実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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間話 ギルメッシュ

「兄貴……」

「おお!ギルじゃないか!」

「……なにやってんだよ」

「長期休みの申請が降りたんだ。久々にゆっくりしてるんだ」

 

 ギルメッシュは陽気な雰囲気の兄に眉を顰めていた。

 レイルに協力をするため人手を集めるため、実家を頼ると決め帰省していたのだが、何故か屋敷の談話室には兄がいた。

 

 ギルメッシュと容姿は似ているものの、目つきは垂れ目で温和な雰囲気の人物。

 

 対照的な雰囲気を持つ兄をギルメッシュは苦手意識を持っていた。

 

 ギルメッシュ辺境伯は武家の名門である。剣に秀でており、辺境伯家からは優れた騎士、王族直属の近衛兵を輩出しているほど。

 

 だが、ギルメッシュには剣の才能に乏しい。

 対して兄は今では分隊長を任されるほどになっている。

 

 だから、劣等感故、ギルメッシュは剣の道を諦めた。

 それを紛らわすために幼い頃から本を読み漁った。

 

 

「ギルは何やってるんだ?まだ長期休みでないはずじゃないか」

「……ちょっと野暮用なんだよ」

「ははぁん。まさか私がいるから会いに来ていたな?……なんだか照れるなぁ」

「な訳ねぇだろ!」

 

 やはり苦手だとギルメッシュは内心ため息をする。会うたびに揶揄ってくるところもそうだ。

 思わず声を荒げてしまった彼は小さく深呼吸し、落ち着かせる。

 

「それで?……何があったんだ?」

「……」

 

 黙ってしまったのは全てを見透かされるなとギルメッシュは思った。

 兄は昔から弟の機微を見逃さなかった。

 

 騎士として培った勘。

 恵まれ若くして近衛兵の分隊長を任せられているのは勘が冴えており、戦闘での引き際、危機が迫っていると思うと少し戦略を変更するなど、的中率は高い。

 

(やっぱ兄貴は苦手だ)

 

 ……しょうがないか。ギルメッシュはこの兄には隠し事は無理だと諦めた。

 どちらかというと、父親よりも兄に頼みやすいのも事実。

 

「……少し厄介ごとに巻き込まれてよ……そのなんだ……兄貴の力借りられねぇか」

 

 渋々お願いするギルメッシュの言葉に彼の兄は。

 

「私を頼るとはよっぽどなんだな……話だけでも聞こう。まずはそれからだ」

 

 ギルメッシュは説明を始める。

 彼の兄は少なくとも父よりも信用に値する人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

「国家転覆罪なんて……物騒だな」

 

 話半分で受け取られていることにギルメッシュはわかっていた。

 顎に手を寄せ考え込む兄の姿を見て話してしまったことに少し後悔していた。

 確固たる証拠もなしに机上の空論を信用するわけがない。

 

 だが、どうしても信じてもらうしかない。普段のギルメッシュならば確証もないことは話さない。

 まが、レイルが頭を下げた。

 なんでも1人でこなしてしまうレイルが自分達を頼るほど今回の件はよっぽど重要なこと。

 

 初めは自分も信用ができなかった。

 王族の証拠となる紫色の瞳、金色の髪色を見せた。

 ギルメッシュは納得できてしまった。レイルの先見や知性は自分を凌駕していると考えていた。

 だからこそこうも思った。

 

 亡き第二王子が自分だと明かすのはどれほど勇気が入り用だっただろうかと。

 

 ギルメッシュを信用してレイルは正体を明かしてくれた

 だから、彼はレイルに応えたいと思った。

 

「……わかった……私にできる範囲で協力をしよう」

「え……いいのかよ」

「そのために話したのだろう?そんな重要案件を」

 

 ギルメッシュが帰省したのは騎士たちの協力を仰ぐためだ。

 

 本当は父親に話す予定だったが,兄がいるならば現場に影響力を最も及ぼせる。

 何より苦手だが、兄のことをギルメッシュは兄として信用しているからこそ頼みやすい。

 

「正直言えば信用はできていない。私は与太話の類かもと考えている」

「……ならなんで」

「そんな簡単さ。私情だよ。ギルが私を頼ることなんて初めてだったからね。嬉しいんだよ。兄として協力したい。もしそれが本当の話なら紛争につながる。だから、私の裁量でできる範囲で協力をするということだ」

 

 爽やかな笑みを浮かべている兄にギルメッシュはまた、揶揄われているのかもしれないと考える。だが、表情とは裏腹に目は真剣身を帯びていた。

 

(……ああ、また兄貴のペースだ)

 

 なかなか掴みどころのない兄にそう思った。だが、悪い気はしていない。

 むしろ心強いと思っている。

 

