B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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十三話 六月六日 敗戦

「負けた……」

「負けたね……」

「負けました……」

 隊室で揃って三人は上の空である。ただ一人、穂波だけが下を向いて俯いていた。

「わたしのミスだ。本当にごめんなさい」

 沈痛な面持ちに、三人は慰めの言葉を探す。しかし隊室から重苦しい雰囲気は抜けない。

 

『ごめんください』

 隊室のインターホンが鳴らされる。出れば、そこにいたのはグレイディーアと彼女に首根っこ掴まれて引きずられる跡部だった。

「あっ、師匠。どうぞ、狭いですが」

「お構いなく。それよりもランク戦、ご苦労さま」

 ふっ、とグレイディーアは表情を緩ませて笑った。

 

 ◆

 

「おいグレイディーア、俺様はなんで呼ばれたんだ? あーん?」

 来客用の椅子もない狭い隊室であるから、ヴィグナと耳郎はベイルアウト用のベットに座り、余った椅子を二人にゆずる。

「ランク戦の通知はもう来ているでしょう。彼女たち、こっぴどく負けたものですから。次に繋がるような叱咤でもしてあげてくださいまし」

「いや、お前解説してたんだからお前がやれよ。俺様、試合内容すら知らねーんだが……? ったく、おいおめーら、まずおめーらは今落ち込んでんのか?」

 グレイディーアの無茶ぶりに、もはや仕方あるまいと跡部は観念したようだった。それはある意味慣れているようでもある。

「あの、はい。一点も取れなかったので。さすがに堪えるものはありましたね……とくにその、穂波が」

 ヴィグナはちらりと穂波に視線を送る。

「おう、穂波。どんなミスをした?」

「……敵の誘導作戦に引っ掛かって、アラートできませんでした。そしたらバッグワーム奇襲で、ぼっちちゃんと響香ちゃんが一気に落とされちゃって」

「そうか。そのミスは次に繋がりそうか? 例えばだな。同じ作戦を敵が取ってきたら、次は見抜いて回避できるんじゃねぇか? お前はミスを経て成長したんだよ」

「それは……そうですけど……っ」

「まだ引っ掛かるものがあるんだな? ミスは反省可能なものだった。なのに負い目が消えねーってことは仲間への罪悪感か? 自分への羞恥心か? どっちにしろ、俺様が言葉を重ねるもんじゃねーな。仲間の目を見て話してやれ。そんで、次からはどうするかを釈明するんだ。そうすりゃすっきりするもんだぜ」

 このとき、穂波はようやく顔をあげた。隊室の皆が自分を見ていた。

 ヴィグナが穂波の手を取る。「隊員のミスはすべて隊長の自分の責任でもある、一人で背負う必要はない」と真摯な目で言った。穂波の顔にはわずかながら柔らかさが出る。

「……うん。次は同じミスはしない。ありがとうヴィグナちゃん、跡部先輩」

「うっし。少しは立ち直れたかよ? 次からはグレイディーア、お前がちゃんと面倒を見てやれ。俺様も忙しいんだからよ。まったく実力派エリートは引っ張りだこだぜ」

 そういってわしわしと穂波の頭をかき撫でると、跡部は立ち上がって隊室を去っていった。

 

「……彼、さぞ目上のように頭を撫でていましたけれど、まだ中学三年生ですのよ」

 グレイディーアがぼそりと零した言葉に隊室は混乱に包まれる。

「うそぉ!? あの貫録でウチらより年下!?」

「こ、高三とかかと思ってました……」

 紅豆隊の四人はみな高校一年生であるから、跡部は全員から見て年下ということになる。穂波は撫でられた頭に触れて不思議そうな顔をしてはにかんだ。

 

 ◆

 

 弛緩した空気のなか、グレイディーアが襟を正す。

「これからの話をしましょう、ヴィグナ。それと隊員のみなさんも」

 改めて小さく礼をするグレイディーアは優雅だった。感化されるように四人の背筋は自然とまっすぐになる。

「隊員のみなさんも存じているかもしれませんが、わたしはヴィグナがC級のころからアタッカーの師として彼女を指導しておりましたの。それは当然、彼女がB級の隊長になったからと言って放棄されるものではありません。今後は単なるアタッカーとしての師だけでなく、戦術や作戦指揮の面においてもヴィグナを指導していくことになる……そのことはつまり、わたしが間接的に紅豆隊のみなさんを指導する、ということをも意味しますわ。よろしくて?」

