いってこい実力至上主義の教室へ   作:嘴広鴻

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3-5 あそこに1人、変質者がいるじゃろう

 

 

 

――― 坂柳有栖 ―――

 

 

 

 目が覚めて時計を見てみると朝の5時。

 いつもとは寝具が違うせいなのか、それとも微かに感じる波の揺れといういつもとは違う環境にいるせいなのか、今日は普段の起きる時間よりも遥かに早い時間に目が覚めてしまいました。

 

 ベッドから降りてカーテンを開け放ってみると、太陽は見えませんが空が明るくなり始めています。目が冴えて二度寝する気分ではないので、まだ早い時間ですがシャワーを浴びてカフェにモーニングコーヒーでも飲みに行くことにしますか。

 いえ、その前に少し外の空気でも吸いに行きましょう。

 

 

 それにしても特別試験が行われている島の方では、初日から随分と動きがあったようですね。

 まさかCクラスの生徒のほとんどが初日でリタイアするなんて、先日に清隆くんから痛い目に遭わせられたとはいえ龍園くんも大胆な手を打ったものです。

 

 昨日、船に残った坂上先生から島で行われる特別試験についてのルール等の説明を受け、その特別試験に参加しない私に課された学習課題を終わらせた後、夕食を取ろうとレストランに行ったらCクラス生徒がたくさんいたことには正直驚きました。

 レストランでCクラスの生徒から話を聞いてみると、どうやらCクラスリーダーの伊吹さんとカモフラージュ用の龍園くん以外は既にリタイアしたとのこと。

 その代わりにAクラスとBクラスに物資とリーダー情報を売り、今後の状況次第でリーダー指名権すらも売るらしく、今回の特別試験はプライベートポイント稼ぎとして割り切るとのことです。ルール説明を受けたときにそういう方法もあると私も思い付いてはいましたが、まさか本当に実行に移すというのが龍園くんらしいのでしょうね。

 

 それに勝てないと諦めてリタイアしたのではなく、別方向で勝つための手段の一つとしてリタイアを選んだことで、Cクラス生徒の表情が負け犬ではない顔をしていたのが印象に残っています。

 先日の一件のせいでCクラスはもう這い上がることはできないかもしれないと思っていましたが、どうやら龍園くんのことを甘く見ていたようです。

 これからのクラス対抗が楽しみですね。

 

 

 シャワーも浴びて身支度を整え終わったのでカフェに行こうと部屋の外に出ましたが、やはり船内は静かなものです。朝が早いこともあるのですが、この階には私しか宿泊していないことがその最たる理由でしょう。

 私が宿泊している部屋はこの豪華客船の中でも2部屋しかない最上階の豪奢なロイヤルスイート。他の生徒が宿泊している部屋にはないリビングルームがあり、ダブルベッドが2つ置いてあるベッドルームが2つもあり、シャワールームやトイレも圧迫感が感じられないぐらいに広い物でした。

 床面積で考えるなら他生徒の宿泊している部屋の4倍以上の広さがありますね。

 

 もちろん学校が用意した部屋に泊まるのなら宿泊費用は学校負担ですが、このように広い部屋を別に取るのにはプライベートポイントが必要となる……らしいのです。

 いえ、この部屋の宿泊代は清隆くん持ちなのですよね。

 昨日、学習課題を終わらせて部屋に戻ろうとしたら、坂上先生から宿泊する部屋をこの部屋に移すように言われました。どうやら島にいる清隆くんが手配してくれたらしく、この旅行期間中は清隆くんがこの部屋を借り切ったらしいので、清隆くんが島に滞在している間は私に使わせるように言ってくれたらしいのです。

 

 ああ、もう。ドクターヘリのことといい、清隆くんは私のこと大事にし過ぎでしょう。

 いくら費用がかかるのかは坂上先生は教えてくれませんでしたが、2週間の旅行中ずっと借り切るとなると1泊10万プライベートポイントと考えるなら合計140万プライベートポイント。そんな高額のプライベートポイントを私のた…………高額? 50億に比べたら大したことないですね。倍だとしても280万です。

 何でもこの学校では卒業時に所持していたプライベートポイントを現金に換金してくれるらしいのですが、いくら換金率によって目減りするとはいえ流石に50億もの大金を現金化するのは学校として望まない……というより不可能らしく、先日の件で50億を学校から毟り取る際、卒業までにプライベートポイントをなるべく浪費することをお父さまと約束したとのことですが、このペースで散財をしたとしても卒業するまでに50億をどこまで減らすことができるのでしょうか?

 清隆くんは学校でも私と食事するときには私や堀北さんはもちろんのこと、私の同行者である真澄さんの分まで負担してくれますし、一之瀬さんが同席するときは一之瀬さんの分も負担しています。

 でも、1ケ月につき1000万ポイントを無駄に使ったとしても卒業までに5億ポイントすら浪費できないのですから、50億ポイントを浪費するまでの道のりは長そうです。まさかいくら清隆くんでも、わざと大量に退学者をださせてから1人当たり2000万ポイントを使って救済するなんてことはしないでしょうし……。

 

 しかし、清隆くんが私のためにこの部屋を用意してくれたことを聞いたときは、頬が緩むのを止めることができませんでした。

 もちろん清隆くんがこのような配慮をしてくれるのは私だけではないでしょう。例えば堀北さんたちが今の私と同じように何らかの理由で特別試験を休んでしまったら同じような配慮をするだろうとわかってはいますが、それでも嬉しいものは嬉しいです。

 

 携帯の所持プライベートポイントを表示させる画面を見ると、そこには燦然と4億という9桁の数字が見えます。

 堀北さんたちはこれを見る度に胃が痛くなると言っていましたが私は違います。はしたないと思われるかもしれませんが、自室で1人でヒマをしているときはこの画面を見てニヤニヤしていることもあります。

 もちろん大金が手元にあることが嬉しいんじゃありません。嬉しいのは清隆くんが4億ポイントという大金を私になら預けてもいいと信頼してくれていること。4億ポイントはその信頼の証なのです。

 堀北さんたちも私と同様に4億ポイントを預けられてはいますが、あれは信頼の証というよりも彼女たちが自らの庇護対象であることを示す証のようなものです。

 そして一之瀬さんも預けられてはいますがあれは純粋な取引であり、Aクラスの私にも預ける以上はBクラスにも預けなければBクラスからの無用な警戒を招きかねないことを危惧したためです。もちろん一之瀬さんの人柄は好ましく思ってはいるでしょうが、取り巻く状況や事情全てをひっくるめての信頼、とまではいかないでしょう。

