ひとりと耳郎がシューターの練習会に出席していたのを同じころ、ヴィグナと穂波はB級ランク戦下位グループ・昼の部を見に来ていた。
跡部という人気隊員が解説に来ていたことやルーキーの部隊を確認する目的で観客の多かった第一試合に比べ、今日の第二試合は人足がまばらなように見受けられる。
「ねぇヴィグナちゃん、なんでわたしたちが今いるB級中位じゃなくて下位の試合を見に来たの? 参考にするなら中位以上がいいと思うんだけど」
「あたしもそう思ってたんだけどね。師匠から下位の試合を見てきなさいって言われちゃったのよ。意味のないことを指示する人じゃないから、含意があるはずだわ」
本日の対戦表は中位から下位に転落した13位のエルリック隊、16位の白笛隊、先日紅豆隊と戦った18位のニアール隊の三つ巴だ。
エルリック隊はレイガスト持ちのアタッカーが三人に機動型のガンナーが一人という、かなり偏った編成の四人部隊だ。突破力にこそ欠けるものの、ハマればある程度の実力を発揮すると評される。
白笛隊はアタッカーが二人にガンナーが一人。アタッカーの二人はB級にあがったばかりのルーキーであり、実力に乏しいというのがログを見たヴィグナの雑感だった。
ニアール隊は先日戦った通り、レイガストを持った防衛的な二人と威力の高い銃を持った三枚編成だ。即ち――
「この戦い、エルリック隊とニアール隊のどちらの部隊コンセプトが洗練されているか試される試合になりそうね」
「トリガー構成が似てるからってこと? レイガストってたしか防御寄りのトリガーだったよね。地味な戦いになりそうだけど……」
ヴィグナと穂波が考察しているあいだにも実況席が自己紹介を始める。
「本日の実況はこの俺、右代宮戦人が務めるぜ。解説に呼んだのはまずビスケの姉御!」
「だわさ」
元気のよい青年、ウェンリー隊のオペレーターである戦人が紹介したのはB級フリー隊員のビスケット・クルーガーだ。落ち着きを払ってビスケは頷いた。
「もう一人は桐ヶ谷隊のシノンちゃん!」
少し気恥ずかし気に手をあげて頭を下げたのはメガネを掛けた少女、朝田詩乃。あだ名で呼ばれたことで少し顔を赤らめている。
実況解説の三人は、オープニングトークでやはりエルリック隊とニアール隊のコンセプトの類似を指摘した。シールドモードのレイガストを活かした防御連携を得意とする二部隊だ。
「一時期熱狂的だったレイガスト人気もようやく下火になってきたけど……そこで培われたノウハウが結実する試合になりそうだわね」
「となると、アタッカーが一人多いエルリック隊のほうが有利ってことっすか?」
「うんにゃ、むしろアタッカー以外の一人がどう動くかが要点だろうね。加えて言うなら、防御連携の固い二隊の間をいかに荒らせるかが白笛隊の勝機になるだわさ。重要なのはレイガストを持ってない連中がどう動くか! あたしの予想はそこだね」
「エルリック隊もニアール隊も合流してからが強い隊だろうし、白笛隊は合流される前に速攻を仕掛けたいかもね」
二人の解説を聞きつつ、実況の戦人はコンソールを弄る。画面上に点数表や各部隊の情報が映し出される。
「なるほどなぁ。そいじゃ、そろそろ転送開始だ! さっきも言ったがマップ選択権はニアール隊、選択したマップはコンテナ港! マップ南が海に面してて、でっけぇコンテナ地帯があるステージだぜ」
「タンカー船とかクレーンの高台が多いからスナイパー有利と見せかけて、撃ったあと逃げにくいから慣れてないとスナイパー殺しになるマップでもあるわね」
「おお、さすがNo.1スナイパーっぽい解説だぜシノンちゃん。それじゃ……B級ランク戦第二回昼の部! 試合開始だーっ!」
◆
時間は少し遡り、転送前のミーティング中のニアール隊室。
「ボロ負けだった第一試合のことは忘れろ。俺たちのやるこたぁ変わらねぇ。基本に忠実、事前の作戦通りに動けばいい」
作戦の音頭を取るのはニアール隊の参謀役にしてオペレーターの奈良シカマルである。チーム内で一番若い彼であるが、隊長であるニアールの丸投げによって部隊運用の策定から戦術指揮まですべてを押し付け、もとい委任されている。