 流し見るような目線に、四人はこくりと頷いた。グレイディーアも呼応して頷く。

「結構です。もちろん、トリガー構成から隊の運用まですべてに口出しするような差し出がましい真似はいたしませんわ。基本的にはみなさんの自主的な向上心に信託します。わたくしの指導はもっぱら戦術論としミューレション室での戦闘訓練になるでしょうね」

「それは……はい、ありがたいんですけど、師匠。そんなにお時間を頂いていいんですか?」

 おどろおどろと聞いたのはヴィグナだ。グレイディーアはふっと笑って答える。

「A級は防衛任務を減らす代わり、積極的に下位隊員を指導するように今期から通達が来ているんですの。どうやら本部長たちはようやく教育制度の整備に手をつける気になったようですから、その一環でしょうね。もしかすると、ランク戦のシーズンが終わり次第B級にも鉢が回ってくるかもしれませんわ。C級の育成はどうしたって手が足りなくなりますもの――」

 

 グレイディーアは穂波からパソコンを借りると、カタカタとキーボードを叩いて隊の概算データを表示させる。

「話がズレましたわね。ヴィグナ、それにお仲間さんたち。まずはあなたがたの現状認識とこれからの隊の指針をお聞かせ願えるかしら? 本格的な指導は明日からにするとして、今晩のうちにこれからの方針についてミーティングしておきたいから」

「……おっす! ええと……あたしたちの隊の強みと弱みは、第一試合と第二試合を通して詳らかなものになったと思ってます。第一試合での大勝は、ひとえに後藤さんの実力に頼ったものでした。第二試合では後藤さんを活かせなかったがために敗北した。つまり、あたしと耳郎さんの駒としての実力が不足しすぎています」

「ですわね。あなたが隊を組んだと報告してきたとき、正直に言えば初戦から惨敗すると思っていましたの。後藤さんという才媛の勧誘がなければ事実そうなったでしょうね。耳郎さん、あなたのご意見は?」

「えっと、はい。ウチも……自分もそう思います。ぼっちに比べて、自分が果たせてる役割が下位互換過ぎるなって思って。それで昼間にシューターの人たちと相談してきたんです。そしたら花田さんって方に師匠になってもらえることになってまして」

「花田さんに。あの方なら間違いはないでしょうね。あとは望月さんでしたわね。先ほどの解説でこそ痛烈な批判をしていしまいましたが、オペレーターという役職は現在戦闘隊員に比べて経験を積める機会が圧倒的に少ないんですの。あなた方には個人ランク戦のようなものも公的な勉強会もありませんから……わかりますわね?」

「はい、精進します!」

 そうしてグレイディーアはデータをまとめて一応の結論を出す。

(あれぇ。わたしだけなんも言われてない……またハブられてるぅ……!)

 涙目になったのはひとりである。ずーんと陰キャオーラを発して諦観の表情を見せたひとりに、グレイディーアは小さく笑う。

「後藤さんに対しては、とくに言えることはありませんわね。わたしと同格の方ですもの。チーム戦の経験を積めば、あなたは自然と練達するでしょう」

 遥か格上の(と少なくともひとり側は思っている)相手に同格認定されて嬉しいやら、悲しいやら。どっちかと言えば子弟仲間認定されて甘やかされる待遇がよかったなぁと内心泣いた。

 

 ◆

 

 ミーティングで今後の方針を決めると、グレイディーアはヴィグナの頭にぽんと手を乗せて撫でた。

「ヴィグナ。今回の試合ですけれど。禪院直哉と打ち合って生き残ったことは大変すばらしい戦果でした。あなたも随分成長したわね」

「……おっす! 師匠、ありがとうございます!」

 そのとき、ボーダーから支給されたデバイスが揺れて通知を鳴らす。どうやら夜の部の戦闘がすべて終わったらしい。各自が順位表を眺める。

 

順位部隊名得点
1桐ヶ谷隊16
2レルゲン隊15
3美甘隊14
4ウェンリー隊13
5唐沢隊13
6芹沢隊13
7デグレチャフ隊12
8立花隊12
9作楽隊10
10市丸隊9
11キルステン隊9
12結月隊8
13エルリック隊7
14紅豆隊7
15ニアール隊7
16蒼森隊5
17クラス隊4
18白笛隊1

 

「うわっ、芹沢隊はもう上位入りかぁ。対してウチらは下位転落、これはダルいね……」

「次の対戦表も来てますね。あたしたちの相手はニーアル隊と、エルリック隊……!」

 ニアール隊とは第一試合で当たったばかりだ。師匠の手前もあり負けられない、とヴィグナは気張った。




隊員のメンタルケア、C級隊員への指導、広報への出演とやることが多すぎて跡部様は過労死寸前です。頑張れ跡部様。
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