B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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四話 B級ランク戦第一試合②

「パッと見ニアール隊が有利かな? 紅豆隊はアタッカーが味方の射線に入っちゃってるのが気になるな。シューターはもっと屋根の上まで機動して攻撃方向をバラけさせたほうが本領を発揮するぞ」

「シューター本職としても同意するぜ。紅豆隊の動きにはB級下位らしい視野の狭さを感じるな。だがあのぼっちのやつに限って言えば――」

 衛宮と跡部が目を細めて画面を見つめる。紅豆隊とニアール隊の戦いは佳境に入っていた。

 

 ◆

 

 ニアール隊の基本的な攻撃戦術はゾルタンの射撃をメイン火力とし、マリアとマシュが中距離を保ったレイガストで徹底して防御に徹するものである。レイガスト組も隙があればシュータートリガーを交えて牽制もしてくるので油断がならない。

 かなり練られた戦術だとひとりは感じたが、それでも脅威となる火力がゾルタン一本に縛られているのは大きな弱点だ。彼の射撃だけを警戒していれば、こちらはフルアタックが可能ということなのだから。

(……抜ける!)

 レイガストのシールドモードはかなりの頑強さを誇り、ひとりのトリオン量でも破壊するのには時間がかかる。しかしそれはあくまで正面から倒そうとした場合だ。正面からのアステロイドで動きを封じ、後ろに回したハウンドで挟撃すれば対応はされにくくなる。

 防御をすり抜けたひとりの弾丸がゾルタンの右胸を大きくえぐる。トリオン体破損。

 ――ゾルタン・アッカネン、ベイルアウト。

 戦線が一気に崩れる。ひとりと響香は大きく前に出て、レイガストを構えた敵二人を正面から削り始める。

 

(よし、このまま……っ!?)

 突然マリアが見当違いの方向へメテオラを飛ばした。吹き飛んだのは路地の横合いの家だ。ひとりはその企図がわからず混乱し、思わず足を止める。

「後藤っ! 射線!」

 後ろから襟をグイっと引っ張られて、ひとりはすっ転んだ。何が起きたかわからないままドン!という射撃音が耳に入る。見れば響香の首が吹き飛んで、ベイルアウトしていた。

(狙撃!? どこから!? いや、ニアールさんのメテオラで射線を通されたんだ……!)

『ひとりさん! スナイパーだけじゃない、西から蒼森隊が来てる!』

 塀を突き破って巨体の男が現れる。叩きつけるようなアステロイドだ。ひとりは平静さを取り戻してシールドで受け流す。

 男はアクロバティックに着地して、弧月を構えて口を開いた。

「やり合う前に一つ聞かせてくれ……お前ら、どんな女がタイプだ?」

 

 ◆

 

「お前ら、どんな女がタイプだ?」

 現れた巨体の男、蒼森隊アタッカーの東堂葵は周囲を見渡してこの場に女しか残っていないことに気が付くと、眉をひそめた。

「……まぁ男のタイプでもいい。性癖を聞かせろ。性癖にはソイツの全てが反映される。性癖がつまらない人間はソイツ自身もつまらないというのが俺の持論だ」

 東堂以外の思考が完全に一致した。即ち

(変態が出てきた……)

 である。なぜか隊服を脱ぎ捨て上半身を露わにしていたのでなおさら変態じみている。

 

 戦闘再開。東堂の言葉は努めて無視された。右手に弧月、左手にメテオラを構えた葵のフルアタックの猛攻に戦線は混乱する。東堂は主にヴィグナを狙いながら、アステロイドで周囲を牽制。ニアール隊がこれを囲んで漁夫の利を狙おうとするが、突然屋根から飛び降りてきたレイガスト使いの蒼森ミネがスラスターでマシュを抑え込む。

『後藤さん! この混戦で誤射が起きないほどあたしたちの連携は洗練されてない! あたしの援護より蒼森さんを狙って点を稼いで!』

『りょ、了解です!』

 ミネとマシュの間で一瞬の攻防が行われた。マシュのレイガストが弾き飛ばされ、無防備になった体にミネのショットガンが連射される。マシュ・キリエライト、ベイルアウト。

 ひとりも隙を見逃さない。塀の陰に隠れてスナイパーからの斜線を切ったひとりは、フルアタックのメテオラをミネに叩き込む。蒼森ミネ、ベイルアウト。

 ヴィグナとマリアと葵の三つ巴は、東堂の圧倒的な攻撃能力が支配していた。しかしマリアと東堂がそれぞれ孤立しているのに対し、ヴィグナにはまだ後ろにひとりが残っているという心理的余裕がある。エースが温存できている以上、自分で点を取りに行く必要はない。ヴィグナは槍が届く間合いを維持しながら、攻め込まずに防御に徹する。

 自分以外の隊員がすべて落ちて焦りを見せたマリアの動きが鈍る。無理に攻めようとしたところを、蒼森隊のスナイパーが糸を通すように狙撃した。狙われたのは足。ゴロリと転がったマリアを刈り取ったのはしかし、蒼森隊の東堂ではなくヴィグナだった。一方でマリアの首を取るために無理に前に出たヴィグナのトリオン供給機関を東堂が弧月で刺し潰す。ヴィグナ・マリア両名がベイルアウト。

 

 ミネが現れてからここまでおよそ10秒弱の出来事。一瞬で四人が落ちた。

(残りは蒼森隊が二人とわたしだけ……っ!)

