B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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二十話 B級ランク戦第三試合・昼の部④

 キリトはターミナル内を駆ける。というよりも駆け回らされている。

 相対するあさひはキリトと一切切り合う姿勢を見せない。キリトが寄れば徹底して下がり、追うのを諦めれば花田が狙われる。その護衛に回ればまた逃げられる。ヤンからの射撃もうっとおしい。射撃の回数こそ少ないものの、そのタイミングが実にいやらしい。こちらの注意力を削ぎ、機動を制限する射撃だ。

(あさひには足の速さで完全に負けてるんだ。ウェンリーさんを狙いにいっても花田が落とされるだろうな。どうしたらいい……!?)

 敵の狙いも読めない。時間を稼がれているのか、消耗戦のつもりなのか。

『第二ターミナルから真希さんが出てきたわ。一分しないうちにこっちに入ってくるわよ』

『狙撃できないのか?』

『してもいいけど、撃てばわたしの位置がバレる。芹沢さんと黛さんが合流する隙ができるわよ。射撃トリガーのない真希さんとガンナーの黛さん、どっちが怖い? それに芹沢隊狙いって方針でしょ?』

『……シノンの言うとおりだ。真希は俺が受け持つ。そのまま狙撃姿勢で待機してくれ』

 今でこそあさひとヤンに苦戦しているキリトではあるが、それは彼らが搦手に徹しているからにすぎない。もし正面を切っての戦闘であれば、あさひと真希の両名に囲まれていてもキリトは耐え抜くどころか白星を狙うこともできる。それほどまでにフルアタックの彼の攻撃性能は高かった。

 加えて、今はサポートとして花田が横にいる。この状況、勝てはせずとも負けはありえない。しかしキリトの精神面は少しずつ焦れていた。

『阿良々木。真希がシノンを探す動きに走ったらどうする? 俺が援護に回るか?』

『何言ってんだ! ターミナルは広い、屋上には障害物もある。シノンはそう見つからないさ。それに援護に回ったら逆に位置を知らせてるようなもんだ。お前は目の前の戦いに集中してろ!』

 叱責の言葉にキリトは歯噛みした。状況を変えたいという念は振り払えない。

 キリトとあさひが衝突して数分、戦闘は泥沼だ。キリトと花田は無傷ではあるものの、攻めきれない。あさひの撤退判断とヤンの射撃による戦況コントロールが場を支配している。

(くそっ、逃げに回ったあさひがこんなに厄介だとは思わなかった、旋空でも捉えきれない……! 射程のあるトリガーを持ってなかったことを悔やむ日が来るなんてな……真希が来る前に仕留め切りたかったけど……これもウェンリーさんの狙い通り、か?)

 焦る。ただ焦る。

 

 ◆

 

『真希くん、こちらの交戦位置ではなく屋上に向かってくれ。シノンくんを探すんだ』

「……本気か? ターミナルがどんだけ広いと思ってやがる。見つかりっこねぇよ」

『ははは、ブラフだよ。バッグワームは起動しないでくれ。レーダーの動きをみればあさひくんは同調してくれるはずだ』

「……なるほど?」

 真希は指示された通りに屋上にあがる。屋上といっても複雑な構造だ。商業施設、展望デッキ、管制塔が並び、容易く見渡せるような作りにはなっていない。管制塔に昇ったとしても見下ろして見つかるような場所にシノンが潜伏しているとも思えない。

 偶然でもシノンを見つけて点数に変えられたら上々と思いつつ、真希は屋上を駆ける。

 レーダーを見れば、あさひのタグが付いていた反応がバッグワームで消える。キリトと花田はそれに呼応するように駆けだす。

(……隊長の読み通り、か)

 数十秒しないうち、ベイルアウト反応があがる。落ちたのは花田、落としたのはあさひだ。

『崩れたね。こっちに降りてきてくれ。あさひくんと君、そしてわたしで囲む。わたしの射撃があれば彼は得意の二刀流を使えない。問題なく落とせる。あとはどっちがキリトくんの点数を取るかのレースで詰みさ』

「あいよ」

 ヤンがやったことは大雑把だが理解できる。自分とあさひがシノンを探しに行く動きをすることで釣り出し、有利な地形と条件であさひに花田を狩らせた。言えば簡単だが、実際には多くのミスディレクションや思考誘導を挟んでいるのだろう。

 ヤン・ウェンリー、自分たちの隊長ながら末恐ろしい。真希はそう感じた。

 

 ◆

 

 それから先は消化試合である。あさひと真希、そしてヤンが共同してキリトを落とす。点数はウェンリー隊に入った。その後あさひと真希は交戦を開始し、しかし真希は徹底して時間稼ぎに徹する。やがてあさひが真希を落とすも、そのころにはヤンはあさひから距離を取って自主ベイルアウト。残ったのは第二ターミナルの冬優子と第一ターミナルのあさひ、シノンの三名である。

 あさひはシノンを見つけ出すのは困難と判断したのか、捜索の動きは消極的である。先ほどのキリトたちの動きでシノンが第一ターミナル屋上から第二ターミナル方面を狙っているのは間違いないだろう。冬優子もシノンの狙撃を警戒して動かない。

 タイムアップのアラームが鳴らされる。

 

 ――試合終了。生存点なし。

 

