『まったく、試合に寝坊とは……初見はしょうがない男じゃのぉ。
ワシん時も護衛者を一週間でバックレるし……』
『それで冷めて高度育成高等学校に入学、か。正直、もったいないの』
『ええ、恵利央さん。オレはそこに入学しますので……』
『わかっとる。連絡手段は確保しておこう。
風水という
『ありがとうございます。
やっぱり呉一族も地元の関西だけじゃなくて、関東にも結構いるんですねっ! ……っと』
『清隆くん、ナイスショット』
『そりゃおるわい。便利じゃからの。
おお、ピンそばにかなり近づいて……あっ?』
『え?』
『ホッ?』
『入りよった……イーグル、じゃと?』
『マジですか』
――― 須藤健 ―――
最初はただのお坊ちゃま育ちのいけ好かないヤツだと思っていた。
勉強ができるのも運動ができるのも俺なんかと違って親父が政治家だから、贅沢三昧に家庭教師もつけられて順風満帆に育った生まれながらのエリートで勝ち組だからと思っていた。……四文字熟語の使い方これであってるかな?
それが俺の綾小路への第一印象だった。
まぁ、その印象は間違っていたわけだが……。
印象が変わったのは、綾小路がバスケ部に顔をだしてからだった。オレら新入生どころか、上級生よりも上手いバスケプレーを見せた綾小路。ボルダリングで金メダルを取ったってのは話に聞いていたが、バスケもできるとは思っていなかった。
それをキッカケに話すことが増えたが、話す度に印象が“変なヤツ”へとドンドン変わっていった。
『カップラーメン? いや、食べないな』
『ケッ、そうかよ』
『量が少ないし、麺類は食べてもすぐに腹が減る。しかもカップラーメンの麺って歯応えなくて満腹感が全然満たされないだろ』
『……そういう理由でかよ』
『そもそもカップラーメンって高くないか? 家で食べるならせめて袋入りのインスタントラーメンにしとけ。安いし、待ち時間を少し伸ばすだけで茹でなくても普通に食えるから。
だけど、何だかんだで食べるなら米が安牌だろ』
『おまえ今食ってるの乾パンじゃねーか。飽きずによくそんなに食えるな』
『そもそもカップラーメン作るのがめんどい』
部活で運動した後、ベンチに座りながらカップラーメンを食べる俺の横で、同じくコンビニで買った安い乾パンをポリポリと食べる綾小路。乾パンを1個分けて貰ったが、味も素っ気もない口の中の水分が吸い取られてしまう代物だったからカップラーメンの汁で喉の奥に流し込んだ。飲み物も買わずによく食えるもんだぜ。
だけどカップラーメンも食ったことがないお坊ちゃまだと思ったが、食わない理由がある意味で俺より庶民的というか、値段と量を考えたコスパとかカップラーメンを作る手間とか待ち時間が理由だとは思わなかった。
『カップラーメンを作るのがめんどい……だと?』
『作る手間というか、お湯沸かしたり箸用意したりもだが、残った汁の処理とかめんどくさいだろ。ならサッと食えるおにぎりの方が楽だ』
『いや、それはいくらなんでもズボラ過ぎねーか、綾小路?』
『そうか? 自分でも面倒くさがりだとは思うが、ズボラだとは思わんぞ』
『あ? 面倒くさがりとズボラに違いあんのかよ?』
『やらなきゃいけないこともやらないならズボラ、やらなきゃいけないことを結局やるか、やらなくてもいいようにするなら面倒くさがりだ。
具体的に髪の毛を洗うのを例にすると、髪の毛を洗わないのがズボラで、髪の毛を洗うのが面倒くさいから坊主頭にしようとするのが面倒くさがりだな』
『……やろうとしたのか?』
『親父に止められた。むしろ積極的に身の回りの物の手入れを自分でするように言われたよ。「おまえは一つ許すとなし崩しに全てをなあなあにする」とか言われてさ』
『多分、親父さんが正解だわ』
よくわかんないヤツだった。綾小路から貰った健康についてまとめたプリントには、スポーツには咬筋力が必要だからよく噛んで食べるようにって書いてあったが、綾小路は咬筋力が衰える問題がなかったら牛乳とプロテインとビタミン剤だけで平気で生活してそうに思える。それとTOSHIOプロテインのラベルに違和感を持てや。
