B級正隊員、後藤ひとり   作:加藤=アールパード・清正12世

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七話 六月六日 練習会

 六月六日、昼。今日はB級ランク戦第二試合の日であると同時に、跡部に紹介してもらった練習会の日でもある。

(知らない人と会うの怖い怖い怖い)

「ちょっ。ぼっち、そろそろ行かないと待ち合わせの時間間に合わないって。ウチが付いてるから、ほら。な?」

 ヴィグナと穂波がそれぞれ昼の部のランク戦を観戦しに行ったのを見送ると耳郎とひとりもシューターの練習会に出かけることにしたのだが、案の定ひとりが対人恐怖症を発症して動けなくなっていた。

「じ、耳郎さん、今までありがとうございました……わたしはもうだめみたいです……」

「いやいや死ぬな死ぬな。ちょっと考えてみなって。ぼっちってNo.2シューターだろ? そんでシューター一位の人って確か男だったはずだから、女子しか来ない練習会の参加者はみんな後藤よりポイント低い人たちってことじゃん。きっとみんな、ぼっちのこと尊敬してくれると思うけどな~!」

「……! い、行きます!」

 このごろ、耳郎は後藤ひとりという女の性格をほとんど知悉していた。人見知りでネガティブな気質がある一方、承認欲求が強く自分がもてはやされる妄想に耽りがち。気をよくして練習会への意欲を出してきたひとりを見て(ぼっちってちょろいな~)と耳郎は独り言ちた。

 

 練習会の集合場所は仮想訓練室の一つだ。予約制で隊員が使うことのできる訓練室は普段であればなかなか使えないが、ランク戦の日に限っては多くの隊員が観戦に行くので予約が空く。そのため練習会はランク戦のある毎週土曜日か水曜日に行っているらしかった。

「お二方、ようこそいらっしゃいました。みなさんにご紹介差し上げますわ。こちら紅豆隊の耳郎響香さんと後藤ひとりさんです」

 訓練室に集まっているのは耳郎とひとり合わせてたったの六人。もっと大人数と対面する羽目になると踏んで気後れしていたひとりは拍子抜けの気分になった(それはそうとして緊張はしているが)。

「後藤さん! 個人戦ではいつもお世話になってるけど、こうして顔を合わせるのは初めてね。一度話してみたかったのよ」

「あっ、あなたは……!」

 練習会のメンバーで最初に口を開いたのはシューターランキング三位にしてA級一位煉獄隊の隊員、御坂美琴である。なにを隠そうひとりが毎日のようにランク戦に潜っていたとき、最も数多く対戦していたのが彼女だ。考えてみれば彼女も自分と同ランク隊のシューターなのだから、この練習会に参加しているのは必然だったろう。

 次いで名乗ったのは桐ヶ谷隊のシューター、花田煌。「後藤さんの対戦ログはよく拝見させていただいています。シュータートリガーの扱い、すばらです!」と後藤の手を取ってぶんぶん振り回した。

「ではオオトリで自己紹介させていただきましょう! 我が名は紅魔めぐみんッ! ウェンリー隊のシューターにしてメテオラを扱う者ッ!」

 魔法使いのローブのようにアレンジされたバッグワームを翻し声を高らかに上げる姿は明らかに奇行と言ってよかったが、練習会のメンツは華麗にスルーしている。変人という分類では後藤ひとりというチームメンバーを抱える耳郎も(ぼっちと方向性は違うけど同類の人だな……)と周りを見習ってこれをスルー。

「思ってたより規模が小さいんですね。B級以上の女子シューターってこれで全員なんですか?」

「昼の部のランク戦があるから不参加の人が一人、そもそも練習会には参加してないA級の人が一人いるけどあとはこれで全員よ。昔はもっとシューターがいたんだけどねぇ……」

 御坂はしみじみと過去を語る。曰く、一年近く前にガンナートリガーが開発されたことで、シューターが続々とガンナーに転向。今では男性を合わせてもB級以上のシューターは両手で数えられるほどしか残っていないのだと。銃手は銃手で練習会を開いているから、シューターの練習会は物寂しくなった。

「アタッカーやオールラウンダーでシュータートリガーを使ってる方はいらっしゃるのですけれどね。やはり銃器のほうが扱いが平易で人気があるようですのよ」

「だからこそNo.2シューターの後藤さんが来てくれたことは僥倖よ! 近々、練習会の規模をC級隊員まで拡大しようと思ってるの。そのときの指導役を後藤さんに手伝ってほしいなって!」

 ミサカーン!とキラキラ輝く陽キャオーラが眩かった。

 

「おほん。それで本日は、チームを組んだばかりの紅豆隊のお二人にシューター戦術の基礎を伝授できたらと思うのですけれど。先日跡部さんからもある程度鍛えてもらったようですが」

「ああ、シューターはとにかく相手の注意を引いて集中力を削れって言われました」

「戦闘全体の盤面をコントロールするのが役目、だとか……」

 跡部の教えを思い返していた耳郎とひとりにいい顔をしないのは御坂美琴である。露骨に苦虫を噛んだような顔をした御坂にひとりはビクついた。

「跡部さんに教わったのかぁ……あたし、あの人の戦い方あんまり好きじゃないのよね。相手の集中力を削るなんてどこのポジションでもやってるでしょ。シューターはもっと積極的に点が取れるポジションなのよ!」