 ひとりは咄嗟に後ろに飛ぶ。このまま東堂にシールドを展開したまま突っ込まれたらまず間違いなく競り負ける。展開したメテオラで狙うのは東堂が立つ地面だ。足を奪えれば上々、でなくとも足場を壊せば踏み込みが難しくなる。

「どんな男がタイプだァ!?」

「ひいい!?!?」

 メテオラの爆風に隠して、上に大きく弧を描くように撃っておいたハウンドが葵の胴体を貫く。東堂葵、ベイルアウト。これで目の前の敵は掃討したはずだ。

(怖かった怖かった怖かった……)

 すでにベイルアウトした東堂の圧にガタガタ震えていると、遠く南西のほうでベイルアウト反応が上がる。蒼森隊のスナイパーが自主的に離脱したのだろう。

 試合終了を告げる機械音が響く。

 

得点生存点合計
紅豆隊527
蒼森隊303
ニアール隊000

 

 ――紅豆隊の勝利である。

 

 ◆

 

 実況席は歓声で沸いていた。怒涛の戦闘に大盛り上がりである。

「試合終了ーー!! 中盤戦から一気に動いて、終わってみれば紅豆隊の圧勝です! さてお二方、試合を振り返ってどうでしょうか?」

「そうだな。完全にぼっち――後藤隊員の実力が頭一つ飛びぬけてた。それがすべてだろうな」

「俺もそう思う。後藤って何者なんだ? あの弾丸の威力を見るに、トリオン量もボーダー内トップクラスだろ、あれ」

 衛宮の当然の疑問に跡部が応えた。

「あぁ、あいつはな。No.2シューターなんだよ。確か個人ポイントは22000ptぐらいだったか。シューター勢と古参隊員じゃ有名なんだぜ? すごい腕を持ってるのにチームに入らない孤高の女。ひとりって名前と掛けて『ぼっちちゃん』ってな」

「No.2か。そりゃ納得の実力だな……」

 

 ◆

 

『No.2か。そりゃ納得の実力だな……』

 実況席の解説を聞いて、隊室は驚愕の嵐だった。ヴィグナはひとりの肩をガシっと掴んで揺さぶっている。

「後藤さんってそんな実力者だったんですか!?」

「え? あ、はい。でも個人ランクなんてポイントの過多だけで決まりますし」

 実のところ、ひとりは自分に与えられたランクが不相応であると認識していた。今の自分のポイントは、繰り返しの防衛任務と相手を選んだ個人ランク戦によってポイントだけを稼ぎ続けてきた結果だからだ。例えば個人ランク戦では近接アタッカーとの戦闘は避け、シューターやガンナー相手だけと戦ってきた。アタッカーと戦ってもまず勝てないからである。

 ひとり自身がそう認識していても、解説と周りの仲間たちはひとりを褒めそやした。「とんでもないわ」だとか「すっげぇ……」とかひとりの自己顕示欲をぐいぐい刺激する言葉が投げつけられて、溶けた。

「そそそ、それほどでもないですよ~でっへっへへうぇふぇ」

 でろーんと個体生命の形と保てなくなったひとりを見て三人は名状しがたい気分になる。

「でも『ぼっちちゃん』ってあだ名、かわいいね! わたしもそう呼んでみていい?」

「いいね。わたしも後藤呼びよりぼっちのほうがしっくりくるかも」

「えっ……は、はい! ぼっちです!」

 そもそもそんな呼び方されてること自体初耳であるし、明らかに蔑称な気がしたが、あだ名で呼ばれてみたいという誘惑に即座に屈した。

 惨めさと喜びがごちゃまぜになって再び名状しがたくなったぼっちを置いて解説は続く。

 

 ◆

 

「ニアール隊は終始安定していましたね。レイガスト使いをチームに持つ跡部さんから見て彼女らはどうでした?」

「連携の精度はB級としちゃ及第点だ。これは上位でも通じるだろうって意味でな。咄嗟の判断も見どころがある。家を壊してスナイパーの斜線を通させて、相手を崩す。かなり盤面が見えた動きだったぜ」

 跡部が「そうだろ樺地?」と言うと後ろの席に座っていた樺地が「……うす」と返す。突然の大男の登場に衛宮とゆかりはビクついた。

「い、いたのか樺地……えーと、ニアール隊は一番連携が取れてて視野も広かっただけに、最下位なのは口惜しいな。これにめげず次を頑張ってほしいかな」

 ふむふむなるほどとゆかりは相槌をうって、続けて画面に蒼森隊の戦闘映像を映す。

「一方の蒼森隊、早々に前原隊員が落ちるアクシデントもありながらなんとか3点もぎ取りましたね」

「戦術っつー面で見るなら落第点だろ、あいつら。合流も遅い、突撃のタイミングもバラバラ、連携がまるで取れてねぇ。蒼森と東堂の実力でゴリ押ししただけだ。この調子じゃ次はねーな」

「あ、あはは。跡部の評価はちょっと厳しいけど、連携が甘かったのは事実だろうな。でも裏を返せば事前の作戦準備とか連携をしっかりすれば伸びるってことでもあるさ。課題が明確なのはやりやすいぞ」

 ゆかりは画面を操作して、ランキング表を表示する。

「さて、これで紅豆隊は暫定的にですが中位トップに浮上です。夜の部の結果次第にはなりますが、中位入りは堅いでしょうね。蒼森隊、ニアール隊は下位残留となります。えーそれでは……各チーム次回の試合は6月6日! 対戦表の発表は本日夜の部の試合結果をお待ちください! 実況はかわいいかわいい結月ゆかりさんでお送りしましたー!」

 




【元ネタ雑記】
・蒼森ミネ→ブルアカより。レイガスト使い。悲しみの戦術1のゴリラ。
・東堂葵→呪術より。弧月使い。戦術値は高いが協調性が低いゴリラ。
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