いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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2-4 なんでここに先生が!?

 

 

 

『ホッホッホ、今のところは恵利央の1人負けじゃな。最終日の今日で巻き返せるかの?』

『やかましいわい。

 おのれ、あのガキめ。本当にゴルフ歴1年未満か……?』

『清隆くんは学習能力が高いからの。ウチの護衛者も褒めておったわ。

 それじゃあそろそろゴルフ場へ…………おや、清隆くんが凄い勢いでコッチに向かって走ってきておるぞ?』

『うん? いったい何が……っ、雷庵!?』

『おお、清隆くんを笑顔で追ってるのは雷庵くんか』

『あのガキャァッ!! 曲がりなりにもワシが招いた客人に何してくれとるんじゃ!?』

 

 

 

――― 伊吹澪 ―――

 

 

 

「……ねぇ、龍園。本当に大丈夫なの?」

「ククク、小せぇこと言ってんなよ、伊吹。

 事前に遅れるかもしれないとは言っておいたし、遅れる理由は石崎たちの診断書を確認するためなんだ。加害者であるDクラスの綾小路に文句は言わせねぇ」

「いや、坂上先生も待ってると思うんだけど?」

「1時間ぐらい待たせるだけなんだ。構わねぇよ」

「構えよ」

 

 審議がとうとう明日に迫ったというのに、私たちは優雅にカフェでコーヒーを飲んでいる。

 坂上先生から生活指導室に呼び出しされたんだから行かなきゃいけないんだけど、呼び出しの理由を聞いて龍園が一服してから行くとか言いやがった。

 

 私たちを呼び出したのは坂上先生なんだけど、どうやらDクラスの綾小路が坂上先生経由で私たちを呼び出したみたい。

 それを知った龍園は、今回の一件で怪我をした石崎たちの診断書を取りに行くという理由で、事前に遅れるかもしれないと予め坂上先生に伝えておいたらしい。

 診断書については小宮たちが病院で治療を受けたときに貰えるように医者に頼んでおいたらしいけど、3人分の診断書は即日で渡せるわけではなく、後日渡しになるって話だったので、別に診断書を取りに行くことについては嘘をついているわけではない。

 まぁ、貰おうと思えば先週のうちには貰えたらしいけど。

 で、綾小路の呼び出しなら診断書があった方がいいってことで、病院に行くことと診断書の中身を確認するってことを理由にして遅刻するみたいだけど、診断書を受け取った後は中身を確認することもなく、カフェで一服して約束された時間より1時間近く経ってしまっている。

 無駄な時間過ごしてるじゃない。龍園の奢りじゃなかったら帰ってたわよ。

 

「ったく、どうして私まで……」

「そりゃ綾小路のご指名だからな。須藤と喧嘩騒ぎを起こした石崎、小宮、近藤。それにCクラスの王である俺。普通だったら行かねぇが、Cクラスのリーダーとして指名されたんならサボって敵前逃亡するわけにはいかねぇ。

 そして喧嘩があった当日に綾小路を見張っていた伊吹、合わせて5人を綾小路が名指しで呼び出しだ。さて、何を仕掛けてくるのやら」

「チッ!」

 

 綾小路のヤツ、私が見張っていたのを気付いていたのか。そんな素振りは全然見せなかったのに。

 

「まぁ、バレたことは気にすんな。おまえのことは後から気がついたのかもしれないしな」

「後から?」

「おまえはあの日、綾小路が生徒会室に入っていって喧嘩が終わるまで生徒会室からでてこなかったことを見張っていたわけだが、おまえ自身は姿を隠していたわけじゃないだろう?

