実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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「あの、アレイシア……さっきのことなんだけど」

「……全て語らなくても察しております」

「そ…そうか。よかったよ」

「話してくださいまし」

 

 フローラが去った後、いつも通り講義が始まった。

 一コマ目の講義が終わった後、事前に手紙で場所と時間を指定し、庭園近くの建物の間に呼び出していた。

 あんな事があったせいで僕に対するクラスメイトたちの視線は突き刺さる。

 アレイシアを呼び出したのは、教室で話していたらせっかく流れた不仲説がなくなるかもしれないから呼び出した。

 居心地の悪い雰囲気の中、話しかけた僕にアレイシアは受け入れると話してくれた。

 

 僕は事情を説明した。

 レイルとのやりとりから……フローラのやろうとしていることについて。

 もちろん乙女ゲームの内容だけは避けたが。

 

「……わたくしは何をすればよろしいでしょうか?」

「……はい?」

「ですから、わたくしは何をすれば良いかと聞いているのです」

 

 

 突然の申し出に驚く。

 アレイシアは僕に協力してくれると言った。しかも……。

 

『ドク…ドク…ドク』

 

 静かなアレイシアの鼓動は普段より遅い。落ち着いているので緊張していると言うことはないのだろう。

 何か気持ちの変化でも起きたのだろうか?

 だが、彼女の申し出はーー。

 

「アレン様は……なんでも一人で抱え込むのはおやめください。わたくしはそんなにも頼れぬ情けない女なのでしょうか」

 

 断ろうとしたのだが、アレイシの声は次第に弱々しくなる。

 ……アレイシアは少し変わった気がする。自分に自信があるというか、胸を張っているような感覚。

 

 フローラと対面している時はいつも通りの気がしていたのだが、少し違うらしい。

 

 ……アレイシアは自分を頼ってくれと言った。

 そんなこと今までのアレイシアなら考えもつかない言動である。

 ちょっと失礼だったかな。

 僕はアレイシアをただの女の子としてしか見ていなかった。

 彼女の努力を尊重したいと思っていても、ただの守られるだけの存在としか認識していなかった。

 僕は悪役令嬢アレイシア=ソブールを甘く見えた。

 

 忘れていない釜、彼女は誰よりも努力家で、その努力を僕は知っている。

 まだどこかで弱い女の子と思っていた……思い込んでいた。

 

 今の彼女は数日前の彼女と比べて一皮剥けたような感じだ。

 何がきっかけでとはわからない。

 でも、確実にアレイシアは変化している。

 

 彼女の申し出、その勇姿を拒否することは彼女が積み重ねた努力を否定することに繋がるかもしれない。

 

 そんなことしちゃいけない。

 

 僕はアレイシアにゆっくりと歩み寄り、彼女の左耳やや上の癖のない綺麗な髪に触れる。

 触れた瞬間、ビクッと肩がわずかに上がる。

 

 耳が真っ赤に染まり俯いた顔を見れば頬も染まって見える。

 

「……ありがとうアレイシア。とても心強いよ」

 

 そして、優しく撫でながらそう伝えた。

 

『ドッ…ドッ…ドッ…ドッ』

 

 かなり緊張している。でも、今のアレイシアなら、普通に接してくれるはず。

 ……はずなのだがーー。

 

「アレイシア?」

 

 何故か反応がない。

 一度手を離し、半歩下がる。

 様子を窺うため、顔を覗くと……顔を真っ赤にしてフリーズしていた。

 ……えぇ。

 どうにかして起動させようとして肩を揺すろうとする……だが。

 

ーーパシン!

 

 触れようとしたらアレイシアは僕の右手を払った。

 

 じ…自分で正常に戻るとは……成長したなぁ。

 だが、僕をギロ!っという効果音が聞こえるほど鋭い目つきで睨んでくる。

 

「アレン様!人目がなくとも節度を守ってはいかがですの!これは一度お父様を通してお話が必要かもしれませんわね!失礼いたしますわ!一度頭を冷やし、自らの行いを反省してくださいまし?!」

 

 すると、踵を返してトタトタと早歩きで立ち去った。

 僕はその姿をあれぇ……と呆然と眺めていたのだった。

 その後ゆっくりと教室に戻ったのだった。

 

 ……あれ、廊下の端から声が……。アレイシアとリタさんか?

 ゆっくりと歩み寄り死角に立つと耳を澄ませる。

 声の距離からして五十メートルくらい離れてるか?

 

『リタァァ……』

『もぉ、今度はどうされたんですか……ほら涙を拭いて』

『……今度こそ嫌われーー』

『ーーることはないので安心ください。さ、何があったか端的に!話してください』

『アレン様に撫でられて……手を叩いてしまいました』

『……すいません、わかりませんでしたが……撫でられて恥ずかしくなって居た堪れなくなって叩いてしまったと……』

『……うん』

 

 リタってすごいな。

 あんな短い説明で理解するとか、阿吽の呼吸レベルだな……うん。

 

『先が思いやられますね。昨日アレン様の妻として恥じぬ行動すると宣言していたのに』

『ーー婚約者としてです!つつつ、つつ妻だ……なななんて』

『動揺しすぎですよ。深呼吸してください』

『誰のせいです、誰の!』  

『声大きいですよ。せっかく離れに行ったのに』

『はう……』

 

 はうって……かわいい。

 そっか、昨日そんなこと言ってくれたのか。

 だから、雰囲気が少し違ったんだね。

 

『……ごめんねリタ。時間だから講義に戻るわね』

『え、休まないのですか』

『アレン様に心配をかけてしまうから。もう昔のわたくしではないの』

『この前会うのが恥ずかしいって3日も休んだのに……毎日お見舞いにこられたアレン様にそう伝えたら心配されてました。今回は大丈夫そうで安心しました』

『体調不良だとあれほど……ん?リタ……』

 

 何か気になったのだろうか、言葉が詰まるアレイシア。

 何か引っ掛かったのだろうな。

 

『わたくしが休養しているときに、アレン様にはなんと……』

『そのままお伝えしましたが……恥ずかしくて会えないと』

『な…ななななな…』

『アレン様申し訳なさそうにしてましたよ?』

『ちょっとリタ!』

 

 これ聞いちゃまずいやつだったかも。

 でも、安心した。

 これでつっかえていたしこりは無くなったのだから。

 

 

 彼女は本当に成長した。自発的に行動して進言してくれるようになった。

 フリーズしてしまったり、恥ずかしさが頂点に達すると口が悪くなるという本質は変わらないようだけど。

 

 それでもいい傾向である。

 僕はアレイシアが戻る前に急ぎ教室へ向かった。

 

 ……その日の僕とアレイシアは先ほどの件が原因で少しぎこちなく過ごした。

 そのせいか、僕はアレイシアと不仲になり結果、僕の評価が下がったのは言うまでもない。

 

 

 結果的に信憑性が増したので結果的にはよかったのかもしれない。

 視線が突き刺さるのが玉に瑕だが、これもレイルの計画が完了するまでの我慢。

 今日の放課後から始まる計画。

 

 全身全霊をかけてレイルの助けとなろうと思う。

 そうしなきゃ僕が望む幸せは遠退くのだから。

 

 

〜第3部完〜

 

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