 御坂は持論を捲し立てた。なんでも彼女に言わせれば跡部の戦術には積極性が足りないのだという。シューターは工夫と技量次第でいくらでも伸びるポジションである。加えてトリオンの多寡が最も影響しやすい職でもある。常時フルアタックを展開すれば安定性に欠ける一方で、極めればアタッカー以上の攻撃力を発揮できる。つまり彼女が描く戦術論とは点取り屋としてのシューターの動き方。跡部が唱えるサポート重視とは真逆の考えだった。

「そのとぅりですっ! シューターの本質とは爆発! 一撃火力にこそあります!」

「や、悪いけどめぐみんさん。メテオラ乱打のあなたも、わたしの考える戦術理論は真逆ですから……!」

「なんですとぉ!?」

「でも跡部さんの考え方が悪いとは言わないわ。わたしのやり方は高トリオンの人――ちょうど後藤さんみたいな人向けだし、連携して敵を倒せるならなんでもいいとも思うのよね。自分に合ったやり方を見つけてちょうだい」

「ぜひメテオラを! メテオラ爆撃をお願いします!」

「やかましいっつの」

 御坂がデコピンするとめぐみんはコテンとすっ転んだ。

 

 ◆

 

「というか、耳郎さんはB級にあがったばかりでしょう? 師匠となる方もいないのなら、トリガー構成から見てあげたほうがよいのでは?」

 花田からの提案に一同は同意した。耳郎のトリガー構成は以下の通りである。

 

メインアステロイドハウンドシールドバッグワーム
サブアステロイドハウンドシールド(空き)

 

「うぅーん……耳郎さん、なにかコンセプトを考えて組んだりした?」

「えっと、正直なんも考えてないです……」

 恥ずかしそうに赤面する耳郎にあはは、最初はそうよねーと御坂は笑う。

「サポーターとしての役割で考えるならばハウンドでフルアタックする盤面はなかなかないでしょうし、片方は抜いてよいかと。バイパーとメテオラを入れていない理由などはなにかあってのことです?」

「使ったことが一度もないから入れてないだけなんです……! 考えなしですみません」

「いえいえ、責めてるわけではございませんので。後藤さんはチームメンバーとしてご意見はありますでしょうか」

「えっ、はい。その、シューターっていう観点からはズレるんですけど、オプショントリガーなんかを入れるのもアリだと思うんですが……」

 ひとりの提言に反応したのは花田だ。目をキラリと輝かせた。

 

 戦闘員としての花田煌という少女は、シューターとしてよりサポーターとして知られていた。状況の変化に聡く、戦闘中もよく盤面に気を配り、周りを立てることに長けている。そんな彼女自身はスパイダーやスタアメーカーなどのオプショントリガーを用いることが多く、試合ごとにトリガー構成を入れ替えるのも珍しくないという変わった隊員だった。

「ふむ。その心は?」

「は、はい。その、耳郎さんは戦況を俯瞰してみるのがうまくて、状況判断も早いんです。この前のランク戦でも誰よりもはやくスナイパーの射線が通ってることに気が付いてましたし、防衛任務でもヴィグナさんのサポートをわたしよりうまくやってますから」

「ぼっち、わたしのことそんな風に見てたんだ? なんか照れるな。……うん、正直トリオン量でも技量でも上位互換のぼっちがいるんだし、シュータートリガー以外の選択肢もありかも」

 その言葉に花田は目を再びキラリと輝かせた。

「後藤さんの慧眼、すばらです! それでしたら話がはやい。オプション志向のサポートシューターを目指すならわたしが手取り足取り教えますとも!」

 紅豆隊はこれから夜の部のランク戦がある。いきなり当日にトリガー構成を変えてぶっつけ本番で試すのも難しいだろうということで今日は構成を据え置きとしたが、耳郎は花田と正式に師弟関係を結ぶことになった。

「っす! よろしくお願いします!」

「初めての直弟子、すばらですね。ですがそんなに固くならずとも大丈夫ですよ」

 

 ◆

 

「どうやらお話はまとまったようですのね。こんなふうにトリガー構成を相談しあったり、シミュレーション室で撃ち合って訓練したりする緩い集まりですから、今後ともごひいきに。訓練後にはみなさんでお茶会をしたりもしますわよ」

「あっ、お茶会……」

 女子らしさ溢れるワードにひとりは胸を躍らせた。

 どうにも連日新しく顔を合わせる人ばかりで、ひとりはボーダーに入ったころの心労をふと思い出す。精神力がゴリゴリと削られているのを感じるのだ。

 一方で、人と話す経験を少しずつでも積めているのではないかという実感もある。張りつめていたものを切らすように息を吐きだした。




・御坂美琴→とあるより。シューターランキング3位の秀才。個人ランク戦でひとりと正面からぶつかってはポイントをお貢ぎしている。ひとりの個人ポイントがやたら高い原因の一つ。
・花田煌→咲より。イメージとしてはみずかみんぐをモチーフにしている。樺地と並ぶボーダーの名サポーター。
・紅魔めぐみん→祝福より。メテオラ馬鹿。実はボーダー内では二番目のトリオン量を誇るトリオン富豪。
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