B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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二十五話 六月十三日 防衛戦②

 霞浜ゲート近郊宙域。遠征艇にて。その近界民たちはデッキに集まり戦況を見守っていた。

 遠征艇の通信機が、ボーダー本部から近隣海域に向けて発せられた警告を受信する。

 

 ――こちら、界境防衛機関ボーダー、オペレーターです。貴方達はボーダー及び日本国政府の主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ、実力で排除します。

 

「アッハハハ! 聞いたキンブリー!? ご丁寧に広域回線で警告ですって! もう戦争は始まってるのに、ばっかみたい!」

 

「体面を取り繕う必要がある程度には規模の大きい組織ということでしょう、バーヴァンシー。しかし想像以上に対応が速いですね。ここ数日見ていた敵の迎撃パターンからはズレた動きだ。それにこの回線で警告している女の声……フィオナ・イェルネフェルトですか。ファンタジニア失陥の元凶が随分と、まぁ」

 そう言って白帽子に白スーツの男、キンブリーはクククと笑う。

 艇内でくつろぐのは5人の男女。それぞれが悠然と、トリオン兵を介した監視の目でミデンを眺めている。

「知り合いなの?」

「ファンタジニア侵攻戦、それにウーラシール殲滅戦で戦いました。となるとなるほど、ミデンに根を張る組織の母体がはやくも見えてきたというわけです」

 そういってキンブリーは手元に積まれたコインを撫でた。

 

「負け犬国家の入れ知恵があろうが、しょせんはミデンの猿だろう、ペロリン♪ 中立機構も舐めた依頼を回してくるもんだぜ」

 道化のような恰好でわざとらしく飴玉を転がす男に、バーヴァンシーは不快そうに顔をゆがめる。そこに口をはさんだのは、黒い布地に赤い雲を纏った装束の女だ。

「戦う前から勝った気でいるなんて余裕ね、ペロスペロー。カタクリを出せばよかったのに」

「どういう意味だァ、小南(コナン)?」

「いや……トットランドも存外不足か、とね」

「なんだと――」

 

「そこまでだ。含むところがあれば戦場で好きなだけやればいい……」

 小南とペロスペローの諍いを止めたのは、神父服の男。彼の言葉にはその重みがある。小南とペロスペローとて、自分たちを実力のあるトリガー使いと自認している。だがこの男はそれを押してなお、従わざるをえない強者の気配を纏っている。

「キンブリーは全体の指揮。小南はトリオン兵の運用とゲートの守備。あとは各々が役割を果たせばいい。できるな、キンブリー」

「わたしも前線で暴れたくはありますが……まぁ、わたしのトリガーは今回の任務向きではありませんし、このメンツならばわたしが最適なのは納得しましょう。代わりに仕事は果たしてくださいよ、『J』」

「当然だ。だがわたしたちはただの傭兵。チームワークなど期待するな。好きにやらせてもらうぞ」

 

 ◆

 

 所変わってボーダー本部、指令室。

 レーダーと監視網からオペレーターたちが分析した情報を冬月ら司令陣は見分していく。

「……バムスターの姿がないな。やはり民間人の捕獲は目的としていない。砲撃用のバンダーを中心として戦列を組み、前衛を担い狙撃を防ぐ盾型、こちらの処理能力に負担をかける攪乱型――」

「あとはこの新型っすよね。周りの家を崩して、瓦礫で壁を作ってらぁ……コイツの役割なんだと思います? 冬月センセ」

「野原くんも推察はついているのではないか? ……十中八九、工兵の役割だろうな。特殊なトリオン効果を乗せたシールドで物質素材を繋いで陣地形成するのか。遠征部隊が長期戦の構えを見せるとは、少々厄介だぞ」

 冬月は眉を潜めながら訝しむ。

 

 ネイバーフッドにおける戦争というのは、防衛側が絶対的に有利なものだ。国家同士の周回軌道が隣接しない限り、侵攻側は限られた資源を乗せた遠征艇によって無補給で攻撃しなければならず、一方の防衛側は本拠地でいくらでも補給ができる。消耗戦を開始すれば、総トリオン量・人的資源で勝る防衛側を崩すことは難しい。

 時間はボーダーの味方のはずだ。だからこそ理解ができない。

 その工兵型トリオン兵――仮称『カスター』――の設計思想は、冬月のこれまで培ってきた近界の軍事ドクトリンにまるで馴染まない。

 

(……我々が近界と連絡手段を逸失していたこの数年で、向こうになにが起きた? いや――なにが起きればこのような軍事的転換が行われる?)

 

 それでも冬月はこの場の司令官として、淡々と見解を述べて指示を下す。

「……敵は長期戦の構えを見せているが、所詮あの規模だ。主力が到着するまでに陣地構築をする先兵の類とも思えない。よって敵の目標は『可能な限り戦闘時間を引き延ばし、こちらの戦力の底を見る』こと、即ち情報収集であると判断する。ならばこちらの最高戦力であるアムロ・レイは出せない。A級部隊は市街地に近い西方面から殲滅に当たり、スナイパーはこれを援護。南方面はランペルージュ隊を抽出し遅滞戦を開始、旭川支部を始めとして出せる支部員と挟撃させる。東は『天羽』を出せ」

「まだ敵トリガー使い……失礼、人型ネイバーが姿を見せていません。人型出現後、現地隊員で対応しきれなかった場合は?」

「野原くん、ブラットレイを順次出す。それでもだめならアムロくんを。基地内部に侵入されるならば戦える事務とエンジニア連中を動員する。それでもなお戦線が崩壊するようならば、B級を出して総力戦だな。敵が長期戦をしたいというならば、付き合ってやろう」