 

 清隆くんとは長い付き合いである程度の信頼を得ているつもりでしたが、このような目に見える形で信頼を示されるというのはなかなか心にクるものがありますね。

 ましてや清隆くんの信頼できない相手へのドライさを知っている身としては尚更で、普段から無表情のポーカーフェイスで隠し事に強い清隆くんです。私なりに彼へ尽くしてきたつもりですが、清隆くんが私のことをどう思っているのかを少し不安に思うところがないわけではなかったのです。

 

 だけどもう大丈夫。清隆くんの想いは理解しました。これからも迷いなく計画を推し進めていくだけです。

 具体的にいうと次の狙いは一之瀬さんですね。クラス対抗としても私の代理としても。

 

 ああ、それと私と同じく4億を預けられてはいる一之瀬さんですが、配慮に関してはまだ彼女の立場的に微妙ですね。

 もちろん生徒会役員同士という交友関係はありますが、一之瀬さんにはBクラスのリーダーという立場があります。ですのでDクラスのリーダーである清隆くんが一方的に一之瀬さんに配慮をするということは、Bクラスの生徒のメンツを潰すことになりかねません。おそらくお見舞いに高価なお菓子や果物を差し入れするぐらいの配慮となるでしょう。

 今はまだそのぐらいの関係ですが、一之瀬さんの様子を見る限りでは清隆くんのことは満更でもないようです。清隆くんの“害にならないなら貰えるものは貰う”という性格からしても、一之瀬さんが自ら清隆くんのハーレム入りを望むなら清隆くんも拒否したりしないでしょう。いけますね。

 

 

 まさかこんなに早くにも計画完遂の目途がつくなんて、入学した時には思いもしませんでした。まだ入学してから4ヶ月ですよ。目途がつくまで1年ぐらいはかかると思っていたのですが……。

 こうなることを狙って私が行動していたのは間違いありませんが、堀北さんたちを堕としたのは清隆くん自身の行動ですからねぇ。まさか清隆くんが素の行動で複数の女性を堕とせるなんて思っていませんでしたよ。

 同年代の女子との付き合い方なんて知らないでしょうからフォローが必要かな、と予想していたのですが、良い意味で予想が外れてくれました。

 

 清隆くんが表舞台に立つことになって、今後のためにということで綾小路先生と父から清隆くんを正式に紹介されたのが中学1年のとき。

 私が清隆くんに惹かれていることを自覚し、私の身体事情的に清隆くんと結ばれることはないだろうと絶望したのが中学2年のとき。

 そして清隆くんを諦めきれずにこの計画を立てて、それとなく清隆くんに高育進学を薦め始めたのが中学3年のとき。

 

 よかった。私の望みが叶いそうで本当によかった。

 清隆くんが同年代の女子にどのような対応をするのかは、実際に清隆くんが女子と触れ合うことになるまでわからなかったので不安でしたが、これなら私の望み通りになるでしょう。

 さて、こうなったからにはもっと清隆くんに魅力的な女子をプレゼントしなければいけませんね。清隆くんの周りに女が増えれば増えるほど子どもが増えて、子どもが増えれば増えるほど子どもを産むことのできない私への配慮が強まることになるのですから。

 配慮というか同情、憐憫と評されるかもしれませんが、そんな評価なんか清隆くんと私の子どもに比べれば塵芥です。清隆くんの第一子を他の方に譲ることになってしまうのは口惜しいですが、流石に第一子まで望むというのは高望みです。それに清隆くんの子どもなら、私が産んでいなくとも私の子どもです。遺伝子にも多様性が必要ですので、清隆くんの子どもがたくさん増えるというのはむしろ喜ばしいことでしょう。

 

 ハツミ?さんという方には感謝ですね。

 名前しか存じ上げませんが、その人のおかげで清隆くんが高育進学を決めてくれたので「おや、托卵(企ん)ガールじゃないか。おはよう、今朝もイイ朝じゃないか」…………どうして高円寺くんが2部屋しかないロイヤルスイートのもう1部屋から出てくるんですか???

 

 いえ、昨日のうちにリタイアしていたことは夕食時にレストランで見かけていたので知っていましたけど、もう一つのロイヤルスイートを取っていたのは知りませんでしたよ?

 え、もしかして高円寺くんの宿泊代も清隆くん持ちですか?

 私と一緒? 私と高円寺くんの扱いが一緒なんですか、清隆くん???

 

「……おはようございます、高円寺くん。船内を水着で出歩くのはどうかと思いますよ」

 

 しかもブーメランパンツ。

 どうしてこんな朝っぱらから廊下にいるパンツ一丁の男の姿を見なければならないんでしょうか? 思わず『へ……変質者だーー!!』と声を上げそうになりましたよ。清隆くんがよく動画を見ている覆面筋トレ系ユーチューバーで耐性を付けていなければ危ないところでした。

 

「なぁに。そろそろ日も昇る頃だ。少しデッキに出て朝日を全身で浴びようかと思ってね」

「……そうですか。夏とはいえ早朝で、海からの風が強いようです。風邪を引かぬように気をつけてくださいね」

「ハッハッハ、心配してくれてありがとう。しかし、そんなことで風邪を引くような柔な肉体をしているつもりはないよ、托卵(企ん)ガール」

「ならば結構です。

 それとその托卵ガールというのは、清隆くんの前では言うのは止めて貰えませんか?」

「おや、他の前ならいいのかね?」

「今は清隆くんの周りの女子への根回しの段階ですので、むしろ堀北さんたちの前ではご存分に」

 

 そもそも真澄さんにはバラしてますし、たまに図書館で人目に付くように代理母関係の医学書を読んでいますので、気付いている人は気付いているかもしれませんから。

 

「人聞きが悪いことは認めますけどね」

「そうかい? 我ながらナイスなネーミングだと思うけどねぇ。

 清隆と世間話で話したことがあるが、そもそも世間一般で言われている不倫で夫以外の子を孕む托()という行為は、むしろ托()と言うべきだろう。それに比べたら托卵(企ん)ガールというのは実に真実を突いたネーミングじゃないか」

「そう言われたら確かに。産む女性が変わらないなら()は託されず、()の方を託されていますね。

 まぁ、私の場合は産む女性が変わるからこその托卵になりますけど」

「ハハハ、色々と企んでいるみたいだねぇ」

 

 え? もしかして()()()()でいるのダブルミーニング?

