予告詐欺です、申し訳ありません。
――15年前 早乙女研究所
つい昨月、恐竜帝国の復活による武力侵攻に見舞われた日本。しかしネオゲッターロボ、そして真ゲッターロボ、更にはアメリカから来援したテキサスマックらの活躍により帝王ゴールは死亡し、敵UFO兵器も完全に破壊。
その被害は最小限に食い止められ、既に各地で復興が進められていた。
浅間山の麓に位置する早乙女研究所も、バット将軍らの襲撃により損壊した施設が急ピッチで再建されている。これは今回の事件において、ゲッター線の危険性だけではなく、その力と可能性が再評価され、改めて日本政府からの研究許可が出たからであった。
……改めて、である。
人類の夢とも言うべき無限のエネルギーであるゲッター線。その研究は一度、研究中断、そして頓挫というべき状態に陥っていたのだ。
「そう。5年前、武蔵が恐竜帝国の侵攻を食い止めてくれたことが、皮肉にも俺たちの道を閉ざしてしまっていたんだ」
研究所の地下深くへと繋がるエレベーターで、改めて再会した戦友、流竜馬に対し、神隼人は自分たちの5年間について語っていた。
「ゲッターロボの炉心の爆発により、ニューヨークは文字通り壊滅。巨大なクレーターは今や湖になってしまっている。恐竜帝国のマシーンランドが浮上していたから、環境改変で既に死の大地と化していたのは間違いないが……」
「それでも、どれだけの人間が巻き添えになったかは想像もつかねえな……だがよ」
「あぁ。俺も同じ思いだ。今も昔もだ」
恐竜帝国のマシーンランドというのは、彼らの拠点であるだけでなく、周辺の大気を取り込み、その成分を改変して吐き出すという機構を持つ。
いわば一種のテラフォーミングシステムであるそれによって、白亜紀の大気と環境を大地に蘇らせるのが恐竜帝国の最終目的であり、その環境において人類の生存は許されない。
人類と恐竜帝国の戦いは、単なる武力衝突ではなく、互いの種族の存亡を賭けた生存闘争だった。
「あの時武蔵が命を犠牲にしていなかったら、連中は地球そのものの時間を巻き戻し、俺たちは絶滅していた」
「……そうだな」
「だが、政治家連中にはそれが分からん。奴らが気にするのは損得だ。そして、人類絶滅まであと一歩までたどり着いた敵手の壊滅よりも、一都市がまるごと消し飛んだほうが気がかりだったんだ」
もう助からん街だったというのに。と、若い頃の隼人なら付け足しただろう。
だが、今の隼人は大佐として組織に地位を持ち、日本政府とも縁浅からぬ存在である。だから、判断の拙さを非難はすれど、そこまで彼らを罵ることはしなかった。
「そのせいで、ゲッター線の研究は凍結。真ゲッターも封印されてたわけか」
「あぁ。研究所の人員は全て政府の管理下に置かれて幽閉された。一時期は総理を研究だからと待たせていたほどの早乙女博士ですら、例外ではなかった」
「お前はどうやって逃れたんだよ。しかも、政府公認防衛組織の大佐殿にまでなって」
「早乙女博士と……もう一人の手引きだ。のし上がる手助けは一切してくれなかったがな」
ふ、と隼人が浮かべる笑みは苦笑ではない。ただただ「楽しかった」と思い返す好戦的な笑みだ。
それにつられて竜馬も同じく笑う。
「幽閉中も、早乙女博士は出来る限りの研究をしていた。俺とも秘密裏に連絡を取り合い、恐竜帝国の再侵攻への対策を進めていたんだ」
「その結果がネオゲッターロボ……か」
「それだけではない、真ゲッターの機動準備があそこまで早く終わったのも、博士が準備をしてくれていたからだ」
チン、とベルが鳴り、ドアが開いた。二人揃って歩みだす。
「だがな。その話と、今から行く場所になんの関係があるんだ? ここは……」
踏み出したその階層は、真ゲッターが封印されていた場所よりも、なお深層。
そもそも5年前、研究所を我が家と同じくしていた竜馬にとって
「おかしいか?」
「あぁ。研究が凍結されて、予算もねえのにこんな場所を作れるわけがねえ」
「そうだろうな」
「……隼人! いい加減焦らしてねえで早く言え!」
隼人の思わせぶりな態度はいつものことで、それに竜馬が怒るのもいつものことだった。