 生徒会室を見張っていたおまえについての目撃情報を手に入れたのかもしれん。Dクラスはあちこちに聞き込みをしているらしいからな」

「……2時間ぐらい生徒会室が見えるところにずっといたのは、流石に怪しいか」

「そうだ。だから気にすんな。おまえの仕事で綾小路が特別棟に乱入する可能性を潰せたんだ」

「……フン」

 

 スマホ弄りながらずっと立っていたのはツラかったわよ。最後の方ではバッテリーがなくなったから、起動させていないスマホを延々と弄ってる振りしてたし。

 そう考えるとカフェでのこの奢りは正当な報酬か。じゃあ、もう一つぐらい頼もうかな。

 

「とはいえ、確かにいつまでもダラダラとはしていられないな。そろそろ行くか。

 行くぞ、おまえら。診断書を忘れんなよ」

「うぃっす」「わかりました」「はい」

 

 コーヒーを飲み干した龍園が立ち上がる。

 えっ? ケーキ……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「おう、邪魔するぜ」

 

 ノックもせずに、龍園を先頭に生活指導室に入る。

 そこにはCクラス担任の坂上先生と、Dクラスのリーダーである綾小路が待っていた。

 指導室の中央には机が置かれており、窓側に綾小路が座っていて、廊下側に私たちのために用意されているであろう椅子が5つがあった。といっても、5人も並んで座るスペースはないので、3:2で前後列に別れている。

 坂上先生は私たちの担任だから本来なら私たちの側に座っているべきなんだろうけど、座るスペースが足りないので綾小路側に座っているがそれは仕方がないだろう。

 

 だけど机の上にはノートが広げられていて、更に綾小路の前には容量1リットルぐらいのデカい水筒と紙コップとかも置かれているんだけど? 指導室の中がコーヒーの匂いで充満しているし。

 

「……ようやく来たか。遅いぞ、龍園」

「ククク、悪いな。坂上。石崎たちは診断書なんて貰うのが初めてだったから、内容を確認するのに時間がかかったらしいんだよ。

 綾小路も遅れてしまってすまねぇなぁ」

「気にしなくていいぞ、龍園。暇潰しの準備は万端だったからな」

 

 あ? 私たちが遅れてくるのを予想してたってこと?

 

「坂上先生には断られてしまったが、龍園たちもコーヒーいるか? まだ半分ぐらい残っているし、ミルクと砂糖もあるぞ」

「……いらねぇよ。診断書を確認する際に一服もしてきたんでな」

「そうか。なら時間も押しているし、今回の騒ぎの一件について……の前に、ちょっと聞いておこうか。

 さっきまで坂上先生とこれについて話していたんだけど、おまえたちってこの式の答えは1派? それとも9派?」

 

 綾小路が差し出してきたノートには数学……いや、算数の式が一つ書かれていた。

 

 9÷(1+2)/3

 

 は? 何この小学生レベルの簡単な問題?

 

「9だろ」「1でしょ」

「「「え? えっと……?」」」

 

 私と龍園の答えが別れて、石崎たちは咄嗟には答えをだせずに私たちの答えが別れたことで戸惑ってしまっている。

 っていうか、何でこの式の答えが9になんのよ?

 

「やはり別れる、か」

「問題が悪いって言えばそれまでなんですけど、学校としては基準は示しておいた方がいいんじゃないですかね、坂上先生?」

「確かに。職員会議で話しておきましょう」

「ちょっと。私たちを置いて話をしないでどういうことか説明してよ、綾小路」

「スマンな、伊吹。

 いや、今言った通りで問題が悪いだけなんだ。おそらく(1+2)=3になるまでは皆いいんだろうけど、その後で9÷3/3をどう捉えるかが問題なんだ」

 

 綾小路がノートに新たに書き込み、それを私たちに見せてくる。

 

 9÷((1+2)/3)=9 or (9÷(1+2))/3=1

 

 ああ、左の式だったら答えは9で、右の式だったら1になるわね。

 でも普通、左の式になる?