 

 まぁ、それはそれとして、確かにカッコウの托卵と世間で言われている托卵は全然違いますね。カッコウの托卵は人間に例えると……意図的な嬰児交換、もしくは嬰児追加?ですか。

 そして孵ったカッコウのヒナが本来の巣の持ち主の卵やヒナを巣の外に放り出してしまうのは、人間で例えると身動きできるようになった増えた赤ん坊(カッコウのヒナ)が隣で眠っているその家の本当の赤ん坊(本来の巣の持ち主の卵やヒナ)をベビーベッドから突き落として殺害する、という想像するだけでゾッとしてしまうバイオレンスな行為になります。

 

 ……いくら私だってそこまでするつもりはありませんよ!

 

「しかし、清隆も随分と情熱的なガールに好かれたものだ」

「名前を呼び捨て、ですか。

 ……随分と清隆くんと親しくなったようで……」

「嫉妬かね? 安心したまえ。清隆の実力を認めてはいるが、ただ単に清隆のゲームの邪魔をする気がないだけだよ。報酬が支払われるというのなら手を貸すのはやぶさかではないが、私は君たちと違ってクラス対抗の行く末に興味はない。ましてや放っておいても清隆が好きで働いてくれるのだから、私から何かをしようとは思わんね。

 報酬抜きでの私たちの関係は、私の興が乗ったら世間ズレしている清隆の疑問に答えてあげるぐらいさ」

 

 さっきの托卵の話みたいなのですか。

 確かに清隆くんなら疑問に思いそうなことですね。

 

「ああ、そういえば良い機会なので一つ聞きたいことがあるのだが、いいかね?」

「内容次第では」

「なぁに。大したことじゃないさ。清隆は“全部わかってやっている”と思うかい?」

 

 …………唐突に答え難い質問してきますね。

 

 清隆くんが“全部わかってやっている”かどうか。

 例えば私の計画に清隆くんが気づいていて、気づいたうえで私の自由にさせているかどうかですが、おそらく私の計画については思い当たってはいるけど本当に実行しているかは確信していない、といった感じでしょう。

 

 清隆くんは頭がいい。

 そして清隆くんの物事へ対処する考え方としては、まずその物事に付随して発生する確率が高い問題を予想し、その問題に対処できるように物事の進め方を考える、ということが多いです。

 ただ、清隆くんの悪い癖なのですが“問題が発生しないならどっちでもいいや。それより筋トレしよ”と、悪影響がある物事なら事前に排除するのに手間を惜しまないのですが、悪影響が発生しないだろう物事なら放置してしまう癖があるのです。

 まぁ、頭がいいだけあって、起こりうる物事の展望事例は多岐にわたって思いつくのでしょう。ですがその予想しうる全てに対処するように前もって手を尽くしておくとなると、労力がいくらあっても足りません。それなら問題が起きないのならいいだろう、と考えてしまうのは仕方がないことかもしれません。

 清隆くんは効率を重視する性格なので尚更です。1万面のサイコロがあって、そのうちの100面共通に記されている出目を気にするならともかく、1面のみに記されている出目を気にするのは時間の無駄でしょう。ましてや出ても問題が起きない出目なら尚更です。

 

 そういう意味では私の計画は、清隆くんの頭の中に既に思い浮かんでいるかもしれませんが“まぁ、いいや”で終わらせられているのでしょう。

 

「―――私の予想ではそんなところですね」

「なるほど。私の“わかってはいても意識はしていない”という予想とそんなにズレてはいないか。

 最初はただの世間知らずの無知かと思ったのだが、清隆を観察していたらどうも違うようだったからね」

「以前、長谷部さんが言っていた“意識して無視をする”と“無意識に無視をする”の違いみたいなものでしょう。

 そういう意味では人としての根本的部分を考えると、実際のところはあなたよりも清隆くんの方が何倍も問題児なのでしょうね」

「当たり前だよ。いくら私でも学校から50憶ポイントを巻き上げたりしないさ」

「違いありませんね」

 

 答え合わせに満足したのか「では、アデュー」と言って立ち去る高円寺くん。

 

 ……パンツ一丁で。

 

 何だか、朝からドッと疲れました。

 このまま外の空気を吸いにデッキへ行くと、高円寺くんと再び鉢合わせてしまいそうです。素直にカフェに行くことにしましょうか。

 

 それと明日からはなるべくデッキへは近づかないようにしましょう。

 

 

 

――― 龍園翔 ―――

 

 

 

「ウェストポーチをウェストに付けてはアカンのか?」

「何だと? ……いや、ウェストポーチだからウェストに付けるのが当然ではないのか?」

「実は波留加に『ウェストポーチをウェストに付けさせんなあぁ!!』って蹴り入れられたんだわ」

「ハ、ハハハ……」

「綾小路、葛城……おまえら……」

「平田、橋本。どうしてオレたちをそんな憐れんだ目で見るんだ?」

 

 アホな会話してやがるな、コイツラ。

 

 無人島生活3日目の早朝。

 取り引きによって葛城たちAクラスに居候していた俺だが、Aクラスには契約に従って俺を養う義務があるため、島の畑から野菜を採ってきたりDクラスと取り引きして分けてもらった釣り竿で魚を釣ったりと、俺を養うためにセコセコと働いていたAクラス連中を昼寝でもしながら見ていたのだが、流石に昼寝だけだと2日で飽きた。

 つーか昼寝し過ぎて夜が寝られず、こうして早朝から目が覚めてしまったので暇潰しを兼ねて釣りに来てしまった。

 綾小路がいるから丁度いいといえば丁度いいしな。

 

「俺たちぐらいの世代のファッションなら、ウェストポーチは肩に斜め掛けするのが正解だろ」

「肩に斜め掛け? なんで?」

「……それはいわゆるボディバッグというものでは駄目なのか? 何故、わざわざウェストポーチを肩に斜め掛けする?」

「いや、そういう流行りだとしか……」

 

 こっち見るんじゃねぇよ、橋本。テメェの隣で釣り糸垂らしている平田に言え。

 俺は釣りで忙しいんだ……っと、かかったか。引きが強い。大物か?