坊ちゃん育ちかと思えば俺でも食わないような食い物も平然と食べてるし、部活後の掃除や用具の手入れも文句を言わずに普通に手伝う。それだけならただのイイ子ちゃんなのかと思うが、ジムで平田や軽井沢相手にツボ押しの実験をしているのを見たら人の心がないんかとも思う。
もちろん悪いヤツではないんだろう。授業中に騒いだり寝たりしていると注意はしてきたけど、真面目クンによくいるような俺を見下してくるようなヤツでもなかった。
綾小路のことをよく理解できないまま、綾小路がバスケ部に来たときはアイツに挑戦し続け、クラスで授業態度を注意されたときはうるせーから注意なんか聞き流す。そんな生活を4月の間は続けていた。
それが変わったのは5月になってから、Sシステムとかのこの学校についてのネタバレがされてからだ。
あのときは色々あったが、初めの頃は春樹に付き合って勉強会に参加とかはしなかった。それからも色々あって結局俺も勉強をすることになったが、それでも俺に対する綾小路の態度は特に変わったりしなかった。
中間テストが終わった後、綾小路に頼んでバスケに付き合ってもらい、散々運動した後に俺の今までの態度に思うところがないのか聞いてみたら、綾小路の返答はこうだった。
『いやぁ、まあ。別に、なにも?』
あ、コイツ、俺のこと何とも思ってねぇんだな、と理解できた瞬間だった。
綾小路にとって、俺はただのクラスメイトというラベルの付いた他人なんだろう。櫛田から聞いたが俺や春樹たちのことは“目の前で交通事故に遭ったら救急車を呼んで応急処置もする”ぐらいには意識してるってことらしいが、それこそ見ず知らずの通行人と同じぐらいにしか意識してないどころか、悪意を持って見捨てるなんてこともしないぐらいにどうでもいい存在ってことだ。
今までの俺がそんなことを言われたら『舐めやがって』とか『この男を、許してはならない』って反発していたかもしれないが、あの時はただ単にストンと納得できただけだったのが心に残っている。
今まで俺と接するのは、俺のことを嫌悪するか見下してくるヤツばかりだった。
まぁ、俺の日頃の行いを考えるとそれは仕方がないことなんだろう。周りに合わせるのは格好悪いと思って、偉そうな態度で周りの迷惑も考えずに強がって俺だけが満足すればいいと好き勝手ばかりしていれば、他人が俺のことをよく思わずに近寄らないのは当然だ。
だけど、綾小路は違う。俺のことを嫌悪もしていないし見下してもいないだろう。
それに綾小路は綾小路で好き勝手ばかりしているようだけれど、俺と違って周りから嫌われていない。Sシステムのネタバレがあった5月1日からしばらくはクラスポイントを減らした罪悪感で話しかけ難い空気があったが、むしろ最近になっては4月のときよりも綾小路に近づいていくヤツらの方が多い。女子だけでなく、外村みたいな綾小路に脅えていた男子も同じで、何かあったら綾小路に相談するぐらいに頼りにしているようだった。
Dクラスのリーダー格の平田や櫛田、軽井沢なんかもそうだ。同じく綾小路を頼りにしている。
……櫛田が笑顔のまま、綾小路にキレかけてることが何度かあったけどな。
櫛田も入学したころにと比べると変わったもんだ。
俺や春樹たちにも注意してくるようになったし、前は女子に自分から合わせるような感じだったけど、今では自分の意見をシッカリ言うようになったんだと思う。遠慮をしなくなったって言えばいいんだろうか。
でも、遠慮をしなくなったからこそ本音で話し合えることが増えたみたいで、今まで女子はクラスの中でも櫛田のグループと軽井沢のグループとその他って別れていたのが、段々と女子全体でひとまとまりになってきている気がする。
変わったと言えば……堀北のアレはどうなんだろうな?
