「アタッカー以外の全員がバッグワームを起動しましたね。転送位置は桐ヶ谷隊ウェンリー隊がやや固まって有利でしょうか?」
「朝田隊員がすぐに狙撃に動ける位置にないのは大きい要因ですなァ。芹沢隊は分断された形ですが、すぐに合流するでしょう。そう見るとウェンリー隊が囲まれているようにだって見ることもできる……」
「東海隊員、桐ヶ谷隊長、真希隊員はお互いを視認し合えますね。その後のレーダーの動きでどの隊がどこにいるのかおおまかに把握し合うかもしれません」
テイオー、キリト、真希のそれぞれの距離はおよそ2kmから3kmほど離れている。通常の視力ではお互いが誰かを確認しえないだろうが、トリオン体は視力も強化されるから判別程度はできるだろうとジョナサンは付け加えた。
「さて、最初に動くのはどこになるでしょうか――いえ、さっそくめぐみんさんが動くようです。ふむ、これは」
ゆかりは巧みに画面を操作してめぐみんへのカメラをピックアップする。彼女は開幕早々メテオラを展開していた。
◆
『こちらテイオー! 南のレーダー反応は真希さん、第二ターミナルに向かってる! 北は桐ヶ谷さんで第一に向かう動き! 僕もこのまま第二ターミナルに突っ込むね!』
『冬優子ちゃん、レーダーの動きからなにが見て取れるか考えてみるっす。それぞれの合流の意図を考えればバッグワームで潜んでいる隊員の位置を推測できるはずっす』
テイオーの視認情報をもとにハサウェイがレーダーにタグをつける。冬優子はそれを見てテイオーと合流する形で北上を急ぎながら、あさひからの問題に思考を裂く。
「えっと! 真希さんは合流の動きならめぐみんさんのカバーに入るから、第二ターミナル付近にはめぐみんさんがいるのと……桐ヶ谷さんは朝田さんか花田さんと合流したがるから、どっちかが第一ターミナルにいるってことかしら?」
『正解っす。ただウェンリー隊は釣りをよく使いますから、素直にめぐみんさんが第二にいると考えるのは危険っすけどね。桐ヶ谷隊は素直な動きが多いのでそのままで捉えて間違いないっすけど』
そしてテイオーの動きから冬優子の位置も相手の隊にはバレているだろうこと、またバッグワームを使わず合流の動きも見せないことから第一ターミナルの反応があさひであることも敵チームには見破られているだろうこともあさひは付け加えた。
そこまで思考が至らなかった未熟さに冬優子は歯噛みする。しかし戦況は彼女の思いを置いて目まぐるしく動く。
――大きな爆発音があがる。つづいてテイオーが爆発の視認を報告する。第二ターミナル方面地下道入り口だ。
これほどの火力を一挙に出せる隊員はボーダー内でも多くない。この試合に参加している隊員ともなれば一人である。ボーダー内トリオン能力トップ2のメテオラ狂い、紅魔めぐみんのメテオラ爆破だ。
地下道の入り口が、落とされた。
◆
『めぐみん、そっちにテイオーのやつが行くぞ。ターミナル内なら隠れて時間稼ぎもできんだろ。わたしが行くまで震えて待ってろ』
『言われなくともガタガタブルブルですがぁ!? 早くヘルプ! わたしはアタッカー相手じゃ5秒持ちません!』
『誇らしげに言うなや!』
楽し気な隊員たちの会話にヤンは苦笑する。地下道を最速で落とせたのは僥倖だ。シノンの位置が割れてない以上、芹沢隊と自分たちは狙撃を警戒して屋内に引っ込まなければならない。戦局は膠着に陥るだろう。
第一ターミナル内でバッグワームを使っていない隊員は十中八九あさひだ。桐ヶ谷隊と食い合ってくれるだろう。自分はそれの漁夫の利を奪えないか、裏取りをできるように動くことを心掛ける。
「屋内でも窓のある地形からはできるだけ離れるようにね。朝田さんならターミナル間でも狙撃を通してくる。おそらく第二ターミナル内の戦いは真希くんとめぐみんくん、東海くんと黛くんの2vs2になる。狙撃さえ絡まなければ勝てる勝負だから、じっくり時間をかけてやってくれ。戦人くんは二人のサポートに回りなさい」