 

「お、その斑点模様は……南の島だからイシダイじゃなくてイシガキダイか。確かデカすぎたらシガテラ毒の危険があるらしいが、30cm台なら大丈夫なはずだぞ。

 それにしても海鳥の血と肉に釣られてか、ドンドンと大物がここら辺に集まってきてるな」

「綾小路。おまえ、あのたくさんの海鳥をどうやって捕まえ……いや、何でもない」

「ホントに海に海鳥の血と肉を撒く、なんてしてよかったのかな?」

「先生に確認を取ったから大丈夫だろう。それよりサメとかも集まったりしないだろうな……?」

「浅瀬の岩場だから大丈夫だろ」

 

 海鳥の血と肉を撒いた直後は海が血に染まっていたが、10分程度もすると海水で薄まったのかそれとも波で海水自体が入れ替わったのか普通の海の色に戻っていた。だが海の中を目を凝らして見てみると、海鳥の肉に引かれて小魚が集まっていて、その小魚を目当てに大物も集まってきているのが見える。

 あの海の色を見た直後は自然環境を汚すという禁止行為とみなされるかもしれないとも思ったが、どうやら海鳥の羽根や羽毛を撒き散らしたならともかく、撒き餌として血肉をバラ撒くぐらいだったら禁止行為に該当しないようだった。

 黒に近い灰色の行為なのかもしれないが、撒き餌なんて釣りをするヤツは普通にやっていることだから学校としても禁止することはできないんだろう。

 

 その撒き餌となったのが、何なのかに目を瞑ればの話だが……。

 

 ちなみに夜中のうちに浅瀬の岩場の別の一角に海鳥の内臓をバラ撒いておいたら、次の日の朝には小さなカニやら貝やらが集まっていて、それらを狙ったタコなんかもいたらしい。といっても、貝毒の心配があるから貝は食べずに魚釣りの餌に利用することになったが、カニはジックリと素揚げにしてから塩やカレー粉で味付けして甲羅ごとバリバリと食ったとのことだ。なお、揚げ油は海鳥の脂肪を使ったらしい。

 綾小路のヤツ、無人島生活を満喫してやがんな。

 

「話を戻すが、どうも若者向けのファッションというのはまだよくわからん。

 というより、学校の制服の派手な赤いジャケットって着てて恥ずかしくないか? 緑のパンツも」

「そうかい?」

「ああ、俺はそれもわかる気がする。派手だよな」

「へぇ、アレか? 綾小路と葛城は赤は女性の色、というイメージが強いのか?」

「そんなことはないぞ、橋本。そもそも赤は女性のイメージカラーとされているが、特撮の戦隊モノのリーダーだって大抵は男でイメージカラーは赤だろう。

 オレの場合は単純に着慣れていないだけだ。仕事の関係で普通のスーツなら着慣れていたんだが、着るのはネイビーかグレーのスーツだった。だからTシャツとかパーカーとかで赤や緑ならともかく、ジャケパンで赤や緑ってのはどうにも慣れないな。どこぞの怪盗の3世じゃあるまいし、ああいう派手なのは経験ないなぁ」

「そういえば綾小路くんって、テレビに出るときは大抵スーツ姿だったね」

「中学校の制服があるのなら冠婚葬祭にも使えるのだろうが、綾小路は中学校に通っていなかったのだからスーツ姿でも仕方あるまい。

 しかし、確かに服の種類によって色の印象も変わってくるか」

「そうなんだよ。

 ああ、話はファッションからまた変わってしまうが、男は黒か青で、女は赤かピンクって先入観は海外に行くときは捨てておけ。マジで。

 向こうのトイレは男用も女用も黒だけで文字やピクトグラムを記していることがある。黒を見ただけで男用だと慣れで判断したらマズいことになりかねん」

「……もしかして間違えたのかい?」

「トイレまであと10歩、ってところでトイレから女性が出てきたのが見えたから大丈夫だった。見た瞬間は脳がバグったが」

「怖い話だ……」

「うわ、海外に行くときは気をつけるわ」

 

 こうして俺、綾小路、葛城、橋本、平田の5人で並んで釣り糸を垂らしながら、どうでもいい馬鹿な会話をしている。色々と企んでいるらしい橋本は綾小路の情報を集めることに余念がなく、それに便乗する形で俺も綾小路の為人を知るためにも会話に参加しているが、わかったのは綾小路の世間知らず振りぐらいだった。

 いや、理解できなくもない話題も多かったんだけどな。

 

 だが、俺の望んでいる情報じゃない。

 俺が望んでいるのは底の見えない綾小路の本質を理解するための情報…………なんだが、話をしていると綾小路は案外と底の浅い性格をしているのかもしれないと思い始めてきた。

 綾小路の本質の底は浅いんだが、容器に入っている液体が原油並みに粘度が高くて色が濃いもんだから底を見ることができない。そんな感じだ。

 

「……しかし綾小路よぉ。おまえ、女に蹴りを入れられても気にしないのか?」

「いや、ガードしたし波留加も本気……いや、全力じゃなかったから別に。流石に全力で連続攻撃されたり凶器攻撃されたらひとまず取り押さえるなりするけど、理由があっての蹴り一発ぐらいなら気にしない。強いツッコミ程度の感覚だな。

 そもそもの話、桔梗が両手で握り締めていた剥き出しのセラミック包丁をジッと見つめながらフルフル震えていた時点で『オレ、やっちまったな』ってのは察してたし」

「……刺されなくてよかったな、綾小路」

「ア、アハハ……水着姿を見たいって呼びだしておいて、頼まれたのは密輸の手伝いだからね。長谷部さんたちが怒るのは仕方がないというか……」

「昨日、同じことを一之瀬にも言われたよ。

 ……そんなに女子に言うにはマズかった言葉なのか?」

 

 ハァ、と溜息をつく綾小路。

 

 俺の『女に蹴りを入れられても気にしないのか?』という質問にも平然と答える様子を見る限り、綾小路の女達は綾小路の精神的な弱みになるような存在ではなさそうだ。あの女たちに惚れているわけではなく、本当にただのカモフラージュ用の女なんだろう。

 もちろん何かあったらあの女たちを守ろうとはするのだろうが、それは恋愛対象ではなく庇護対象として見ているからであって、あの女たち自体には強い拘りは持っていなさそうだ。だから女に蹴られたとしても、ペットが甘噛みしてきたぐらいの感覚で許す。

 

 綾小路に負けてから約1ヶ月。

 この試験初日に一之瀬には『綾小路が負けを認めるような勝ち方をする』なんて啖呵を切ったはいいが、その勝ち方はまだ思い付いていない。

 

