『覇者』によって鍛え抜かれたベルがオラリオに降臨したら。 作:shome
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターの坩堝。
富と名声を求めて自分も命知らずの冒険者へ仲間入り。
手に持つ剣一本でのし上がり、末に到来するのはモンスターに襲われる美少女との出会い。
響き渡る悲鳴、怪物の汚い咆哮、間一髪で飛び込み翻る鋭い剣の音。
怪物は倒れ、残るのは地面に座り込む可愛らしい女の子とクールに佇む格好の良い自分。
ほんのりと染まる頬、自分の姿を映す潤んだ綺麗な瞳、芽吹く淡い恋心。
そうして沢山の美女美少女と仲良くなっていく。
ダンジョンに出会いを、訂正、ハーレムを求めるのは間違っているだろうか?
などと邪な事を考えながら襲いかかってくるダンジョンのモンスター達を容易く屠っているのは、白髪紅眼の少年ベル・クラネル14歳。
つい先日まで田舎で灰髪の魔女と黒鎧の武人によって鍛えられていた彼は、ついに憧れの地『迷宮都市オラリオ』に来ていた。
実はオラリオには不法入国しており、その事に後ろめたさを感じていたベルだったが、いざダンジョンに潜るとその事は忘れ、以前より抱いていたハーレム願望を全開にして階層を突き進んでいた。
祖父ゼウスによって植え付けられたその卑猥な心得は、義母アルフィアの教育による矯正虚しくベルに根深く残っていた。
ゼウスは勿論、ベルはこれからもアルフィアに折檻されることだろう。
そうして5階層に到達して迫りくるモンスターを手刀で解体していたベルは異変を感じていた。
「……モンスターが何かから逃げてきてる?」
モンスターがあたかも自分達よりも強大な何かから逃げるようにベルの前に現れるのだ。
ベルは自分へ向かってくるモンスターを一匹残らず蹴散らしながら疑問を抱いていると、その答えはすぐに現れた。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
岩窟を震撼させる咆哮が響く。
並の冒険者ならば裸足で逃げ出す迫力を有しながら、そのモンスターは荒縄のように筋張った肩と腕を隆起させる。
踏み出された一歩によって地面が蹄型に陥没した。
筋肉質の巨大な体に赤銅色の体皮。
モンスターの代表格にも数えられる牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』である。
ギルドから階層領域ごとに定められる脅威評価、最高に認定される中層最強のモンスターに対してベルが動じることはなかった。
「懐かしいなー、Lv.2になる前にザルド叔父さんが強化種にしたミノタウロスと戦ったなー。あの時は死ぬかと思ったグスン」
寧ろ、育ての親達による過去の無茶振りを思い出して遠い目をしている。
「そもそも5階層にミノタウロスがいるのはおかしい。他の冒険者の為にもすぐに倒さないと」
ベルからしてみれば全く問題ないが、この周辺を探索している他の冒険者にとってミノタウロスは厄災以外の何者でもない。
過去の思い出に浸るのは一瞬にしてすぐに目の前のモンスターの対処に専念する。
しかし、ベルの手刀がミノタウロスの体に届くことはなかった。
ベルが手を下す前に怪物の胴体に一線が入ったからである。
「えっ?」
『ヴぉ?』
僕とミノタウロスが間抜けな声を出していると、さらに一線が怪物の首に入る。
直後、ミノタウロスはその場で崩れ落ち、魔石を残し灰になった。
僕はあっさりとミノタウロスを倒した人物を確認する。
するとそこには2人の美少女がいた。
1人は、外套と覆面を身に付ける金髪のエルフ。恐ろしいことに、ベルの好みのタイプである『金髪、長髪、エルフ』を全てを満たしている。
もう1人は、蒼い装備に身を包んだ金髪金眼の女剣士。こちらもまたベルの好みのタイプを3つのうち2つも満たしており、女神様と見紛うような少女だ。
ベルが2人に見惚れて何も話せないでいると、当の2人は心配になりそっと声をかける。
「……大丈夫ですか?」
「すまない。我々がミノタウロスを逃してしまったばかりに」
「……………………………………………」
少女達が困り果てて少年にさらに歩み寄ろうとすると、ベルの首や耳の肌という肌が紅潮する。
「だっ」
「「だ?」」
ベルのようやく発した声に2人が首をかしげていると、次の瞬間。
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
体を反転させたベルは全速力で逃げ出した。
逃走中のベルは金髪金眼の少女の言葉を思い返していた。
『大丈夫ですか?』
大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃない。
今にも爆発して砕け散ってしまいそうなこの僕の心臓が大丈夫なわけがない。
初めて抱く盛大な恋心をもとに断言する。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
再結論。
僕は間違えていなかった!!
この日、『覇者』によって鍛えられLv.7へと至っていた少年は、その圧倒的能力虚しく好みの女の子を前に敗走した。
強くても弱くても結局逃げてしまうベル君最高。