B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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五話 六月三日 跡部隊

 紅豆隊の面々はボーダーの通路をよちよちと大荷物を運んでいた。途中、通り掛かった跡部と樺地に荷物運びを手伝ってもらう(なお初対面の人間を前に後藤ひとりは溶けた)。

「よっこいせ。やっと機材を持ってこれたわね。今日こそは練習を――」

 運んでいたのはバンド用の音響機材だ。特に穂波の自宅からドラムを持ってくるのには苦労した。

「なぁ紅豆……すっげー申し訳ない提案なんだけど、今日のバンド練って後回しにできない? 初めてのセッションってんでウチも楽しみにはしてたんだけど、それ以上に相談したいことがあってさ」

「ふぅん? 相談ならもちろん聞きますよ。言ってみてください」

 

 ◆

 

「えーっと、つまり昨日の第一試合で活躍できなかったのが引っ掛かってる、と?」

「言っちゃえばそういうことなんだけどさ……それ以上にやっぱ、自分がなにしたらいいのかわかんなくて」

 響香の言い分はこういうことだった。第一試合、自分は一点も取れないどころか敵にダメージを与えることすらできなかった。トリオン量、シューターの技術ともに自分より上の後藤ひとりというチームメンバーがいるなかで、自分が果たせる役目とはなにか。

「うぅん。まだ一試合目ですし焦りすぎな気もしますが。加えてシューターは火力を束ねられるポジションなんですから、後藤さんより実力が劣っていても問題はないかと」

「それに響香さん、ぼっちちゃんを敵スナイパーから助けてたよ。ちゃんと活躍してると思うな。本当はわたしが警告すべきところを動いてくれて、ありがとうね」

 こくんこくんといつぞやのヘドバンよろしくひとりは頷いて同意を示した。

「でも紅豆。ウチらが目指してるのはA級入りだろ? 今の実力で満足してていいのか?」

 耳郎がそういうとヴィグナは唸りに唸って、自分の額をコツンと叩く。

「むぅ……確かにA級入りを考えるとこのままじゃダメかもしれません。昨日の大勝利で浮かれてたみたいです……おし、バンド練はいったん中止! 作戦会議にしましょう!」

 

 とはいえ、四人で寄りてあれこれ意見を出し合ってみたものの実用性のありそうな提言はでてこない。なにせひとり以外の三人はB級にあがったばかりで、チーム戦のログなどもろくに見てこなかった。戦術理論やポジションの運用についての経験などもまるでないのである。

「一番確実なのはぼっちに指導してもらうことなんだけど」

「あ、う。シュータートリガーの扱いなら多少は。でもこの前言った通りなのでチーム戦での戦術とかは……」

 一試合目の戦いのあと、ひとりは自分がチーム戦の経験ゼロであることを明かした(それを伝えようとしたらなぜか自分が今まで友達が一人もできたことのない悲しい存在であることまでバレた)。防衛任務もソロで回していたし、ひとりはシューターの腕こそあれど他人との連携技術が一切ないのだった。

「やっぱり、だれかしら先輩の隊員に師匠になってもらうのが一番だと思います。耳郎さんは今まで独学で個人ランク戦やってたんですか?」

「そうだね。ログ映像とか見ることがなかったわけじゃないけど師匠とかはいないかな」

「うーん、あたしが師匠になってもらってる人はアタッカーだし……あっ、あの人たちはどうです?」

 

 ◆

 

「それでアポもとらず俺様たちのところに来たってか? ったく、付きっきりで見てやれるほど暇じゃねーが後輩の指導もA級の仕事だしな。とりあえず、実力を見てやる。ぼっちのやつも連れて今すぐシミュレーション室にこい」

「ありがとうございます!」

 響香が恃みにしたのはA級四位、跡部隊の跡部景吾だった。つい先ほど荷物運びを手伝ってもらった縁もある。加えて、跡部隊は三名全員がシューターのポジションで知られている隊だった(ただし正確には樺地崇弘はシュータートリガーを用いるオールラウンダーである)。

「おい樺地、シミュレーション設定頼む。それと宝積寺のやつを呼んできてくれ」

「……うす」

 

 シミュレーション室に入ると、マップAのような市街地が再現される。

「耳郎、ぼっち。まずお前らは集団戦でのシューターの基礎が出来てない。新規隊員の耳郎はともかくぼっち、お前はNo.2シューターなんだから恥を知れよ」

「あっ、あっひ、す、すみません……」

 定例のようにぼっちは溶けた。

「第一試合の動きを見たが、ありゃ論外だ。解説でも言ったが、シューターがアタッカーと同じ場所に集まったら射線が被るし、射程のメリットが減る。まずはバラけて敵を全方位から囲むんだ。シューターの本質は点取りじゃねぇ、敵を牽制して盤面をコントロールするのが仕事だ……と口頭で言ってもわかんないだろうな。実戦で教えるから付いてこい」

 跡部は弾丸を展開する。二人も合わせるように走り出す。

「ぼっち、お前はトリオン量の多さに頼りすぎだ。シミュレーション設定でトリオン能力をボーダー内指標で言うところの『5』にしといたからな。その火力で俺様のシールドを抜いてみろ」

