実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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「お帰りなさい」

「ウェル、今日はいきなりすまなかったね。それで二人はどんな様子だった?」

 

 自室に戻ると、掃除をするウェルが迎えた。

 手を止めることなく、視線だけ僕に向けている。

 

 寮室は基本作りは分かれる。

 使用人ありならベッドは二つ用意された2人部屋。

 

 使用人なしの場合は一回り狭い。

 

 部屋の大きさは寝泊まりする人数により分かれており、建物自体も違ってくる。

 僕がレイルに呼ばれた後一目につかずスムーズに移動できたのはこれが理由だったりする。

 普段の講義中は使用人は教室の裏で待機していて、一緒に講義内容を聞いている。

 

「普段通りだったと思いますよ。アレイシア様は相変わらずの口調でしたが、どこか声が弾んでいました。アリスさんは……苦労されてました。眉間に皺がよってそれをアレイシア様に指摘され、ため息をしてまた指摘されての繰り返しですかね。あ、でも楽しそうにしてたんで問題ないと思います」

「……それが通常運転なんだね。全然想像つかないよ」

 

 鼻先を掻き、心配する。

 話を聞いているだけでは大丈夫かと心配になるのだが、ウェルが言うのだから、問題ないのだろう。

 

 後で詳細を確認した方がいいかもしれない。

 

「そちらはどうだったんですか?」

「ん?……ああ、特に話は進まなかったよ」

 

 話を振られて言葉が一瞬詰まる。

 ウェルもこちらを心配していたのだろう。と言っても話せることも少ない。

 

「調査して再度集まるってことで話は終わったよ」

「左様ですか」

 

 いつも通りか、と言わんばかりに作業を続ける。

 

「何か経過報告あったら教えてください。場合によっては旦那様に報告することになってますので」

「……そう言うのは本人がいないところで言うんじゃないかな?」

「釘を刺すと言う意味で旦那様からそのようにしろと」

「父上……」

 

 さすがは父親ってところなのか?

 ……あれ、まさか今日の出来事とかも報告するのだろうか?

 

「さ、流石に先日の出来事とかは」

「いえ、特に連絡は……」

「そ、そう」

「動揺しすぎでは?何か起こる可能性があるんですか?」

 

 目を細めるウェルは手を止める。

 僕に視線を向けると説明求めできた。

 

「何か起こるかもしれない。……今日例の男爵令嬢に話しかけられたから」

「他には?」

「疑り深いなぁ。それだけ。他はないよ」

「はぁ……」

「なんかごめん」

 

 ウェルは重心が前のめりになるほどの大きなため息をした。

 また面倒ごとを増やして申し訳ない。

 

「旦那様の気苦労なくすため、予告文でも送っておきますか?」

「何それ?」

「事前に何かやりますのでごめんなさいって文を」

「余計に心配かけるからやめた方いいよ!」

「冗談ですよ、本気にしないでください」

 

 淡々と告げるウェルだったが、本気でやるかもしれないからシャレにならない。

 ウェルは僕の専属だが、父上ファースト。

 だから、心配を軽減させるためにやると思ったよ。

 

「あ、手紙といえば」

 

 このタイミングで何かを思い出したウェル。

 どうしたのだろうか?拍子抜けしてしまう。

 

「今日礼儀作法の練習が終わった後、アリスさんとアレイシア様が、筆談で話していましたよ」

「……はい?」

 

 筆談って……。よくわからず聞き返したが、明日になったら分かりますよと言われた。

 その意味がわかったのは次の日の朝だった。

 

「えと……アレイシア、どうしたんだい?」

「……これを……では」

『ドクドクドク』

「えぇ……と」

 

 早朝、教室で講義の準備をしている時、登校してきたのはいつも以上に表情が強張っていたアレイシア。

 普段通りの鼓動の速さに話すだけで何故こんなにも緊張しているのだろうと首を傾げる。

 アレイシアは一言僕に告げると、一通の便箋を手渡し、隣の席についた。

 

【アレン様、放課後お茶しませんか?】

 

 ……普通に口頭でよくない?

 思わず口に出かけた言葉を抑えアレイシアに視線を向ける。

 呼吸も少し小刻みで荒い。

 机に焦点を向け一点をむき続ける。

 

 何かあったな……そう思ったが、聞いていいものだろうか?

 

 そういえば先日の愛していると告げた手紙から少しぎこちなかったような。

 それに普段のアレイシアの手紙なら丁寧な文章のはずだが、ルーズすぎるような。

 

「……アレイシア」

 

 すると、ビクッと僅かに肩が上がる。

 ……やばい、一体何が……何があったんだ。

 

『ドッ…ドッ…ドッ…ドッ』

 

 何故そんなに緊張する必要が。

 状況が読めず、混乱する。

 だが、一先ずやることはこの誘いの返事だ。

 

「久々に街中行こうか。最近オープンしたノンアルコールカクテルのお店があってね。スイーツとかも置いてるんだ。是非ともアレイシアに一度来て欲しかったんだよ」

 

 そう一言誘うとアレイシアは黙って頷く。

 

『ドク…ドク…ドク』

 

 鼓動の速さも先ほどに比べて落ち着いてきた。呼吸も落ち着き、普段通りに戻った。

 その後、アレイシアは再び便箋を取り出すとーー。

 

【楽しみです。アレン様、エスコートよろしくお願いしますね】

「……う、うん」

 

 ……だから、口頭でよくない?

