いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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1-10 山内くんはかわいそうだから山内くんなんだもん!(以下略)

 

 

 

『どうも、綾小路先生。お初にお目にかかります』

『西品治警備保障の西品治君だったかな?』

『はい、清隆くんにはウチのコスモがお世話になっています』

『……どういうことかね?』

『え、清隆くんから聞いてません?

 以前、片原会長のご自宅で会ってから親しくさせて頂いているそうでして。コスモのヤツ、年下の清隆くんに勉強を教わるなんてご迷惑を……』

『……そうか』

『年下の闘技者なんて初めてなので、コスモも浮かれちゃいまして……』

 

『(片原総裁関連か。清隆に関わるな、なんて言えんな……)』

 

 

 

――― 三宅明人 ―――

 

 

 

 5月2日。結局、Aクラスからの教師役派遣は断ることになった。

 成績などの情報流出のこともあるが、軽井沢が言った「自分たちの力だけで、最初はできるとこまでやってみたい」という言葉に、多くのクラスメイトが賛成したからだ。

 明らかに4月のときとはクラスの雰囲気が変わった気がする。でも変わったのは良い方向にだから、俺も少しは勉強して中間テストに臨もうとは思っていた。

 

「―――というわけで沖谷、佐倉、長谷部、三宅。おまえら4人はオレが面倒を見ることになった。よろしく」

「よろしく、綾小路くん」

「よっ、よろしくお願いしますっ!」

「よろしくねー」

「それはありがたいが……いいのか?」

 

 だけど綾小路が俺たちの面倒を見るのか。

 確かに俺たちの小テストの結果はあまり良いとは言えなかったが、忙しい綾小路の手間をわざわざかけさせるのもどうかと思うんだが……。

 

「別に構わんさ。四六時中、ずっと一緒にいて面倒を見るわけじゃないし、騒いでいなかった4人なら気楽に面倒を見れるからな」

「それもそうか」

「あー、篠原さんとか佐藤さんとかは思いっきり綾小路くんに畏縮してる感じだよね。外村くんですら、あのキモいござる口調止めて敬語使ってるし」

「罪悪感を抱くのは仕方がないんだろうが、いきなり敬語を使われるようになったのはちょっとな……。

 外村についても、将来のことを考えたらその口調はどうかと思うぞと言っただけなのに……」

 

 平田や櫛田、幸村が中心となって勉強会を主催することになり、殆どのクラスメイトはそれに参加することになった。

 参加していないのは俺たちの他には高円寺や堀北、それに山内たちぐらいだろう。といっても、高円寺はともかくとして、堀北には何か考えがあるようだった。

 

 それと40人近い人数が同じ場所で勉強会をするわけにはいかないので、平田たちもある程度のグループに分かれるんだろう。

 最初は綾小路もその勉強会に教える側で参加する話もあったのだが、やはり騒いでクラスポイントを減らしてしまった自覚のある生徒が気まずくなってしまうみたいだ。女子の中には綾小路に対して思わず敬語を使ってしまうヤツがでてくるぐらいなので、綾小路が教師役だと罪悪感で畏縮してしまって勉強に集中できそうにないらしい。

 男子も男子で今まで綾小路を邪険にしていたから、やりにくいところがあるのだろう。まぁ、同級生に敬語はどうかと思うが、彼ら彼女らの気持ちは理解できる。

 

 そんなわけで手の空いた綾小路は、特に騒いだりはしなかったがテストの結果があまり良くなかった俺たち4人の面倒を見ることになったようだ。

 俺たちは綾小路に罪悪感は特に抱いていないみたいだしな。俺と長谷部は元から友人付き合いがあまりなかったから、佐倉と沖谷は気弱でそもそも騒げなかった、という違いはあるが、俺たちがクラスポイントを減らすようなことをしていないのは綾小路のお墨付きだ。

 だからお互い特に思うこともなく接することができる。

 

「勉強について話す前に、すまないが皆に頼みがある。特に長谷部」

「私に? 何?」

「手間をかけさせて悪いが、しばらくは佐倉と行動を共にして欲しい。三宅と沖谷は山内が近くにいるときは様子を注意して見といてくれ。

 それとコレ防犯ブザー。渡しとくから、何かあったら遠慮なく使ってくれ」

 