「え……」

 自分の唯一自慢できる長所のトリオン能力の高さが失われたことでひとりはアイデンティティが崩壊する音を聞いた。試しにアステロイドを撃ちだしてみる。悲しいほどにへろへろだった。耳郎と合わせ撃ちして跡部を狙うが、跡部の的確なシールド技術で攻撃は完全に防がれてしまう。

「わかるか? 平均的なトリオン能力のシューターは同じ実力のアタッカーに真正面から撃ち込んでも、とてもシールドを抜けない。ランク戦で上位のやつらほどシールドの扱いはうまくなるぞ。じゃあシューターはどうすりゃいいと思う? 答えてみろ、耳郎」

「多方面から攻撃して、相手の注意とシールドを分散させる……ってことですか。本命である味方のアタッカーが攻撃できる隙を作りつつ、あわよくば自分も点を取る」

 耳郎の答えに跡部は満足そうにニィッと笑う。

「100点満点だ。やるじゃねーの。あとはその考えを応用発展させていけばいい。ぼっち、お前もだぞ。お前の膨大なトリオン量でこの戦術を取れれば、B級上位どころかA級でもやってけるんだ。せいぜい努力しろ」

 

 時間にして一時間ほど、跡部にシューターの手ほどきを受けたころ。基礎的な動きについて指導されていると、ゴゴゴゴゴとシミューレション室内に駆動音が鳴り響く。

「こうして跡部さんという師を得た二人は長い長いシューター坂を登り始めたのであった……まさしく青春ですわ~!」

「えっ。誰この人」

 シミュレーションルームにセリ仕掛けで突然現れた女性に耳郎とひとりは怯えた。謎のテンションについていけなかったためである。

「おっと申し遅れました、わたくし跡部隊のシューター兼マネージャーを務めております宝積寺れんげと申します。樺地さんから事情は聴きましてよ」

 れんげは先ほどの奇行もつゆ知らず、ふんわりと品のある礼をしてみせる。

「やっときやがったか。おい宝積寺、俺様はこいつらの師匠役をやるなんて一言も言っちゃいねーぞ。というよりも、お前が師匠をやるんだよ。毎週やってる練習会にこいつらも出してやってくれ」

「ああ、それでわたくしがお呼ばれしたのですね」

「練習会、ですか」

 曰く、れんげはB級以上のシューター女子隊員を対象として練習会を主催しているらしい。情報交換と技術向上を目的とした交流会のようなものであった。

 ボーダーにおける新人隊員の教育制度はいまだ未整備であり、公的には簡素な訓練課程があるのみにとどまっている。課程の修了後はひたすらランダムマッチのランク戦で実力を磨くしかなく、そこから伸びるかは個人の努力とセンスに委ねられる。

「本来ならボーダー側がきっちり新人教育を充実させるべきなんだがな。そこまで手を回すには組織のリソースが足りてないってのが実情だ。だから隊員間で自主的な練習会をやったり師弟関係を作ったりして、教育制度がないのを誤魔化してんのさ」

「はえー……」

 ぽけーっと話を聞いている耳郎のうしろでひとりは内心泣いた。女子シューターの練習会があるなんて知らなかったし一度も誘われたことがないからである。

(やっぱわたしハブられてる……ハブられてるよぉ……!)

 

 シミュレーションから出て、跡部隊の隊室。やたらと高級感がある調度品で溢れた室内にひとりと耳郎はどことなく落ち着かなかった。おいてあるソファからして、手触りだけでその高さがわかる。

 樺地が淹れてくれたこれまた高そうな茶葉の紅茶を、テレビで見たことのある高級店の茶菓子をほおばりながら、またまた高い茶器で飲む。

(なにこの部屋ー!? A級ってみんなこうなの? 跡部さんのところがおかしいの?)

「おほん、練習会の新メンバーはいつでも募集していますからお二人は大歓迎です。それで後藤さんはチーム戦でのシューター運用について疎い、ということでよろしいんですの?」

「あ、はい……」

「わたくし、後藤さんはてっきり人とつるむのが嫌いなロックでアバンギャルドな不良少女なのだと思い込んでいたのですが……跡部さんから聞くところによれば、実はただのド陰キャで人と話せず友達もおらず仕方な~くソロ隊員をやっていた、と」

「ぼっちがオーバーキルで死んじゃうからその辺にしてあげてください……」

 もう死んでいる。

「ともかく、シューターの戦術講義についてはお任せください。それに近年は陰キャ美少女が人気なゲームも多いですし、わたくしはアリだと思いますわ!」

「何の話ですか!?」




・跡部景吾→テニプリより。ボーダー最古参の隊員にしてスポンサー企業の御曹司。地味にサイドエフェクト持ち。
樺地崇弘→同じくテニプリより。ウス。
宝積寺れんげ→ホスト部より。乙女ゲーオタクのお嬢様。ボーダーのスポンサー企業の社長令嬢。
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