実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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 僕は前世から詰めが甘いが運に恵まれていると思う。

 前世で死因になった無茶なプロジェクトを振られた当日、もう少し早く帰っていれば。

 なんとなく上司の機嫌が悪いから何かあるのではないかと察していた。同僚も何人かいるから大丈夫かなと心の隅で思った結果貧乏くじを引いた。

 その事業が失敗すれば僕はクビになる。

 だから、必死こいてやった。

 間に合わないと分かっていてもやるしかない。

 終わりの見えない地平線を見るような。

 もう少し人がいたら、時間に余裕があったら……そんな叶いもしない願いを思いながらひたすら睡眠時間を削って作業した。

 

 今思えば気を失ったのは締切に絶対間に合わないと分かった後だった。

 次の日、上司になにを言われるのか、会社は責任を懲戒免職になるんじゃないか、次の就職先はどうしようと不安で寝逃げという形でオフィスで寝ていた。

 だが、神様はこんな僕に逃げ道を用意してくれた。

 今世を捨てることで新たな人生を歩める権利を。

 

 だから、努力をした。

 前世で同じミス、結末を迎えないように。

 

 だが、前世での性格は治らないもので、最終的に同じようなミスを繰り返した。

 アレイシアとの出会い、ガスパルとの茶会、そしてアドリアンの小規模パーティに今回のアリスの件。

 

 詰めが甘く、どうしようもないくらいのミスを繰り返す。

 だが、運が良く僕は人間関係に恵まれ、タイミングが噛み合ったから良い方向へ進んだ。

 

 僕はただ運が良いだけなんだ。

 

 アリスの件も入学前に事前にアリスの情報を教えてくれた。

 だから、レイルが警戒して事前に監視をさせていることは考えれば分かったことだ。

 それを咄嗟の言い訳、そのまま利用してしまった結果が今のような現状なのだろう。

 

 見落としとは違う油断というべきか。

 

 やってしまったことは仕方がないと割り切るしかない。

 スゥッと小さく深呼吸、話すべきことをまとめる。

 まず話すべきことは前世のこと、そしてアリスとの関係。

 この二人相手に嘘は通じない。

 それは5年の付き合いがあるからこそわかる。それに、父親譲りで僕自身致命的なほどポーカーフェイスを苦手としている。

 

「前置きをしよう。今から言うことは全て真実だよ」

「……どういうことだ?」

「言葉通りだよ。与太話と思われても仕方がない内容だからね。馬鹿げている、そう思われても仕方ない」

「……まずは聞こうか。その与太話らしいと言う話を。

 

 流石に前世があります、この世界は乙女ゲームですって言ったところで信じるにたる材料がない。

 本当に言葉を信じてもらう他ない。

 レイルは眉に僅かに皺がやっていた。

 

「……僕とアリスさんには……自分が生まれる前、別の人間として生きていた人生の記憶があるんだよ」

「……前世というものか。まさか前世で肉親であったと言うことか?」

「違うさ」

 

 話半分で聞いている。

 まず最初に伝えるべきは前世のこと、そしてーー。

 

「この世界が前世でプレイしたことある乙女ゲーム……創作された世界が舞台となっているんだ」

「……は?」

 

 レイルは口をポカンとしたが、すぐに意識を切り替えたのか真剣な表情に戻る。

 

「……バカにしているのか……そう言いたいが、顔を見る限り真剣のようだな」

「……信じるのかい?」

「君が嘘をついているか否かくらい見分けがつく……にわかに世界が創作されたゲームの世界は信じがたいが前世か……なら、今までの不可解な言動に説明がつく」

 

 ……信じるのかよ。

 てか、最後気になること言ったよな。

 

「僕の不可解な言動ってなんだい?何か失礼なこと言われた気がするけど」

「いや、すまない。悪く言ったつもりはないんだ。気にしないでくれ」

「気にするなと言われて気にしない人の方がいない。それに急に前世があると言われて信じたこと、僕の不可解な言動のなんの関係があるんだい?」

「……そうだな」

 

 レイルは右手を口の前に持ってきて、僅かに目線を外し考えるそぶりをする。

 

「初めて会った時、君の言動は10歳児とは思えないほど成熟していた。周りとは異色の雰囲気を醸し出していた。10歳児とは思えぬ思考、観察眼。新たな酒の製造法を見出し、カクテルなる文化も広めるきっかけを作った。……それは紛れもないアレンの実績であり、神童と呼べる存在なのだろう」