 今はまだ綾小路のことを調査し、観察する段階だ。

 あれからネットで綾小路が出演したテレビ番組を見返したり、綾小路のインタビューが掲載された雑誌なんかを取り寄せて綾小路のことを調べている。

 だが、調べても綾小路の上っ面がわかるだけで、アイツの弱点などは特にわからなかった。

 

 もちろん綾小路の女たちに手を出したりさえすれば、それで綾小路に短期的にダメージを負わせることぐらいはできるかもしれないのはわかっている。

 しかし、その後に綾小路の反撃で俺が退学にされてゲームは終了だ。そんなものは俺の求めている勝ちじゃあない。

 綾小路への嫌がらせにしかならないことをしただけで自己満足して退学になるなんて、そんなものは負け犬みたいなもんだ。勝ち誇れるもんじゃねぇ。

 

 だからどうやったら綾小路に負けたと認めさせるのかを考え続けているが、こんな風にわざわざ釣りに付き合って綾小路の話を聞くような間抜けを晒してもその糸口が全然掴めない。

 いや、負けを認めさせる方法はわかっている。綾小路の性格や気質のことを考えると、正攻法で真正面から綾小路に挑んで勝ちさえすればヤツは普通に負けを認めるだろう。

 が、綾小路のスペックの高さを考えると、その正攻法で勝つ方法が見つからない。

 生徒会副会長の南雲が綾小路のことを“単純だからこそ強い”と評したらしいが、綾小路の底の浅さを考えるとあながち間違っていないだろう。

 

 もしくは綾小路の望むものを差し出せば綾小路を味方につけることができるのだろうが…………毛生え薬なんて一介の高校生が手に入るわけねぇ。というかこの世に存在してねぇ。

 テレビや雑誌のインタビューでも毛生え薬のことはよく言っていたし、アイツの親父の頭を考えると欲しがっても仕方がないとは思うがよ。

 ……ミノキシジルじゃ駄目だよな、やっぱり。

 

 

 しかし、今回の探りでわかったこともある。

 綾小路の基本スペックの高さが厄介なのは当然だが、綾小路の考え方こそが厄介でしかないということだ。

 

 基本的には平和主義なんだが、応用的には報復上等の暴力容認主義。しかも厄介なのが“目には目を、歯には歯を”じゃないってところだ。

 綾小路から聞いた話によると、俺でも知ってるようなハンムラビ法典の中でも有名な“目には目を、歯には歯を”ってのは報復を認めた法律じゃない。報復の()()を定めた法律だ。

 目を潰されたら目を潰す()()しか報復してはいけないし、歯を折られたら歯を折る()()しか報復してはいけない。

 ……まぁ、奴隷が自由民を殴ったら奴隷は殴られるのではなく耳を切り落とされる、なんて身分によって報復の度合いに差があったらしいがな。

 

 が、綾小路はそんな大昔に定められた報復原理を気に入らないらしい。

 

『は? コッチにまったく非がない場合で被害を受けたときでも、どうして同じくらいの仕返しで我慢しなきゃならんのだ?

 基本的に(相手から手を出すように仕向けるから)オレからは手を出さないんだぞ。拳で殴られたら拳で殴り返すし、バットで殴られたらバットで殴り返す。その結果で相手の方が重傷を負ったとしても、それでようやく対等だろ』

 

 言っていることの理屈はわからないでもない。結果を同等にするのではなく、過程や方法、手段を対等にする。それが綾小路の主義なんだろう。

 綾小路曰く“オレは平等主義者ではなく対等主義者”とのことだ。

 男と女も平等ではなく対等。能力の平均に差があれども、2つのドベネックの桶を上手い具合にくっつけあわせれば背の低い側板からの水の流出を抑えることができる、と言われたが、どういうことだがよくわからん。綾小路って他人も自分と同等の知識を持っていると思っていないか?

 話は逸れたが、その主義に基づいて冤罪を着せようとした俺たちCクラスを嵌めて、大人の義務を果たさず子供をいい様に騙した学校を嵌めた。

 その嵌めた結果が学校から50億プライベートポイントを毟り取るなんて事だったんだから、綾小路の主義に問題があるとすれば、それは綾小路の本気の力で殴られたら大抵のヤツは死ぬってことだよな。

 

 それに実際のところ、拳で殴られたとしても綾小路は拳で殴り返してこないだろう。それこそ俺にやったように部屋へコッソリ忍び込んで手足を拘束して定期テストを受けさせずに退学にさせる、のようなことをするはずだ。

 何故なら傷害罪は“15年以下の懲役又は50万円以下の罰金”なのに対し、逮捕・監禁罪は“3月以上7年以下の懲役”。つまり被害の程度にもよるのだろうが基本的に逮捕・監禁罪は傷害罪よりも罪は軽い。

 要するに

 

『金属バットで殴られたのなら、木製バットで殴り返せばいいじゃない』

 

 ってことらしいが、そういう問題じゃないと思うぞ。

 確かに金属バットで殴られるよりも木製バットで殴られる方がマシだとは思うが、綾小路なら金属製だろうが木製だろうがどっちのバットでも殺せるし、そもそも傷害と監禁は罪としてまったくの別物のような気がする。監禁致傷罪は傷害罪より罪が重いのでそうならないように気を付けるらしいが、そもそも綾小路が監禁したって証拠がなければ罪に問えないんだよな。

 

 そんな感じで相手の攻撃未満の反撃をするつもりらしいが、何しろここは法治国家である日本。

 暴力的な行為を除いたとしても、むしろ単純に殴るよりも効果的な仕返し方法はいくらでもあるわけだ。そして綾小路の頭脳ならいくらでもそんな方法は思い付ける。

 綾小路の基本スペックの高さが、綾小路の主義を厄介なものにしている。

 

 だから正攻法以外の綾小路への勝ち方がまだ見つからない。

 となると、正攻法で挑むべきか? となるが、そもそも正攻法じゃ勝てない。少なくとも今はまだ。

 幸いにもCクラスの連中は綾小路にビビってはいるが、それでも正攻法で挑むなら綾小路は過剰な反撃をしてこないというのは綾小路を分析した金田と椎名のお墨付きだし、伊吹や真鍋といった綾小路を知っているヤツも同意見だったので、正攻法でなら綾小路に挑むのに反対するヤツはいないだろう。

 むしろクラス全員が“つまらんヤツ”と綾小路に認識される方が危険だと思っているので、これからのクラス対抗は問題なく進められるだろう。

 勝ち方が見つからないのは、単純にCクラスの実力が足りないだけだ。もちろん俺も含めてな。

 

 だが、焦ることはない。

 7月の一件で綾小路と契約を結んだときに綾小路が似たようなことを言っていたが、今はまだ1年の夏休み。このゲームの1/9も終わっていないんだから諦めるにはまだ早い。ゲームセットの卒業まではまだまだ時間はある。

 今はまだ綾小路を観察し、アイツが何を考えどう行動するかを理解することが重要だ。そうしていつか綾小路に勝ってみせるさ。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 無人島生活7日目、つまり試験最終日になった。今日の正午で試験は遂に終わる。

 ……釣り、意外と面白かったな。学校に帰ってもやってみるか?

