B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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十七話 B級ランク戦第三試合・昼の部①

 六月九日。土曜日。午前。

 B級ランク戦上位の部。第三試合昼の部。

 この試合、ヴィグナは解説役として招待されていた。ヴィグナの解説を聞くために紅豆隊の面々も後方の観覧席に座っている。

「今日もやっていきましょう、実況は毎度おなじみ、結月ゆかりさんでーす! 本日の解説はこのお二人! B級暫定2位レルゲン隊ガンナーのジョナサン・グレーン隊員とB級14位隊長の紅豆ヴィグナ隊長です!」

 ゆかりの紹介に応じてヴィグナは勢いよく挨拶する。

「紅豆さんは解説が初めてとのことで、ジョナサンさんはサポートお願いしますね。紅豆さんは臆せずガンガン発言してくださると助かります。実況解説の制度は解説される側だけでなく、解説する側の戦術的素養を成長させる目的もあって作られたものですから」

「おっす、勉強させていただきます!」

 ヴィグナが解説席に招かれたのはグレイディーアの推薦あってのことだ。先日の宣言通り、グレイディーアはヴィグナを本格的に隊長として育成し始める目算らしかった。

「では対戦表をどうぞ!第三試合昼の部のマッチは……暫定順位一位『桐ヶ谷隊』vs四位『ウェンリー隊』vs六位『芹沢隊』となります。ジョナサンさん、注目している点はありますか?」

 

【挿絵表示】

 

「そうですなぁ。やはりキリトのやつばらと芹沢隊――No.3アタッカーとNo.4アタッカーの衝突は注目していますよ。とくに芹沢隊長はB級に落ちてから初の上位戦、どこまで通用するか見ものです」

 ジョナサンからのアイコンタクトを受け、ヴィグナも口を開く。

「解説のオファーを受けてからログを拝見しましたが、ウェンリー隊はすさまじいですね。勝てる試合は大勝ちして、勝てない試合となれば徹底的に逃げ回って生存点を潰しにかかる戦術は見事です。マップ選択権のある芹沢隊はウェンリー隊の逃げまわりを潰せるマップを選んでくると思いますから、その二隊の駆け引きがどうなるか注視していきたいです」

「はい、ありがとうございます。それではマップが選ばれたようなのでさっそく確認してみましょう……選ばれたマップは――『空港』マップだ!」

「ウェンリー隊の逃げを潰しつつ、桐ヶ谷隊と正面からぶつかるにはここしかない……が、朝田隊員が暴れるでしょうなァ」

 ジョナサンは独り言ちるように呟いた。空港マップ。二つのターミナルと一つの管制塔、それ以外は滑走路が続く、非常にひらけたエリアだ。

 即ち、どこよりも狙撃が活きるマップということでもある。

 

 ◆

 

 桐ヶ谷隊隊室。

 桐ヶ谷隊はB級のなかでも『もっともA級昇格に近い部隊』と噂される部隊だ。

 まずなによりも隊長である桐ヶ谷和人――親しい者からはキリトと呼ばれる――はボーダー全アタッカーランキングの三位に輝く二刀弧月使いである。一対一の二刀流フルアタックになればNo.1アタッカーである煉獄にも引けを取らない攻撃力を持つと評される彼の最大の武器は、剣術の腕というよりも反射神経の高さそのものにあった。

 近接戦闘での反射の速さ、長距離狙撃への対応力。一瞬の攻防が生死をわかつトリガー戦闘において、キリトはすさまじい集中力と反射能力を示している。その才能はあくまで彼本来の能力に由来するものだが、水準はサイドエフェクトの域にあるとまで言われたほどである。

 そうしたトップクラスのエースであるキリトを支えるのは、No.1スナイパーとして名高い朝田詩乃、ボーダー屈指のサポートシューター花田煌、司令塔として部隊を支えるオペレーター阿良々木暦。隊員同士の連携、戦術レベルなどの面を取っても彼らはB級のトップと言って差し支えない。

