マップ中央からやや西。コンテナに囲まれた地帯で高野レンとマリアが斬り合っていた。
レンの用いるトリガーは弧月一本。対するマリアは左手にレイガスト、右手に弧月という攻防入り混じるスタイルだ。
はるか上空、コンテナ船の上からはライナーがアステロイドの銃撃でレンを支援する。もっとも戦場から距離が離れすぎていて、あくまで牽制というレベルの射撃だった。
「あ、キリエライト隊員がバッグワームで消えたな。アッカネンと合流してるしコンテナ船に昇って奇襲するつもりか?」
「西で混戦が起きてるし、オペレーターの能力によってはマシュちゃんが消えたことに気が付けないかもね」
レンとマリアの戦いのさなか、突如マリアの後方に壁が生える。シールドトリガーの一種、エスクードだ。
「おっとぉ! ここで西の戦闘にエルリック隊も乱入だ! いきなりエスクードを使用してニアール隊員の後背を潰したぞ! これはピンチかぁ!?」
「……いや、なにやってるんだわさ。あれじゃニアールのやつが警戒しなきゃいけない方向を減らしてやってるだけじゃないのよ。しかもエスクードの壁は方向的にライナーの射撃を防ぐ形だわね。この試合で一番の格上はニアールだってわかってんのかしら?」
左右をコンテナに挟まれた通路の一方向を潰されて、マリアは背後に余裕ができた形だ。一方のレンは前方をマリア、後方を突如現れたエドワード・エルリックと岩谷タケシに挟撃されている。
最期を悟ったか、レンはマリアへ向けて捨て身の突貫。マリアはこれを余裕をもっていなすが、しかしレンの供給機関を先に破壊したのはエドワードの投げレイガストだ。ブレードモードに変形させたレイガストをスラスターで投げ飛ばす技である。
「おお、うまいな……しかもさらにエスクードを生やしてニアール隊長を封じ込めたぁ!? エルリック隊、ここは一旦引く構えか!」
B級ランク戦第二試合、最初の点を取ったのはエルリック隊。高野レンのベイルアウト反応とともに試合は中盤戦へと転がり込む。
◆
『一点取られちゃった~。エドくんたちには逃げられちゃうし……シカマル、どうしよう?』
「どうしよう、じゃないっすよ隊長。とっととエスクード壊してマシュたちと合流してください……アッカネンさん、ブラウンさんは捕捉できそうっすか?」
『問題ない。地上に降りて北上しているところを捉えた。このままマシュと前方を抑える。隊長がこちらにきて後方から北に攻め上れば挟撃できるぞ、急がせろ』
「りょーかい。ようやく一点取れそうだな……」
シカマルはキーボードを叩き現在の情報をまとめ上げていく。現在レーダーにうつる西の反応二つは先ほど見えたエドワードとタケシ、つまり北で合流の動きを見せているもう一つの反応は小鳥遊ホシノで間違いない。バッグワームを多用する傾向にあるハボックもすでに北のどこかに潜伏しているとみていいだろう。
となると東で浮いている駒は白笛リコだ。ライナーと合流しようと試みているのか、こちらもじわじわと北上している。しかしニアール隊が対応せずとも単騎ではエルリック隊に狩られる運命だろう。
(……いや、エルリック隊は白笛を放置するかもしれねぇな。そのまま浮かせとけば、白笛はウチとエルリック隊が衝突したときに場を荒らす駒になりうる。そういう盤外の駒がなきゃエルリック隊はウチのチームとの戦力差をひっくり返せねぇ。もっとも、それを考えるだけの頭があったらの話だがな)
戦術を考えているうちにベイルアウト反応が上がる。ゾルタンの狙撃がライナーのシールドを割って脱落させたのだ。
『やたっ! 一点だ~!』
『おめでとうございます、ニアール先輩! この調子で点数を稼いでいきましょう!』
(のんきだねぇ……)
めんどくさい。帰りたい。そんな気持ちをシカマルの胸中が占めていたが、ここで責任を放り投げるのももっと面倒くさいのだ。
はぁぁ、と深いため息をついた。
◆
5分ほどが経過する。その間、白笛リコがハボックとホシノの連携によってベイルアウト。これで白笛隊は全滅し、エルリック隊に2点、ニアール隊に1点が入った形となる。
「これでうちとエルリック隊が正面衝突する形だね。ハボックさんの奇襲にだけ気を付けてじっくり削りきろう!」
「了解です!」
レーダーを頼りにニアール隊は北上。マシュとマリアは片手にレイガスト、もう片手にはそれぞれ拳銃トリガーとアステロイドを展開する。
「そろそろぶつかるね。ガンガン前出るよ!」
大通りに躍り出る。エルリック隊を目視。エルリック隊は待っていたと言わんばかりにエスクードを展開し、その陰でレイガストを展開して射撃に応戦する。消耗戦の開幕である。
『うん、やっぱりハボックさんはいないね。コンテナの陰から奇襲してくるだろうから、もっと大通りの中央によってコンテナ地帯から離れよう』
『一番注意するべきなのはホシノさんが突撃してくるタイミングっすよ。ログで見た戦術通りなら、突撃に合わせてエスクードを生やしまくってきます。増やした死角を利用したハボックさんの挟撃に注意です』