彼らにとって、これは一つのじゃれ合いのようなものだ――とは、早乙女博士の愛娘、早乙女ミチルの言葉である。
「真ゲッターの前に設計されてたっていうゲッターロボGか? それともこの前暴れた、試作機の生き残りか?」
「…………」
「おい、なんとか言え……」
「着いたぞ」
そこにあるのは、竜馬が想像するような、巨大ロボの格納庫ではなかった。
機械式ドアの隣にあるガラスから見えるのは、カラフルで明るい子供部屋。
「なんだ……?」
そこから竜馬が目を凝らすと、青く長い髪をした幼い子どもが、興味なさげにゲッターロボを模した玩具を弄っているのが見えた。
「……隼人、あのガキは?」
竜馬の問いかけを無視し、隼人がドアのコンソールにコードを入力してロックを解除する。
そして開かれたドアからは。
「なに……!?」
『熱の無い熱気』が吹き出した。
「は、隼人、こいつは……!!」
その正体を、竜馬は知りすぎるほど知っていた。熱など僅かにしか存在しないはずなのに、人の肌をそばだたせ、蒸し苦しさを感じさせ、汗を流させる空気には、何か満ち満ちているものが感じられるのだ。
そしてそれは――ゲッターロボの、戦闘状態にある時のコクピットの中と酷似していた。
「そうだ。この部屋のゲッター線は通常の15倍はある」
「なに!? じゃあどうして、小さいガキがまともでいられるんだ!?」
それが天敵であるという爬虫人類に比べて、人類のゲッター線への耐性、及び適応力はとてつもなく高い。
しかし、未だ発育や免疫が不完全な子供にとって、いくら人類には無害といえ、15倍の放射線が漂う部屋が、好ましい環境とは言えなかった。
そして件の子供は、竜馬の叫びに耳も貸さず、ぼんやりと3つの戦闘機を動かし…好き勝手に手足を伸ばして、めちゃくちゃに合体させていた。
「それは……この子供が俺達にとっての『本命』だからだ」
「本命…!?」
隼人の目に狂気が
まるで、出会った最初の頃のやつと同じだ、と感じたのだ。
「真ゲッターの封印、ゲッター線の研究凍結。それらは全てブラフだった」
「なにぃ!?」
「もっと言えば、俺がネオゲッターロボを作ったことも。ゲッター線からの脱却という意味では、実に分かりやすいパフォーマンスだ。諸外国を安心させ、更には油断させるためにな」
だが、これは隼人のアイデアというわけではない。
その当時、内閣官房長官に座していた
更にその腹心であり、20年以上前から政府のフィクサーとして暗躍していた
彼らと早乙女博士が共謀した隠蔽劇だったのだ。
ちなみに、その『最凶の男』が実行犯たる神隼人の前で言い放った台詞は以下の通りである。
『他所の国の大都市がひとつふたつ!! 100つぐらい吹っ飛んだところで、どうして無限のエネルギーの研究を止めなきゃあならんのじゃあ!! 全くふざけとる!! そんなことで
――呆然とする竜馬と、恐ろしい笑みの隼人に話を戻そう。
「……それで、このガキが『本命』か? 真ゲッターを騙しに使うほどのか?」
「あぁ……聞いて驚け。 こいつは武蔵の置き土産だ」
「……なに!?」
そう。全てが始まったのは正しく5年前。
ニューヨークの全てを巻き込み、爬虫人類も人類も、文明の痕跡すら消え去った大爆発の中。
早乙女博士が直ちに政府へ要請して、原潜を動かしニューヨークへ秘密裏に送り込んだ特務調査隊が発見したのは。
人間ですら防護服を装着しないと危険なほどのゲッター線濃度の中、すやすやと眠り続ける裸の赤ん坊であった。
その赤ん坊こそが。
「星野アイ……これは、彼女の周りにあった残骸から判明した名前だ。たまたま観光に来ていた、日本人夫妻の子だった」
「……今は5つか」
「あぁ。すくすくと成長している。生身の体も、その内に宿すゲッター線もだ」
「宿す……成長!? まさか!?」
ゲッター線というのは、宇宙から地球に降り注ぐエネルギーである。
そのゲッター線を収集してエネルギーに変えるのが、早乙女博士の行っている研究の基礎であり中心。
ゲッターロボも真ゲッターロボも、早乙女研究所でゲッターエネルギーを注入して、ゲッター炉を駆動させてこそ初めて動くのだ。