 

「“÷”と“/”が混在しているのが誤解の元なんですよねぇ」

「伊吹が1と答えたのは“/”で分子の9÷(1+2)=3と分母の3に分かれていると考えたからだな。それなら答えは3÷3=1だ」

「そうです」

「それに対して龍園は(1+2)/3=1を多項式と考えて先に計算したので、答えが9÷1=9になったわけだ」

「だな」

「言っておくが2人とも間違っていない。綾小路くんの言う通りに問題が悪い。“/”ではなく両方“÷”だったら龍園も1と答えていただろうし、そもそも1行ではなく2行で問題を書いたり括弧を正確に記すなりすれば誤解は生じないはずだ。

 この学校でこんな問題を出題することはないので安心するといい」

「……こんなことについて、ずっと話し合っていたのかよ」

「いや、他の数学の話題もあったが、つい盛り上がってしまってな。

 それに数学担当の教師としては、ここら辺のことはハッキリと答えておく必要がある」

「こういうのって定期的にネットニュースで流れますよねぇ」

 

 あー、確かにネットニュースでこういうの見たことあるかも。確か電卓とかでもメーカーによっては答えが違っちゃうんだっけ?

 で、坂上先生と綾小路はこういうのについて話をして暇潰しをしていたと。龍園の宮本武蔵気取りの遅れて相手を苛立てさせる作戦、全然効いていないじゃない。

 

 だけど龍園は失敗したということも顔にださず、話を進めることを選んだようだった。

 

「フン、そんなことはどうでもいい。さっさと本題を進めようじゃないか。俺たちも暇じゃないんでな。

 これがさっき貰ってきた石崎たちの診断書だ。全治一週間だろうと、怪我は怪我だぜ」

 

 龍園が綾小路の対面の席に座りながら、診断書が入った大判の封筒を3つ綾小路に渡す。小宮と近藤が龍園と並んで座って、私と石崎は後ろの列の椅子に座った。主役はバスケ部の小宮と近藤で、Cクラスのリーダーである龍園も前にでる形だ。

 綾小路は龍園から受け取った封筒を開封して中身を確認し始める。1つの封筒から取り出した1枚目の書類を読んで「うん」と一言呟き、続けて取り出した2枚目の書類を読んで「うん?」と疑問の声を上げた。

 

 え、何かあったの?

 

「えっ? これは予想外だぞ…………担当医が(はなふさ)はじめ先生?

 なんでここに先生が!?」

「綾小路くん?」

「坂上先生、ちょっとコレ見てください」

「は? 何ですか?」

 

 再び1枚目の書類に戻って読み返し始めた綾小路が困惑の声を上げた。どうやらハナフサ先生って石崎たちを診察・治療した医者のことを話しているんだろうけど、もしかして綾小路の知り合い?

 坂上先生に2枚目の書類を渡した綾小路が、別の封筒に入っている書類も確認し始める。

 

「いったい何が……献体同意書のコピー?」

「石崎だけじゃなくて、小宮と近藤の診断書にも同封されてますけど、全部当人のサイン済みですよ、コレ」

「石崎、小宮、近藤。この献体同意書はどうしたんだ?」

「ケンタイ?」

「県大会のことですか?」

「あ、それは治療の前にサインしてくれって医者の先生に言われてサインした書類っすね」

 

 バスケ部の馬鹿2人が馬鹿なことを言ってる。

 というかケンタイって……献体のこと? あの医大とかで解剖されるヤツ。何で???

 

「石崎、その医者の先生って、俺より背がちょっと低いぐらいの瘦せ型の若い金髪の男性か?」

「お、おう。そうだけど……」

「しまった。ここに来てから病院には行ってなかったから気付かなかった。どうして英先生がこの学校にいるんだ?」

「知り合いですか、綾小路くん?

 いや、それよりも君たちは、この書類をちゃんと読んでからサインしたのか?」

「えっ……いや、正直読んでないっす」

「俺もです」「医者の先生がサインしてって言ったから……」

「……こういうのはちゃんと読んでからサインをしなさい。この書類は私が預かっておく。これは上に確認を取らなければ……。

 綾小路くん、その英先生というのはどういう医者か知っているんですか?」

「オレは世話になったことありませんけど、腕の良い医者ってことは聞いてます。

 ちょっとブラックジョーク好きだったり、治療に携わって死なせてしまった患者の写真をアルバムでコレクションしてたり、解剖好きで解剖しないとストレスが溜まるらしいのが玉に瑕ですが、医者としての腕は確かなはずです。