 そう言って俺と佐倉と沖谷の目の前に1つずつ、長谷部の目の前に2つの防犯ブザーを置く綾小路。

 そこまでするのか、綾小路。

 

「山内くん対策? というか何で私に2つ?」

「ああ、咄嗟のときには、このピンを引っこ抜いて、そこら辺に投げてから逃げろ。

 長谷部に2つ渡したのは、買ったのが5つだったというのもあるが、悪いが佐倉に2つ渡しても有効に使えるとは思えないからだ」

「……鈍臭くてゴメンなさい」

「あー、いいっていいって。佐倉さんは気にしなくていいよ。むしろ被害者じゃん。

 とりあえず、しばらくは一緒に登下校しようか」

「佐倉はお礼といってはなんだが、佐倉のできる範囲で長谷部の勉強のサポートをしてやってくれ。4人の中では小テストで一番点を取れていたのは佐倉だからな」

「は、はい……」

「それは本気でよろしく」

 

 この前の小テストでは佐倉が63点。次に長谷部の52点。そして40点台の俺、沖谷と続いていく。

 あの小テストの問題は中学レベルで受験時の問題よりも難易度は2段階ほど低く、できれば80点は取ってほしかった、と綾小路が言っていた。

 そう考えると俺は本気で勉強しなきゃマズいな。中間テストは当たり前だが高校レベルの問題がでるのだろうから、小テストで50点も取れなかった俺だと、下手したら34点も取れずに赤点となる可能性が高い。

 

「携帯の位置情報取得機能で昨日は様子を見ていたからいいが、今日からはわからん。できるだけ警戒しておいてくれ」

「い、いくら山内くんでも、佐倉さんがウソに対して口を合わせなかったとはいえ、そこまでするのかな?」

「すまん。位置情報取得機能って何だ?」

「あそこまでのは初めてなんで正直わからん。ただ昨日の感じだと突然カッとなるタイプのように見えたから、警戒しておくに越したことはないと思うぞ、沖谷。相手が弱い立場だと見ると付けあがるタイプだと見た。カスハラとかするタイプだな、きっと。

 それと三宅、位置情報取得機能ってのはな―――」

 

 綾小路は携帯を起動させ、連絡先を交換した相手がブロックしてなければ位置情報を閲覧できる機能を見せてくれた。

 こんな機能あったのか。

 綾小路が授業態度を注意し始めて険悪な仲になる前に男子同士で連絡先を交換していたから、山内たちの居場所は問題なく表示されている。どうやら3人で話でもしているのか、揃って体育館近くのベンチがある辺りにいるようだ。

 ブロックされていないということは、山内たちは俺みたいにこの機能に気づいていないのか?

 

「この機能のことは山内たちには内緒にしておいてくれ」

「ストーカーみたいに利用しそうね」「ヒッ!?」

「わかった」「うん」

「佐倉と長谷部、オレと連絡先を交換しておこう。何かあったら連絡してくれていいし、抵抗がなかったら位置情報もブロックしないでおいてくれ。

 もちろん、もし山内たちが反省して安心できるようになったなら、そのときはブロックしてくれていいからな」

「オッケ。連絡先交換しようか。位置情報は……まぁ、綾小路くんならいいか。

 佐倉さんはどうする? ブロックしない私と一緒にいれば、もしものときも大丈夫だと思うけど」

「い、いえ……綾小路くんなら、平気です……」

 

 何かあったら俺にも連絡してくれていい、と言おうと思ったが、佐倉の怯えようからすると連絡先の交換は男子の俺からは言いだしにくいな。

 いや、佐倉たちがオレの連絡先を知ってさえいれば、交換自体はしなくてもいいのか。

 ノートを破き、そこに俺の電話番号を書いて佐倉たちに渡す。

 

「佐倉、長谷部。綾小路よりは頼りにはならないかもしれないが、何かあったら俺にも連絡してくれていいから」

「うん、ありがとね」

「あ、ありがとうございます」

「すまないな、三宅」

「気にするな。クラスメイトだからな」

「じゃ、じゃあ、僕も……」

 

 やっぱり昨日のことがあってから、極一部を除いてクラスメイト同士の距離感が縮まった気がする。あんなことがなかったら、長谷部や佐倉が俺の連絡先を受け取るなんてなかっただろう。