「空港マップ……主導権は俺たちにあるな。問題はシノンの狙撃をどのタイミングで切るか、か」

「芹沢隊の狙いはウェンリー隊潰しね。わたしの狙撃をウェンリー隊に切らせたいんでしょう。向こうの狙いには乗りたくないわ」

 キリトとシノンが狙撃をベースとした戦術を組むなか、花田はトリガー構成にメテオラを組み込むよう阿良々木に頼んでいた。

「オッケー。いつもの『地下道潰し』用のメテオラだな。でも芹沢隊は地下道付近で待ち構えるかもしれないぞ、大丈夫か?」

「そこは阿良々々々木さんのご采配とキリトさんにどうにかしてもらうつもりですとも」

「おい花田、僕の名前は阿良々木だ! 『ら』が二つ多いぞ」

「失礼、噛みました」

 コントのような流れを披露する花田と阿良々木にキリトは苦笑する。

 

 元よりキリトは物を考えて部隊を指揮するというより、前衛で切り合うことを得意とする隊長だ。彼にシノンと花田が合わせ、阿良々木が全体を調整することで連携を成り立たせている。そのためキリトは阿良々木に全体の指揮や策を任せることが多く、今回もそのように献策を募った。

「ん、そうだな。状況に合わせて臨機応変に動こうとすると、前回みたいにウェンリー隊に弄ばれて終わりそうだ。点を均されるのは面白くない。最初から狙う敵を絞って初志貫徹した策を取るのがいいんじゃないか?」

「となると……狙うのは芹沢隊がいいと思うわ。ウェンリー隊を狙って芹沢隊の荒らされるのと、芹沢隊を狙ってウェンリー隊に荒らされるの。より怖いのは前者よね」

「乱戦での真希さんもすばらに恐ろしい方ではありますけどね」

「よし、じゃあ芹沢隊狙いで決定だ。狙撃のタイミングはいつも通りシノンに一任する。煌は地下道を潰しに行く、俺はその護衛に回って、地下道を潰し終わったらシノンを守るような形で動く。異論は?」

 三人は揃って異論なしと答えた。

「目標は一位の死守! 今期は本気でA級昇格を狙っていくぞ!」

 

 ◆

 

 ウェンリー隊隊室。

 ウェンリー隊の隊長であるヤン・ウェンリーはB級のなかでも間違いなく最弱の隊員だと見做されている。ポジションこそガンナーであるがそもそものトリオン量が低く相手のシールドを破れない。どころか射撃の腕も低くアステロイドでは当たらないのでハウンドを多用する傾向にある。正面から撃ち合えばC級にすら容易く敗れるのではないかとすら言われている。

 そんな彼がB級上位ランク戦という過酷な競争のなかで隊長としての地位を預かっているのはなぜか。それは彼がこと戦術面において天才的な指揮能力を持つからである。その輝かしい戦績のために継いだ綽名は『ミラクル・ヤン』。もっとも、ヤン本人はこうした評価は自分には過ぎたものだと自認していたが。

「なぁなぁ、ヤンの兄貴! 空港マップだってよ、作戦はもう決まってんだろ?」

「はてさて、尻尾を巻いて逃げるのが得策だとわたしは思うのだけれどね」

 試合前だというのにブランデー入りの紅茶を啜って、ヤンはオペレーターである右代宮戦人の催促をやんわりと受け流しす。

 それに反応したのは禪院真希だ。ベットで胡坐かいているめぐみんをデコピンでコテンと転ばせて口を開いた。

「そりゃマップ選択権がウチらにあるときの話だろ、隊長。実際シノンのやつの狙撃は怖いぞ、どうすんだ?」

「狙撃相手ならっ! このっ! わたしのっ! メテオラがっ! お相手いたしましょうとも!」

「めぐみん、オメーそれで前シーズンは唐沢相手にボコボコだったじゃねぇか。長射程と殴り合いのはヤメロっつの」

 ウェンリー隊に流れる弛緩した空気は、ヤンという男の隊長としての格を物語る。彼に任せれば大勝とまではいかずとも大負けすることはないという隊員たちの信頼がそこにはあった。

 

(とはいえ……桐ヶ谷隊と芹沢隊に集中して狙われたら綺麗に負けることもできそうにないな)

 ヤンは紅茶を啜りながら物思いにふける。いくら戦術や用兵に優れていたとしても、戦略レベルの苦境を覆すことはできない。ウェンリー隊がA級に上がれないのはヤン本人が隊の足手まといになっているからだと彼は考えていた。

(わたし自身が不甲斐ないのは仕方ないこととして、隊員たちのためにも引き分けぐらいには持ち込みたいものだね)

 元よりトリオン量も足りない。防衛隊員としての戦意にも欠ける。そんな彼がB級部隊の隊長をやっているのは、彼の能力を見抜いた上層部によって半ば強引に人事を弄られたがためである。