 専門は外科ですけど、それ以外の分野にも精通しているらしいですよ。毒物とかウィルスとか」

「サイコパスですかね?」

「いえ、良心で狂気をコントロールしているらしいので大丈夫みたいですよ」

 

 待って。ブラックジョークと、治療に携わって死なせてしまった患者の写真をアルバムでコレクションするのはまだいいわよ。写真は聞いただけだと怪しいけど、助けられなかった患者を忘れないために記録しているんだったら、それは別におかしくはないかもしれないし。

 だけど、解剖しないとストレス溜まるってヤバい医者じゃん。献体同意書にサインさせるのも合わせて考えると、石崎たち狙われてるじゃん。

 っていうか、毒物とかウィルスってどういうことなの?

 

「しかし、どうして英先生がここにいるんだろうか。フリーランスであちこちの病院飛び回っているらしいから、たまたまスケジュールがあっただけか?

(それとも日本政府による内偵か?)」

「えっ、何? 俺たちどうなるの?」

「安心しろ、小宮。もしおまえたちが死んだら医学の発展のため、という建前で英先生に死体を解剖されるだけだ」

「安心できねーよ! 何で解剖されなきゃいけないんだよ!」

「同意書にサインしたからだよ馬鹿野郎。最悪の場合は生きたままの状態で……いや、よそう、オレの勝手な推測でおまえたちを混乱させたくない」

「生きたままの状態って何なんだよ、綾小路!?」

「しかし、コッチにあるのが同意書のコピーってことは、同意書の原本は英先生が持ってんだろうな。未成年に限らず、献体には本人の意思の他に親族の同意が必要なはずなんだけど、英先生だったらそこら辺はどうにかしてしまいそうだ……」

「綾小路くん、すまないが明日にでもその英先生について聞かせてもらえるでしょうか。学年主任の真嶋先生にも立ち会ってもらいますので」

「明日は審議あるんですけど?」

「……そういえばそうでした。なら、この話し合いの後にちょっと時間をもらえますかね」

「マジですか?」

 

 ……私は病院にかからなくてよかった。

 もし行くことになっても、書類へサインするときは慎重になろう。

 

「……あー、とりあえず本題に入らないか? 綾小路は用があって俺たちを呼んだんだろう?」

 

 困惑気味の龍園が、献体同意書について話し合っていた綾小路と坂上先生に話しかける。流石の龍園もこんな話題だと困るよね。

 まぁ、いつまでこうしているわけにはいかないのは確かだけど。

 

「それはそうなんだが、何で本題に入る前にここまで話が逸れたんだ……?」

「龍園、どうしておまえが石崎たちの診断書を確認しなかったんだ?」

「わかったわかった。俺が悪かったよ。

 ……ったく、俺だって流石にこんなことになるなんて予想外だぜ。ホレ、綾小路。さっさと本題を話しやがれ」

「ああ、だが本題について話す前に今回の話し合いを記録させてもらうぞ」

「好きにしろ。もっとも、コッチも記録は残させてもらうからな」

 

 綾小路がテーブルに置かれていた機械を起動させてから宣言した。おそらくICレコーダーだろう。

 龍園もスマホを取り出して操作をした。

 

「さて、変な方向に進んだから改めて自己紹介からやり直そうか。Dクラスの綾小路清隆だ」

「Cクラスの王、龍園翔だ」

「よろしく。龍園と石崎は今回が初めてだな。小宮と近藤はバスケ部で、伊吹はシルバーマンジムで話したことはあるが。

 龍園のことは聞いているぞ。山田を始めとしたクラスメイトを荒っぽい方法で手下にしたそうじゃないか」

「それがどうしたよ。身の程をわからせてやっただけだ。とっとと本題に入りやがれ」

 

 綾小路ってアルベルトのこと山田って呼んでるんだ。

 あ、でも坂柳以外は全員名字で呼んでいるらしいから、違和感は感じるけどそれで正しいのか。

 

「そうか。まぁ、本人たちが納得しているならいい。それに録音を当たり前に受け止めるってことは、ただ単純に暴力を振るうだけのヤツじゃないってことか。

 それでは本題に入ろう。今回、龍園たちを呼びだしたのは、須藤との諍いの件で取り引きをしたいと思ったからだ」

「ほぅ、取り引きか?」

 

 取り引き。事前に金田が可能性の一つとして上げていたように、綾小路はクラスポイントに影響を及ぼさないためにプライベートポイントで示談を持ち掛けてくるつもりなのかな?