まるで人が変わったように綾小路に懐いているみたいだし、櫛田や長谷部、佐倉を始めとした女子たちとも話すようになった。
でも、綾小路相手に敬語を使っている堀北は違和感ありまくりだ。クラスの中で入学のときから一番変わったのは堀北だろ。本当に綾小路は堀北にいったい何をしたんだ? それとも本来の堀北はああいう女だったのかね?
あれならまだ可愛げもあるだろう。今まで冷たい態度を取っていたのがもったいねぇって思うぐらいだ。
クラスメイトを変えたのは綾小路だ。
そして俺も何だかんだで4月のときに比べたら変わったんだろう。真面目に授業を受けるなんて4月の頃の俺からすると自分でも信じられないぐらいだぜ。
だから、皆を変えた綾小路に興味がある。勉強や運動ができるだけじゃない、綾小路の強さの源になっているのが何なのかを知りたい。
自分の好き勝手に行動して嫌われた俺と、自分の好き勝手に行動しているのに頼りにされている綾小路。そんな俺たちの違いはどこにあるのか。アイツを見習えば、クズの俺だけど今よりももっと変わることができるかもしれない、とさえ思ってしまう。
ああ、そういえば堀北も似たようなこと言っていたな。
まぁ、俺が変わったのは綾小路のことを知りたいって理由もあるが、突っ張るのに疲れた感じがするのが一番の理由だろう。
だって俺が偉そうな態度で強がっていたとしても、結局は綾小路のやることなすことで滅茶苦茶になるんだぜ。もうどうでもよくなるっていうか、振り回されている櫛田たちを見てるだけでお腹いっぱいになってる気がする。
今回のことだってそうだ。
久しぶりにバスケ部に顔をだした綾小路だが、部活後にメシを食わないかと誘われてファミレスで奢ってもらったんだが、そのときにこう言われたんだ。
『いいか、須藤。誰かに呼び出されてケンカを売られたとしても、最初の一発は相手に打たせるんだぞ。
それと俺のことを見かけても反応するなよ』
そのときは綾小路の言ってることはよくわからんかった。
だけど次の日、同じバスケ部の小宮と近藤に呼び出されたときに、このことについて綾小路は言っていたんだな、と納得してしまった。今から考えるとおかしいことばかりなんだが、何故かあのときは自然に受け入れてしまった。
小宮たちに指定された特別棟は、家庭科室とか化学室みたいな普段の授業では使わない教室だけがあるためなのか、放課後では俺たちが普段使っている教室みたいに冷房が効いていることはなく、蒸し暑いことこの上なかった。
もう、7月になるんだもんなぁ。この高校に入学して3ヶ月か。
そんな蒸し暑さの特別棟に同じクラスの佐倉がうろついていたのには驚いたが、特に話したりする仲じゃないから声もかけたりもしないで、小宮たちに指定された場所にまで階段を昇っていった。
階段を昇った先には3人……いや、4人の人影が待っていた。
「よぉ、来たのかよ、須藤」
窓の外から照らしてくる太陽の逆光で最初はよく見えなかったが、目が慣れてくると4人の人影の顔を見ることができた。
人影の2人は俺を呼び出した小宮と近藤。それと小宮たちと同じCクラスだと思うが、そこそこガタイの良い男子が1人。3人が窓を背にして階段を昇っている俺に視線を向けてくる。もろに直射日光当たってるけど熱くねぇのかな?
そしてもう1人。窓際の小宮たち……の更に後ろに、壁に隠れて上半身の半分だけを見せている綾小路がいた。
うん、窓際の小宮たちの更に後ろ、つまり綾小路がいるのは窓の外だ。
人違いでもなくもちろん俺と同じDクラスの綾小路なんだが……えっと、ここ3階だぞ? それと手に持ってるスケッチブックは何なんだよ? つか、片手でスケッチブック持ってるってことは、もう片手で身体を支えてるってことか?
