実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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「……左様ですか」

『ドクンドクンドクン』

 

 アリスから新たな情報が言い渡された次の日、アレイシアは手元の汚れひとつない新品の淡色の本に視線を落とし考え込んでいた。

 眉はしわがより、僕の前で真顔以外の表情を見せたことに驚くも、真面目な雰囲気を壊すまいと表情筋で平然を装う。

 

 この前の土下座の件と言い、最近遠慮がなくなってきた。嬉しいよ。

 ……長かった。出会って10年、色々な出来事を乗り越えられたのがきっかけかな。

 目標はアレイシアがリタと接するときのような敬語なしの柔らかい口調で話してみたいものだ。

 そんな将来遠くないかもしれないと確信じみたことをしている時だった。

 

 アレイシアは本をパラパラと目を通すと、僕に確認するように本を見せてくる。

 

「あの、ここに書かれている内容は事実なのですか?」

「事実だよ。……思惑は知らないけど、レイルがシンファ公爵令嬢に恩を売りたいらしくてね」

 

 僕は苦笑いしながら返答した。

 

 この本、一体どこで手に入れたんだか。

 早朝にセバスさんが僕の部屋を訪ねてきてこれをシンファとの茶会で使って欲しいと言われた。

 

 本に目を通したら驚いた。前世で見たことある五大栄養素や、コマの絵柄に食材が詳しく載っているページもあるくらいだ。

 

 ……そういえば昨日覚えている限りの栄養についての情報を教えて欲しいと言われた。

 僕とアリスの知識を元に作成されたのだろう。

 

 もともと栄養学についての研究はされていてそれを元に現代知識を取り入れたことで完成された。

 

 でも、一晩で完成したのは驚いた。

 この本を元に脚気について話せばいいらしい。

 

「アレン様」

 

 アレイシアの表情が僅かに曇る。

 

「なにかな?」

「……以前、社交界でシンファ様のお母上の体調が優れないとお聞きしてましたが、本当にこんなもので改善されるものなのでしょうか?……薬でも解決できず、医師もわからぬことを。お恥ずかしながらわたくしは病気に関しては素人同然。……信用してもらえるものでしょうか?」

 

 アレイシアは半信半疑と言ったところか。

 確かに、原因不明の病は栄養を取るだけで改善されるなんて結果を知っていなきゃ信用できない。

 でも、そこは安心できる要素があった。

 僕は彼女を安心させるように言葉をかける。

 

「今、クラクハント公爵は病を治すため、あらゆることを試しているそうだ。民間療法から呪いの類まで……」

 

 レイルから聞いた情報だが、クラクハント公爵は藁にも縋る思いで様々なことを試しが、芽が出ず。

 公爵夫人のゆっくりと体を蝕んでいる。

 

「……」

 

 アレイシアは一度視線を落とし考えるそぶりを見せる。

 ここは考えがまとまるまで様子を見よう。

 

 それから数秒経過、彼女は僕に視線を合わた。

 

「何か弱みに漬け込むようで良い思いはしませんね」

「あはは……確かにその通りだけど、交渉で弱みにつけ込むのは定石なんだよね」

 

 そう告げたアレイシアに僕は苦笑いを浮かべる。

 確かその通りだけど、なるべく早期解決を図りたい。

 取れる手段を使って最低限のリスクで終わらせる。そのためなら手段は厭わない。

 

 なんとなくアレイシアの言葉は理解できる。

 真っ直ぐすぎる彼女はこういった交渉は好きではない。

 

「……この件は無理そうかな?」

 

 協力してくれると言ったアレイシアだが、無理強いはさせたくない。

 

「いえ、お引き受けしたいと考えております……その代わりその……」

 

 アレイシア視線を一度落とし、静かに深呼吸をした。

 

「一つお聞きしたいことがあります」

「……何かな?」

 

 覚悟を決めたように凛とした顔をする。

 鋭い視線は僕を射抜いているようだ。

 

 僕は無意識か、一度席を座り直り姿勢を整える。

 

『ドクドクドク』

 

 アレイシアの鼓動音に影響されてか、緊張してしまった。

 

「……アレン様はわたくしに何を隠されているのですか?」

「……はい?」

 