『おっけ~!』
射撃戦の中心となるのは、やはりゾルタンの射撃だった。アイビスによって一撃でエスクードは粉砕され、数発当てればシールドモードのレイガストにもひびが入る。
シールドモードに変形したレイガストは実に頑強で、同じ大きさに展開したシールドよりも耐久力がある。しかしその硬さは多少なりとも使用者のトリオン能力に依存しており、トリオン能力が低ければ耐久力もある程度見劣るものとなる。
一方でゾルタンが用いるアイビスもやはりトリオン能力に依存して威力が増減するトリガーだ。そして彼のトリオン能力はボーダー正隊員のなかで五指に入るほどである。となれば結果は言わずもがな。
最初に崩れたのはエドワードだ。彼は射撃用のトリガーを一つも入れていないこともあり、積極的に前に出て味方の盾になっていた。長い射撃戦でいよいよ破壊されたレイガストを再展開する間もなくベイルアウトする。
『……来るね。わたしが前に出る、マシュは側面対応!』
瞬間、大量のエスクードが展開されて視界を遮る。それに合わせてホシノが突撃した。
巧みなショットガンの銃撃。応撃するようにマリアはアステロイドを浴びせる。互いのレイガストがぶつかり合う距離になってもお互いに崩れない。
「おわぁっ!?」
瞬間ホシノが右手からショットガンを捨て、そこから斬撃のようなものを飛ばした。マリアは咄嗟の反応でそれを躱し、カウンターで体勢を崩したホシノの身体にアステロイドの置き弾をぶつける。戦闘身体活動限界の反応がホシノの身体に走る。
「わお。今のってスコピじゃないよね。もしかしてレイガストを生成した瞬間スラスターで飛ばした?」
「正解~。これも避けられちゃおじさん面目丸つぶれだよ~。とほほ……」
小鳥遊ホシノ、ベイルアウト。見ればハボックもマシュがスラスターで真っ二つにしている様子が視界の端でとらえられた。
『ゾルタン、トドメおねが~い』
射撃一発。最後まで抵抗を続けようと突撃の構えを見せたタケシがベイルアウト。
「勝利―! わたしたち、今輝いてる~!」
試合終了を告げる音が鳴り響く。
| 得点 | 生存点 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| ニアール隊 | 5 | 2 | 7 |
| エルリック隊 | 2 | 0 | 2 |
| 白笛隊 | 0 | 0 | 0 |
ニアール隊、一人も欠けることなく試合終了。完全勝利である。
◆
「試合終了、7対2隊0……ニアール隊の勝利だ! ビスケの姉御、シノンちゃん、総評としてはどうだった?」
「んー。ま、ほとんど予想通りだわさ。試合結果は最初から決まってたようなもんだわね」
「白笛隊とエルリック隊には悪いけど同意です。部隊としての完成度が違う、かな。エルリック隊も連携は悪くないんだけど……」
シノンが言葉を選ぼうともごもごしているのを見て、ビスケはハッキリと断言した。
「エルリック隊はね、部隊コンセプトがニアール隊の完全下位互換なんだわさ。レイガストとエスクードでガッチガチに固めるっていうイメージがあるのは否定しないよ。でも、ニアール隊はそれに加えて近距離狙撃銃の運用と、エース級のニアールっていう強みがある! ……エルリック隊にはなにがあるのかしら?」
「お、おう。もう少し手心というか」
戦人の宥めも火に油を注ぐように、ビスケは声を高らかにした。
「守勢は結構! それも策の一つだろうね。間違いとは言わないよ。けどそれでランク戦で勝てる? また大規模侵攻が起きたとき、役に立つ? トリオン兵から市民を守れる? すべてノー! 部隊コンセプトを組んだ時点で目的意識がブレブレだからこうなってるじゃないかしら! ……ニアール隊がエルリック隊を踏まえて組まれた部隊であることは確かでもある。この敗北を糧に、一度戦う理由から見つめ直してほしいもんだわさ」
「……えー、厳しい批評をバネにしてエルリック隊には頑張ってほしいところだな! うん! そ、それで白笛隊のほうは?」
ビスケの辛辣の口撃を見かねたのか、シノンは冷や汗を流しながら発言を伸ばす。戦人もそれを積極的に拾う仕草を見せた。
「えっと、白笛隊はアタッカーがまだまだ薄いかな。ガンナー、シューター、スナイパーにとってアタッカーってその場にいるだけで圧力になる存在なんだけど、白笛隊のアタッカーにはその怖さがまだ足りてない。積極的に個人ランク戦に潜って実力を身に着けるといい、かも?」
「あー、そうだな! うんうん! 白笛隊はまだまだ伸び盛りの隊って感じだし、これからに期待だな! あは、あははは……!」
観戦室に戦人の空笑いが響く。
「部隊コンセプト、か。こっちにもビシバシ流れ弾飛んできたわね。師匠がこの試合を見ろって言った理由はこれか……」
「あはは……これから一緒に考えよ、ね?」
実況席の後方、ヴィグナはひそかにメンタルをごっそり削られていた。