その駆動効率が物凄いこと、更には一度活性化したゲッターエネルギーは本来の規模を超えて増幅されることがあるから、ゲッターロボ自体が無限のエネルギーを生み出していると誤解する者もいるが。
ゲッターロボ自体はあくまで自動車と同じで、ガソリンの代わりにゲッターエネルギーを詰め込んで動いているに過ぎず、燃料切れもエネルギー不足も発生する。
だが。二人の眼前の幼子は。
「……星野アイ。それ自体がゲッター線の発生源、そしてゲッターエネルギーを生成している」
「バカな!?」
「俺と博士も最初は疑った。しかし研究の結果は認めねばならん」
「じゃあ、こいつがもし……」
ゲッターロボのような巨大ロボットの内部に組み込まれでもしたら。
いや、そうでなくても、彼女自身が戦うことがあれば。
まさに最強で無敵のゲッター。そう言えるではないか。
「……隼人ぉ!!!」
しかしそれは、流竜馬という男にとっては決して許せないことだった。
彼は隼人の胸ぐらを掴み、その身体を持ち上げる。
「てめぇは、いや、早乙女博士も、この何も知らないガキを兵器として……!!」
「だからどうした?」
「なに!?」
しかし、隼人の笑みは収まらない。むしろますます残酷に、酷薄に歪んで竜馬を睨む。
その覇気に一瞬腕を緩ませかけた竜馬だが、だからこそますます硬なに怒りを燃やす。
当の少女はそんな二人に気づいたようだが、特に驚くでも騒ぐでもなく、何かを観察するようにじっと見ていた。
「恐竜帝国はもう滅んだ! 他所の国と戦争やらかすのは国やてめぇの勝手だが、何もこんなガキを使うことは無いだろうが!!」
「……そう、恐竜帝国は滅んだ。しかしだ。奴らが使っていたUFO、あれはどこから来た?」
「どこからって……博士は恐竜帝国の構造物じゃねえっつってたな」
「あぁ。その時推測したのは、古代文明のオーパーツ……だがな、あれはそんな、生易しいものじゃなかったんだよ」
部屋の中央にある、子供のための背の低いテーブルに、大男二人がどっかとあぐらをかいて向かい合う。
隼人が取り出したノートパソコン、そのモニタに写っていたのは、爆発四散したUFOの残骸の解析結果であった。
「こいつは……!?」
「構造物の年代解析だ……間違いなく、今から少なくとも数千年前のものだと判定されている」
「じゃあ、やはり古代文明の」
「しかしだ」
つづいて隼人が表示したのは、内部に突入した時、コンソールを操作した敷島博士が『もののついでだよん』と入手したデータチップの一種、その中に格納されていた情報だ。
「アンドロメダ……?」
「データはわずかしか解析できなかった。脱出の最中、都心の真っ只中に落としたものを必死で探したのがこれだからな」
だが、はっきりしたこともいくつかあった。
このUFOが、おそらくは
それがタイムワープして、太古の地球に落着したこと。
そして。
「奴らが狙っていたのは、ゲッターロボだったということだ」
「ゲッターを!?」
「おそらく、転移の狙いが逸れたんだろう。そして、機能停止したものを偶然、恐竜帝国が発見した」
「だが、どうしてそれがわかる?」
「思えば……帝国の連中のゲッターへの敵愾心は異常を通り越して狂気に近かった。天敵のエネルギーを用いたものだから当然とも思ったが…今にしてみれば」
「あのUFOが……連中をそそのかしていたってことか?」
あくまで仮説の域を出ない、と隼人は付け加えたが。
それが本当だとすれば、竜馬は空恐ろしいものを感じざるを得なかった。
今までの戦い。早乙女研究所に引っ張られていって、巨大なロボットで残虐な敵と戦い、二人の仲間を得て、一人を失って。そして跡を継ぐ若者たちがケリをつけた、この長い戦い。
それら全てが序章でしかないと断じられるに等しかったからだ。
「奴らの戦力は恐竜帝国の比ではないだろう。もし今度こそこの現代に狙いが定まったら、例え真ゲッターが完全駆動したとしても、それ一つで抗えるかは分からん。我々人類には更に強大な力が必要だ。この少女がそうなるのだとしたら……」
「……だがよ……!!」
「ふ。お前の心配はある意味的はずれだ」
それでも反論を試みる竜馬を、隼人はせせら笑いながら翻弄する。