 Aクラスを目指すという共通の目標ができたこともあるし、こう言ってはなんだが、反面教師の姿をこれでもかと見てしまったからだろう。何かあったらお互いに助け合うという連帯感が生まれている。

 

「それにしても佐倉さんて綾小路くんなら平気なんだ。あ、別にからかいとかじゃないよ。私も同じだし。

 でも、佐倉さんは男子を怖がっていそうなところがあったからさ」

「……綾小路くんの怖さは男子に感じる怖さじゃなくて、大型犬とかに感じる怖さの方だから……」

「大型犬の怖さ? どういうこと???」

「いや、それわかるわ。散歩途中の大型犬とすれ違うときとか妙に緊張するよね。コッチに興味を持って見てきたら特に」

「僕もわかる」

「確かにそういうのはちょっと怖いよな」

「怖いのは大型犬のことだよな? オレのことじゃないよな?」

 

 グレートデーンみたいな厳つい顔してたら尚更だ。コッチに興味を持った小型犬だったら、足に纏わりつかれたときに蹴っちゃうんじゃないかって意味で怖くなることがあるけど、大型犬はなぁ。

 近くにいると圧迫感というか、長谷部の言う通りで緊張感が生まれる気はする。

 

「綾小路くんはねー。最初に話したときは私の身体をジロジロ見てくる気はしたけど、すぐに私への興味なくしたのわかったんだよね。別に見られたいってワケじゃないけど、同年代の男の子のアレにはちょっと驚いたわ。

 それで綾小路くんを見てたらわかったんだけど、スポーツやってる小野寺さんとか、それこそ平田くんや須藤くんみたいな身体鍛えてる人たちの方が男女関係なく興味持ってたでしょ?」

「否定できないな。格闘技やってると、身体は身体でも筋肉の付き方とかの方がどうしても気になる。長谷部も佐倉もそういう意味では特色のない普通の女の子だから、あまり興味は持てなかった。……言い方が悪いか、コレ?

 あと仕事の関係上、大人の女性と会う機会も多かったから慣れてるってのもある。知り合った人の中には性的暴風雨(セクシャルバイオレンス)ってアダ名されてた女性もいたし」

 

 何だよ、そのアダ名?

 まぁ、綾小路はテレビにもでてたからな。偏見かもしれないがテレビ関係者と付き合いがあると、俺たち同年代の男子よりも女の人への免疫がついてそうだ。

 

「えっと、私も同じ感じがしました。それでゆったりとした大型犬のイメージが思い浮かんじゃって……」

「わかるわかる。大型犬ってそういう感じだよね。ジロリとこっち見て、興味なくしたらそれっきりって感じ。そこら辺が綾小路くんっぽい」

「……これは褒められてるのか? それとも貶されているのか?」

「少なくとも悪いイメージじゃないと思うぞ」

「そうなのか……まぁ、いい。とりあえず今まで取ってたノートを見せてくれ。指導の参考にする」

 

 そう言われて4人ともノートを綾小路に渡すが、綾小路は首をかしげながら受け取った。しかし、こうノートを改めて見られるとなると恥ずかしい感じがするよな。

 それと綾小路が大型犬ってイメージはあってると思うぞ。綾小路はマイペースはマイペースでも、猫みたいな気紛れなマイペースって感じはしないんだよ。大型犬のちょっとのことでは動じない感じのマイペースっぽさなんだ。

 

 

「……ねぇ、綾小路くん。聞いていい?」

「うん? 全員分のノートを確認するのに時間がかかるから、その間の質問ぐらい構わないが……」

「山内くんたち、どうするつもりなの?」

 

 手持無沙汰になった俺たちだが、長谷部がクラスの誰もが気になっても聞けなかったことを綾小路に聞き始める。この4人では話をしようにも話題が思い浮かばないってこともあるんだろう。

 しかし、それを聞いちゃうのか。いや、確かに俺も気にはなってるんだが……。

 

「どうするも何も、オレの一存で決めることじゃない、では納得できないよな?」

「そりゃもちろん。あの3人は納得しないだろうけど、もうDクラスのリーダーは綾小路くんに決まったようなものじゃん。

 綾小路くん1人で決めることじゃないけど、それでも綾小路くんの意見は重要視されるでしょ。だから綾小路くんはどうしたいのか知りたいんだけど?」

「そういうこと聞く場合は、まず自分の意見を言ったらどうだ、長谷部?」

「クラス的には残すのが良いんだろうけど、個人的には消えてほしい」

「素直でよろしい。何人かに聞いてみたけど結構いるんだよな、長谷部と同じ意見の女子」

 

