B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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六話 六月四日 セッション

 憂鬱な月曜日の学校を終えて紅豆隊の隊室に駆け込むと、どうやらひとりが一番乗りだったらしい。

(誰もいない。ボーダーで一人きりになるのって久しぶりだな)

 じゃらぁん。手慰みにギターをかき鳴らす。

 久しぶりの孤独がさみしいような、落ち着くような。相反する気持ちが同居している。

(隊を組んでから忙しくて、結局一回もセッション出来てないや。今日はできるかな……いつかA級にあがって、ライブもできるのかな)

 憧れのライブ。かっこよくギターテクを見せつける自分。ボーダー内にファンができまくってチヤホヤされまくる自分。妄想を膨らませてぐへぐへとよだれを垂らす。

(弟子もたくさんできちゃったりして。ランク戦の解説にもお呼ばれして……ふふふ!)

「どぉーも、本日解説で呼ばれたNo.2シューターの後藤でっす、なぁんて……ぐへへへ」

 ふと見ると、隊室のドアが開いている。

「……わたし、なにも聞いてないから。ね?」

「ほ、穂波さん、いつから……」

 気まずそうに笑う穂波を見て、ひとりの胃は死んだ。

 後藤ひとりの黒歴史がまた1ページ。

 

 ◆

 

「一昨日の夜の部を受けて、ランキングはこうなったよ」

 穂波がデバイスを弄ると隊室のスクリーンに表が映し出される。

 

順位部隊名得点
1レルゲン隊14
2桐ヶ谷隊14
3ウェンリー隊13
4美甘隊11
5デグレチャフ隊11
6唐沢隊9
7市丸隊8
8結月隊7
9キルステン隊7
10立花隊7
11紅豆隊7
12芹沢隊6
13エルリック隊5
14クラス隊4
15蒼森隊3
16作楽隊3
17白笛隊1
18ニアール隊0

 

「ウチらは11位か。高いのか低いのかよくわかんないな。次の対戦相手は7位の市丸隊、12位の芹沢隊だったっけ?」

「ですね。わたしの師匠に言われたんですが、ランク戦ではログで相手のトリガー構成と戦術を確認するのは必須らしいです。なので今日はログチェックと基本戦術を決めるまでできたらな、と思います」

 確認するのは第一試合のログだ。それぞれ市丸隊はキルステン隊・結月隊と、芹沢隊は作楽隊・白笛隊と交戦している。

「とくに警戒するべきなのは芹沢隊、かな。このチーム、第一試合で六点も取ってる」

「ええ。師匠に聞いた話なんだけど、芹沢隊の隊長のあさひさんって人は元A級らしいわ。今B級にいるのは隊を一から組み直したからだそうよ」

 穂波がピックアップした映像が流れる。芹沢あさひ。元A級、マスタークラスのスコーピオン使い。グラスホッパーを巧みに使い、戦略的にも戦術的にも高速機動するスピードタイプだ。

「芹沢隊の構成はアタッカーが二人、ガンナーが一人だね。第一試合ではかなり早期に合流して、連携して白笛隊を落としてる。見てみるとやっぱりあさひさんの動きが一番厄介そう」

「後藤さん、仮にこの芹沢さんと距離50ほどでタイマンを張るとして、何割勝てますか?」

「お互いに視認しているなら、確実に勝てると思いますけど……こういうアタッカーの人はバッグワームを使った奇襲とかしてきますよ」

 ひとりがアタッカーとの個人ランク戦を避けてきた理由は、マスタークラスのアタッカー相手の奇襲戦・遭遇戦で勝てたことがないからだ。

 ひとりはことシュータートリガーの扱いにかけては、ギターとともに黙々と練習を積み重ねてきただけあって相当なものである。しかし根本的にひとりは運動が苦手であり、それはトリオン体の扱いにおいても同様だった。単純に走るだけならまだしも、高い障害物を登ったり攻撃を避けたりなどはまずできない。狙撃や奇襲に気が付けたとしてもシールドの展開が間に合わない。そのためひとりの基本的な戦術思考は、近接戦や奇襲をいかに避けて自分の有利な撃ち合いに持ち込むかというところに終始するのである。