そう思っていたら、綾小路が片手で器用にスケッチブックを捲って書かれていた文字を俺に見せてくる。
『オレのことは無視しろ』
この状況で反応するなとか無茶言ってきやがる……。
「……何だよ。部活後で疲れてんだから、こんな蒸し暑い場所に呼び出すんじゃねーよ。それとソイツは誰だよ? バスケ部じゃねーよな?」
「小宮たちと同じクラスの石崎だ。小宮たちがおまえと話をしたいって言ってたんだけど、何しろ凶暴な猿みてーなおまえと話すとなると危険だろ。だからボディーガード役として来てんだよ」
『最初の一発は相手に打たせろ』
「……ふーん、それで3人でこの蒸し暑い中、俺を待っていたわけか。ご苦労なこったな」
「うるせーよ。前から思っていたけど、少しばかりバスケが上手いからって調子に乗ってんじゃねーのか、須藤?」
『最初は強く当たって、後は流れで』
……ツッコミ入れてぇ。『小宮後ろ!』とか言いてぇっ!
つーか、何なんだよ。この“笑ってはいけない特別棟”は? どっかに隠しカメラとか仕掛けられていて、ドッキリ番組の収録とかしてんじゃねーよな?
俺からしたらもうギャグでしかないんだが、肝心の小宮たちはガラスを隔てているとはいえ、すぐ後ろにいる綾小路に気づいていないから大真面目なんだろうさ!
いや、そもそも3階の窓の外に誰かいるなんて思わないか。ボルダリング選手ってのはスゲーな、おい。
しかも、綾小路は学校の制服である赤いジャケットではない、ぱっと見は特別棟の外壁と同じ色をした上着を着ているように見える。同じ色の帽子もな。あれだと特別棟の外にいる人が綾小路に気づく可能性は低いだろう。
可哀そうな小宮たち。全部が綾小路の掌の上じゃねーか。
「ああん!? 何だよ、その憐れむような目は!?
1年生でレギュラーに選ばれたからって優越感に浸ってんのか!?」
浸ってんのは優越感じゃなくてモヤモヤ感だよ。
でも、綾小路があんな風に指示をだしてくるってことは、きっと綾小路には考えがあるんだろう。しかもスケッチブックから脇に挟んで持っていたスマホらしきものを取り付けた自撮り棒に持ち替えたのが見えているから、きっとこの光景の録画をしているんだろう。最初の一発云々はこれのことを言ってたのか。
なら昨日の綾小路の指示通り、とりあえず最初の一発は殴らせてやっか。それでその後はこのモヤモヤ感を吹っ飛ばすために、ちょっとばかり暴れさせてもらうぜ。
綾小路が止めないってことは、オレの好きにしていいってことだよなぁっ!?
――――――――――――
「―――そこに座っている須藤とCクラスの生徒との間でトラブルがあったようだ。端的に言えば喧嘩だな」
結局、あの後は小宮たちが色々と言ってきたが、挑発に乗らなかったら痺れを切らしたのか石崎が殴りかかってきたので、最初の一発だけはわざと避けずに受けてやった。
その後は1対3の殴り合いだ……と言いたいが、小宮たちが本気をださずに俺にやられようとしていたのがわかったので、思いっきり殴ってやろうと最初は思っていたけど適当にあしらうことにした。それでも何発かは殴ったし、組み付こうとしてきたヤツをブン投げたりしたけどな。
どうにも小宮たちからは、バスケの試合でファウルを誘発させようとしてくるヤツ特有の感じがしたんだよな。それに綾小路にジッと見られていたせいで俺の頭が冷めていたのか、小宮たちに対しては『何やってんだ、コイツラ』って思う方が強かったので、本気で喧嘩をする気にはどうしてもなれなかった。
いや、あの状況だとマジで冷めるわ。むしろ綾小路の方を見ないようにするのが大変だった。
そして小宮たちを叩きのめした俺が特別棟からでると、玄関のド真ん前に重しとして石が載せられた紙が置かれていた。
思わず『うっわぁ……』なんて声が口からでたが、どうせ先回りした綾小路が置いたんだろうと思って読んでみた。綾小路の名前は紙には書かれていなかったが、紙に書かれていた内容を簡単にまとめると、
“
“詳しくは夜にメールを送る”
“それまでに教師に咎められたら正当防衛を主張しろ”
“ただし、
“この件を電話、メールで誰かに伝えるな”
ということだったので、普通に寮に帰って普通に過ごしていたら、綾小路から夕飯を一緒に食わないか、というメールが来たのでやっぱ綾小路かよと思いながらも綾小路の部屋に行った。
そしたら…………まぁ、小宮たちが哀れだな、という感想しかでてこない羽目になったぜ。