 昼行燈で余裕そうな顔をしているヤンを、真希は「つーか学生の前で酒飲んでるんじゃねぇよ!」と叱咤した。

 

 ◆

 

 芹沢隊隊室。

 前回とは異なり、今回はマップ選択から作戦の制定まであさひはすべてを冬優子に一任していた。

 冬優子はスクリーンの前に立って立てた作戦を再度確認していく。

「ウェンリー隊を自力で撃破することは諦めるわ。生存点を狙うより、目の前の点を1点でも取るのが基本戦略。どうかしら?」

「冬優子ちゃんの方針はわかったっす。マップ選択の意図はどこにあるのかと、狙撃対策についてはどう考えてるっすか?」

「逃げまわりにくい地形を選ぶことで、生存点潰し狙いが多いウェンリー隊を桐ヶ谷隊と喰い合わせるのが狙いよ。特に狙撃がウェンリー隊に向けられたら万々歳。狙撃対策に関しては、詩乃ちゃんの位置が割れるまで徹底して屋内で戦うことに専念してちょうだい。ターミナルの中ならそうそう狙撃も活きないわ」

 冬優子の立てた策を聞いて、あさひはなるほどと頷いた。

「とりあえず、それで動いてみるっす。テイオーちゃんとハサウェイさんの意見は?」

「特にないかな。広いマップだし、ボクは指示通りに全力で走るよ!」

「僕としては……そうだな。狙撃対策が甘く感じた。朝田さんの転送位置次第では、僕らが屋内に入る前に狙撃が来るかもしれないが?」

 ハサウェイの意見に冬優子はむむと唸る。

「もし狙撃で誰かが落とされても、詩乃ちゃんの位置は割れるから……テイオーちゃんかあさひの脚があれば1;1の交換に持っていけると思うんですけど……だ、だめかしら」

 助けを求めるようにちらと冬優子はあさひを見た。

「運次第っすね。シノンちゃんは逃げ足も一流っすから、キリトさんにカバーにでも入られたらまず追えなくなるっす。でもマップはもう決定しちゃいましたし、今から方針変えるのは難しいかな。このまま行くっすよ」

「……わかったわ」

 含みのあるあさひの言葉に、冬優子はすこしもどかしさをかんじつつも、試合に向けて意識を切り替える。

 

 ◆

 

 再び観戦室。実況席に座るゆかりがマップ画面を表示させる。

 

【挿絵表示】

 

「ではマップの概要を説明していきましょうか。まず空港マップの特徴はなんと言ってもその広さです。およそ5km×7kmと数あるマップのなかでも最大の面積を誇っていますね」

「その大部分を占めるのが屋外の滑走路地帯ですなァ。ターミナル付近には航空機や特殊車両が並んで射線を遮るエリアもありますが、基本的にはとにかく視野が開けていて射撃戦に適した地形だと言えるでしょう」

 ジョナサンの指摘を引き継いでゆかりは説明を続ける。滑走路地帯のなかに浮かぶように中央に第一ターミナル、南西に第二ターミナルが存在している。ターミナル内は三階構造であり、商業施設や空港の関連設備が入っている。

 第一ターミナルのなかには管制塔が立っており、狙撃に適している。また第一ターミナルと第二ターミナルは車両用の地下道が通っており、この地下道を使うことで狙撃を避けながらターミナル間を移動することができるのである。

「このマップでの試合はいくつかログで見ましたが、序盤で地下道がメテオラで崩されることが多いですよね。アレはどういう目的で行われてるんでしょうか?」

「はい、それはひとえに相手チームをターミナル内に押し込めるためなんです。空港マップはたいてい序盤が屋外に転送された組の射撃戦と狙撃戦、中盤以降はターミナル内の屋内戦になるという傾向があります。そして二つのターミナル間の移動は地下道を使わない限り無防備極まりないのです。ターミナル間の移動を防いで戦闘エリアを制限する意図がある、ということなんですね」

 ゆかりが丁寧な説明を終えると、ちょうど転送時間を告げるベルが鳴る。実況のボルテージがあがり、場は盛りあがっていく。

 スクリーンのマップ上に各部隊のレーダー反応が表示される。

「はい、全部隊転送完了となりました! 各部隊バッグワーム、レーダーを起動。試合開始です――!」

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