 

 しかし結局、今日まで釣りを一緒にするなどして綾小路と行動をなるべく共にしたが、アイツのことはまださっぱりわからん。本心を隠しているのかと思うときもあるし、本心を隠さずに“オレなら出来る”の精神で我が道を突き進んでいるのかと思う時もある。

 まぁ、綾小路の為人を理解できたとは言えないが、そもそも今回の試験ではプライベートポイント確保によるCクラスの士気向上が主目的だ。主目的の方は成功したんだから、綾小路の為人の把握までしようなんてのは贅沢だったんだろう。

 

 最終的に物資とCクラスのリーダー情報、そしてDクラスのリーダー指名権をAとBクラスに売ることで430クラスポイント分のプライベートポイント、つまり月々172万プライベートポイントをせしめることに成功した。

 残念ながらAとBクラス分のリーダー指名権を売ることはできなかったが、それでもこの結果ならクラスの連中も文句はねぇはず。これで先月の一件で失ったCクラスの支配権は取り戻せたと言っていいだろう。

 

 となると、今回の試験の残りで気になるのはDクラスのリーダー当てが結局どうなったかだ。

 正午になって試験終了が伝えられ、集合場所に建てられた仮設テントに設けられた休憩所で綾小路の姿を見つけたので、葛城と一之瀬に声をかけて一緒に綾小路に話しかけ…………あ? 休憩所に須藤の姿が見えねぇぞ。あの赤い頭は目立つと思うんだがトイレか?

 Cクラスに割り当てられたリーダー指名担当は須藤だったから、AとBクラスのポイント増加を阻止するためにも須藤がリーダーであって欲しかったんだが……。

 

「オイ、綾小路、須藤はどこだ?」

「滑って転んで頭を打って意識を失って数秒で意識を取り戻したけど脳へのダメージを考えて安静にするためにリタイアした。今日のスポット巡り中、最後のスポットへ移動している途中で膝に亀を受けてしまってな」

 

 は? 亀?

 

「??? ……あ、綾小路。もう一回頼む?」

「だから葛城。須藤は滑って転んで頭を打って意識を失って数秒で意識を取り戻したけど脳へのダメージを考えて安静にするためにリタイアした。最後のスポット巡り中、最後のスポットへ移動している途中で、膝に亀を受けてしまってな。

 ……スマン。亀は冗談だ」

「そっちはどうでもいいんだけど……ねぇ、綾小路くん。もしかして須藤くんがリーダーだったってことはないよね?」

「よくわかったな、一之瀬。ああ、須藤がリーダー()()()ぞ」

「過去形かよ」

「もしかしてリーダーを交代したの!?」

「ああ、リーダーの須藤がリタイアしたせいで最後のスポット更新をできなくなるところだったからな。いやー、ベースキャンプにしていた洞窟の最後の更新をついうっかり忘れていて、危うく1ポイントを手にし損ねるとこだったよ」

「そういうことか。“正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない”とは、逆に言えば“正当な理由が有ればリーダーを変更することが出来る”ということか!」

「膝を擦りむいたとかならともかく、頭を打ったとなるともしものことがあるからな。生徒の健康を考えると頭を打ったは“正当な理由”だろう?」

 

 クソ、Cクラスの利益としてなら文句のない勝ちだったが、結局は最後に綾小路にしてやられた。

 ……いや、“最後に”じゃないな。

 最初からだ。綾小路のヤロウ、最初から顔を隠させたXに俺たちの注目を集めておいて、リーダーの交代なんて思い付かせないようにしていたんだろう。試験初日の綾小路の動きからするとそう考えるしかない。

 囚人のジレンマだのモンティ・ホール問題だの色々な話をして、我が身可愛さに俺たちが最終的に裏切り合ってDクラスのリーダー指名をしないと思っていると言ったのも、全てはリーダー交代を隠すための布石だったわけだ。

 

 

 そうやって綾小路が試験中どう考えてどう動いていたのかを考察していると、キィン、と拡声器のスイッチが入る音が砂浜に響き渡った。

 

「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している」

 

 Aクラス担任の真嶋が姿を見せ、整列しようとした生徒を制止する。

 続いての言葉は俺たちの特別試験への取り組み方に対する誉め言葉だったが、話している間の真嶋の視線がずっと綾小路へ向けられていたのは、葛城や一之瀬、それに俺が綾小路の傍に立っていたことは関係ないのだろう。

 

「―――ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う。なお結果に対する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい。

 ……合意があるなら他クラスと試験の答え合わせをすることは禁止されていない、と予め言っておく」

 

 だからこっちみんな。

 

「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位は―――Cクラスの0ポイント」

 

 知ってた。最初に配布された300ポイントを全て物資に換えてABクラスに売りつけ、更にはリーダー情報まで売ったんだ。

 せっかくのリーダー指名権なのでAクラスのリーダーは戸塚、Bクラスのリーダーは柴田と書いておいたが、綾小路たちと同じように5人でカードキーを持ってスポットを占有していた。当たる確率は20%だから当たらねぇだろうし、そもそもそれが当たってたとしてもプラスにはならんだろうよ。

 

「続いてはAクラスが250ポイントで3位」

 

 あ?