綾小路の部屋にいて俺と一緒に説明を聞いた櫛田は苦笑いをしながら綾小路の脇腹に貫手を何度もかまして、堀北はトラウマが蘇ったのか顔を白くしてプルプル震えていた。最近は落ち着いてきたと思っていたが、こういうことがあるとまだ駄目なんか、堀北。
あ、綾小路手作りのキーマカレーは旨かったぜ。
市販の固形カレールウと鶏挽肉とタマネギ、ニンジンだけで作れるんなら今度チャレンジしてみるか。野菜をみじん切りをするのはめんどいし、カレーの水分飛ばすのに時間はかかるだろうけど、寮の部屋だと光熱費は気にしなくていいもんな。
そして昨日、つまり小宮たちから呼び出された次の日の放課後、茶柱先生から呼び出しを食らって何があったのかの事情を聞かれた。どうやら小宮たちが俺に呼び出されて暴力を振るわれたって学校に訴えたらしい。
知ってた。
それについては綾小路の指示通り、茶柱先生には俺から呼び出したんじゃなくて小宮たちから呼び出されたこと、殴りかかってきたのは小宮たちだということを訴えたが、証拠がなければ信じてくれないらしい。綾小路の言っていた通りだった。
ちなみに証拠はあるかと聞かれたときは、俺
そして今日、朝のホームルームで今月のプライベートポイントが振り込まれていない理由も合わせて、今回の一件について説明があったんだけど…………一昨日に俺と一緒に説明を受けた櫛田と堀北たちはともかく、クラスの他の皆が俺じゃなくて綾小路を見てるのが笑えたわ。
茶柱先生が教室からでていった後、クラスの皆から注目を集めた綾小路は教壇に上がった。
「さて、茶柱先生はああやって目撃者に名乗り出るように言っていたが、オレがホームルームが始まる前に言ったように今この場では名乗り出なくていい」
そうだ。ホームルームが始まる前、綾小路がクラスの皆にそう言っていた。
どうやら佐倉は俺と小宮たちの喧嘩を見ていたようだったが、綾小路の言う通り茶柱先生の呼び掛けに応じないで黙っていた。
「わかっているよ。名乗り出るにしても、僕経由でコッソリ綾小路くんだけに言うんだよね」
「ああ、平田には手間をかけさせてすまないが、実は須藤の件以外にもやらなきゃいけないことがあってな。平田には須藤の件の情報の取りまとめを頼む。
それに俺は生徒会所属だから、この件にどう関われることができるかを生徒会長に確認してから動きたい」
「大丈夫。任せてくれ」
「ああ。それと今のうちに言っておくが、安心して欲しい。
実は一昨日の喧嘩が発生した後すぐに須藤から内容は聞いていたから、もう善後策は思い付いている。だけど、Cクラスに善後策の情報が漏れるかもしれないことを考えると、この教室では話し合いはできない。頼みたいことがあったらクラスのチャットで呼び出すから、それまではいつも通りに過ごしていてくれ。
それで早速だが、皆に頼みたいことがある。善後策が思い付いていることは他クラスに内緒にするのはもちろんなんだが、善後策があることをCクラスに気取られないようにするためにAクラスやBクラス、他学年への目撃者有無の聞き込みをして欲しい。有益な情報を手に入れたら平田に言ってくれ」
「陽動か。わざと聞き込みの動きを見せることで、対処の途中であることをCクラスに見せ付けるわけだな。
ちなみに善後策については聞けば教えてくれるのか? ああ、もちろん今ではなくて後での話だが……」
「聞きたいのかな、幸村くん?」
「櫛田、どうしてそんな嬉しそうな顔をする? まるで地獄への道連れを見つけたような顔だぞ?」
「ちょっと幸村くんに櫛田さん、今そういうこと言うのヤメなよ! トラウマ刺激されたのか、堀北さんがプルプル震え始めちゃってるじゃん!」
「あっ、ごめんなさい、堀北さん。軽井沢さんの言う通りだわ」
「……後でも聞かない方がよさそうだな」
気持ちはわかるぞ、幸村。
俺はもう知ってしまっているから手遅れだけど。
「それと須藤。改めて言っておくが、おまえも余計なことは言わずにいつも通り過ごしておけよ。
皆もそういうわけだから犠牲管……じゃない、須藤に何か言うのはこの一件が終わるまで待ってくれ」
「「「「「あっ(察し)」」」」」
ん? 綾小路の指示通りに動いていたとはいえ、騒ぎを起こしたのは事実だから中間テスト前みたいにクラスの奴らから冷たい目で見られるとは思っていたけど、綾小路の言葉で俺への視線が一気に生暖かいものに変わったぞ?
