エドワード、タケシ、ホシノの三人に迫られてヴィグナは窮地に陥っていた。
(連携が堅い! このままだとじわじわ削り殺される!)
エルリック隊の攻め気は必ずしも強くない。無理に攻めてヴィグナからカウンターを貰うよりも、消耗戦で打ち勝つほうが妥当という判断だ。これがエルリック隊本来の戦い方なのだろう。
すでにヴィグナの脇腹にはこれまでの戦闘での裂傷が走り、トリオンも多量に漏れている。耳郎の援護射撃もすべて防がれ、ほとんど相手にされていない。
(こっちの点数はすでに3点。エルリック隊はまだ0点。今から捨て身で二人落とせば生存点をエルリック隊に譲っても勝ちは取れる、けど……)
その思考自体が弱気の証拠だ、とヴィグナは自身を叱咤した。ここから三人全員落とす。そうすれば生存点込みで8点だ。ヴィグナは槍を構え直した。
ヴィグナのメイントリガーには槍弧月とシールドしか入っていない潔いスタイルだ。旋空も幻踊も用いない。サブにはグラスホッパー・シールド・バッグワームがセットされているものの、グラスホッパーは実戦で使いこなせるほど習熟していない。しかしそれは常に片方でシールドを展開できるという意味でもある。
スラスターを伴わないレイガストの攻撃はシールドで防げる範疇であるし、スラスターによる攻撃は強力だが大振りになりがちで隙も大きい。引き気味で戦えば三人相手でも数十秒は持ちこたえられるはずだ。
『紅豆、一瞬でいいからホシノさんに隙を作れない? 例のトリガーを試してみる。一画を崩せればあるいは、ね』
『ですね。次に距離を取ってから一呼吸でホシノさんめがけて突撃します。そこを突いてください』
近距離の攻防中に通信を行うのは神経をすり減らす。
タケシのレイガストを槍で巧みに弾き、首を狙ったエドワードのスコーピオンをすんでで躱す。常に後ろに回り込んでショットガンによる射撃を試みるホシノに対しては立ち回りで対応する。エドワードとタケシが盾になるように動けばホシノも射撃は行えない。
ヴィグナは後ろへ飛ぶ。ホシノのショットガンを集中シールドでガードする。漏らした射撃がヴィグナの脚を大きく削る。
一呼吸。ヴィグナは片足でホシノに向かって跳んだ。
「ここッ!」
「うへ?」
突撃するヴィグナとは反対方向から耳郎の射撃がホシノに迫る。タケシが援護に回ってレイガストを構えるが、その射撃は黒色のエフェクトを纏っている。
取った、と耳郎とヴィグナは確信した。しかしその弾丸は地面からせりあがる壁によってやすやすと防がれてしまう。
「――鉛弾。それがお前らの隠し玉か。悪いがそいつには慣れてんだよ」
エドワードが発動したエスクードによって、耳郎の鉛弾アステロイドは防がれた。
◆
「おお、うまいのぅ。エドワードのやつ、脚からエスクードを発動させおったな」
「ああ。だが鉛弾とは珍しいトリガーを使うな。シールドを透過する特性を持つあのオプショントリガーは、当然レイガストのシールドも貫通できるが……とにかく弾速が遅い。エルリックがやってのけたとおり『見てからエスクード』で防御できてしまうほどだ」
「紅豆隊は昔のログ漁りを怠ったのぅ。ログを見ていればエルリック隊が鉛弾をエスクードで防ぐ記録と、その強力な効果にも関わらずランク戦で鉛弾が流行っていない理由がわかったはずじゃろうに」
これは勝負が決まったかと実況席の空気は統一されていく。しかし次の瞬間、スクリーンにはエドワードが大きく空に打ち上げられる映像が映し出されていた。
◆
鉛弾が防がれる。それを見た瞬間に耳郎は前に走り出していた。
25メートル圏内に入ったことを穂波がアラームする。勢いよく地面に手を叩きつける。
「エスッ……クードォッ!」
狙うのはエドワードの足元だ。エスクードの軌道を描くトリオン光が地面を駆ける。耳郎が生成したエスクードはエドワードを勢いよく弾き飛ばし、空へと打ち上げた。
ここで終わりではない。耳郎は大きく振りかぶってアステロイドを起動。もちろん鉛弾を附属させた弾丸だ。
エドワードに黒い弾丸が迫る。今度は避けられない。着弾し、エドワードの身体に重りが生成されるのを確認する視界の端で、ホシノがこちらへショットガンを構えているのを耳郎は見た。
メイントリガーをアステロイド、サブトリガーを鉛弾で使用している耳郎にシールドを生成する術はない。だが役目は果たしたことに彼女は確かな手ごたえを感じていた。ホシノの射撃が耳郎を襲う。
――耳郎響香、ベイルアウト。
戦闘は終わらない。ヴィグナは巧みなステップでレイガストを構えていたタケシを抜き去り、重りで動けなくなったエドワードの首を刈り取る。エドワード・エルリック、ベイルアウト。
「これ以上点数はあげられないなぁ。わたしらも上を目指してるからさ、一応ね~」