 

「そしてBクラスが336ポイントで2位となる」

 

 ……Aクラスが250で、Bクラスが336ポイントか。

 

 初めに配布された300ポイント。

 Cクラスのリーダー当てを成功したことで50ポイント。

 スポットを2つ占有したことで36ボーナスポイント。

(スポットの占有回数は初日は2回、2~6日目は1日3回の計15回、最終日は1回。

 合計18回×スポット2つ=36ボーナスポイント)

 

 そしてDクラスのリーダーを外したことによるマイナス50ポイント。

 

 300+50+36-50=336

 

 ということか。

 しかし、そうだとするとAクラスの250ポイントは、リーダー指名をされて50ポイントと一緒にボーナスの36ポイントも失ったということだな。

 

 ……もしかして、俺か?

 

「言っておくがDクラスはAクラスのリーダー指名なんてしてないぞ。葛城の性格からすると戸塚なんじゃないかなぁ、と予想はしたが、確証があったわけじゃないからな」

「BクラスもAのリーダー指名はしてないよ」

「あー……俺、戸塚を指名したわ」

「…………」

 

 葛城が崩れ落ちた。

 当てずっぽうだったのに、マジで戸塚だったのか? 

 

「……綾小路、龍園。どうして弥彦……戸塚だと思った?」

「まず葛城の性格からすると女子はリーダーにはしないだろう。これは葛城が男女差別主義者というわけではなく、どうしても女子は体力的に不安があるからだ。もちろん試験内容によって女子をリーダーにした方がいい理由があったなら女子をリーダーにするのは躊躇わないだろうが、今回の試験だと男子がいるのにわざわざ女子をリーダーにする理由は少ない。これで候補がクラスの半分になった」

「同感だな。それに加えておまえ自身がリーダーをすることもないと踏んだ。リスクの分散的に考えてな。

 そもそもスポット占有をする際は綾小路たちと同じように5人でカードキーを持ってやっていたから、その中の1人がリーダーであったことは確定だ。

 その5人の中の戸塚を選んだ理由は…………正直、勘だ。あえて言うなら、おまえの腰巾着である戸塚なら、多少の無茶を飲み込んでもおまえのために働きそうだから、だな」

「……そうか」

 

 当てられたのはいいが、マジで勘だったからあんまり勝った気にはなれねぇな。

 

「ちなみに綾小路くん、龍園くん。Bクラスのリーダーは誰だと思った?」

「オレは一之瀬と神崎の性格からすると姫野だと思った。もちろんBについても確証はないから指名しなかったがな」

「俺は柴田を指名した」

「ッ!? ……セーフッ!! ギリセーフッ!!」

 

 一之瀬のヤツ、ガチで焦った顔してやがる。ということはBのリーダーは姫野だったわけか。

 それにしても綾小路は確証がなかったから指名をしなかったとはいえ、勘だけでAとBのリーダーを当てやがった。もし勘に従って指名をしてたら酷い結果になっていやがったな……。

 

 しかし、葛城も一之瀬も配布されたポイントには手を付けず、Cクラスから買った物資だけでやりくりしたのか。

 だが、両クラスとも今後は毎月俺に215クラスポイント分のプライベートポイントを支払う必要があるから、トータルで考えると実際の勝ち点はBクラスでさえも121ポイントで、Aクラスは35ポイントってわけだ。

 ハッ、ざまぁねぇな。

 

 もちろんクラスポイントの方が重要なんだろうが、それでもいい結果だ。

 プライベートポイントで考えると、上手くやれたBクラスの121クラスポイント分に対してCクラスは430クラスポイント分だ。ダブルスコアどころかトリプルスコアを超えた結果となった。クラスポイントの増加で考えると惨敗もいいところだが、この得られるプライベートポイントの差は今後に響いてくるだろう。

 おそらく俺と取り引きしなければプライベートポイント的にはもっとマシになったんだろうが、得られるクラスポイントにアイツらの目が眩んだせいだ。俺の責任じゃねぇよなぁ。

 マジな話、こんな試験じゃないとプライベートポイントでクラスポイントを買うことなんてできないんだろうからな。

 

「おい、綾小路。最初に配布された300ポイントはどれだけ使ったんだ?」

「80ポイント」

 

 真嶋が1位のDクラスの発表をやけに溜めるので、その間に綾小路に質問をする。

 80ポイント。ABクラスの半分程度の出費か。事前準備をしていただけ、随分と出費を抑えられたようだな。

 ということは、予想されるDクラスのポイントは

 

 初めに配布された300ポイント。

 スポットを16個占有したことで288ボーナスポイント。

 

 物資の購入でマイナス80ポイント

 高円寺と須藤のリタイアでマイナス60ポイント。

 

 300+288-80-60=448ポイント

 

 チッ、プライベートポイント換算でも俺より上か。

 しかも須藤をリタイアさせることを考えていたことで、俺たちが気づけなかっただけでスポット占有のボーナスポイントを没収させる可能性は元よりゼロだったわけだ。

 それも含めて綾小路の良いようにされたってのは、なかなか心にクるものがあるぜ。

 

「そしてDクラスは…………498ポイントで1位となった。以上で結果発表を終わる。」

 

 しかし、真嶋から発表されたポイントは俺の予想を上回った。

 498ポイントだと? 計算よりも50ポイント多い。

 

 それに50ポイントといえばリーダー当てが成功したときのポイントだ。

 だが、綾小路はさっきAとBのリーダー指名はしていないと言った。そしてBクラスはスポット占有のボーナスポイントが没収されていないので、Aの残存ポイントからしても必然的にリーダーを当てられたのは俺のCクラスとなる。

 

「葛城、一之瀬。一応聞いておくが……裏切っていねぇよな?」

「当然だよ」

「ああ、今回の試験で綾小路に利する行為をするわけがないだろう」

 

 ならどうして当てられた?

 Cクラスのリーダーを伊吹に選んだのは俺ではなく金田だ。俺が選んだら綾小路と接触している間に察せられる可能性があったので、コイントスだろうが何だろうが方法は問わずに金田にリーダーを選ばさせ、選んだ後はその選んだ理由も聞かずに綾小路と接触する前に金田をリタイアさせた。だから金田から知られたってことはないはずだ。

 伊吹には元々自分がリーダーだということは知らせていなかった。アイツは隠し事に向かないとわかっていたからな。

 そしてリーダーである伊吹の名前が印字されたキーカードを手に入れた直後、真嶋と星之宮の立ち合いの元で葛城と一之瀬にキーカードを見せることでCクラスのリーダーを教える契約を成立させ、その直後にキーカードを火にくべて証拠を隠滅……いや、消滅させた。

 だからリーダーを知っていたのは俺と葛城と一之瀬だけだったはず。

 

 それなのに当てられた、だと?