 自分の椅子の脇に荷物を置いてあるのか、綾小路は視線を下げてゴソゴソと何かをしていたと思ったら、デジタルカメラを手にしていた。

 

「取り引きの内容は?」

「シンプルだ。オレの質問に答えてくれたら、このデジタルカメラで撮影した喧嘩の一部始終の映像を明日の審議に提出しないでおいてやる」

「なん……だと?」

「「なっ……?」」

「ちなみに撮影者はオレだ」

「ありえないっ!」

 

 龍園も小宮たちも驚きの声を上げたけど、私もありえないことを言われたせいで思わず立ち上がって声を上げてしまった。

 でも、それはありえない。私はずっと綾小路が入った生徒会室を見張っていた。綾小路が入ってから喧嘩が終わるまで、誰一人として生徒会室には出入りをしなかった。

 だから他に目撃者がいるのはありえるかもしれないけど、綾小路が撮影したなんてのはありえない。

 

「そう大きな声をだすな、伊吹。

 確かにオレをずっと見張っていた伊吹からしたら、オレが撮影したのは嘘だと思うのも仕方がないかもしれないがな」

「クッ……やっぱりアンタ気付いてたの。

 なら言わせてもらうけど、アンタは生徒会室にずっといたはず。だったら特別棟で起きた喧嘩の一部始終の撮影なんてできるわけなんてないでしょ?」

「オレが生徒会室にずっといたならそうなるんだろうが、伊吹は生徒会室に入ったことないのか? 生徒会室にも窓はあるんだぞ? そしてオレはどの種目でオリンピックの金メダルを取った?」

「はあ? そりゃ生徒会室にだって窓くらいあるに決まっ…………オリンピックの種目? それはボルダリ……ボルダリング!?」

「そうだ。ボルダリングってどういう競技か知ってるよな?」

「ア、アンタっ、もしかして生徒会室を窓から出入りしたっていうの!?」

「そりゃドアは伊吹に見張られていたからな。なら伊吹に気付かれずに特別棟へ行くには、窓から出入りするしかないだろう?

 オレにとっては大した手間じゃない」

「生徒会室は3階でしょうに……」

「綾小路くん、後で話があります」

「? 英先生のことについてですよね?」

「違う。そうじゃない」

 

 やられた! 綾小路がどうして学年で一番有名だったのかの理由をスッカリ忘れていた!

 ボルダリングはスポーツクライミング。崖や壁を手足を使って登っていく競技だ。そんなスポーツで金メダルを取る綾小路なら、確かに生徒会室を窓から出入りするなんて簡単なのかもしれない。

 でも思い付いてもやんないでしょ、普通!?

 

 …………いや、普通じゃないのか、綾小路は。

 

「ついでに言っておくと、どうして特別棟で事が起こるか知っていたのかは、前の日のバスケ部練習後に更衣室で小宮たちが話していたのを聞いたからだ」

「お、俺たち!?」「何で聞こえて……」

「耳がいいんでな。

 坂上先生、入学式の日にどうしてオレがSシステムについて知ったのかを教えてなかったんですか?」

「……あの日のことは禁句になっているんですよ、綾小路くん。一つ間違えると3年の担任全員がクビになるところだったんですからね」

「そんなことがあったのかよ」

「それもそうですね。話題にしにくいか。

 まぁ、百聞は一見に如かずだ。真偽は映像を見ればハッキリするだろう」

 

 綾小路が今度はノートパソコンを取り出し、起動させたノートパソコンの画面を私たちに向けて映像を再生し始める。

 