「とにかく合流優先、戦闘面ではゾルタン先輩の優先、ですね!」
「そうだマシュ。この部隊の火力役を張れるのはアッカネンさんしかいねぇ。本当はサブプランも用意したかったが、練習に取れる時間も足りなかったしな」
「第一試合はそれで負けちゃったからねぇ。ゾルタンくん、頼んだよ」
全員の目がゾルタン・アッカネンに向く。ともすればプレッシャーになるような発言もものともせず、ゾルタンは飄々と笑った。
「俺が前回落ちたのはキリエライトの防御が甘かったからだと思うんですがねぇ。おっと、睨まないでくれよ。隊長を失望させるような結果は出さないさ……決してな」
シカマルがキーボードを叩いてマップの立体図を表示させる。
「対戦相手への戦術を再確認するぞ。マシュ、俺たちがエルリック隊に勝ってる点はどこだ?」
「はい、ゾルタンさんを擁する火力の高さです。エルリック隊はシールドモードのレイガストとエスクードを駆使して防勢での削り合いを得意としますが、防御連携の練度では我々も劣りません。エルリック隊の主な火力は小鳥遊ホシノ先輩のショットガンと、機動ガンナーであるジャン・ハボックさんの銃撃ですが、前者は近距離で最大の火力を発揮するスタイルで、後者は拳銃型トリガーによる牽制がメインであるため脅威にはなりえない。中距離戦を旨とする我々が有利となります」
「……そ、そうだな。じゃあ白笛隊はどうだ?」
「白笛隊で脅威となるのはガンナーであるライナー・ブラウンさんです。ボーダーのなかでも古参のガンナーである彼は援護能力に優れ、時にはガンナーでありながら敵のヘイトを引き付けるような役回りも行えます。しかし白笛隊の白笛リコ隊長と高野レン隊員はB級に上がったばかりの新人で、連携も未熟な点が見受けられるので、そこを突く形の動きを取ればライナーさんも封じることができると考えます。ただライナーさんは時折弧月を用いた二刀流やバッグワームの奇襲なども行うオールラウンダー寄りの動きをすることもあるので、一定の注意は必要です」
あくまでミーティングの再確認程度のつもりで聞いただけのシカマルは、理路整然と返答するマシュに少し冷や汗をかいた。
「……よ、よく勉強してやがるな。ニアール隊長、もう俺が参謀やらなくてもいいんじゃねぇですか? ログ漁ってデータ纏めるのもめんどうだしよ……」
「だめでーす♪ マシュは優秀だけど、自分で作戦を練るってよりコツコツ頑張る努力屋さんだから、そこはシカマルが補ってあげてね。ゾルタンくんもだよ。ゾルタンくんは一番の年長さんなんだから後輩の面倒見るんだぞ~♪」
ニアールの言葉に、ゾルタンは苦虫を潰したような顔をする。
「はっ、俺が人を率いるような器に思えますか、隊長」
「いや? 全然見えない」
「はい! ゾルタン先輩は人の上に立っちゃダメな人であるように思われます!」
それを聞いていたシカマルが噴き出して笑った。
◆
「各部隊転送完了だ! バッグワームを使ったのは……五人!」
「白笛隊の全員とハボック、それにアッカネン。白笛隊以外は射程持ちだわね。白笛隊は詩乃の読み通り速攻を仕掛けるつもりかしら?」
コンテナ港はかなり広いマップだ。マップの最北端にひらけた大通りこそあるものの、そこを除くと巨大で複雑なコンテナ地帯が広がっている。マップ中央には泊地の水域があり、そこには超大型のコンテナ船が鎮座している。コンテナ船は東西の視界を遮っていて、転送位置によっては東西で連携が分断される恐れもあった。
「西に転送されたのはエルリック隊長、タケシ隊員、高野隊員、ニアール隊長。東寄りで転送されたのは小鳥遊隊員、白笛隊長、キリエライト隊員、アッカネン隊員。マップ中央近くはハボック隊員とブラウン隊員だな。白笛隊は見事に分断されたのが痛そうだが……」
「逆じゃない? ブラウン隊員の転送はコンテナ船上。高台からバッグワームを使った隊員を目視で捕捉できるかもしれないし、コンテナ地帯に入り込まれなければ射撃で援護できるかも。その意味だとハボック隊員も東西どっちにも行ける位置なのがおいしいわね」