 何故逐一手紙で伝えるのだろう。

 

「あ……ごめん、少し外すね。実はレイルからアリスさんに伝言頼まれていて、少しここだと話しずらい内容だから」

 

 視線を入り口に向けるとそこにはアリスがちょいちょいと手招きをしていた。

 

 そうアレイシアに話すと察してくれたのか黙って頷いてくれたので、事情を知っているであろうアリスの元へ向かう。

 教室の外へ出るとアリスを連れ人目が少ないところへ。

 レイルのことも伝えたかったし、ちょうど良いかと思った。

 それで事情を確認しようとしたら……え、なんでアリスも便箋渡してくんの?

 今流行ってんの?

 

「……これは一体」

「まずは目を通して欲しいっす」

 

 言葉だけは説明しにくいのだろうな。

 アリスは目を泳がせ、両手の人差し指の先をツンツンとしているところから想像がつく。

 どう説明するべきか悩んでまとめてきてくれたんだな。

 

「……な…何これ?」

「真実っす。実際に話……ではないですね。意思を確認したら本人が書いてたっす」

「え?…書く?」

 

 アリスの手紙に目を通すと、一瞬わけがわからなかった。

 

 だが、全てを読み終えるとアレイシアが何故筆談をしているのかわかったら全てが合点がいった。

 異様に早い鼓動、僕に対して口調が辿々しかったこと。

 何故あそこまで緊張していたのか。

 

 

 ことの発端はアリスが「気持ちの伝え方はなんでもいいと思いますよ。話せないならいっそのこと手紙で伝えてみてはどうっすか??」という一言から始まったらしい。

 

 それから初めて渡した時、手紙で僕に「愛しています」と伝えたが、後になって後悔している。

 伝えた内容が恥ずかしすぎるけど、今まで伝えたかったことを伝えられて嬉しかったとか。

 手紙の一件で僕と会うと余計緊張してしまっているとか。

 話しかけることもできないくらい緊張してしまう。それでも手紙ならそのまま伝えられる。

 最終的に目の前で話せないけど筆談なら伝えられるから手紙で伝えようとなったらしい。

 

「……か、可愛すぎない?」

「アレン様、今嬉しそうな顔してるっすよ」

「口元緩んじゃってね」

 

 だめだ、ニヤけてしまう。

 前身も後退もしてないアレイシア。

 むしろ人間関係を築くことだけ見れば後退してしまっているかもしれない。

 

 でも、それほどまでに不器用すぎる婚約者が可愛すぎる。

 

 その日午前中の授業に集中することができなかった。

 

 でも、今アレイシアの意思を尊重すべきだと判断した。

 もう少しこの不器用すぎるアレイシアなりに僕に歩み寄ってくれた。

 

 ならばそれに応えるのが婚約者たる僕の役目なのだと思ったのだった。

 

 その後僕はアリスにレイルに前世があること、乙女ゲームの内容について話したことを伝えた。

 

「ああ、話しちゃったんすねぇ」

「出自調べられたらどうしてもねぇ」

「権力者怖いっすねぇ」

 

 詳しい事情を話したら苦笑いしていた。

 

「レイルが直接話したいらしくて、今度時間作ってもらえる?」

「ええ、大丈夫です」

 

 事情の説明を終えると教室に戻ったのだった。

 帰った後、要件を記した手紙をレイルへ渡しに行く。

 

「行動が早くて助かる。……アリス嬢には追ってセバスに連絡をよこすと伝えておいてくれ」

「わかったよ……それと」

「どうした?」

「今日の放課後アレイシアとデート行ってきていい?」

「はぁ……勝手にしろ。一々私に断りを入れなくてもかまわん。すでに事後報告だろうが」

「ごめんね」

 

 一応僕たちのグループのリーダー的ポジションなわけで、フローラのこともあって事後報告だったが、聞いてみた。

 ため息混じりだったことなので特に気にしていないのだろう。

 何か悪いなぁと思っていると察してか、レイルが話しかけてくる。

 

「気にするなら一つ仕事を頼もう」

「いや、だから放課後は」

「昼休みできることだ。あの問題児の様子を見てきてくれ」

「……わかったよ」

 

 フローラの調査といったところか。

 放課後じゃなければ大丈夫だなと思い、少しだけ様子を窺うことを了承したのだった。

 

 

 

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