 フォローできないな。したくもないが。

 

「そう簡単に退学させない方がいいとは思うが、山内たちの反省次第だ、結局は。

 反省するなら他の皆と同様に4月のことは水に流すしかないが、その反省が長続きしてくれるかが微妙なんだよな、アイツら。今回は反省しても、来月には元に戻ってるなんてのもあり得るし。

 反省しないようだったら、短期的にはクラスポイントが減るのを覚悟で、さっさと今回の中間テストで退学させるしかない……というより、反省して真面目に勉強しなかったら、中間テストで普通に退学になると思うぞ」

「それもそっか。あの小テストで20点ぐらいしか取れないんなら、もっと難しい問題がでてくる中間テストで34点以上取るのは無理か」

「34点以上? 山内も昨日……あー、そっか。成程」

「綾小路? どうした?」

「いや、何でもない。言っても意味のないことだ、三宅。少なくとも今はまだ。

 それと長谷部。さっきは個人的には消えてほしいと言っていたけど、個人の財布事情的にはどうなんだ? あの3人が退学になったら、おそらく来月もクラスポイントは0になる。ましてや退学みたいな大事だと、下手したらマイナスになるかもしれないぞ。

 流石にマイナスになっても、マイナス分だけ毎月プライベートポイントが没収されるというわけではないだろうが、それでもプラスにするのには時間がかかると思うぞ」

「そうなんだよねぇ。それが迷うところだわ」

 

 クラス(短期)的に考えるとクラスポイントが減るので退学しないで欲しいし、個人(お財布)的に考えても貰えるプライベートポイントが減るので退学しないで欲しい。

 個人(心理)的に考えると迷惑ばっかりかけられたのでさっさと退学して欲しいし、クラス(長期)的に考えても反省したとしてもそもそも信用できないので今のうちに退学して欲しい。

 

 大まかにまとめると、大抵はこの4つの意見にまとまるんだよな。個人的にもクラス的にも、退学して欲しいし退学しないで欲しい、って相反した状態だ。

 せめてあの3人、特に山内が反省の色を見せてくれないと、どうしようもないと思うが。

 

「……退学かぁ」

「沖谷くんは反対? 山内くんたちの退学」

「ち、違うよ、長谷部さん。

 山内くんたちじゃなくて、僕自身が退学にならないかが不安でしょうがないんだ。この中でテストの点が一番低かったの僕だから……」

「……勉強頑張って」

「それはわかってるんだけど、やっぱり退学になるかもしれないと思うと気が重いよ」

「実際は退学じゃないと思うけどな」

「「「えっ?」」」

「本当か、綾小路?

 でも昨日の話し合いが終わった後に上級生の教室を見に行ったら、おまえのメール通りで机の数が少なかったんだが……」

「いや、実際は退学じゃなくて転校になるんじゃないか、という意味だ。この学校に通い続けるのは無理だろうな。

 2年、3年には既に10人以上の退学者がでてるんだが、そんなに高校中退者をただ単にだすだけだったらそもそも国が怒る。日本で子どもを育てるってことは、その子どもの親はもちろんだが国としてもコストがかかってるんだぞ。退学者が自力で違う高校に再入学することができればまだいいが、退学で挫折されて引き篭もりにでもなられてみろ。今までその人にかけたコストがパァだ。

 それだったら最初っから退学じゃなくて適当な高校に転校させておいて、将来の納税者になってもらった方がいいだろう」

「ああ、そういう意味か」

「証拠と言えるものじゃないが、オレは入学前にこの学校についてネットで調べたんだけど、退学者がここまでたくさんでているって情報はなかったんだよ。退学に納得していない人だって絶対にいるはずなのに、退学者の恨み節とかもネットには流れていなかったんだ。この情報化社会でだぞ。退学になった全員が大人しくしているのは、どう考えてもおかしいだろ。

 だから退学じゃなくて転校になってて、転校先で高育のことを暴露したら今度こそ高校中退だ、と釘を刺されてるって考えた方が自然じゃないか?」

「へぇ、それは確かにおかしいな」

「でもどっちにしろ、この学校にいれなくなるのは変わらないんだね……」

 