得点生存点合計
ウェンリー隊202
芹沢隊202
桐ヶ谷隊000

 

 勝者なし。引き分けである。

 

 ◆

 

 観戦室は大盛り上がりだ。ボーダー屈指の戦術家であるヤンにはファンも多い。

「試合終了ーーー!! ウェンリー隊と芹沢隊同点! またもや! またもや点数が均された! ミラクル・ヤンがやってくれました!」

「これは……すさまじいですね。桐ヶ谷隊、芹沢隊ともにウェンリー隊の戦術は警戒していたはずなのに、最終的には生存点を潰されて終わった。ウェンリー隊は戦局を制し続けていましたね」

「はん。桐ヶ谷隊と芹沢隊の戦術が未熟なのですよ。ウェンリー隊を崩せるポイントはいくつもあっただろうに」

 吐き捨てるジョナサンにゆかりはニヤニヤとした目で迫る。

「こんな偉そうなこと仰るジョナサンさんも第一試合では2:2:4でウェンリー隊に負けているのですけどね。ま、それはともかく、崩せるポイントとやらについての解説をお願いしてもよろしいでしょうか」

 ゆかりも手慣れたもので、ジョナサンを弄りつつも声のトーンを真面目モードに戻して戦術の解説に戻る。ジョナサンにしてもわずかに顔をゆがめるだけである。

「桐ヶ谷隊から指摘するならば、馬鹿正直に芹沢隊長と当たったところからですな。特に、朝田隊員が狙撃位置についてからも芹沢隊長との戦闘に固執したのは目も当てられない。桐ヶ谷隊の最大の長所を投げ捨てている。紅豆、この意味がわかるよな?」

「は、はい! 狙撃を警戒しなくてよい桐ヶ谷隊は自由に第一ターミナルと第二ターミナルを間を移動できるが、他二部隊はそうではない、ということですね。ジョナサンさんが指摘するまでわたしも見落としていました。確かに芹沢隊長との戦闘を放棄して真希隊員や黛隊員を取りに行った方が賢明だったと思います。特に桐ヶ谷隊長と並ぶエース級の芹沢隊長をノーリスクで第一ターミナル内に押し込めて置けるというのは大きいです」

「なるほど。そういった視点から結果を見ると、朝田隊員は黛隊員をマンマークしていた形になりましたね。No.1スナイパーである朝田さんとの交換が黛隊員というのはもったいないです」

「桐ヶ谷隊は朝田隊員を1:1交換の駒としてしか使えなかった……朝田隊員と黛隊員は死に駒だった。翻ってウェンリー隊の駒は活きていた! この結果は必然ってことよ!」

 ジョナサンの語調が荒れる。その言葉の節には本気の苛立ちが見て取れた。どうも彼はキリトとただならぬ因縁をもっているようである、とヴィグナは感じた。ライバルが不甲斐ないことにでも怒っているのだろうか? とも思うが、すぐに思考を解説に戻す。

 

「芹沢隊に関してはどうでしょう。紅豆さん、ご意見は?」

「はい、芹沢隊は序盤の東海隊員の合流の動きが……いえ、違いますね。マップ選択がよくなかったところからでしょうか。先ほども指摘されていましたが、空港マップは少し極端すぎますね。芹沢隊は地の利を活かせていなかった印象です」

「その通りです。そして東海隊員の合流先がよくなかったのも確かです。目先の点数の紅魔隊員に囚われた結果、エースである芹沢隊長のサポートに回れなかった。芹沢隊は長所である足の速さを活かして最序盤で合流を目指すのがベストだったでしょうね」

「ウェンリー隊はそうした各部隊の小さなミス一つ一つを拾って、穴を縫うように自分たちの目論見を通したというわけですね。一番感心したのは狙撃手の位置が割れていないのに真希さんがターミナル間を移動したあの判断力です。あれはどういう読み合いで成り立った動きなんでしょうか?」

「そうですねぇ。まず桐ヶ谷隊長目線から見て、第二ターミナルから来られて怖いのは真希さんより黛さんだったんです。それはなんでかというと――ほらジョナサンさん、解説して!」

 ゆかりがジョナサンの脇腹を小突く。

「フルアタックのデメリットがあるのさ……あるのですよ。キリトのやつが得意とする二刀流はトリガーのメインとサブの両方を使いますので、フルアタック中はシールドを張れない。そしてこの試合を通して芹沢隊長と真希隊員は射撃トリガーを持っていなかったために、戦うにしてもシールドが必要なかった。一方の黛隊員はガンナーであり、交戦時にはシールドが必要になる。花田一人がシールド役としてサポートするのにも限界がある。だから桐ヶ谷隊は真希隊員よりも黛隊員を恐れて、真希隊員を見逃さざるを得なかった。ウェンリー隊長は朝田隊員がそう考えることまで読んでおられた! これでいいか?」

「はい、完璧です。雑感としてはB級上位もまだまだ戦術が未熟って感じですかねぇ。ウェンリー隊長の読み合いの強さはボーダーの戦術三羽烏の一人なので仕方ないと思いますが、桐ヶ谷隊と芹沢隊は駒の実力で圧倒出来てるんですからやりようはあったってことです。昼の部はこんなところですかね。それじゃみなさん、次の試合は夜の部です! 中位戦ではゆかりさんも参加しているので、見に来てくださいね~!」

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