それと綾小路の言ったギセイカンって何だ? 寛治や春樹は俺みたいに理解できていないみたいだけど、他の皆は意味がわかっているようだった。
「綾小路……釣り上げたのか?」
「以前、有栖が言っていたようにオレは耳には自信があってな。一昨昨日、オレがバスケ部に遊びに行ったときに小宮と近藤が
『近藤……やるんだな!? 明日……! 特別棟で!』
『ああ!! 勝負は明日!! 特別棟で決める!!』
なんて更衣室で俺と須藤を見ながらコッソリと話してたら、そりゃ警戒するんだよなぁ」
「待って。堀北さんがマジで限界っぽいから、これ以上はこの場で話すのやめよう」
耳、かぁ。近藤が綾小路のことを、後ろにも目がついているんじゃないかってぐらいにボールを取ろうとしても躱されるって言っていたが、その理由が耳にあるとはなぁ。
確かに体育館に残って1人で自主練習していた時のことを思い返すと、ドリブルしたり走る度に足音やボールが跳ねる音が体育館に響き渡ることがわかる。だけど、それが部活中だったら何人もプレーしているうえに、バスケ部以外の生徒も体育館で練習していることもあって、足音やボールが跳ねる音には注意がいかないんだろう。
だけど綾小路は、五月蠅い体育館の中でも敵味方の足音を聞きわけてプレーをしてるってわけか。そりゃ後ろから仕掛けても無理なわけだ。
くそっ、そういう理由だったら、綾小路に勝つには単純にバスケの練習ばかりしてればいいってもんじゃねぇ。
まだ秘密にしてなきゃ駄目だから今は無理だが、この一件が終わったら顧問の先生や先輩に相談して対処方法を考えておかねぇと。全国大会ともなると、綾小路以外にもできるヤツがいるかもしれないからな。
…………いや、そんなヤツいるわけねぇか。
――――――――――――
『…………』
『恵利央さん?』
『おい、恵利央や。大人げないことすんじゃないぞ。
(今コイツ、一瞬
『わかっとる。そんなことしなくてもゴルフ歴1年未満の若造になんぞ負けん!』
『いいからさっさと打てっちゅーに。
……そういえば、関東住まいのカルラちゃんは清隆くんの2歳下じゃったかの?』
『カルラさん、ですか?』
『恵利央の曾孫じゃよ。もしかしたら清隆くんと会う機会もあるかもしれんの』
『あ゛あ゛!?!? カルラを誑かしよったら殺すぞこのガキャァッ!!』
『あっ、ミスショット。フックした』
『ファーーーwww』
『滅堂! キッサマァーーーッ!!』
有名な『ああ! 窓に! 窓に!』という文がありますが、実際のところ原文「The window! The window!」では『ああ!』はついていないし、訳すなら『窓へ! 窓へ!』の方が正しいらしいですね。
窓の外にナニカがいたのではなく、窓の外へ逃げる際のセリフらしいので。
まぁ、今作品では窓の外にヘンなのがいたわけですが……。