『了解だぜ、兄貴! 万が一花田のやつが第二ターミナルにいたら、スタアメーカーからの壁抜き狙撃もあり得るからな。二人とも警戒しとけよぉ!』
『……了解!」
『りょりょ、了解です! それよりテイオーさんが迫ってきてます! たっ、助けてください!?』
◆
試合開始から数分。シノンは第一ターミナルの屋上、室外機が並んで潜伏できる場所で狙撃の用意に移る。すでにキリトもターミナル内に侵入し、花田と合流。戦闘の準備は整っている。
「地下道をウェンリー隊が潰してくれたのはありがたい。俺と花田は第一ターミナル内のあさひと思しき反応を狩るぞ。最終的な判断は任せるけど、シノンは第二ターミナル内に狙撃でちょっかいをかけてもいいかもな」
『スタアメーカーでマーカー付けてくれたら上から床抜き狙撃もできるけど?』
「速度に振り切ったアステロイドでもあさひさんはスタアメーカーを当てさせてくれないでしょうねぇ。それに彼女の前でフルアタックを使うのはすばらに恐ろしいので勘弁です」
『あ、そっか。ごめんなさい』
余談であるが、スタアメーカーでマークをつけた場所への狙撃はレーダーを参考にした盲撃ちとは精度が格段に異なる。なによりスタアメーカー狙撃はレーダー狙撃のそれに比べて、オペレーターが行う作業の負担が違うという事情があった。
阿良々木はボーダーのオペレーターの能力平均から言って決して劣っているわけではないが、レーダー狙撃を戦闘中のリアルタイムで補佐できるほどの高い支援能力を有しているとは決して言えない。レーダー狙撃は高度な技術を持つ狙撃手とオペレーターが共同して初めて行える専門技術なのだ。
キリトと花田はターミナル一階を走る。
「あさひ視認。バトル開始だ」
「……っと、花田さんとキリトさんっすか。1vs2となると不利に思えるっすけど」
あさひはニィっと笑う。キリトはその含意を即座に理解して後方にシールドを展開させた。
ガキン、とトリオンの弾丸をシールドが弾く音。見れば、はるか後方、商業施設の影に拳銃を構えたウェンリーが立っていた。後ろ足を隠さない動きだ。キリトがウェンリーを追おうとすればすぐに逃げ出す構えだろう。
「さすがウェンリーさんっす! こういうときの動き、自分も真似したいっす!」
「ははは、照れるね。悪いがわたしは時間稼ぎが目的だ。引き目で戦わせてもらうよ」
あさひがヤンに声が届くように声を張り上げると、ヤンもそれに呼応する。二人は完全に共闘して桐ヶ谷隊と戦う姿勢を見せていた。
「どうしましょうかキリトさん。ヤンさんから落しに行きますか?」
「……いや、あさひ相手に後ろを見せるのは怖い。マンティスで狩られるぞ。ヤンさんからの圧力はどうせ拳銃一個のハウンドだ。花田がシールドで対応してくれ」
「任されました!」
キリトは弧月を二本展開させる。彼が最も得意とする二刀流のスタイルだ。ガードは完全に花田に任せ、一気に攻め込む算段である。
◆
「戦局はかなり固まりましたね。それぞれのターミナル内で戦闘が開始されました。第一ターミナル内では桐ヶ谷隊相手に芹沢隊長とウェンリー隊長が共闘。第二では東海隊員・黛隊員が真希隊員・紅魔隊員と衝突する姿勢です。この試合、どうでしょう?」
ジョナサンは胸元のポケットに指を突っ込みながら答える。
「真希隊員はトリオン能力が低いために実力を低く見積もられがちですが、キリトや芹沢隊長に並びうるエース級のアタッカーです。アタッカーの戦闘能力はトリオンなるものの絶対量が必ずしも関わらない。一方シューターの紅魔隊員も攻めに振り切りすぎている気はあっても、トリオン能力は莫大。ウェンリー隊が有利でしょうなァ」
「しかしウェンリー隊が第二ターミナル内で勝っても、第一ターミナルに行くには狙撃が問題になりますよね。朝田隊員は潜伏しているだけで……いえ、潜伏しているからこそ活きている。スナイパーとはそういう駒ですか」
「ですね。さて、緒戦が火ぶたを切り、試合は中盤の佳境を迎えたと言ったところか。二か所での同時戦闘に目が離せません――!」