 俺たちのような子供の視点じゃなくて、役人のような大人たちの視点で考えたら、確かにそっちの方がありえそうだな。

 茶柱先生の話では、この学校は優秀な人材教育を目的にしているらしいが、要は優秀じゃなかったとしてもただ捨てるよりは、別のところで再利用した方がいいってことだろう。我ながら言い方は悪いが。

 それに1学年に10人以上の退学者がでてるんだ。綾小路の言うように納得できない人は絶対にでてくる。それなのに高育の内情をバラすような人がいないってことは、いないなりの理由があるわけだ。それが転校先の斡旋と二度目の退学。飴と鞭だな。

 確かに二度も退学するのは嫌だから、普通だったら高育について話したりしないだろう。少なくとも俺はできない。

 

「転校先だけじゃなくて、習い事とかクラブ活動、それこそ芸能活動とかの復帰にも配慮してくれるんじゃないか?

 だから佐倉が退学になったとしてもアッサリ復帰できるかもしれないぞ。もちろん退学しないに越したことはないが」

「えっ? …………えっ???」

「ん? 佐倉さん、何か習い事でもしてたの?」

「それにいくらオレでも、単に山内たちが退学になって高校中退者になるだけだったら、こんな簡単に退学させるしかないなんて言わないぞ。

 なぁ、長谷部?」

「え? ……えっ?」

「……“えっ?”って長谷部? もしかして……いや、女子の立場からしたら、あんなランキング作ろうとした男子は消えてほしいと思って当然か。忘れてくれ。

 ただ、それでも山内たちをフォローするなら、山内たちを残してもメリットがあることはある。主にヘイトタンクや犠牲管としてだが」

「ヘイトタンクはわかるが……“ギセイカン”って何だ?」

「犠牲となる管で犠牲管。船舶関係の言葉なんだが、船って潮風とか海水で錆びるだろう。錆びるときって船全体が均一に錆びていくんじゃなくて、材質的に錆びやすい場所から錆びていくんだ。興味あるならイオンとか調べてみろ。

 だから交換しやすい管を犠牲管としてわざと錆びやすい材質にしておくと、犠牲管だけが錆びるけどすぐに新しい犠牲管と交換できるから、船全体は錆びから守ることができる、ってわけなんだ。

 霞堤の切れ目、爆発反応装甲(リアクティブアーマー)空間装甲(スペースドアーマー)の外側装甲。色んな言い方があるが、要は生贄と思ってくれていい」

「へぇ……って、山内たちをそれみたいに使うのか?」

 

 それはむしろ退学させるより酷いんじゃないだろうか?

 

「あらかじめわかってる弱点があれば、皆そこを狙ってくるだろう。だったらそこの警戒を強くすればいい。それと須藤の血の気の多さも他クラスにちょっかいかけられそうだが、アイツは運動方面では使えるから体育祭とかあったら活躍はできるだろう。

 あと考えられるのは、特別試験が投票するタイプの試験で1人1票持ち、とかだった場合か。それだと山内たち3人が退学になると、Dクラスの持ち票数が他クラスに比べて1割近く減ることになる」

「そんなのあるか?」

「発表会。論文とか、それこそ演劇だろうと音楽だろうと、よかったと思う発表に投票する形式で優劣を競いあう試験ってのはありそうじゃないか?」

「……論文かぁ」

「高校生になったら、そういうこともやるのかしら?」

「論文というか、高校生レベルの勉強となると、問題を読むためだけに国語力が必要となるときがあるからな。本は読み親しんでおいた方がいいぞ。国語のテストも結局はある程度の読解力は必要だし。

 話を戻すが、山内たちが退学になったら退学に関してのハードルが低くなる……いや、タガが外れるのも問題だと思っている。“害悪だったから退学させた”が、いつの間にか“役に立たないから退学させる”に変わっていきそうだ。そうなったらクラスの雰囲気がギスギスしそうじゃないか。だから一時の感情で山内たちを退学させるのは反対だな。

 生贄にはいつでもできるし」

「ああ、それは怖いねー」

「怖いです……」

「(生贄呼ばわりにはツッコミなしか……)」

「(女子って怖……)」

 

