突然、大雨が降り出した夜
JUNは家政婦に車で迎えに来てもらって家に帰るところだった。突然の雨で、傘を持っていない人達が足早に家路へ急ぐ様子をなんとなく窓越しに眺めていたが、大きな背中を丸めてトボトボと歩く後ろ姿にハッとなった。
慌てて車を路肩に止めさせて、傘を持って外へ出る。傘を持ってても濡れてしまうほどの雨だ。
「LEON!!」
ビックリした様子で何かを抱えたLEONが振り返った。
「J?どーしたんだ?」
「それは、こっちのセリフだろ!」
LEONは捨て猫を見つけてしまい、ほっとけなかったらしい。雨も降ってきたので、濡れないように上着に入れて抱き抱えて歩いていたのだ。
ビショ濡れのLEONを車に押し込み、家に連れて帰った。
家政婦は、ビショ濡れのLEONに最初は悲鳴を上げていたが、猫好きだったので、同情してくれた。
家に着くと、捨て猫は家政婦に託し、LEONをバスルームへ押しやった。
「着替えとバスタオル置いておくから!ドライヤーでちゃんと髪を乾かしてから出て来いよ!」
部屋を水浸しにされないように釘を刺した。
(LEONは昔から変わらないな)
LEONは誰かが困ってると助けずにはいられない性分で、その行動が報われなかろうがお構い無しで動いてしまう。JUNもRIKUKIも何度も助けられてきた口だ。
いつかLEONが困っていたら、今度は自分が助けたいと思ってつるんでいるが、中々そんな機会は巡って来ない。
JUNもRIKUKIもマイペースで、好きなように行動しているが、LEONがうまくまとめてくれて、今みたいなイベントをやったり、チームとして成り立っている。3人で楽しくやっていられるのは、LEONのおかげなのだ。
それを自然体でやってのけるLEONはすごいなと、JUNは秘かに思っている。
「J、サンキュー!助かったよ」
さっぱりしたLEONがサラッサラの髪をかき上げながら部屋に入ってきた時、不用意にドキっとした。
「お前、髪サラサラだな…」
普段、舐められないように髪を総立ちにして、グラサンをかけているLEONを見慣れていたJUNは、ギャップに唖然とした。よく考えたら子供の頃から知ってるのだから、わかっているはずなのに、すっかり忘れていた。
「Jだって、髪綺麗だろ?」
「俺は剛毛だから、羨ましい」
「そうかぁ?」
不意にLEONがJUNの頭を撫でる。
「やめろって」何故かLEONの顔がまともに見られない。
「猫はどうした?」
「うちの家政婦さんが猫好きで、世話してくれる家を探してくれるってさ。とりあえず、今日は家政婦さん家に連れて帰ってもらった」
「よかったー!じゃあ、頼んだ!お礼言っといて。そろそろ、俺も帰るよ」
「え?まだ雨降ってるぞ?」
「でも、もう夜だし…」
「・・・泊まってけば?今日親いないし…」
「え?寂しいの?」
「べ、別に、そんなんじゃないけど…」
「じゃあ、RICKYも呼ぶ?」
「大雨だって言ってんだろ!」
「そうだったww じゃあ、甘えさせてもらおうかな」
素のLEONの笑顔を久しぶりに間近で見て、途端にドキドキしてくる。
(俺、どうしちゃったんだろ…)
JUNは自分の気持ちに戸惑いをおぼえていた。
「え、と…親父のウイスキーくすねてるけど、飲む?」
「やったー!飲む、飲む!」
ハイボールを作って飲みながら、色々な話をした。2人とも、相当酔ってきて、女の話になった。
「Jはモテていいよなー!俺は全然、うまくいかないのに!俺も女の子とキスしてみたいな」LEONが拗ねた子供のように愚痴る。
「Jは何度もしたことあるんだろ?」
「まぁね」
(女の子から迫られて断われなかっただけで、特別な思い出も無いけど…)
トロンとした目で見つめられて、JUNの鼓動がバクバクしてくる。酔ってるからなのか、何なのか、自分でもよくわからない。
「練習、してみる?」「え?」
(俺、何言ってんだ?…)
「じょ、冗談…」
恥ずかしくなって、顔を背けようとしたが、LEONの手に阻まれた。
LEONの目が迫ってきたが、逸らせない。唇に軽く触れるようにキスをされた。
鼻の奥がツンとして、ジワっと涙がにじむ。
(何で、こんな気持ちに…)
離れようとしたが、LEONに強く抱き寄せられてしまう。舌が触れた瞬間、全身に電流が走った。深く重なるキスに体の奥が熱くなっていく。これまで一度も感じた事の無い感覚に、溺れそうになる。
(も、もう、これ以上は…)
ドンっとLEONを突き飛ばす。
「ばか!調子に乗んな!こんなの練習って言わないだろ!」息が上がって、声が上擦ってしまう。
LEONがじっとJUNの目を見つめる。目を逸したいのに捕らわれたように逸らせない。
「俺、JUNが好きだ。酔ってるのは確かだけど、本気だよ」
LEONの真っ直ぐな言葉に胸がギュっとなる。仇名じゃなく、名前を呼んでくれた事ですら嬉しい。そのまま、俺もって言いそうになる。でも…
「男同士で、そんなの、ダメだろ…」
「何で?JUNは俺が嫌い?それなら諦める」
JUNの目に涙がにじむ。
嫌いなわけが無い
「LEONの事は好きだ…でも、無理だよ、今の日本で、認められるわけない…
俺のせいでLEONが日陰者扱いされるのは、絶対に嫌だ…LEONは、お日様みたいなのに…
そんな事になったら、俺は自分を許せなくなる…」
今の世の中は生きづらい
ちょっとでも、他人と違うと叩かれる
RIKUKIもそうだった
俺も面倒くさくて、いつもできるだけ抵抗しないようにしてる
何かあった時は、LEONとRIKUKIが助けてくれたから、自分らしく生きてこれた
それなのに、LEONが俺のせいで、周りから白い目で見られるようになるなんて、耐えられない
「なら、日本を出ればいい」
「は?」
LEONは迷いの無い目でニッコリ笑った。
「日本で受け入れてもらえないならアメリカでも、どこでも行けばいい。大事なのは、JUNの気持ちだけだから」
(こいつ、何言ってんだ?そんな事、簡単にできるわけ…)
JUNの否定的な気持ちが、LEONを見てると急速に消えていく。
昔から、どんなに馬鹿だと言われる事も、無謀だと言われる事も、LEONは笑って乗り越えてきた。その裏には、たくさんの頑張りや苦労があった事も知っている。
「そ、か…そうだ、な」
何で、最初から諦めようとしたんだろう
いつもと変わらない
ただ、LEONを信じて、一歩踏み出すだけだ
自分の気持ちを偽らずに
「俺も、LEONが好きだ」
LEONのお日様のような笑顔が涙で滲む。
練習でも冗談でも無く、想いを込めてキスを重ねた。
自分を偽らずに、ただ前を向いて生きて行こう
LEONと一緒なら、何も恐くないから…
END