 僕は突拍子のない発言に鳩が豆鉄砲を喰らったように思考が停止する。

 失礼な言い方になるが、アレイシアは僕に対して踏み込んだ質問は今まで聞いてこなかった。

 

 リタさんとの会話でなんとなく察していたが「親しき仲にも礼儀あり」とかで踏み込んだ質問はしてこなかった。

 家族構成やら、普段何をしているとか、当たり障りのない事しか聞いてこなかった。

 

 確信をつかれることは一度たりとも聞かれたことがなかった。

 

「やはり……ですか」

 

 アレイシアの眉が僅かに寄る。

 少し動揺したことがあると反応が遅れる。

 ……本当に僕は駆け引きに向いていない。

 

「……確かに僕は隠し事をしているよ」

 

 黙りをしてしまったことで肯定と捉えられてしまっている。

 ここで否定するのは疚しいことがあると思われるかもしれない。

 

「でも、それは君を悲しませたくないからなんだ」

「……左様ですか」

 

 アレイシアは僕から視線をそらした。

 

 矛盾していることは自覚している。

 大切な人から隠し事をされた方が傷つく。だが、乙女ゲームのことについて、おいそれと話していい内容じゃない。

 でも、アレイシアが悲しむ顔を見たくないのは確か。

 乙女ゲームのことを話すのはどうしても避けたかった。変な先入観を持って欲しくなかったし、アレイシアがどんな立場にいたかを話したらどんなことを思うかわからない。

 でも、隠し事をして僕たちの関係に亀裂が入るくらいなら。

 

「……僕はアレイシアが悲しむ顔は見たくない。君が望むならーー」

「ーー今は、結構です」

 

 望むなら話す、そう言いかけたところでアレイシアは断りを入れる。

 彼女なりの配慮なのだろう。

 ……だから、僕ができることは。

 

「この件が終わったら僕の全てを話すよ」

 

 乙女ゲームのことはもちろん、前世があること。

 傷つけるかもしれない。まず信じてもらえないかもしれない。

 それでも誠意を見せよう。

 

「……驚きのあまり腰抜かさないでくださいね」

 

 少し空気を変えたいなと思い茶々を入れる。

 するとアレイシアの視線が鋭くなる。

 

「そのようなことは致しません。舐めないでくださいまし!」

 

 しんみりとした雰囲気は和やかになる。

 

「ごほん……とにかく、シンファ様の件はわたくしにお任せください」

「ありがとう」

 

 話題がされたため、アレイシアが話題を元に戻した。僕はお礼を言いながら席を立ち上がる。

 要件は終わった。

 

「早くゆっくりお茶したいです」

「……僕も同じだよ」

 

 僕は一瞬たじろぐ。

 アレイシアが素直に伝えてくれたのは初めでだったため、反応も遅れてしまった。

 

「今度会うときは美味しい菓子を用意しているよ。ゆっくり話そうか」

「……はい。楽しみにしております」

 

 アレイシアは頬がわずかに赤くなる

 

「で、ではまた今度……次話すのは全てが片付いた時になりそうだね」

「……え、ええ。そうですわね」

 

 一言交わし僕は照れながら返事したアレイシアを横目にその場を立ち去る。

 

 

 最近アレイシアって僕に対して遠慮がなくなったと言うか……まぁ、確かにそれを望んでいたけど慣れるまでに少し時間がかかりそうだ。

 

 今のアレイシアならなんの心配もいらないな。どこか安心感がある。

 

 僕も最後まで気を抜かずにやり切ろう。

 出来ることは限られている。

 

 僕は決意を改めたのだった。

 

 2日後、アレイシアはシンフォとの茶会を成功させた。

 同行していたリタさんから話を聞いたところ、自力で話を進めたとか。

 

 レイルからの情報で脚気に向けた栄養を摂り始めたとか。

 リンスの件もレイルが裏から手を回し、不正を暴いた。

 

 

 こんな簡単に解決できて良いものかと悩んだものの、乙女ゲー知識無双だなと考えたらこんなものかと納得できた。

 

 こうして準備を整え僕たちはエルス学院の夜会を迎えた。

 

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