B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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十五話 六月七日 オプショントリガー

 花田はデバイスを叩いてトリガーのデータを表示させて二人に見せる。

「さて……先日の練習会でお聞きになったかもしれませんが、現在のシューターの戦い方は大きくわけて二種類に分かれます。片方は御坂さん型の点取り屋としてのシューター。攻撃的な戦法ですね」

 御坂の提唱するドクトリンは単純であるが複雑だ。第一にシューターという職がガンナーに勝るのは機動力と対応力である。ガンナーは銃トリガーそれ自体が大きく嵩張るのに対し、射手は手を開けて大きく機動が可能であり、また腕を欠損しても攻撃力が落ちることがない。御坂が目指す究極的な戦闘スタイルは、機動力でもって攻撃をかわし、フルアタックで敵を制圧することにある。

 キューブを細かく分割して弾を散らすことで相手のシールドを広げさせ、そこを一点集中させたアステロイドで割る。こうした繊細かつ大胆なキューブの操作はシューターの特権であり、技術次第では格上のトリオン能力を持つ隊員のシールドも破ることができる。

 これを撃ち合いの基本戦術とし、さらに攻撃的なスタイルを極めていくのが御坂美琴と彼女のフォロワーのシューターたちの戦い方である。

「御坂さん、麦野さん、ヌドラークさん、それに少し変則的ですがめぐみんさん。そして後藤さんなんかがこのスタイルに近いと思われます。このスタイルを取っている方は総じて個人ポイントも高いですから、その有用さもわかるというものです。そしてもう一つのスタイルが跡部さん型のサポーターとしてのシューターですね。わたしも立ちまわりは跡部さんのやり方を真似ていますよ」

 先日、跡部隊のシミュレーションルームで教わった戦い方だ。位置取りと射程を活かして相手の注意を散らし、仲間との連携で点数を取る。特に跡部が志向しているのは前衛を張るアタッカーといかに連携するかという点にある。

「わたしの部隊や跡部さんの部隊はそれぞれチームのかなめになりうるアタッカーがいて、その人をシューターが支えるというスタイルが主軸です。その点で言うと、お二人のチームの紅豆さんはアタッカーとしてなかなか伸びしろがあるのではないでしょうか。耳郎さん程度の平均的なトリオン量なら、やはりアタッカーのサポートに回ったほうが活躍できると思われますよ。そしてそのオプション志向サポーターの道を極めた者こそ――このわたし、花田煌なのです!」

 極めたって自分で言っちゃうんだ……と耳郎とひとりは思った。

 

 ◆

 

 改めて花田はデバイスを差し出し、一つ一つのトリガー情報を見せた。最初に提示したのは『スタアメーカー』という名前のオプショントリガーだ。

「わたしが一番多様してるのはコイツですね。これは長距離射程持ちが隊員にいると非常に有用ですよ」

「確か、花田先輩の隊ってNo.1スナイパーの人がいるんでしたっけ」

「はい、シノンさんはすばらな子ですよ。このスタアメーカーはヒットした相手にレーダー上で機能するマーカーを付けてくれるのですが、シノンさんほどのスナイパーと組み合わせると、バッグワームを使われても壁抜き狙撃が可能になったりするのです。これを紅豆隊で考えてみると、耳郎さんがスタアメーカーでマーカーを付けて、後藤さんが遮蔽物ごしにハウンドでフルアタックする、などの形が刺さるのではないでしょうか」

 花田の提案した戦術を聞いて、耳郎は手ごたえを感じたような気がした。オプショントリガーとはそういう使い方ができるのか、と。

「オプションの使い方は使い手の発想次第でいくらでも広がる柔軟性があります。それこそわたしですら気が付いていない使い道があるかもしれません。ひとまず一通り耳郎さんが扱えそうなトリガーを見ていくことにしましょうか」

 次に花田が提示したのはエスクードだ。これは正確にはオプションではなく旧式の防御トリガーであるが、運用は基本的にオプションのそれに近い。

「コイツはまた万能ですよ。盾を作る、射線を切る、逃げ道を塞ぐ、物や敵を弾き飛ばす、エトセトラエトセトラ。ただトリオン量の消費が尋常でないのがたまに疵ですね。わたしは自分の役割を隊員たちの補助と割り切っているのでトリオン切れまでガンガンエスクードを出したりしてしまいますが……」