 しかし、成程。そう考えると、簡単に退学者をだすわけにはいかないって綾小路の考えもわかるな。

 佐倉も長谷部も沖谷も不安そうだ。俺もそうだが、ここにいるメンバーは特筆すべきような能力は持っていない。俺はスポーツなら平均以上にはこなせるとは思うが、勉強が小テストで40点台だったのが痛い。

 山内のようにクラスに害を与えたつもりはないが、綾小路のようにクラスに益を与えたわけでもない。そういう意味では、運動能力という点では綾小路もお墨付きを与える須藤の方が、クラスのために役立つ機会はでてくるのかもしれない。

 それを考えると安易に山内たちを退学にしたら、次に退学になるのは自分たちじゃないかって不安が広がるかもしれないな。現に俺が不安を感じてしまっている。

 それだったら山内たちを、いざというときのための生贄に残しておく方がいいってことか。それなら山内たちのことをよく思っていないクラスメイトも、山内たちを退学させろと無理には言わないだろう。

 

「さっきも言ったが、結局は山内たちの反省次第だ。櫛田の力を借りて反省を促すことも考えているが、それでも自己反省を期待して今週ぐらいは待つつもりだ。反省するようなら、少なくとも今回の中間テストはオレが何とかしよう。期末テストは知らんが。

 でもオレ以外で、それこそ堀北が何かやろうとしているみたいだし、今後のことを考えたら皆には自助努力というものを知ってほしいから今は様子見だな」

「自助努力……ね。堀北さんみたいに私らも頑張んないといけないかー」

「いや、長谷部たちはまずは勉強を頑張れ。堀北は勉強はできるんだからな」

「はーい」

「ヨシ、だいたいわかった。全員、脳の鍛え方が足りないな。

 勉強を教えるんじゃなくて、勉強の方法から教えていった方がよさそうだ」

 

 脳の鍛え方ってなんだよ?

 綾小路はどこか脳筋というか、力こそパワーって信条を持ってそうなところが怖い。自分ができるんなら他人もできるとか思ってなきゃいいんだが……。

 でも、単純に勉強を教えてくれるんじゃなくて、勉強の方法から教えてくれるというのはいいな。今後の定期テストでも毎回毎回、綾小路の力を借りるわけにはいかない。できるだけ自分でやれるところまでやってみるか。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『そういえばお聞きしてよろしいですか、綾小路先生?』

『答えられることならばな』

『ウチのコスモが気にしているんですが、清隆くんを何で正式仕合にださないんですか? 非公式仕合でもう10連勝でしょう?』

『ホワイトルームとしては欲しいものがない。正確には、あったとしても賭けに釣り合うだけの種銭が手元にない。

 非公式仕合にでているのは清隆の実戦訓練だな』

『成程。わかりやすい』

『清隆の小遣い稼ぎでもある』

『10億円が小遣い稼ぎですか。それはそれは豪気なことで。コスモと気が合うわけだ』

『それに人脈作りも兼ねている。この場で顔が売れたことは清隆の将来の良い糧になるだろう』

『(……こんなところで息子を闘わせるなんて、と思っていたが、もしかして意外と子煩悩?)』

 

『(それにしても10億かー。金に困ってた昔が懐かしい)』




 さやかちゃん……じゃなかった、山内くんだ。

 山内くんはかわいそうだから山内くんなんだもん!
 報われないから山内くんなんだもん!
 幸せになったら山内くんは山内くんじゃなくなっちゃうんだもん!
 たとえ世界の法則が変わったとしても幸せになれないから山内くんなんだもん!
 オレ……山内くんが山内くんじゃなくなっちゃうのなんていやだよ!
 山内くんはかわいそうな山内くんのままでいてよ!

 初めてあのAA見たときは、地味に腹筋が死にました。


 それと作中時期は高校入学時点でケンガンアシュラの絶命トーナメントの2年前。
 きよぽん15歳、コスモが16歳設定の冒頭、末尾時点では3年前という設定です。
 まぁ、乃木会長が山下さんのこと知ったのが絶命トーナメントの5年前ですから、拳願会改革の動きを色々と水面下でしているところですね。そろそろ最近噂になってるパッパのことも調べられたでしょう。
 それと原作知識アリなので、きよぽんはよう実もケンガンもダンベルも知っている設定です。感想を見てたらゴッチャになってそうだったので明記しておきます。
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