 いや、もちろん葛城と一之瀬が裏切った可能性はあるが、そもそも裏切るにしても綾小路がそれを信じるか?

 キーカードを燃やしたから物的証拠と呼べるのはなく、あるとしても敵クラスの葛城と一之瀬という信頼性皆無の証言のみ。葛城や一之瀬にCクラスのリーダーのことを話されたとしても、そんなものはただの誤誘導させるためのリークとしか思われないだろう。

 綾小路が指名するとなると、綾小路が確証と呼ぶ何かが必要なはずだ。

 

「……綾小路、何故わかった?」

「それはCクラスのリーダーが伊吹だったってことがか?

 んー……まぁ、いいだろう」

 

 綾小路に問いかけたら、案外素直にネタバレをするようだった。

 綾小路が自分の背中に手を回したと思ったら、ジャージの中から変な棒を取り出した。伸縮式の警棒か?

 

「龍園、これを使って船の先っぽを見てみろ」

「あ? 望遠鏡か、コレ?」

 

 どうやら警棒ではなかったようだ。

 伸縮式でコンパクトにできる望遠鏡。買える物資のカタログにはこんなものはなかったはずだから、おそらく綾小路たちが島に密輸したものだろう。綾小路の傍にいた櫛田と堀北から一之瀬と葛城にも同じ望遠鏡が渡される。

 

 綾小路の言う通り、望遠鏡で船を見てみる。あまり倍率は高いとはいえないが、それでもデッキ上の生徒の表情も見えるぐらいには拡大されて見える。

 そして視線を船の先端に移してみると、

 

「あそこに1人、変質者がいるじゃろう」

 

 そこにはボディビルのポーズを取っているパンツ一丁の高円寺がいた。

 ……俺はいったい何を見せられてい―――いや、これはまさか!?

 

 思わず綾小路の方へと視線を移すと、綾小路は高円寺に向けて懐中電灯のスイッチをON/OFFさせて光を点滅させていた。その点滅も瞬間的な点灯と少し長く続く点灯で組み合わされているのがわかる。モールス信号か!

 そしてもう一度高円寺を見てみると、懐中電灯の点滅に合わせてなのかボディビルのポーズを変えていく高円寺の姿が見えた。

 

「船の中でもウッカリ口を滑らせたりしないよう、金田にはシッカリ言っておくべきだったな、龍園。

 ついでに石崎たちなんかは船の中ではレストランなんかに行かせず部屋に籠らせて、実はリタイアせずに島に潜伏させている、と思わせるなんてこともしておくべきだった」

「そういうことか……クソがッ!」

「そうか! 船の中と連絡を取り合っていたということか!」

「え、船の中への連絡は懐中電灯を使ったモールス信号でいいかもしれないけど、もしかして高円寺くんからの連絡はボディビルのポーズが信号代わりなの?」

「変なヤツが変な行動をしていたら、それは変なことじゃなくて正常なことだからな。

 朝日を浴びながらポージングをする高円寺を不審に思ったのは誰もいなかったようだぞ。もちろん教員を含めてだ」

 

 誰も関わり合いたくねぇよ、そんな変人!

 クソッ、高円寺がリタイアしたことをもっと考えるべきだった。

 自由人で有名な高円寺のことだから、綾小路のことも恐れずに試験がメンドクサくなってリタイアしたと思っていたが、先にリタイアしたCクラスの連中から情報を抜き取るためにリタイアしたってことか。やってくれやがるぜ、あの野郎!

 

 今回の試験の結果でクラスポイントが大きく動くことになった。

 

   Aクラス:1304(+250)

   Bクラス:1031(+336)

   Cクラス:508(+0)

   Dクラス:623(+498)

 

 得たクラスポイントの反映は9月になってからされるが、これでCクラスとDクラスで入れ替えとなるか。

 こうなるかもしれないとわかってはいたが、Dクラスの500ポイント近い増加量には俺のクラスの連中が居竦むかもしれないな。船に戻ったらクラスの連中のフォローをしなければならないだろう。

 しかし、幸いにもAとBから支払われるプライベートポイントを考えると、プライベートポイントの収入に関しては綾小路のクラスどころか一之瀬のBクラスをも上回る。試験開始直後のクラスの雰囲気を考えると、ここまでやれば十分に善戦したと言えるだろう。

 

 何にせよこれからだ。

 綾小路には負けたかもしれないが、葛城と一之瀬には勝ったと言える。

 この結果を持ってもう一度クラスを掌握し、いつの日にか綾小路に負けを認めさせてやるさ。

 

 

 

 




 原作3巻、無人島試験はこれにて終了です。六助くんにスッカリ有栖ちゃんも騙されてしまいましたね。まぁ、六助くんの平常運転でもあるし仕方がないです。前話のきよぽんと六助くんの会話とこの話の前半が伏線のつもりだったのですが、皆様は気づけたでしょうか?
 そして1巻が15話、2巻が10話、3巻が5話、とドンドン短くなっていきましたね。狙ったわけじゃないのに。


 もしかしたら六助くんはこんな手助けみたいなことをしないと思われるかもしれませんが、私的に六助くんは約束は守ると思っています。
(※ ただし約束の内容の解釈は六助くんがする)
 そして六助くんは南雲への対応を見る限り危機管理はシッカリしていますから、約束を守らずに好き勝手して「あ、コイツいらんな」ときよぽんに思われるときよぽんの性格的にかなりメンドクサイことになると理解しているので、きよぽんがケチらずにいるなら少しぐらいの頼み事は聞いてくれるでしょう。
 それに自分たちの試験は終わったと油断しているCクラスからリーダー情報を抜き取り、朝日を浴びながらポージングをしてそのことをきよぽんに伝えるだけですので、六助くんなら大した手間にはならないでしょうしね。

 ただし、ロイヤルスイートの部屋代もきよぽん持ちなわけですが、体育祭で『100万プライベートポイントやるから真面目にやれ』とか言われたら断ると思います。
 頼まれごとが大した手間じゃなくて、初日にリタイアして残りは船内でバカンスを過ごしてもよくて、残り10日間以上ある旅行中に泊まる部屋のランクが上がる。そしてアンダーマウント社のことも含める条件が揃っていれば何とか……という感じでしょうか。

 なお、最終日のネタバレに付き合ったサービスは筋肉を見せびらかすためです。混合合宿の様子からすると、こういうことなら乗る気がします。
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