実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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第一部
プロローグ


「もっと、わたくしの婚約者というのを自覚してくださいませ!あなたの態度一つ、わたくしの評価につながるのですよ」

「ごめんて……」

 

 目の前で僕に鋭い視線と無表情で話しかけてくるのは癖っ毛のある青髪を腰まで伸ばし、吊り目が特徴の婚約者アレイシア=ソブール公爵令嬢。 

 乙女ゲーム「夢見る乙女のファンタジア」に登場する悪役令嬢である。

 

 口調や表情も如何にも怒っていると普通の人ならば勘違いしてしまうであろう。

 そう、普通なら。

 僕は耳をすませば聞こえてくるのだ。

 

『ドクドクドクドク』

 

 異常な彼女の鼓動音が。

 

 彼女は名門家の息女らしく周りの目を気にし、常に自分を高め、何が最良な選択かを考え行動している。

 本当に努力家である。

 故に自分に厳しく周りにも厳しい。

 ソブール家の令嬢として恥じぬよう、弱みを見せぬよう常に気を張っているんだ。

 そのせいで緊張故に表情が強張ってしまったこと、生まれつきの吊り目が原因で怒っているように見えてしまう。

 また、口調が厳しいのも気が張り詰めてしまったせいでーー。

 

「あなたは謝罪しかできないのですか?反省の色が見えませんわね。ヘラヘラと、あなたのわたくしに対する態度、言葉遣い……日頃から見直すことを進言いたしますわ」

 

 素直になれないだけなのだ。

 

 その証拠がどこにあるんだ?

 それはごもっともなご意見だが、それはのちにわかるので今はアレイシアとの会話に集中しよう。

 言葉を選びつつ話しかける。

 

「アレイシア嬢、先ほどまでの態度、謝罪いたします。今後はあなたの婚約者に相応しい立ち振る舞いを心掛けたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」

「………え?」

 

 話の流れで丁寧な返答したものの、怒るどころか今度はアレイシアは動揺していた。

 表情の変化は機微なものの、付き合いの長い僕ならば変化を読み取れる。

 何よりーー。

 

『ドッ…ドッ…ドッ…』

 

 鼓動がさらに早くなる。

 不安がらせてしまったかな。今更態度は変えるつもりはない。

 ちょっと揶揄うつもりが思いの外動揺をさせてしまった。

 反省しなければ。

 

「冗談だよ!今さら態度は変えないよ」

「?!」

 

 僕が微笑みながら伝えると……アレイシアは顔を真っ赤にしながら驚く。

 あ、やべ……。

 また、言葉選択ミスってしまった。

 

「今のあなたの態度、とても不快です!今日は帰らせていただきます。行きますよリタ!」

「……わかりました」

 

 アレイシアは怒りながら、後ろに控えていたメイドのリタさんを連れてその場を去る。馬車は向かったのだろう。

 

 リタさんはその跡を追うように去っていった。

 立ち去る際、リタさんは僕の方を向き、一礼した。

 その時、少し睨まれたが、意味としては「面倒くさいことしないでください」というような感じだ。

 

 まぁ、実際にはそんなに怒ってないわけで、一種の照れ隠しのようなものだ。

 急ごう、早く向かわなければ帰ってしまう。

 

「またお越しください。いつでも歓迎いたします」

「……失礼致します」

 

 アレイシアを屋敷の玄関で見送る。

 彼女は冷淡な態度で一言、そのまま馬車に乗り帰ってしまった。

 

 それからアレイシアが乗った馬車が動き始めて10秒ほど時間が経ち、ある会話が聞こえてきた。

 

『どうしようリタ……アレン様に嫌われてしまいました』

『大丈夫ですよ、アレイシア様。アレン様は嫌ってなんていませんよ』

『でも……」

『毎回言っていますが、アレン様は今更あのような態度をとったところで、嫌ったりしませんよ』

『それでも……こんなわたくしを好いているなんて、あり得ないわ」

『はぁ……そんなにお気になさるなら今度、お詫びを兼ねて訪れてはいかがですか?』

『でも……。それで図々しい女だなんて思われたら……どうしましょう?』

『もぉ、あなたは全然変わりませんね。アレン様とは何年の付き合いになると思ってるんですか?5年ですよ。今更遠慮するような関係でもありません。それにアレン様なら喜んで時間を作ってくれますよ。毎回そうですし』

『リタ……。うん、そうよね。そうするわ』

 

 

「うん、いつも通りだね」

 

 そう、アレイシアはツン……デレ!なのだ。

 緊張のしすぎで素直になれず、ついきつい態度をとってしまう。

 乙女ゲームのユーザーから「感情のない人形」だなんて言われたのはこれが原因でもある。

 表情が強張り、緊張故に周りにきつい態度をとってしまう。

 主人公をいじめるときも表情一つ変えずにやっていた。

 その姿が人形のようだから変なあだ名までついてしまった。

 

 では、なぜアレイシアの真相に辿り着いたのか。

 お気づきの人はいるだろう。

 

 実は僕……すごく耳がいいんです。

 

 彼女は本当は優しい子だ。今日は偶々僕の前であのような言動をしていたが、ほんと稀に僕の前でもデレを見せてくれることがある。

 僕はそんな彼女を愛おしく思っているんだ。

 だから、必ず幸せにしてみせると誓っているのだ。

 

 

 これは耳がいいだけの攻略対象として生まれた僕と、乙女ゲームで「感情のない人形」と嫌われた悪役令嬢のちょっと変わった恋の物語。

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