B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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二十二話 B級ランク戦第三試合・夜の部②

「うむ……各チーム転送完了じゃな」

 

【挿絵表示】

 

 遊園地マップは南に入場ゲートとその周りの商業施設、中央に洋風の形の城を携えたマップだ。

「中央城を囲むように第一から第四とエリアが分かれ、各エリアはテーマごとのアトラクション施設が配置されておる。このエリア、昔は数字じゃなくてちゃんと『トゥーンゾーン』とか『バザールゾーン』とかよい雰囲気の名前が付けられとったんじゃがのぅ。覚えにくいと苦情が寄せられたせいで質素になってしもうたわ」

「アトラクションは屋内施設が多いな。それと第一エリアのジェットコースターのある池の上に立ってる山、第三エリアの観覧車、中央城。この三つはマップを一望できる高さがあって狙撃にも適している。アッカネンのやつは結局長距離射撃はできるんだったか? あいつの師の銀鏡は長距離もやれたはずだが」

「銀鏡さんはゾルタンの指導はしていないはず……です」

 樺地曰く、あくまでゾルタンはイオリのスタイルを真似ているだけであり子弟関係があるわけではないという。

 カナリーナは樺地が自主的に声をあげたことよりも、この男がボーダー内の人間関係について一応の関心を持っていることに驚いた。

 

 ◆

 

『バッグワームを使ってる人は二人だね。ハボックさんとアッカネンさんかな? わたしは作戦通りひとりさんへの狙撃アラームに専念するね』

『それでいいわ。耳郎さんとあたしの位置が近い。このまま合流して東の反応を叩きに行く。後藤さんはフルガードを維持したまま中央城のほうへ。もしアッカネンさん以外のニアール隊と遭遇したら離脱優先で!』

「りょ、了解です」

 紅豆隊の立てた作戦は対ニアール隊を念頭に置いたものである。

 ゾルタンが遠距離狙撃を可能であると仮定した場合、ニアール隊はその狙撃を大駒であるひとりに対して使いたいはずである。ならばひとりは常にフルガードを維持して、狙撃を警戒して動かすべきだ。ついさきほど昼の部で見たような狙撃手との1:1交換によってゾルタンとひとりを死に駒の状態にするのだ。そのあいだにヴィグナと耳郎は合流前の敵を速攻で叩く。これが大まかな序盤の方針だった。

(ゾルタンさんの位置が割れるまではわたしは何もできない……い、いや違う。ミーティング中にヴィグナさんが言ってくれた。ランク戦ではただその場にいるだけで役割を果たせるんだって。とにかく狙撃で落とされないようにしないと……!)

 

 ◆

 

『――ってな風に紅豆隊が考えてたらやべぇ。俺らが後藤のやつを落とせる手段は二つ。一つはアッカネンさんの長距離狙撃。もう一つは他の紅豆隊が介入してこない盤面で後藤を隊長とマシュの二人で囲むこと。後者は正直現実的じゃねぇ……ですからアッカネンさん、不用意に撃たないようにお願いしますぜ』

「わかっているさ。我がニアール隊の点数を失する愚は犯すまい。可能な限り、な」

 試合は序盤。場は動き出し、レーダーが点滅する。各地で複数のレーダー反応が近寄り合う動きを見せるものの、合流しようとしているのか、敵同士が速攻で交戦しようとしているのかの判断はつかない。

 

「こちらゾルタン。観覧車の上に載っているやつを視認、小鳥遊ホシノだ。おそらくあちらも目視で他隊員を探しているな」

『了解です。隊長とマシュは右下の反応に向かって――おっと、隊長?』

 どうした?とゾルタンが聞く前にマリアから通信が入る。

『ごめん、ホシノちゃんと目が合っちゃった。交戦避けれなさそう。これ西から来てる反応がエルリック隊だったらちょっとまずいよね~?』

 レーダーを見れば、第一エリア、第二エリア、第三エリアにいた四つの反応すべてがホシノとマリアのいる場所へ向かっている。

『……西から東へ向かう四つの反応で考えられる内訳は【紅豆隊三名、エルリック隊一名】もしくは【紅内豆隊二名、エルリック隊二名】ですよね? バッグワームで所在不明の隊員がハボックさんであると仮定した場合の話ですが」

『ああ、つけ加えると南東で孤立してる反応が北上の動きを見せてない。たぶんこれが後藤だな……めんどくせぇ状況だが仕方ねぇ。マシュ、全速で東南の反応へ向かえ。ゾルタンも狙撃位置につけ。ここで後藤を叩く』

「……やれるのか? マシュ一人じゃ10秒持たんぞ。俺の長距離射撃も付け焼刃、当たるとも知れないものを――」

『そりゃそうですが、一か八かっすよ。この試合にまともな射程持ちはアッカネンさんしかいないんす。ここで落とさなきゃあとは蹂躙されるだけですから。また大負けしても恨みっこなしってことで』

 ゾルタンは心中舌打ちする。シカマルほどの策謀を持つ男を持ってして一か八かの策を取らざるを得ない、それほどまでにニアール隊は劣勢なのかと。

 

 ◆

 

 マリアとホシノは高低差ごしに睨み合う。

 上空からの強烈なショットガンの連射をマリアはレイガストで盾受けする。続き、ホシノは観覧車の上から一気に飛び降りてシールドバッシュの要領でマリアを押しつぶしにかかる。