「まだまだぁっ!」
ホシノのブレードと槍が擦れあい、火花が生まれる。ヴィグナが片足を失い重心がズレているのをホシノは巧妙に狙い、姿勢を崩してくる。だがまだ戦えるはずだ。
しかしヴィグナが後ろに飛んだ瞬間、上から弧を描くように飛んできた弾丸が彼女の身体を貫く。見れば、タケシがハウンドを展開させていた。
「くっ、シュータートリガー持ちか……!」
紅豆ヴィグナ、ベイルアウト。奮闘虚しくも試合終了。
| 得点 | 生存点 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| エルリック隊 | 2 | 2 | 4 |
| 紅豆隊 | 4 | 0 | 4 |
| ニアール隊 | 2 | 0 | 2 |
――エルリック隊と紅豆隊、引き分けである。
◆
実況解説は淡々と試合終了を告げた。観戦していたものたちも引き分けという結果にそれほどの盛り上がりを見せてはいない。
「駆け足気味な試合だったの。シュフラン、特筆することは?」
「ゾルタンの狙撃、だな。ニアール隊は結果的に三人で後藤のやつを落としたが、本当なら狙撃で後藤を落としたかったはずだ。その切り札をニアールの援護に使ったことは……よくわからんな。シカマルの指示とは思えんのは確かだが」
「そういえばお主、昔シカマルと隊を組んでいたのだったか? あやつの立てる作戦は厄介じゃったなぁ。そう考えるとあの狙撃は確かにシカマルの指揮らしくない。樺地、お主はどうじゃ。試合を通しての雑感はあるか?」
「……耳郎さんのエスクードから鉛弾への切り替えの速さが、評価できると自分は思いました……」
樺地曰く、トリガーは実際に使ってみると複数の切り替えが意外に難しい。耳郎が今回見せたように、エスクードからアステロイド+鉛弾のような三つのトリガーの切り替えを戦闘中に高速で行えるのは、C級から昇格したての耳郎のような下位隊員にとってはそれだけで評価するべき点なのだという。
「はんっ。中位以上にとっては当たり前の技術だがな。後藤というトップエースを抱える紅豆隊は上に上がって当然だ。それくらい出来てもらわねば困るわ」
にひひっ、と笑うシュフランは遠からず自分たちの隊が紅豆隊と当たることを想定しているのだろう。カナリーナはその好戦性に引きながら、実況を締めた。
◆
試合終了後の紅豆隊。隊室には弛緩した空気が流れている。みな引き分けという結果に満足とはいかずとも、口惜しさは感じていないようだった。
「響香ちゃん、樺地さんに褒められてよかったね!」
「実際、最後の一点は耳郎さんのアシストが効きました。引き分けに持ち込めたのは後藤さんと耳郎さんのおかげです」
耳郎とひとりは揃って照れた。褒められることに慣れていないのはこの二人の共通点だ。
ぐぅっと伸びをして、耳郎はベイルアウト用のベットに倒れ込む。
「あー! 疲れたぁ……確か来週の水曜はランク戦、休みなんだよね? 久々にちょっと休めるね」
「ですね。本当はバンド練や試合の振り返りもしたいんですけど、ランク戦が思ったよりハイペースでしたから。休憩をはさんでもいいかもしれません」
実際、ランク戦は毎週の土曜と水曜に行われるため、ほとんど三日ごとに試合があることになる。平日は学校に通わなくてはならないし、防衛任務のシフトもある。ランク戦に向けたミーティングとログの見返しに、紅豆隊にはバンド練習の時間も取らなくてはならない。ひとりはあまりの激務に個体生命の形を維持できなくなっていた。
「わー、またぼっちが溶けてる……ホント、部隊入ってから激動の日々だわ。ウチは入ってよかったって思ってるけど」
「そう言っていただけると隊長冥利です。後藤さんも無理はしていませんか?」
「えっと、はい。すごく疲れはしてますが、大丈夫です……わ、わたしも紅豆隊に入れてすごくよかったって思います……新しい人とたくさん関われて、自分も少しは変われるような気がして……」
その言葉にヴィグナは顔をゆがめて、正面からそういわれると恥ずかしいですねと笑った。
「あ、通知来てる。みんな見て」
穂波がデバイスを見せる。どうやらボーダー運営からの連絡通知のようだ。
「なになに。来週と再来週のB級ランク戦は延期? これまたなんで」
「えっと。部隊面談及び、教育制度の刷新に伴う諸業務のため……だって」
「部隊面談?」
ひとりたちは揃ってクエスチョンマークを浮かべた。
というわけで『Episode1-B級ランク戦編①-』はこのお話で終わりです。なんとか当初の脳内プロットで想定していたところまで書ききれました。
次回からは外伝エピソード中心のEpisode1.5みたいなものを投稿できたらと思います。投稿ペースはガッツリ落ちます。