奇策、自主ベイルアウト戦法には致命的な欠陥がある。それは点数表の動きを見れば冬優子のベイルアウトが自主的なものであると見抜けてしまうことだ。そしてその情報を分析し、隊員に伝えるのはオペレーターの役割である。

「戦闘するのは戦闘隊員の役割、オペレーターは難しいことをしなくてよい、戦闘に対して責任がない……そうした緩んだ意識が今のオペレーター界隈には存在していますの。なぜ防衛任務には必ずオペレーターが配置されるのか、ボーダーがなんのためにオペレートシステムを構築したのかを今一度考えてみるべきでしょう。油断しきっているオペレーターたちに反省を促すよい試合でしたわ」

「あとは直哉隊員の動きがよくなかったね。あそこでバッグワームを外したのはまるで意味がない。たぶん、完全に混乱状態だったんじゃないかな? ちゃんと芹沢隊の策を見抜けていれば潜伏して生存点を潰すことだけはできた……ふむ。となると紅豆隊も策を見抜いて乗ってこなかったら、あさひちゃんはどうするつもりだったんだろう?」

 カヲルの考察に乗ったのはきりたんだ。

「恐らく、芹沢隊も潜伏して時間制限で終わらせるつもりだったのでは? 今回こそうまくハマりましたが、自主的に隊の戦力を一人削るというのは賭けに近い手です……そう考えると、芹沢隊長らしくない手な気がしますね。わたしのなかでの彼女のプロファイリングと微妙に一致しません」

「うん。僕もそう思う。推測になるけど、献策したのはあさひちゃんだけど実行判断を下したのは別の隊員なんじゃないかな? 僕の予想だと、黛隊員かノア隊員。今回の作戦指揮はこの二人のどちらかの手によるものだ」

 

 ◆

 

 芹沢隊の作戦室にて。大勝利にテイオーがくねくねとステップを踏んでいた。

「おおー、すごいっす。カヲルくん、完全に見抜いてるっすよ!」

「これ、ふゆの指揮があんたのそれに比べて、見てわかるレベルで拙いって意味じゃない。喜べないわね……っていうか、もしあんたが指揮官だったら自主ベイルアウト戦法は使わなかったの!? 自分から献策してきたのに!?」

「使わないっすね。解説でも言われてたけどリスクに見合わないっす。確かにこの隊の隊長はわたしだけど、指揮官はこれからもずっと冬優子ちゃんに任せるつもりっす。隊員から出された案の正否を判断することも冬優子ちゃんには覚えてほしいんすよ」

「む、む……」

 難しい顔をしている冬優子に、あさひはにやっと笑う。

「でも、面白そうで使いたかった策を使ってくれたのは嬉しかったっす。作楽隊のダミービーコンを見てからわたしもやりたいってずっとうずうずしてたんすよ!」

 無邪気に笑うあさひを見て、冬優子はため息をついた。




古戸ヱリカ←芹沢隊の策自体は見抜けたけど直哉と仲悪すぎて正確に情報を伝達させられず、あげくに「オペレーターの怠慢」と評されて実際自分の能力不足としか言えないのでなにも言えずキレている
禪院直哉←なにもわからずバッグワームを解除してしまいあげくにあさひにボコられて負けたけど自分の判断ミス実力不足でしかないのでなにも言えずキレている

活動報告に紅豆隊のパラメーターを掲載しました。質問等も受け付けてるので何かありましたらぜひそちらに。
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