 

『よぉ、来たのかよ、須藤』

『……何だよ。部活後で疲れてんだから、こんな蒸し暑い場所に呼び出すんじゃねーよ。それとソイツは誰だよ? バスケ部じゃねーよな?』

 

 

 まず映像に映し出されたのは石崎、小宮、近藤……の後頭部。そして石崎たちの奥に須藤がこちらを見ているのが見える。

 っていうか、石崎たちがめっちゃ近いんだけど? もう石崎たちの真後ろから撮影してるじゃん。

 

「綾小路!? おまえ、あの時どこいたの!?」

「おまえたちの後ろ。おまえたちはオレがいるだなんて気づきもしなかったみたいだがな」

「俺たちの後ろって、窓の外じゃねーか!?」

「そんなところにいられても気づけるわけねーだろっ!」

「ホラー映画みてぇなことしてんなや!?」

 

 騒ぐ石崎たち。

 まぁ、しょうがない。私がその場にいても気付けるとは思えないし、自分の知らないうちに背後に誰かがいたなんてことを後から知ってしまったら怖すぎる。

 

 

『小宮たちと同じクラスの石崎だ。小宮たちがおまえと話をしたいって言ってたんだけど、何しろ凶暴な猿みてーなおまえと話すとなると危険だろ。だからボディーガード役として来てんだよ』

『……ふーん、それで3人でこの蒸し暑い中、俺を待っていたわけか。ご苦労なこったな』

『うるせーよ。前から思っていたけど、少しばかりバスケが上手いからって調子に乗ってんじゃねーのか、須藤?』

『ああん!? 何だよ、その憐れむような目は!?

 1年生でレギュラーに選ばれたからって優越感に浸ってんのか!?』

 

 

 映像は進み、石崎たちが須藤を挑発するところや、最後にはしびれを切らして須藤に殴りかかるも返り討ちに遭い、須藤が立ち去ってから龍園に連絡するところまで撮影されていた。須藤にブン投げられるときとかに小宮たちが窓の方を向きそうになったことが何度かあったけど、その度に綾小路は窓枠外の壁に隠れるようにしていた。こりゃ気づけないわ。

 でも駄目じゃん。

 具体的にどういう風に喧嘩になったのかは聞いてなかったけど、こんな感じに喧嘩を売って返り討ちにされたのを撮影されていたのなら、明日の審議で勝ち目なんかないでしょ。

 

「っていうかアンタ、どのくらい窓の外にいたの? 映像が始まる前からスタンバってたみたいだけど?」

「合計で20分ぐらいだな。そんなに長くない」

「20分? ……ロープとかで屋上からラベリングしていたとか?」

「素手のみだ。後で実演しようか?」

「……いや、いいわよ」

 

 知ったところで今更どうしようもないし。

 

「りゅ、龍園さん……」

「すんません……」

「……チッ、俺への質問ってのは何だ?

 いや、この映像をお蔵入りにしてでも知りたいことだと? テメェ、いったい何を企んでいやがる?」

「判断が早いな」

 

 流石にこの状況では龍園も挽回できないと諦めたのか、謝ってる小宮たちを叱責することもなく綾小路に問いかける。

 この取り引きでは全面降伏のようになるけど仕方がないだろう。挑発を仕掛けたのも、須藤1人に3人で殴りかかったのもCクラスからだ。しかも須藤から呼び出されて殴りかかられたなんて、Cクラスが嘘をついて訴えたことも映像からわかってしまう。

 これなら須藤は正当防衛ということで無罪になるだろうし、喧嘩を仕掛けた小宮たちも命令していた龍園も下手したら停学じゃすまない。私も……綾小路を見張れと言われたけど特別棟で何をするかは知らなかった、じゃすまないだろうな。

 

 でも、取り引きという観点からすると、綾小路が言っていることは確かに変だ。

 質問に答えるだけでCクラスに勝てる材料を手放すなんて、絶対に裏があると考えるべきだろう。

 