 二人のレイガストが衝突する。マリアのカウンターの弧月に対し、ホシノは小さな体躯を活かしてヒョイと避ける。両者の盾を主軸にした攻防が重ねられる。仕掛けた側であるホシノはショットガンの射程をいかすために引き気味に、一方のマリアは攻め気を強く保っている。

 レーダーを見て二人は距離を取る。レーダー反応を参考にチラと西を見れば、ヴィグナが建物の上から二人を伺っていた。

 仕切り直しの三つ巴。すわ膠着状態かと思えば、いつの間にか耳郎がバッグワームを展開しマリアの後ろに回っている。

「あれ、これ不味いかも?」

 口ではそう言いながらもマリアは三人をうまくいなしていく。くるりと耳郎の射撃を避け、近寄ってきたホシノのレイガストを押し蹴って牽制する。ヴィグナの猛撃も巧みなシールドモードとブレードモードの切り替えで捌き切って見せた。

 ホシノは紅豆隊への警戒も忘れないまま、ショットガンで時間稼ぎに徹しているようだった。このまま待てば仲間が援軍に来るからだろう。

「エドくん、まずはニアールさんを落そう! おじさんが前衛をやるよ!」

 目論み通り、後続のエルリック隊が到着した。いよいよもってマリアは逃げ場を失っていく。すでにマリアの右腕は射撃で奪われており、右足も同様に複数穴が開いていて踏み込みは難しい。

 ヴィグナとホシノはマリアの点を自分たちのものにしようと躍起に攻める。しかし最後の一手を取りに行ったのは、バッグワームで潜伏していたハボックだ。

 ハボックはごろりと死角から現れて拳銃トリガーを構える。ヴィグナは「やられた」と思った。次の瞬間にもマリアはベイルアウトするだろう、と確信があった。

 

 ――しかし、次の瞬間ベイルアウトしていたのはハボックだった。

 中央城からの狙撃だ。

「ゾルタンくん!? なんでこっちを!? 後藤さんを狙う手はずじゃ!」

 マリアは困惑の声をあげながら宙返りの要領でタケシを踏み台にし、ついでと言わんばかりに彼の右腕をスラスター投げで吹き飛ばす。そのままマリアはぴょいぴょいと飛び跳ねて開いた戦場の穴から南の方へ抜け出していく。

 紅豆隊とエルリック隊はそのあとを追おうとするも、すぐに重ねるように狙撃が飛ぶ。誰かを狙ったものではない、あくまで牽制の狙撃だろう。それでも彼らの動きは止まる。必然、紅豆隊とエルリック隊がにらみ合う時間が生まれた。

 マリアを逃がした。忸怩たる思いを抱えながら二部隊は衝突を開始する。

 

 ◆

 

『後藤さん! アッカネ――じゃない! キリエライトさんとニアールさんを!』

「え、あ、えあ……はい!」

 ゾルタンの位置が割れた。加えて他の隊員の位置もすべて判明している。それはゾルタンの射線を切るように建物の影に入ればフルアタックが使えるということを意味している。

 ハウンドを展開。狙うのはひとりから向かって西のレーダー反応、マシュだ。射程はギリギリ、威力は最大に設定。爆撃を開始する。着弾の直前、バッグワームを起動してハウンドの誘導を切ろうとしたようだがもはや遅い。圧倒的な爆撃がマシュを襲う。

 ――マシュ・キリエライト、ベイルアウト。

「あーあ。これ、わたしはバッグワーム使って潜伏してたほうがよかったのかなぁ? ね、後藤さんどう思う?」

「あえっ? あ、あっあひ、あっあっあっ」

「ちょ、そんなビビらなくても……」

 ほとんど片足同然だというのに圧倒的速度でひとりの下にたどり着いていたマリアが軽口を叩く。当のひとりは初めて話す人間を前に混乱しながらメテオラをフルアタックで展開した。

(まともに話せなくてごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!)

 マリアは最後の抵抗と言わんばかりに固定シールドを展開するが、メテオラの爆風も明けぬ間にひとりの集中アステロイドの追撃を喰らい、ついにはシールドに穴が開く。

「うーん、時間稼ぎはできたかな? ゾルタンくん、もう一点くらいは取ってよね」

「……えっ?」

 ――マリア・ニアール、ベイルアウト。そしてメテオラの爆風が立ち消えたあと、そこにはアイビスを構えるゾルタンがいた。

 

 ◆

 

 ゾルタンとひとりの戦いの顛末は両者ベイルアウトだった。ゾルタンは接近のために直前までバッグワームを使用していたためシールドを使う余裕はなく、ひとりはフルアタックを展開していた。相打ちになるのは当然の帰結だったろう。

 その様子を見て実況のカナリーナは大層嬉しそうに笑う。

「おお、どっちも意地を通したのぅ。これでニアール隊は全滅、取った点数は二点じゃ。にしても展開が速いのなんの。残るは紅豆隊が二人、エルリック隊が三人。全員一か所に集まっておるし、終盤戦の様相じゃな。どっちが勝つと思う?」

「流石にエルリック隊だろうな。レイガスト持ちが三人相手にアタッカー一人とシューター一人は厳しいだろ。樺地、どうだ?」

「……うす」

「いや、うすじゃなくてだな」

「…………うす」




今回の話でゾルタンの身の上話をやろうと思ったんですが、もっとシリアスな大規模侵攻編とかで書いたほうがいいかなぁと思ったので後回しにしました。
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