各部隊が合流の動きを見せる。広いマップだ。序盤はひたすら機動に時間を割かれることになるだろう。
「っと、隊員同士の戦闘が始まる前にアッカネン隊員のトリガーについて解説したいんだが、シノンちゃん頼めるか?」
「アッカネンさんって銀鏡さんフォロワーの子だっけ? ログは確認してるから解説はできるけど。種明かししちゃっていいのかしら」
「いいと思うわよ? 第一試合じゃ跡部のやつが気使って解説しなかったみたいだけど、試合後にイオリのフォロワーが出たぞーってすぐ話題になってたしねぇ。B級以上はもうリサーチしてると思うわさ」
戦人が画面を操作すると、試合を映すスクリーンの端に第一試合での紅豆隊とニアール隊の戦闘シーンが映し出される。ピックアップされたのはゾルタンの一発の射撃で耳郎のシールド二枚が割られるシーンだ。
「ここね。アッカネン隊員の持ってるこのトリガー、見た目は突撃銃型のガンナートリガーに偽装してるけど、端的に言うとこれスナイパートリガーなのよね。威力的にはアイビスだと思うわ」
「ほうほう。でもスナイパートリガーをこんな近距離で使うのは珍しいよな?」
「うん、そうね……えーっと、まずスナイパートリガーとガンナートリガーの違いについて説明するんだけど、実はこの二つって原理的には同じ作りなのね。違うのは弾丸の威力とか、撃った時の反動とか、リロード速度とか。つまりガンナートリガーを狙撃用に専用チューンしたのがスナイパートリガーなわけ。で、一発だけの威力で見るとスナイパートリガーのほうが強いのよ。ここまではわかる?」
うんうんと戦人が頷いて反応する。
戦況はいまだ動いていない。シノンは解説を続ける。
「で、スナイパーのほうが威力高いなら、ガンナートリガーよりこれで撃ちあったほうが強いんじゃないか? って発想があったの。というか撃ち合いで勝つために威力の高いガンナートリガーを開発してたら、狙撃に向いたトリガーになっちゃったってのが実態なんだけど」
「へぇー。確かスナイパートリガーの開発ってシノンちゃんも関わってるんだっけ? そこまで詳しい話は知らなかったぜ」
「うん。でね、この高威力の銃を近距離戦で使ってみたら、これが全然使い物にならなかったの。スナイパートリガーは実際に手にしてみればわかるんだけど、とにかくでかいし重い。これをアタッカーとの高速戦闘で使うのは無理って結論が出た……はずだったんだけどね。A級の銀鏡イオリさんって子がその評価を覆したのよ」
「そりゃまたどうやったのさ」
「グラスホッパーで高速機動しながら、超至近距離で無理やり射撃したのよ」
「……えぇ? なんか力押しすぎないか?」
「ね。それでいて実際、彼女のスタイルは誰も真似できなかったの。スナイパートリガーの近距離運用を実用化させたって言っちゃえば簡単だけど、真似しようとしたガンナーたちはことごとく失敗。だから狙撃銃の近距離運用って一個人の曲芸扱いだったんだけど……アッカネン隊員のスナイパーの運用思想は銀鏡隊員に近いと思うわ。狙撃銃のデメリットをいかに押して近距離で運用するか?ってことね」
「曲芸染みた機動戦術の代わりに、ニアール隊長とマシュ隊員の防御連携を利用したスナイパーの近距離運用、だな。俺も第一試合のアッカネン隊員のログを見たけど、ありゃ並大抵の部隊じゃ抜けないだろうな。ぼっちちゃんっつージョーカーに覆されてたけどよ」
「うん……っていうか実況しなくて大丈夫? 高野隊員とニアール隊長が衝突しそうだけど」
画面を見れば戦況はかなり動き始めている。それぞれ近くに転送された仲間同士が合流し、全部隊が北上の構えを見せる。クレーンからコンテナ船に移ろうとしていたマリアをレンが奇襲し、ライナーもそれに呼応して射撃する。射撃音に反応したエドワードとタケシも方向を変え急行しようとしていた。
「お、おおっとぉ! 俺としたことが解説に夢中になっちまったぜ! ニアール隊長と高野隊員、戦闘を開始する! エルリック隊にも囲まれそうだぞ! これはニアール隊長が不利かぁ!?」
大慌てで声を張り上げた戦人の喧しさにシノンは顔を顰めるのだった。
本作の佐鳥枠は銀鏡イオリです。人食い反社どもめ!