 続けてスパイダー、グラスホッパー、タイマーなど続けて紹介が続く。耳郎は一つ疑問に思ったことを恐る恐る声に出した。

「あのぉ……ダミービーコンってどうなんですかね? ウチらの隊とか、前回あれにしてやられたんですが」

「あぁ! ダミービーコン! すっかり忘れてました。わたしは中々使わないものですから」

 聞けば、ダミービーコンは前回のシーズンで試作型として開発され、第10試合以降からランク戦でも使用が許可され始めた最新のトリガーなのだという。

 

「実際前シーズンはかなり流行りましたよ、アレ。今シーズンで作楽隊がかなり尖った使い方をしてるようで……わたしが使わないのは、B級上位にダミービーコン殺しの方がいらっしゃるからですねぇ」

「ダミービーコン殺し……?」

「はい。ずばりガンナートリガーの派生型、『迫撃砲型』のメテオラを持ってらっしゃる方がいるんです」

 ガンナートリガーは突撃銃型や拳銃型、散弾銃型など用途が細かく分かれており、さらに詳細にはモデルになった銃器ごとにも性能が別れている。そんななかで一風変わって尖った性能を持つガンナートリガー、それが迫撃砲型だ。

 その最大の特徴は射程の長さ。スナイパートリガーの最大射程が現在およそ1キロ程度に留まるのに対し、迫撃砲型トリガーに詰めたメテオラの弾道はなんと1500メートル先まで砲撃可能なのだという。

「射程が長いから有利と思われるかもしれませんが、欠点もあります。まず精密な砲撃が出来ません。狙った場所から数十メートル近くずれることもあります。警戒区域外に流れ弾が出る可能性があるからと防衛任務での使用がかなり縛られるそうですし……加えて重くて高速戦闘には到底ついていけない。一度展開するとトリオンを相当量取られるらしく、再展開も難しい。欠点まみれなトリガーです。それでも超長距離からの砲撃は強力で……ダミービーコンを破壊するのにも最適なトリガーだと言われています。ダミーはシールドも張ってませんし、トリオンによる攻撃でなくとも壊れますからね。メテオラで飛ばされた瓦礫がぶつかるだけでおしゃかです」

 そんなトリガーを運用する方が上位にはいらっしゃるので、上位ではダミーがまったく使われなくなりました、と花田は話をしめる。

「ああ、ですが。あそこの隊はたしか今期に入って中位に落ちてたかしら。紅豆隊がもう一度中位に上がることがあれば戦う機会もあるかもしれません。もしダミービーコンを入れるおつもりなら、気を付けることです」

 数多のオプションに、迫撃砲。一口にトリガーと言ってもまだまだ自分の知らない派生があるのだなぁと耳郎は呆けた顔で聞いていた。

 

 ◆

 

 一通りの説明を終えて、花田は静かにコーヒーを啜った。

「わたしがお伝えできる基本的なオプションの使い方はこんなものですね。あとは自分で使うことで、思いがけない活用法を見つけていく。それもオプショントリガーの醍醐味ですので。最後に忠告しておきますと、新トリガーを入れたからと言ってそれに振り回されないことです!」

 花田は指を立てて言った。耳郎はこくりと頷く。

「シュータートリガーでできることはシュータートリガーでやる、ってことですか?」

「すばら、超すばらです! それが言えるならもうサポーターとして基本は完璧でしょう。あとは実戦で練習あるのみ、行動あるのみです! オプションはあくまでオプション。自分が活躍することよりも他人を活躍させることがサポーターとしての王道です。捨て石上等、肉盾上等というわたしの信条を耳郎さんが継承してくださることを心より願っておりますとも!」

「に、肉盾っすか。あはは……」

 花田は黙って話を聞くに徹していたひとりのほうを向きなおす。

「後藤さん、あなたは確実にエースになりうる力を持っています。サポーターとして開花した耳郎さんと後藤さん、それに紅豆さんがいらっしゃれば必ずやB級上位に……いえ、今シーズンには厳しくとも数シーズン中にA級にまで上がることも可能でしょう! ご活躍、期待していますからね!」

「あ、はい。ありがとうございます……」

 花田のまっすぐとした姿勢と声援を正面から受け取り、ひとりは少し胸が熱くなるのを感じた。

 今日もこの後にチームでのバンド練習が控えている。A級にあがって、ライブをやる。その目的意識を強く持ち直した。




拙作にはオリジナルトリガーがいくつか登場予定ですが、そのうちの一つが『迫撃砲型』トリガーです。ゾエさんの適当メテオラの射程と火力がヤバくなった代わりに重さとトリオン消費もヤバくなる感じ。当然使い勝手が悪いので使用してる隊員は現在一人しかいません。
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