「いや、正直なところ、ああいう形で特別棟で喧嘩を仕掛けてくるなんて、予想の一つとしては思いついてはいたんだが実際にやってくるとは思っていなかったんだよ。

 オレの予想を上回ったという点では、龍園に一本取られたとも思っているさ。よくやってくれたな、龍園」

「何だ。俺がそんなにお行儀の良いヤツだとでも思っていたのかよ」

「まさか。噂に聞いたおまえの所業から考えると、暴力を振るうことや冤罪を吹っ掛けるぐらいはするぐらいはわかっていたさ」

「はっ、そうかよ。それならもしかして『どうしてこんなことをしたか?』なんて、甘いことを質問するわけじゃねぇだろうな?」

「しらばっくれるなよ、龍園。オレが聞きたいのはどうしてこんなことをしたか(ホワイダニット)じゃない。どうやってこんなことをしたか(ハウダニット)だということぐらいわかっているだろう?」

「……うん?」

 

 ん? 何だか龍園と綾小路の様子が変だ。

 龍園は綾小路がしてくるだろう質問に心当たりが全くないようだけど、綾小路は龍園のその態度を演技だと思っている? だけど2人の会話は嚙み合っているようだけど、どこか根本的なところでズレが発生している?

 

 どうしてこんなことをしたか(ホワイダニット)どうやってこんなことをしたか(ハウダニット)。つまりは犯行動機(Why done it)犯行方法(How done it)

 確か推理小説用語だっけ。椎名だったらわかるかもしれないけど、私には綾小路が言っている意味がよくわからない。

 

 犯行方法(How done it)を聞きたいって、さっきの映像で見た通りじゃないのさ?

 

「……話が見えねぇな」

「とぼけるなよ。わかりきったことを引き延ばしても冗長になるだけだぞ。まぁ、おまえたちが遅れてきたせいで時間もない。単刀直入に聞かせてもらおう。

 龍園、いったいどうやって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ?」

「隠し……監視カメラや盗聴器?」

 

 ……えっ、そんなのあるの?

 

「特別棟の廊下にはオレたちの教室に設置されている監視カメラはない。正確には天井にコンセントはあったから、昔は設置していたのかもしれないが現在は設置されていない。そうだな、龍園?」

「……ああ、そうだな」

「だけど見える監視カメラがなかったとしても、見えない監視カメラや盗聴器がないとは限らない。

 女性トイレを盗撮するために設置されたネジ型のカメラとか、ストーカーによってコンセント内部に取り付けられた盗聴器とか、ニュースで聞いたことあるだろ」

「…………ある、な」

「ちょっとネットで検索するだけでそんなもの簡単に見つかる。だったら見える監視カメラが設置されていない特別棟にないわけがないだろう。この学校の嫌らしさから考えて。

 そのぐらいはオレだって考えついていたさ」

 

 ああ、確かにこの学校だったらありえる。

 ワザと死角を作っておいて悪さを誘発させて、実はそこは隠しカメラが設置されて死角じゃなくなってて一部始終を記録する、ぐらいのことはするかも。

 

「そしてオレが聞きたいのはその隠しカメラとかを無効化した方法だよ。方法というか考え方と言ってもいいか。

 オレも特別棟を調べたから、見える範囲には監視カメラがないことは知っていたけど、あれはいくら何でも怪しすぎるよな。教室とかにはあれだけ監視カメラを仕掛けておいて特別棟にだけはありません、ってのは。

 どう考えても罠だろ」

「…………そうか」

「なのに、おまえたちは特別棟で仕掛けてきた。

 いや、小宮たちの会話を聞いたときは本気で驚いたぞ。大々的に隠しカメラを調べることなんてできないから、どこにあるかわからない隠しカメラの無効化する方法なんて俺には思いつかなかった。だから特別棟で仕掛けるなんてのは考えの一つにはあったが、実際にやるだなんて思ってもいなかったんだよ。

 それなのに特別棟で仕掛けてくるなんて、同年代にこうまで動きを先んじられるなんて初めてのことだ。だから隠しカメラを無効化した方法(How done it)を、そして答えまで辿り着くまでの考え方を是非とも知りたい。