「向こうもログのチェックはしてるはずだし、ぼっちは絶対マークされると思った方がいいんじゃないかな。対芹沢隊ってことに限れば、あっちはどうやってぼっちを落とすか、ウチらはどうやってエースの後藤を活かして撃ち合いで勝つかっていう読み合いになる、と思う」

「概ね同意です。市丸隊のほうも見ていきましょうか。ログを見た感じ、芹沢さんほどのエースアタッカーはいなさそうですが」

 市丸隊はアタッカーが二人、しかも両名ともガンナー・シュータートリガーを持っていないという攻めたスタイルだ。しかし隊長である市丸ギンは弧月のオプショントリガーである旋空を刺突で放ってくるという独特の方法で射程の短さを補っている。

「市丸隊は警戒するような攻撃力はあまりなさそうです。怖いのは突き弧月くらい。ニ体一にさえならなければ必ず勝てるとは言わずとも負けない相手なはず……やっぱり警戒するべきは芹沢隊ですね。今回はマップ選択権も彼女たちにある」

 この第二試合において、芹沢隊のエースである芹沢あさひに匹敵する駒は後藤ひとりだけだ。まず間違いなくひとりの射撃能力を封じるようなマップを選んでくるだろう。予想できるとすれば建物内が戦場になるマップや、射線が通りにくい閉塞的なマップなどか。

「……そもそもウチら、どんなマップがあるか全部は把握してなくね? 選べるマップ数、正直かなり多いよ」

 マップ把握が足りていなくて対策の立てようがない。本末転倒だった。

「と、とにかく! 警戒すべき点は洗えたはずです。あとは後藤さんを活かしてこちらの有利な環境を整えることを意識して、臨機応変に! で、いいでしょうか」

「いいんじゃない? ……多分」

 消化不良を抱えつつ、ミーティングは着地する。

 

 ◆

 

 作戦会議を終えたひとりたちはいよいよバンド練習をしようと決心した。それぞれが機材の電源を入れて楽器を鳴らす。

 演奏するのは流行の邦楽ロック。ひとりも何度か練習したことがある曲だ。うまく弾ける自信があった。

 しかし――

 

「ばっらばらだわ!」

「全然合わないね……」

「我ながら酷い演奏だった……」

(……あれぇ!?)

 

 四人が四人とも、ソロ演奏しかしたことがないのである。演奏の息が合わなくて当然だ。ひとりのイマジナリーフレンドのギタ男くんですら匙を投げてやれやれだぜと肩をすくめる始末。

「ま、まぁ初めてのセッションですし。いきなりうまく演奏できるわけないですよね。ここからうまくなればいいんです! ね、穂波!」

「う、うん。今日明日でライブをやらなきゃいけないってわけでもないし、これからだよ」

 それぞれ、自分の演奏の技巧には多少の自信があった。ひとりに至ってはなにをかいわんやである。それを木っ端みじんに打ち砕かれた。

 あはは、と愛想笑いが隊室に響く。ヴィグナと穂波の言うことは正しい。急ぐ必要はどこにもない。誰もが最初は下手くそなものだ。

 それでも忸怩たる思いがないでもない。出鼻をくじかれたという気持ちはぬぐえない。前途多難、暗雲立ち込める。そんな気持ちになった。

 

 

 




・芹沢あさひ→シャニマスより。スコピ使い。イメージ的には王子と空閑を足して二で割った性能。冬優子ちゃんは強くなるっすよ。わたしが保証するっす。
・市丸ギン→ブリーチより。ワ民なら誰もが一度は妄想する突き旋空使い。13キロや。

本文で描写してないランク戦も試合内容は考えてるんですが、どれくらい表に出すか悩み中。ある程度書き進んだら割烹とかに丸ごと乗せるかもしれません。
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