「……なら、頼むわ。親父に言うのも少し考えていたところだしな」

「まぁ、今でも影響力あっても現役退いてるしね。現場で指揮取るのは難しいだろう」

「そうだな……」

 

 話の進みが早いことに面食らう部分もあったが、ギルメッシュは兄に事情を話した。

 その後、詳細の打ち合わせは後日王都ですることになった。

 続きて話題に上がったのは報酬について。

 

「あ、そうそう。私もただで参加するわけにはいかない。やはりリターンが欲しい」

「わかった。レイルに言っていくらかーー」

「金はいらない。……欲しいのはもっと別のものだ」

「なんだ?剣か?」

 

 ギルメッシュには何を欲しているかはわからず当てずっぽうで言う。

 兄と接する期間が極端に短かったので、趣味趣向がわからない。騎士だから剣が欲しいのかと予測を立てた。

 

「いや、違うな」

 

 兄は首を振る。

 柔らかい雰囲気は変わらぬものの、視線は厳しいものになる。

 思わず身構えるギルメッシュ。手に入れるのが困難なものでないことを願った。

 

「手を貸すにあたってユベール家のブランデーを10本ほど欲しい」

「……え?そんなんでいいのか?」

 

 拍子抜けである。

 一応、ユベール家のブランデーは伝手で手に入るが。

 

「そんなんで……だと?」

「あ……兄貴?」

 

 兄の視線がさらに厳しくなり、ビク付く。

 

「ブランデーは今では入手困難な代物なんだぞ!市場に出回るのは数少なく、手に入っても特別な日にしか飲めないときた。父上は酒が苦手だから手に入れようとしないし、一端の私には手に入れることができない」

「そ、そうなのか」

「ギルは友人に恵まれてるからいつでも好きに飲めるが、私は違う。一度でも酔い潰れるまで飲んでみたいとすら思っている。わかるかい?この気持ち」

「そ……そうなのか」

 

(兄貴ってこんな熱弁するんだな。てか、酒好きなんだな)

 

 ギルメッシュは新たな一面を知れたことに驚いていた。確かに彼は友人アレンの伝手でブランデーを飲む機会は多い。

 高級品だがアレンに試しに飲んでくれと頼まれることが多く、飲むことは日常化していた。

 だから、麻痺していたのかも知れない。

 

(そんなことと、言っちまったが、アレンのやつ頼めば譲ってくれるものか?)

 

 そんなことを思いつつ、ギルメッシュは持参していた紙袋を渡すことにする。

 

「俺から頼んでみるが……10本も用意できるからわからない。なるべく多く譲ってもらえるよう頼んでみる。それとこれ……よかったら」

「ギル……そ、それは」

 

 漆黒の一色に端を中心に広がるように散りばめられた金箔が特徴の紙袋。

 それはブランデーだが、純金箔が入っている徳の高いお酒として有名。

 まだ、世に出回っている本数も少なく、飲めるのはごく一部の高級品。

 

「……の、飲むか?」

 

 ギルメッシュは目を輝かせている兄を誘う。

 それはずっと欲しがっていたものをプレゼントされる幼少期の子供のように純粋な表情であった。

 言葉を失っているのか、ギルメッシュの兄は固唾を飲み込む。

 

「ギル……それどうやって手に入れたんだ?」

「いや……完成品の味を聞かせて欲しいってアレンに渡されたんだけど」

「……ギル」

 

 あ、また何かやってしまったな。兄が俯きながら立ち上がり近づいてくる。

 俯いていること、前髪で隠れて表情が窺えないので表情は読み取れないが。

 

 そのままトタトタとゆっくり近づきギルメッシュは兄に両肩を掴まれる。

 

「あ……兄貴その……」

「酒盛りと行こうじゃないか!」

「え?」

「今日ほどギルが弟で良かったと思ったことはないさ!」

「……それは少し複雑だな」

 

 兄は今までないほど目を輝かせていた。

 

(兄貴ってこんなやつだったんだな)

 

 いつもはとっつきにくく、苦手意識すら感じていた兄だったが、お酒の話をしただけで、初めて親しみを覚えた。

 

 酒を挟めば人間の本性が出る。人付き合いで仲良くなるにはそれが手っ取り早いと聞く。それでも、失敗すると人間関係崩壊してしまうほどの危険ではあるが、この兄弟は前者らしい。

 

「いやぁ、小さい頃のギルは可愛かったのになぁ。今じゃ反抗期だもんなぁ」

「兄貴だっていつも上っ面で嫌がってとっつきにくいんだよ!」

 

 2人は酒盛りを通してより仲良くなったのは言うまでもない。  

 こうしてギルメッシュは当初の目的を達成したのだった。

 

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