 冬月はため息をつく。B級隊員はいまだ雛であるが、ネイバーフッドに関する情報を秘匿し続けたのは失策だったかもしれない。元よりすべての元凶はセキュリティ・クリアランス制度だ。ボーダーには記憶処理技術があるのだから、諜報機関染みた情報管理は必要なかったのだ。もし仮にB級隊員を投入する事態になったとして、急に人型ネイバーの存在を知らされた彼らの混乱は計り知れない。

(改革、改革、また改革だな。戦闘が終わってからも地獄だぞ)

 だがまずは、目の前の戦況を乗り越えてからだ。冬月は改めて老体に鞭を打った。

 

 ◆

 

 トリオン体で放棄区域の住宅地の屋根を駆け抜ける。

 入隊して二年半、このひとけのない街にも慣れた。グレイディーアは遠くの敵トリオン兵が築城する防壁を睨みつける。

「B級以下や市民にはバレるな、ブラッドレイ司令も野原さんも待機って……。A級S級全員足してようやっと20人行くか行かないぐらいでしょ? ちょーっと人員きつくない?」

 並走しながらぼやくのはシューターである御坂美琴。制服姿を模したトリオン体がよく似合っている。そこに続くのは御坂と同じ部隊である煉獄杏寿郎。そしてアビサル隊のシューター、麦野沈利。A級1位と3位の複合部隊である。

「そう言うものではない、御坂! ボーダーが設立されて二年半、ようやく20人も揃ったのだ! それに敵の襲撃は事前に予測できていた! 万全を期して防衛体制が敷けていると俺は考えるぞ!」

 はきはきと意気込む煉獄に合わせ、麦野は笑う。

「ハッ、煉獄の言うとおりね。弱気かにゃーん、No3シューター?」

「ムッ……」

 麦野と御坂の間に一瞬の電撃が飛んだのを認めて、グレイディーアは二人を黙らせた。

 鋭い目線を向ければ、年下の二人は黙らざるを得ない。また気後れさせてしまったかという気持ちもわずかにはあるのだが、この目付きも生まれ持ったものであるし、性格も自分の人生のうちで育まれたものなのだ。

 

 グレイディーアは時折自分のルーツについて考えることがある。日本人としての自分。自分は日本語を話し、国籍として日本国に属し、日本人を名乗っている。しかし霞浜市に住む80%弱の人と同じく、彼女の数世代前の血統は海の向こうから齎されたものだ。

 日本人離れしたなびく銀髪と赤い目はトリオン体の換装を解いても彼女に刻み込まれた遺伝の証であるが、彼女自身はこの銀の髪をもたらした民族の言葉を話すことはできない。最も、生粋の霞浜っ子はそうしたことにいちいち葛藤を覚えることはないものだ。このボーダーが根を下ろした街の人々は、そうあることをまったくの自然として、はじめから受け入れる心の準備ができている。

 一方でこの霞浜という街は、ネイバーという隣人との終わりなき戦争も抱えている。異文化のるつぼであったはずの霞浜が、ネイバーフッドという地球とは全く異なる文明との衝突の場となる。

(戦いの前に、よくない考えですわね。シュフランが聞けば笑うでしょう)

 グレイディーアはトントンとこめかみを突いて思考をリセットする。

 

 グレイディーアという少女は、ボーダーに入る前までは自分の心の拠り所に悩む実に現代的な若者だった。母からの愛の不足。学校で友達がいないわけではないが、どこか壁を作ってしまう。決してすべてが欠乏しきっているわけではないが、満ち足りない。

 心の底から信頼し、頼れる仲間が欲しい――自分の居場所が欲しい。誰もが抱え、向き合わなければならない悩みだ。ある者は仕事に、ある者は恋人に、ある者は趣味に答えを見つけるだろうし、答えを見つけられずに病んでいく人間もいるのだろう。

 グレイディーアは、ボーダーという場所でそれを見つけた。トリオン兵との戦い。ベイルアウトシステムがあるとはいえ、命を掛けて戦わなければいけない戦場。平和な現代日本では得難い、共に命を掛けて戦う仲間――『戦友』。それは釜の飯を同じくする新たな『家族』とも言い換えられる。彼女はそれこそが今の自分の『ルーツ』だと考えるのだ。

「わたしたちは一番槍です。美琴さんの言う通り、ボーダーが現在投入できる戦力は非常に少ない……ですがベイルアウトを恐れる必要はありません。ゲヒルン上がりのエンジニア共を動員すれば戦える面子はもう少し増えますし……なによりわたくしたちの任務は、威力偵察。可能であれば敵の築城陣地を破壊し、引き摺りだすこと。敵人型ネイバーの戦力やトリガーさえ分析できれば、あとは後方で待機する『戦友』らがよしなにやってくれますわ」

「仲間を信じろってことね。さすがアビサルさん、いい事言うわ。でも……あのトリオン兵、わたしたちだけで全部倒しちゃってもいいんでしょ?」

 ニヤリと小生意気な笑みを浮かべる御坂に、グレイディーアは笑いかける。

「もちろんですわ――では、突撃!」




【元ネタ雑記】
・バーヴァンシー→FGOより。ヴィグナが好きな作者は当然こいつも好きです。

・キンブリー→ハガレンより。本作の構想が出来たときに初めに出そうと思った敵ネイバーがコイツです。敵ネイバー適性が高すぎる。

・ペロスペロー→ワンピースより。ワンピースの島国設定とワートリの惑星国家って相性良すぎる。

・小南→ナルトより。こなせんは関係ありません。コナミではなくコナン。中の人繋がりで会話が急にお茶会っぽくなってしまった。

・『J』→ACVDより。言葉など既に意味をなさない。


というわけで敵ネイバー襲来編です。相も変わらず登場キャラが増えます。規模的にはアフトクラトルよりもガロプロ程度って感じですね。
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