「……それがなんの」

「だが、私からしたら大人と接しているのと変わらなかった」

「……は?」

「失礼な言い方になるが、私は君を5年間観察して、思考レベルは平凡。酒などが生み出される過程は天才的だが、どこか知っている知識を再現しただけ……そう思えてならない。まるでそうなると元から知っているような」

 

 ……そこまでわかるものなのだろうか?いや……レイルだからこそわかったと言うことか。

 5年付き合ってギルメッシュもクルーガーも天才の部類になるが、レイルは頭ひとつ抜きん出ていると思った。まだ見えない底が見えない。

 ……流石にお手上げだ。

 隠し事をしてもすぐに見破られる。

 

「君の言う通りだよ。ブランデーもカクテルも前世の知識の一端を披露したにすぎない」

「随分と潔い良いんだな」

「取り繕っても無駄なことはわかる。君と揉め事は起こしたくないし、口論になったとしても勝てる気がしない」

「……違いない」

 

 クスッと笑うレイル、だがどこか安心しているようにも見えた。

 事実とはいえ、言葉半分だったが肯定されるのは。

 はぁ、とため息をしながら一つ気になることを聞く。

 

「……ま、その話は置いておくとして、わざわざ呼び出してまでこの話をしたのは何故なんだい?」

「……ああ、今は大切な時期だからな。些細な不安要素は摘んでおきたいんだ。予想外の事実を知れたがな」

「……大切な時期?」

「気にしないでくれ、こっちの話だ」

 

 含みのある言い方が気になるが、深煎りはしない。

 もともとレイルは宰相の息子だし、アドリアンもオーラスもあの調子だし、出会った当初からずっと気にしていることだ。

 

「……わかったよ。ただ、こん詰めすぎで倒れないでよ?……何かあればなんでも協力する。それでも、できることは限られるだろうけどね」

「ああ、何かあれば必ず相談するさ」

「二人にもね」

「わかっている」

 

 レイルは大切な友人で、僕らのリーダー的存在。なるべく意向には沿うようにしている。

 僕には関われることは少ない。せめて友人として相談相手にはなってあげたい。

 

「アレンの前世についてはこの辺までにしよう。もう一つの創作された世界についてだ」

「答えられる範囲ならなんでも答えるよ」

「助かる」

 

 話は切り替わりゲームについてだった。

 

「この世界が君の言うゲームの世界ならこれから起こりうる未来がわかるか?」

「……それは」

 

 難しい質問だ。

 本来のシナリオならば、ハーレムルートはアレンが入学してから始まる。

 一年間ステータスを上げ続け、攻略対象の3人が揃ってから同時進行で攻略しなければいけない。

 それがすでに僕以外攻略済みとなると……。

 

「無理だな。状況が変わりすぎている。ゲームシナリオが崩壊してしまっているのと、僕やアリスさん、フローラのイレギュラー存在でシナリオはすでに崩壊している。予測は不可能だろうな」

「……まさかメーデン男爵令嬢も君と同じ」

「おそらく同郷の可能性が高い。確証は持てないが」

「……面倒だな」

 

 レイルは顔を渋る。期待に応えられないのは申し訳ない。

 

「レイルはフローラの動向が知りたいってことでいいかい?」

「そう解釈してもらって構わない」

「なら、協力するよ」

「……いいのか?」

「ただ、少し様子見したい。もしかしたら予測できることがあるかも知れないからね。僕はシナリオに関する知識は少ないけど、アリスさんは豊富そうだからね」

「……助かる。分かり次第報告を頼む」

「了解」

 

 そう方針を決めた。

 協力は惜しまない、流れでそうなったが、今までしてもらった恩を少しでも返したい、そう思った。

 その後は今後の打ち合わせをして終了した。

 ただ、今回のレイルは少し表情が固かった。表面上は普段通りだが、鼓動が普段よりも速い。相当緊張していたし。

 そのことはレイルの寮部屋を出てしばらく歩いた時の会話でわかった。

 

『レイル様、よかったですな』

『……ああ、縁を切られることも覚悟していたからな』

『なら、話さない選択肢を取ることも考えていなかったのですか?今回は考えなしに行動しているように見えましたが?』

『焦り行動したことは反省している。……だが、どうしても不安要素は取り除きたかったからだ。……大切な友人なら尚更だ』

 

 あ、大切な友人と思ってくれていたのはありがたいな。

 二人の会話を聞いた時、とても嬉しかった。

 取り繕っているものの何かに焦っているレイルの心配であった。 

 無理はしてほしくないものだ。少し気にかけておこうと思う。

 

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