「とりあえずの脅威が遠のき、隠蔽する必要も薄くなった今、彼女はじきにこの外へ出すつもりだ。無論、生きるゲッター線の根源であるという事実は隠し続けてだが」
そして、普通の人間。両親を失い施設で育った天涯孤独の子供「星野アイ」として育てる。
学校にも行かせるし、その職業も可能な限り自由に選ばせる。
「そして…子供でも作ってくれれば尚更都合がいい」
「……お前、何を考えて」
「そうすれば情が……愛着が芽生えるだろう? 人類への、そして地球への」
竜馬は今度こそ絶句した。
眼の前の男は、一人の少女を下手に無機質な兵器として完成させるよりも。
人の愛や友情といった心を焚べるために積み重ねたほうが効率的だと言ってのけたのだ。
「隼人……お前ってやつは……」
「竜馬、戦いは終わっていないんだ。いや、戦いは今もなお続いている。俺たち人類にとって、彼女は希望となるのだ。そのためにも、彼女に人類を
そこまで聞いて、竜馬はたまらず立ち上がり。
踵を返して部屋を出ていく。
「どこへ行く?」
「付き合ってられるか。俺はその話、乗らねえぞ。気味が悪いし、気に食わねえ」
「…………」
隼人は、そんな竜馬を一瞬引き止めようと手を伸ばし。
だが、それを気の迷いと切り捨て、ただ立ち上がって竜馬に叫んだ。
「これが俺たちの、ゲッター線に関わったものの宿命だ! アイもその中の一人だ! 竜馬!! これは逃れられん運命なのだ!!」
「そうかい。だがよ? 誰かが言ってたぜ?」
――運命にしたがうのも運命なら、運命に逆らうも運命だってね!
両目に星を宿す子供は、その時。
普段はどんな時も怖い顔しかしない男が、実に楽しそうに笑うのを見た。
彼が本心では、自分に反対する男を高く評価し、好ましく思っているのを理解した。どうしてかは分からなかったが。
――8年前 東京都世田谷区下北沢 ライブハウス前
「……懐かしいな。その言葉。7年前を思い出す」
「そうだ。俺の思いはあの頃と全く同じだ。お前が
「つまり。俺を止めるつもりか」
「あぁ……!!」
7年前よりやや老けた二人は、しかし対象的な装束を身に纏っていた。
片や、竜の文字が背中にデカデカと描かれた、ボロボロの道着服。
そして片や――『アイ一筋』『B小町しか勝たん』『アイを信じろ』などとそこかしこに書かれた白い法被のような服。
どちらも、若者の街である下北沢において極めて異彩を放つ光景であり。
「仮にも俺と同じチーム組んでたやつが、そんなふざけた格好でうろうろするのは許せねぇんだよ~~~!!」
「煩い!! これは正装だ!! お前こそそんな汚らしい格好でライブハウスに入るんじゃねえ~~~!!」
更には互いに超高速で殴り蹴り、総合格闘技も裸足で逃げ出す血腥い勝負を繰り広げているのだから。
周りで控えているNISARや早乙女研究所のスタッフが居なければ、とうの昔に警察沙汰であった。
「道着は格闘家の正装じゃねえか!! だいたい何が運命だコラァ!! NISARの司令官殿がドルヲタなんて世間様に知れたらどうするつもりだぁ隼人ぉ!!!」
「この国の個人の自由の範囲内だ!! 録画も頼まれてるんだぞこっちは!!」
そんな、普段は頼れる先輩である二人の狂態を見て。
本人も野球のユニフォームとキャッチャーミットにプロテクターという場違いな格好をした男、車弁慶は深々とため息を吐いた。
「……何やってんだかなぁ」
「……何やってんだか」
だが、そんな二人を見て、必死に他人のふりをしながらライブハウスにせこせこと入り込む社長夫婦に連れられていた、星野アイ、当年12歳は。
くだらないことに本気になっている彼らを見て。
自分の初ライブ
「……ふふ♪」
百人の観客を笑顔にするよりもずっと、そしてきっと初めて、この仕事にやりがいというものを感じ。
自分の『運命』についても少しだけ、前向きに感じ始めたのであった。
――ねえ、だから。
空を見て、そんなに悲しい顔、しなくていいんだよ、ふたりとも。
そんな二人、アクアとルビー、B小町のみんな、社長と奥さん。
皆が居るから、私――
皆を、愛したいから――
「ゲッタァアアアアア!! トマホォオオオオオクっ!!」
次回
私はそう 欲張りなゲッター