 映像を審議に提出できないとクラスポイントが減るかもしれないからクラスメイトには悪いと思うが、散々迷惑をかけられて面倒も見てきたんだ。負けの一回ぐらいは飲み込んでもらうさ。それにその考え方を知ることこそが、今後のクラス対抗のための糧となるからな」

「…………」

「さて、それでは質問に答えて貰おうか、龍園」

「…………」

「……えっと、龍園?」

「…………」

「……あっ、もしかして隠しカメラを無効化したんじゃなくて、隠しカメラがないことを確認してから仕掛けて来たのか? それなら無効化方法を教えるんじゃなくてその確認方法を教えるのでいいぞ。

 確かにそういうことならオレの質問にどう答えるか迷う…………迷うかな?」

「…………」

「え? まさか教室とかがある本棟にはあった監視カメラが特別棟には見当たらなかったから、特別棟は学校に見張られていない、なんて素直な考えをしたわけじゃないよな、龍園?」

「…………」

「…………龍園???」

 

 

 ねぇ、綾小路に聞かれてるわよ。

 私や石崎たちじゃどう答えていいかわからないから、Cクラスの王であるアンタが答えなさいよ。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

『いやぁ、何とか逃げ切れましたよ』

『すまんの、綾小路くん。ウチのタワケがアホなことをしでかしよってからに。

 ……しかし、よく雷庵から逃げ切れたの。今回ばかりは本気で感心したわい』

『笑顔の雷庵さんと目が合った瞬間に嫌な予感がしたんで即ダッシュしました』

『ホッホッホ、清隆くんは勘がいいの』

『もしかしてアヤツ、いきなり綾小路くんが逃げたから考えなしにとりあえず追ったのでは?

 ……まぁ、最終的に滅堂の護衛者の待機場所に逃げ込んだのはいい判断じゃった。ああ見えて雷庵は仕事には忠実なヤツじゃから、流石に滅堂に喧嘩を売って呉一族へ取り返しのつかない迷惑をかけるようなことはせんよ』

『それはよかったです。

 まぁ、今日はこのラウンドが終わり次第に関東へ帰りますし、4月からは外部と接触できない高育に通うので雷庵さんと会うことはないでしょうしね』

『そうじゃのぉ。さて、最終ラウンドで恵利央は挽回できるかの?』

『……綾小路くん、呉の里にもう一泊せんか?』

『何させる気ですか、恵利央さん?』

『よくよく考えたら、綾小路くんの担当になる風水は雷庵の妹じゃから、兄の雷庵の紹介をじゃな……』

『恵利央さん???』




 普通に考えたら仕掛けますよね、隠しカメラ。
 前話で須藤が隠しカメラについて話していたのですが、それについての言及が感想ではありませんでしたので、もしかして自分の考え方が変なのでしょうか? でも、あると思うんだけどなぁ。
 それとペーパーシャッフルで9÷(1+2)/3みたいな、答えが定まらない問題は駄目ですよね、やっぱり。

 あと坂上先生の口調がどうにも定まりません。これだから出番が少ない人というのは困る。
 他の方の二次創作を見てみると、龍園たちにも丁寧な“ですます”口調で話す坂上先生がいるんですけど、原作7巻の最後の方の出番では龍園や石崎、それに伊吹も呼び捨てにしてるし“ですます”はつけてないんですよね。
 他の先生には丁寧口調でいいんでしょうけど、自分のクラスの生徒にはぞんざいな口調で、他クラスの生徒には素直にくん付けの丁寧語でいいのかな?
 でも原作2巻の審議のときは愛理ちゃんたち相手に慇懃無礼みたいな話し方をしているんですが、後で石崎たちが訴えを取り下げようとしたときは“ですます”口調なんですよね。つまり焦って素をだしてるときの方が丁寧口調ってことは、本来の坂上先生は礼儀正しいのに、教師という立場なのでわざと上から押しつけるような口調にしている、って感じがします。
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